第2夜



「な、なに……言ってるんだよ?吸血鬼って……」

「質問は最後にしてくれ。話すことが山ほどある。オレたち吸血鬼にも社会があるんだが、今こちら側ではいろいろ厄介なことが起きている」

「…厄介なこと?」

いろいろ諦めた僕はベッドに沈み、とりあえず話だけでも聞くことにした。怪しいようなら警察行きだ。いや、知らない奴らだし、昨日のことといい怪しいのには変わりないんだが。

「1つは王位争い。今はオレが王だが、オレを殺せば自分が王になれる…といった思考の奴が少なからずいる。まぁ、これはオレたち吸血鬼の問題だから人間には関係ない」

「……ふーん」

王…王ね。それは人間と似たようなものか。人間だって地位や権力などを望むだろう。さすがに殺して奪う…とまではないだろうけど。

「2つ目、はぐれ吸血鬼の処分」

「……はぐれ?」

「昨日見ただろ?血に飢えた、狂った化け物を」

「!!」

そうだ。昨日は変な奴にいきなり襲われて、脇腹を裂かれて、それで―…。切り裂かれていた腹部をぎゅっと掴むようにおさえた。あいつは、吸血鬼だと。そう言った。夢ではなかった…。

「ああ……同士を化け物呼ばわりするのも心が痛むな。とにかく、ああいった単独行動をして人間を無差別に襲うはぐれ吸血鬼が増えてきている。昨日の奴みたいに自我があるのはマシな方だ。もし自我がなくなれば…あれは…」

そこまで言いかけたが、あまり言いたくないことなのか哀しそうな表情をするだけでその先は言わなかった。

「ともかく。余計な事態になる前にはぐれを処分しなければならない。言って聞かせるのが一番だが、それで事が片付いてるなら昨日のようなことにはならない」

「……それはつまり、殺すってことか?」

響に問うと、笑いながら言った。そうだというように。殺すことにはなんとも思っていないような表情で。

「いいか?オレたち吸血鬼には人間を無闇に襲ってはいけないという決まりがある。血を過剰に摂取しないようにするためだ。最近ニュースでもやってるように、それを守らない輩が増えてきてな。無闇に人間を襲えばいずれ滅びる。吸血鬼も血を過剰に摂取してしまえば、いずれは自我もなくなり血肉に飢えたただの化け物と成り果てる」

「…そうなる前に殺して止めるのか」

そのはぐれの末路がどんなものかは実際に見ていないのだからわからないが、化け物とは姿形も変わってしまうのだろうか。確かに昨日の男は話を聞く様子もなかったし、他にも人を襲っていたようだから、あんなのが他にもいたら人間は次々に殺されてしまうだろう。この男はそれを止めようとしている。

「そうだ。それに、オレたちの存在が公に出て騒ぎ立てられても面倒事が増えるからな。だからオレたちは、人間に交じって生きているはぐれ吸血鬼を処分していくことにした。問題は他にもないわけではないが……まぁ、今起きていることと言えばこのくらいか」

ふぅと息を吐きながら、再びカップを手に取り口をつけた。なんとも非現実的な話だ。普通に信じろと言われても無理である。

「……話はわかった。でもその話を信用できるかどうかは別問題だ」

僕はただ、騙されているだけじゃないのか?そうだ。僕が病弱で外に出てないから知識不足で、それで嘘を教えてからかってるんだ。

そうに違いない。

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