第8夜
「くっ…あれだけ待っていたのに、さらに3分も待たなきゃいけないなんて…!」
千里がカップ麺を睨み付けながらうちひしがれている。申し訳ない。申し訳ないけど、言うほどか?
「たかが3分だろ」
「なら待ってる間、レオの勉強会でもするか?吸血鬼に関すること、まだ詳しく話してないよな」
「それは3分で終わるのか」
しかし無関係でない以上知っておくべきことだ。もともと聞かなければとは思っていたから、いい機会かもしれない。
「そうだな…まず吸血鬼の能力と弱点、はぐれと食屍鬼について、敵と味方の存在か…。3分じゃ終わらんな」
「だろうな!なら食べ終わってからにしてくれ」
「怜亜。ホワイトボードを」
聞いちゃいないよ。おい待て、そんなもの家にあったか?
「えー、ではまず吸血鬼の能力から。吸血鬼には始祖、純血種、混血種、そして吸血鬼と人間の間に生まれたダンピールという種がいます。再生能力はもちろんだが、それぞれが共通して持つ力が血刃〈けつじん〉、爪刃〈そうじん〉と呼んでいるものだ」
怜亜がどこからか引っ張ってきたホワイトボードを前にし、響がペンを片手に話し始めた。…これは聞くしかないパターンか。
「血刃、は怜亜から聞いた。爪刃は…?」
「爪刃は吸血鬼の持つ再生能力を応用させた力だ。人間も爪は伸びたり、損傷しても再生するだろ?自身の爪を長く鋭く変形させて武器にするんだが、力量によってはコンクリートにだって傷をつけられる」
コンクリート!?それじゃあ、その辺にあるものは何でも簡単に切れるじゃないか。危ないなんてもんじゃない。先日、響が夜中に手の爪を変形させていたのが爪刃だったんだろう…。首が無事で本当によかった。
「催眠は基本的に始祖と純血種の能力だが…これも怜亜から聞いたか?」
「それも聞いてる。そういえば…前の夜にはぐれと会ったとき、街灯が急に割れたけど。ほら、怜亜と一緒にいた夜。それは?」
言いながら怜亜を見ると、怜亜はああ…と呟き、響を見上げた。
「始祖と純血種特有の……といったところだな。妖気が大きいほど その場にあるものは影響されやすい。ガラスなんかはその“圧”に負けて割れたりするんだ。それとテレパシーも同様、特有の能力だ。始祖と純血種の間で互いに危険や居場所を知らせることができる。一定の距離は必要だが。…と、能力はこんなものか。ちなみに一部の動物を操ったり意思疎通できたりするのは始祖だけな」
能力だけでもありすぎてわけがわからない。けど、僕も無意識に使ってたんだよな…血刃ってやつ。それで千里と怜亜を…。
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