第8夜



「その通りだ。ウェアウルフも同じように人間に交じって生きている。ウェアウルフの特徴は、吸血鬼と同様に瞳孔が縦に割れ、橙色でうっすらと黄色か緑色が混じった瞳だ。…さて、だいたいの話は以上だが。何か質問はあるか?」

質問ね…。こういうのは今聞かれても困る。その時にならないとわからないし。首を傾げながら少し考えてみた。

「そうだ、はぐれなんだけど…。響が王になってからはぐれが増えたのか?」

「いや。はぐれそのものは、それより前にもいたんだけどな。でも“そういう思考”の奴らは増えた気がする」

「なら前の王は?そっちの方が強いなら、命令すればみんな言うこと聞くんじゃないか?ほら、さっき始祖とか言ってたし。響が純血種なら、その上の始祖がいるってことだろ。それならそうした方がはぐれの問題も1つ片付くと思うけど…」

その時、一瞬だけ場が静まり返った気がした。何か悪いこといってしまったんだろうかと不安に思いながらも響からの返事を待った。

「…あー、はは…。なるほど、確かに。そう思うか?」

「いや…だって、前の王がいたんだろ?訳ありって言ったけど…」

「ああ、訳ありだ。いろいろあってオレがしばらく立場を継ぐことになったんだ。力だけじゃなく、協調性もあるから他の仲間を任せられるってな。なぁ、怜亜」

そう言いながら、響はテーブルの向かいにいる怜亜に声をかけた。まさかと思い、ゆっくりと隣に顔を向ける。怜亜は頬杖をつきながら空間をぼけーっと眺めていたが、響に声をかけられ、さらに僕の視線に気づくと小首を傾げながらこちらを見た。
いまいちよくわからず、僕は怜亜と響を交互に見つめる。

「ん、…えっと?怜亜が…なに?」

「ええと…だからな。オレは代理なんだ。本来、全ての吸血鬼の頂点に立つべき存在がいて。それが第一始祖の崩月怜亜だ」

そう言いながら、響は怜亜に向かって紹介するように手の平を向けた。

は…な、何だって。怜亜が、第一始祖?それって最高位?…怜亜が!?いや落ち着け。そういえばこう言われていた。“お前にオレは倒せない”と。だとすれば納得がいく。情の問題ではない。力が及ばないからだ。だって相手は始祖なんだから。

「あ、え…その。し、失礼な態度ですみませんでした…」

「…なんだ。意外と、素直」

「でもちょっと待て!だって響のこと、様付けで呼んでるだろ!?たまに敬語だし…。怜亜が始祖ならなんで…あ、いや。どうしてでしょうか怜亜、様……」

知らなかったとはいえ、さすがに始祖相手に呼び捨てタメ口ではまずいと思い訂正した。横で響が、何で主のオレは敬わないで怜亜にはその態度なんだと文句を言っているが…。始祖だぞ?それは単純に怖い。

「……。今さら、様付けするな。気持ち悪い。オレが“そうしている”のは契約として、“響”の血に縛られているから」

あ。今、響って呼び捨てに…。

「昔…ある事がきっかけで、オレは自分の力を抑え込むために、響の血をオレの体内に、取り込むことにした。他人に制御されれば、本来の力は出せなくなるから。けど純血種の血なんて、始祖の血に負けてすぐ呑みこまれる。だからオレは、自分で自分の血の力を抑え込み、“子”である響の血を受け入れた。……弱ってるのも、あるけど。今、始祖の血は眠ってる状態」

そのある事ってのがまた気になるところだけど、あえてそう言うってことはあまり話したくないことなのかもしれない。…で、その後に響が王を継いだと。様付けしてるのは、単に立場や契約に忠実なだけだろう。

「ま、そういうことだ。レオと千里の主がオレであるように、オレの主は怜亜だ。これは怜亜が今現在、王でなくとも変わりはない」

「何で教えてくれなかったんだよ!怜亜が始祖なんて聞いてない!!」

「……聞かれなかったから」

いや、わかるわけないだろ。それ以前の問題だ。

「千里は知ってたのか?この話」

「うん。前に聞いていたから」

なんだ、知ってたのか。道理でさっきから驚いたりしないなと思ったよ。始祖と知っておきながら、随分フレンドリーだな千里。でも理由があって怜亜が王になれないなら仕方ないのか。それよりも怜亜が力を制御されてるなら、本来の力がどれ程のものなのかというのもすごい気になる。しかし改めて始祖であることを念頭に置いて見ると…なんか怖い。聞きにくいし、今回はやめておこう…。あ、そうだ。

「じゃあもう1つ。この吸血鬼の弱点ってのは、差はあるのか?始祖にはあまり効かなくて、混血種の方が弱いとか…」

「いや。そう思うかもしれないが、混血種に比べると始祖と純血種は力がずば抜けてる分、弱点に関しては混血種よりも劣ってるんだ」

え!そうなんだ…。始祖だから弱点も克服してそうな感じなんだけど。意外とそういうわけでもないんだな。

「その代わりに混血種とダンピールは力が劣ってる分、人間の部分が残ってるおかげか弱点にもある程度の耐性がある」

ああ、だから混血種とダンピールは“長時間の接触”なのか。なるほど。なかなか勉強になってるな。

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