第8夜



今日は土曜日。学校は休みである。今は昼過ぎだが、一体何をしているかと言うと…。

「お米を炊き忘れました」

テーブルを前に昼食を待ちわびていた面々に向かって、僕は深々と頭を下げた。からんっと音がしたので顔をあげると、絶句した千里が手からフォークを落として僕を見上げていた。

「…レオ、今なんて?よく聞こえなかったわ」

「だからお米を…」

「いやーっ!!米がないなんて冗談じゃないわよ!!」

聞こえてるじゃないか。落ち着けと言いたいところだが、完全に僕が悪いのでこれは仕方ない。一体何事かというと、千里に料理が得意なら休日に何か作ってほしいと言われ、その約束を果たすべく朝は買い物に出かけ、つい先程まで下準備をしていたわけだが。……米が炊けていなかった。パエリアだぞ。過程が簡単なものとはいえ、米がなくてどうする。

「な、なんてことなの…。パエリアなのに米がないなんて。私楽しみにしてたのよ!!だって朝も食べてないんだもの!!パエリアなんてすごいと思って期待してたのに…」

千里は立ち上がって頭を抱えながらわなわなと震え始めたかと思うと、ガクッとその場に崩れ落ちた。隣の響に肩を叩かれてなだめられている。なんだかショックの受け方がこの世の終わりみたいだな…。

「ご、ごめん…。それで他のを作るにしても、そもそも米が炊けてないから厳しいし、大変申し訳ないんだけど昼はもうカップ麺で勘弁してほしい、です……!」

声が段々小さくなりつつも語尾を強めて言うと、さすがにこれには千里だけでなく、怜亜と響も固まってしまった。買い物と調理の時間を合わせるとけっこう待たせている。ようやくかというところでカップ麺だ。これはキレる。

「なんでもいいよ…オレは、別に」

「いっそのこと昼は抜いたらどうだ。千里、この前太ったって言ってたしな」

「ええ…。朝食べてないのに昼も抜くの?辛いわ」

唐突な発言に僕は驚いた。

「吸血鬼って太るの?成長しないんじゃないのか」

「ああ。歳をとらない、身長が伸びない…といった方の成長はしないが。吸血鬼といえど、食べ過ぎれば横には成長するぞ。どういうわけか」

……残酷な事実だな。

「まぁ、米が炊けてなかったなんてちょいちょいあることだしな。レオに全部任せてたんだから仕方あるまい。千里も諦めろ」

「うぅ…。そうね…もう満たされれば何でもいいわ」

しぶしぶ椅子に座り直した千里を見てほっとした。僕はもう一度謝ると、お湯を準備することにした。

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