第2夜



「ああ……?なんだお前、病弱なのか?なら大人しくしてな。そうすりゃ加減してやる」

「いい加減にしろ。その人間から離れろと言っている」

「…ふん、それはこっちのセリフだ。なんで邪魔をするんだ?血を吸わなきゃ、こっちの気がおかしくなっちまうぜ。あんただってわかるだろ?桐生様よ」

………きりゅう?

僕はそう呼ばれた奴をじっと見つめた。背の高い銀髪の男だった。肌も白くて目も赤い…。こいつも吸血鬼なのか?

「それはわからんでもないが、貴様は度が過ぎている。最近のニュースも貴様の仕業だな。まだ自我があるようだが、そのまま続ければどうなるかわからないわけがないだろう。これは自分たちのためでもある」

「……」

僕の上に跨っていた男は、桐生と呼ばれた男に睨まれるとゆっくりとどいた。ちょっとした衝撃でも腹部に痛みが走る。

「規定1.人間を無闇に襲うな。まさか、知らないわけじゃないよな?」

「わかってる!!でも今まで好き勝手してきたのは人間だろ!?なんで我慢しなきゃならない?なんでオレたちがっ……」

「黙れ。無差別に人間狩りをしているなど、落ちぶれた証拠だ。ただ欲を求める卑劣な行為、もはや吸血鬼のプライド……誇りの欠片も持たぬお前が語るな」

「っ!!」

朦朧とする中、僕は黙ってそいつらのやり取りを眺めていた。さっきから何を言ってるんだ?仲間じゃないのか……?

「……っなんで、なんで!!人間なんてオレらの餌だろ!!共存?そんなもの夢だ、理想だ。オレらのことを化け物扱いする人間と対等になんてっ……無理に決まってんだろうがぁああああ!!!!!!」

男は頭を抱えたかと思うと狂ったように叫びだし、銀髪の男に飛びかかった。その様子を彼は避けるでもなく、哀しそうな表情で見つめていた。

「はぐれの食屍鬼化は我々にとっても脅威となる。逆らうならば処分する。怜亜!」

「了解、…死ね」

「あぁあアあ゙あ゙!!!!」

………その時に見たものは現実に起きたことなのかはわからない。意識が朦朧としてて状況把握どころではなかった。しかしうっすらと開けていた視界に映っていたのは、銀髪の男の仲間であろう黒髪の男の腕が、飛びかかってきた男の胸を突き破り―……。そして、男は奇声をあげながら頭から灰になって消えていく光景だった。

「………馬鹿が」

男はこちらを見ると、そのまま近づいて見下ろしてきた。僕は出血のせいか、もう動く体力もなかった。視界が霞む。息がまともにできない。苦しい…。

「……人間は、脆いな。もう死にそうなのか?」

本当のことだがカチンときた。
が、怒る気力もない。

「このままじゃ出血多量で死ぬな。…でも、お前はまだ生きられる。生きたいか?」

………生きられる?

僕は、まだ―……

「…………」

生きたいのか?僕は。

どうせろくな人生じゃない。
ならここで死んだほうがマシじゃないか?

…でも、でも―…


「…………ぃ……た」

「生きたいのか?」

「……いき…た…ぃ。ま、だ……」

少しでも生きていれば、何かを手にすることができるのだろうか。何かを見つけられるのか。…ただ理由が欲しかった。僕が何のために生きているのか、意味もなく生きているのが嫌だったから。

それがわかるなら、僕は…。

「生きたいんだ……!!」

「…聞き入れた。ならばオレと契約を交わすぞ、人間」

けいやく………?

意識が薄れて、言葉が理解できないまま気を失った……。

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