第9夜



ある日の夕方、レオよりも一足先に学校から帰っていた響と千里は、レオの家でテレビを見ていた。

「最近多いな…吸血鬼のニュース。どこの番組でも“青ざめた死体”だの“引き裂かれた”だの。まぁ、“現代に吸血鬼出現か!?”なんて言ってる時点で、本気で吸血鬼の仕業とは思ってないだろ。内容もオカルト寄りだしな。一般人にはそうそう信じられん話だ」

「どうかしら…。これだけやってればさすがに不味いんじゃないの?特に“あいつら”にはとっくに耳に入ってるはずよ。はぐれで手いっぱいの時に出てこられたら…」

険しい表情をしながらテレビ画面を睨んでいる千里の言葉に、響は眉をひそめた。“あいつら”とは、本来全ての吸血鬼の敵となる人物たちのことだ。このご時世に武装し、特殊な武器を振り回してくる物騒な連中である。吸血鬼には吸血鬼の事情がある。はぐれ吸血鬼の件で忙しい時に出てこられては面倒くさいのだ。

「ああ、そういえば……」

ふと、響がテレビを見つめたまま呟いた。

「なに?」

「ウェアウルフの1人が見たらしくて、言っていたんだがな。吸血鬼を飼っている人間がいると」

「!?…飼っているって、なに?」

驚きのあまり千里は目を見開いた。飼うという言い方ではペットが連想されてしまう。吸血鬼を手なずけようとするなんて、とんでもない人間もいたものである。とはいえ、その吸血鬼が混血種ならば、その人物だって元は人間。単に友人や家族、その他の心優しい人間と住んでいるだけの話かもしれない。

「いや、実際は知らん。一緒に住んでいるというよりは、飼われてるような扱いに見えたらしい。まぁ無理矢理捕まっているようなら助けた方がいいだろう。しかし仮にそうだとしても、何故逃げない?混血種でも人間と比べれば負けるはずがない。簡単に逃げられるはずだろうに」

「それが一般の相手ならね」

「…なるほど。そうだな、あいつにも手伝ってもらうか」


*


「じゃあ、僕は帰るから。またな」

「おう。じゃあなレオ」

やることをやって学校を終えた僕は、早足で家に向かった。また“発作”が出るのが怖かったからだ。…なんだか空が暗い。雨が降りそうだ。その時、一瞬だが周りの空気が変わったような感じがした。立ち止まって辺りを見回してみる。だれかに見られているようだ。

「……なんだ?」

あちこち見回しても誰もいない。気のせいかと思って前に向き直ったその時、目の前の茂みから何かが飛び出してきた。受け身が取れず、僕はそのまま突き飛ばされた。

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