第3夜



翌日……。

あれから食欲もなく、頭も混乱して行動する気が起きなかった。口にしたものと言えば、せいぜい飲み物くらい。ようやく何か食べなきゃと思い、棚からパンとジャムを取り出して少しかじった。……甘い。
仮に吸血鬼になったとして、人間じゃなくなるわけだから味覚もおかしくなるものかと思っていた。人間の食事でも大丈夫なのか?

血とか、吸わなくていいのかな。

「それだけじゃ足りないだろ」

「うわぁあっ!?なっ、お前!!どっから入って…!!」

振り向くと響が立っていた。なんでだ。玄関は家にいる時でも出かける以外は鍵閉めてるのに。ピッキング…なわけないか。

「主人に向かってお前とは失敬な」

「は…なに、主人?」

「オレの血で契約したんだから、オレはお前の主人だ。ご主人様って呼んでもいいぞ」

「誰が呼ぶか」

…くそ、やっぱり夢じゃなかった。朝起きれば夢だったというのを望んでたけどそこまで甘くはなかったか。微妙に気まずいので響から視線どころか体全体をそらして、もさもさとパンを食べ続けた。

「普通に食事できるから、血を吸わなくてもいいと思ってるか?」

「…え?」

思っていたことを言い当てられ、僕はビクついた。うっかりパンを落としてしまった。まさか的確に当てられるとは。顔にでも出てたか…。

「確かに人間と同じように食事はできる。別に必要ないがな。けどそれで満たされることはない。お前たちは最低でも月に一度は血を吸わないと発作が起きるからな。覚えとけよ」

「…嘘だろ」

月一?そんなペースで血を吸わなきゃならないと?毎日と言われるよりはマシだが、月一だって抵抗があることに変わりはない。僕は元人間なんだから共食いと同じだぞ。

「嫌なら拒んでいればいい。でもその時がくれば、吸血衝動に耐えられなくなる」

「……」

僕は手元のパンを見て考え込んだ。
そして思った。

……できる限りの間は、

“人間”でいようと。

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