第7夜
ぶしゅっ
「!!?……っぐ!!」
気付いたときには、すでに怜亜の首に喰いついていた。噛みちぎるんじゃないかってくらいに顎に力を入れる。何をしてるんだ、やめなきゃ。…なんでやめるんだ?こいつはえさだ。
「い゛…っあ゛ぁ……がっ…!」
ミシミシッ……
「ぐぁっ!!…ぁ゙、っこの…!な、ん…だ!?くそっ…“止まれ”!!」
「……っ!?」
怜亜の声でハッとすると同時に自身の体が硬直した。怜亜に突き飛ばされてもそれは変わらなかった。ただ動けずに、困惑する怜亜を見上げるしかできなかった。
「…っ…どういう、ことだ…お前、なんで……っ!!」
「……れ、いあ……」
「なぁに~?何騒いでるの。レオ?……なに、これ」
蹲る怜亜を見つめていると背後から震えるような声が聞こえた。体が動かないから振り向くことができない。でも声でわかった。
「なんで?レオは…」
「……く、こいつ…何がどうなっ…」
ここからの記憶はぐちゃぐちゃしてよくわからない。自分の意志とは無関係に体が動こうとして…。でも相変わらず体が動かない自分は、何故だか自身の唇を少し噛みきるとそこから垂れた血で…。
…………血で。
「…!?千里、避けろ!!」
「え、…っ!!」
スパンッ
「きゃあっ!?」
凄まじい音を立てて食器棚や周囲のものが切り刻まれていく。電球の破片もバラバラと落ちてきて、千里は頭を抱えて床に伏せた。
「な、何今の…まさか、血刃〈けつじん〉?レオってまだ力が…」
「…いや。だとしても、わずかな量で…ここまでの威力は…」
「待って怜亜!その怪我、さっきのモロに食らったんじゃないの!?」
男の腹部からは血がどくどくと流れていた。ああぁ……血、美味しそう…。じっと見ているとすぐに傷が塞がってしまった。でも怪我を負わせたからか、自分の体は動くようになっていた。
「……もっと…血……」
「れ―……」
………血………
……もっと……血が―……
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
「やれやれ…ずいぶん派手にやってくれたな」
暗闇の中、響は床に横たわる千里を見つけた。その近くには壁に背を預けた怜亜がいた。気配に気づいた怜亜がうっすらと目を開けた。
「怜亜、無事か。一体どうした」
「…レオが、血を…。急に…、様子が…千里……」
「待て、大丈夫だ。落ち着け。…攻撃を受けたのか?“お前が”」
「…完全に、油断した。そんなわけないと…、再生してるところに、次の刃を叩き込まれて…レオは、血刃…を」
響は辺りを見回したが、その部屋は物が壊れて散乱して血塗れになっており、時すでに遅し。
そこにレオの姿はなかった。
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