第4夜



「はぁー……」

屋上の扉を勢いよく閉め、そのままずるずると座り込む。頭を抱えると、上のタンクがある場所から声がした。

「……始まった」

「れ、怜亜…」

怜亜は片膝を抱えながら、こちらをじっと見つめていた。口元は微かに笑っているように見えた。

「それが…吸血衝動」

「……え」

「まだ浅い、みたい。血を吸い過ぎても、おかしくなるけど…拒み続けても、その反動で暴走して、いずれは血を求めるだけの…化け物になる。そうなると理性は一時的にしか保てないし、狂ったら元には戻らない。……前にレオが見た、はぐれ吸血鬼。アレは、食屍鬼化する一歩手前」

いつもの如く無表情でまるで興味がないかのように。その人のことなんて気にもしてないような怜亜の態度に酷くイラついた。他人事だと思って…。

「…じゃあっ…どうすればいいんだよ!!狂いたくはないけど、血を吸いたくもない。僕は、人間でいるって決めたんだ!!」

人間を襲ったらその瞬間に人じゃなくなってしまう。吸血なんて、恐ろしい。人間のすることじゃない。とんだ化け物だ。吸血鬼なんて絶対嫌だ!

「ま、…レオは元人間だし、気持ちはわかるけど。でも狂いたくないなら、血を吸わないと。昔、人間を襲いたくないって理由で、自分を傷つけて…自分の血を飲んだ奴がいる」

「え?」

「…でも駄目。吸血鬼は他人の血じゃなきゃ、満足できない。それは人と同じ。人間だって、栄養は他から摂るでしょ?自分を食べたりしないでしょ?」

言ってることはわかるが…僕は落胆した。血を吸わなきゃならないなら自分の血でもいいんじゃないか?少なからず、そう思っていたからだ。絶対他からなんて…。

「い、いやだ……」

「…仕方ない。人を傷つけ、寄生しなきゃ生きていけない。それがオレたち、吸血鬼だ。人間じゃ、ない」

「ふざけるな!!今まで人間として生きてきた!それが急にこれだ!!吸血鬼にされてわけのわからない話されて、“契約”がこういうことだったってどうすればわかった!?だったらあの時死んだ方がマシだった!!」

「……」

叫んだ直後、怜亜の雰囲気が一瞬で変わった。冷たい目で見下ろしてくる。体が強ばったが負けていられない。感情のまま叫んでしまったが僕にも言い分はある。

「なら……オレの血を、飲め」

衝撃的な言葉に、僕は一瞬固まった。

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