第8夜



「あぁ…しかし今日はよく喋ったな。さて、あとはまた追々話すとするか。オレは夜まで寝てるからな。夕飯は期待してるぞ」

そう言って伸びたカップ麺を平らげると、響はさっさと部屋に行ってしまった。2階に向かう足音が遠ざかり、バタンと扉を閉める音が聞こえた。
それを確認した僕は頭を抱えた。はぐれに食屍鬼化、黒蛇と呼ばれる戦闘集団…。僕が思っている以上に事態は深刻なのかもしれない。とんでもない世界に足を踏み入れてしまったみたいだ。

「とにかく、響が言ったように気をつけるのは弱点と黒蛇の存在よ。はぐれだけでも面倒なのに、黒蛇の相手までしてらんないわ」

そうだよな…。びくびくしながら生活するのも辛いが、まぁ仕方ない。日常生活においては特に何もやらかさなきゃ問題ないと思う。要は自分が吸血鬼だと周りに知られなければいい話だ。

「…前にも言ったけど、レオはそろそろ、力を使えるようになるべき。自分の身くらい、守れないと…またいつはぐれに襲われるかわからない。いつまでもお守りはしてられないから。特訓の相手は、オレがする」

「え゛。怜亜と特訓するの!?嫌だよ、始祖相手に!僕がボコボコにされて負けるに決まってるだろ!!特訓にならないし!」

「…大丈夫。始祖としての力は、出せないから。純血種程度まで落ちてる」

充分すぎるわ!!!

「…吸血鬼は、力が全て。でも…そうじゃない。それだけじゃないのはわかってるけど、そう考える奴がほとんど。……役立たずのまま死ぬのが嫌だったんだろう。ならレオは、どうしたい」

怜亜に問われてハッとした。そうだ。だから僕は響に頼んだんだ。生きたいって。でも生き長らえたところで何もしなければ変わらない。

「…吸血鬼は、悪だと思うのか。オレたちが消えればいいのか。人間を支配すればオレたちは幸せか。黒蛇の存在は善なのか」

「それは…」

世間的に見れば吸血鬼が悪なんだろう。そして吸血鬼から人間を守ろうとしている黒蛇が善だ。でも僕にはまだまだ知らないことがある。何が正しいのか、それも今すぐはわからない。

「……響も、人間は憎んでいた。それでも、今は人間との共存を目指してる。わかってくれる人間もいると、信じてる。過去に、どんな目に合っていたとしても。…お前も人間を傷つけず、戦いを起こすことなく共存することが可能だと言うのなら、やってみせろ」

「…!」

「だから…強くなれ、レオ。そして、自分がどうしたいのか…よく考えるといい」

僕がここにいる理由は生きたいと思ったから。生きたいと思ったのは役立たずのまま死ぬのが嫌だったから。なら……僕が、したいこと?できることは、一体何だろう。響から貰った命、無駄にするつもりはない。はっきり決めなければ。そのためにはまず強くなるしかない。

この世界で生き抜くために。

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