第3夜
「………」
僕は踊り場にある鏡の中の自分を見つめていた。千里が吸血鬼は鏡に姿は映らないと言っていたが、半信半疑だった。でも階段をのぼって踊り場の鏡を見た瞬間、僕は凍り付いた。自分の姿が映っていなかったのだ。見間違いかと思ったが、どう見ても映っていない。映っているのは、鏡の前に立った時の後ろの壁だった。僕は焦って、千里が言っていた言葉を思い出す。
……念じる?
映るように念じながらコンッと鏡に触れると、鏡に触れた瞬間パッと姿が映った。まるで鏡がこちらの存在を認識したかのように。制服姿の自分がちゃんと映っている。さっきのが誰かに見られてないかと思い、咄嗟に辺りを見回したが誰もいなかった。思わずほっとする。自分でも信じられないのに、他人が見たら驚愕するだろう。
再び鏡に目をやると、目は相変わらずゾッとするほど赤かった。どうしよう、どうやって隠そう。幸い、右目は昔から左目と比べて色がおかしく、それを隠すために眼帯をしているので問題ない。問題なのは左目だ。人間と同じようにしてる吸血鬼はどうやって目の色を変えてるんだろう。
「……あれ」
今気づいた。見えてる方は片目だけなのに、めちゃくちゃ遠くでも普通に見える。壁の貼り紙の文字まで読めるし。視力まで人間じゃなくなったって言うのか。
「はぁ……」
「あれ、レオ?」
「っ!?」
いきなり声をかけられて、僕は思わず目をつぶった。ちら、と後ろを見るとクラスメートだった。危ない。目を極力隠さないと。
「制服着てるってことは、もしかして学校ちゃんと来れるのか!?」
「あ、え…と、とりあえず…」
「そっかー!!よかったな!わかんないことあったら、なんでも聞けよ!!」
左目を隠すように顔をそらしながら返事をしているとクラスメートが不思議そうに顔を覗きこんできた。
そして―…。
「あれ?お前、目ぇどうかしたのか?」
バレる。
そう思って、伸ばしてきたクラスメートの手をバシッと振り払った。当然、驚いた表情で目を見開いていた。
「やめろ!!!!」
「…!!」
や、やってしまった。自分からこんなことしてたら余計に怪しまれるじゃないか。わずかに下を向きつつ、ポカンとしているクラスメートに謝った。
「あ…ご、ごめん…」
「はは、気にすんなって。ほら、教室行こうぜ」
「……うん」
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