第3夜
ガシャアアアンッ
「…は?」
「え……」
僕が蹴ったボールはそのまま倉庫に飛んでいった。そこまではかまわない。なんと、ボールは鉄でできた扉をそのまま突き破り、破壊してしまったのだ。辺りが静まり返る。そりゃそうだ。
「な、ななな…なんだ今の!?ぼっぼぼぼ…ボールっ、扉ぁぁぁっ……!!」
「先生、落ち着いて!」
「え、え?夢?」
バカな。人間業じゃない。あり得ない。クラス一同、パニック状態である。ふと怜亜の方を向くと、思った通りと言うように笑っていた。…吸血鬼になったから、なのか?
「レオ…お前……」
「…っ!!」
バレ、た……?
「すげーじゃんか!!なんて破壊力…!ボールで扉ぶっ壊すなんて、お前以外と力あったんだな!!」
「は?」
「し…仕方ない。もともと古かったからだろうな。レオ、片付けはするんだぞ」
「は、はい…?すみません」
ペコリと頭を下げて、僕は倉庫の方へと走っていった。幸いにも壊れたのは扉だけで、中はぐちゃぐちゃに散乱してるだけだった。弁償しろと言われても困る。サッカーボールは……破裂していた。
「…手伝おう、か」
「怜亜……」
怜亜は屈むと、下に散らばった物を片付け始めた。視線を向けず、作業を続けながら怜亜は口を開いた。
「…少しは…自分が吸血鬼になったって自覚、した?」
「……」
少しは。こんなこと、以前の自分には到底できることじゃない。というか他の人だって無理だ。
「まぁ、まだレオには吸血衝動出てないから…実感ないと思うけど。今さっきので、少しはわかったでしょ。力のコントロールが、なってないけど」
「…でも、」
「…不安なら千里に…相談すれば、いい」
「え?」
怜亜はそれ以上、何も言わなかった。僕も何も言わずもくもくと片付けをした後、残りの時間は大人しく見学して過ごすことにした。
*
「……月が喚んでいる」
『 …闇が満ちるか 』
高い建物の上で、響は座り込みながら空を見上げた。隣には馬ほどの大きさもある白銀色の狼が尾を振りながら座っていた。
「ティオ、よく見ておけ。今の人間の姿を」
『 どこを見ろと?いつまで経っても愚かな生き物だ 』
ティオと呼ばれた狼はふんと鼻を鳴らした。響は空を見上げたまま、唸り始めたティオを背中を撫でながらなだめた。
「まぁ、そう言うな。人間しか持ち合わせてない物もあるだろう。そこは見習うべきだ」
『 …なんだ、それは? 』
「さて、なんだろうな」
ごまかすように笑っている響を見たティオは、そっぽを向きながら体を起こした。
『 …別に興味ないがな 』
「協力はしてもらうからな。もう少しでオレの夢が実現する」
『 もう少しだと?そんなに上手くいくものか 』
響は建物の下を歩く人々を眺めながら立ち上がると、再びティオに視線をもどした。
「やってやるさ。
オレはここを、勝利の場とする」
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