第2夜
「……ずいぶん暗くなったな」
あの後、学校からは出たが家に帰る気にもなれず、その辺をふらふらしていた。気づいたらこんな時間になっていた。もう7時前だ。さすがに帰らないと体に障る。家の近くの公園を通りかかろうとした時、何かが横切るのが見えた。 思わず立ち止まる。
「……だれか、いるのか?」
返事はない。
気のせいかと思ったその瞬間、背後から冷たい空気を感じた。急に冷気をあてられたような……何なんだ、この感じは。
「っ!?」
「どけ、人間!!」
「は?」
…………人間?
頭上から何かの気配がして…振り返りながら反射的に避けようとしたが、それは無理だった。運動していないのだから、反射神経も鈍ったようだ。“何か”に脇腹を切り裂かれた。
「あ゙っ!?……ぅあ……ぐ…」
何が起きたか、頭がついていかない。脇腹を押さえると血がどくどくと溢れてくる。それはもう尋常じゃない。痛すぎるせいか、感覚が鈍くなっている。
「!!…ちっ……やられたか。急ぐぞ!」
「…はい、響様」
なんだ?何が起きてるんだ?
こいつらは誰だ?
「はっ……ぁ…あ゛…いっ」
自分の脇腹からは血が止まることなく溢れている。脇腹を押さえている手が震え始めた。
ヤバい、これはヤバい。ケガもそうだが、この場にこいつら以外の“何か”がいる。逃げなきゃヤバい。咄嗟にそう思ってふらふらと逃げようとしたが、その“何か”が覆い被さってきて僕はそのまま押し倒された。衝撃で脇腹に痛みが走る。
「う゛ぁっ!!」
「あははァ……若い人間みーっけ」
「え…?」
人のようだったが、とても人間には見えなかった。何故か。白い肌、紅い瞳。笑った口からは確かに牙が見えた。人の姿をしたもの。そんなバカな。これじゃまるで…。
「いい匂いするなァー…。お前の血はどんな味だろうね……ヒャハハ!!」
「吸血、鬼……!」
「あぁー。ご名答!さっきも1人喰ってきたんだけど、全っ然足りないんだよね。あんたを喰えば満足かなぁ?」
嘘だ、嘘だ!!
吸血鬼がっ…本当にいたなんて…!だってあれは噂で…そんなはずは―………。
「貴様、その人間から離れろ」
「やだね、こいつはオレの獲物だ。邪魔をするな」
ああもう、何が何だかわからない。いっそ気絶したい。もう動けないのに、なんとか逃げようとずずっと這うようにする。が、上に乗ってる男のせいで身動きがとれない。
「……うぅ……」
ヤバい。出血のせいか、すごくダルい上に朦朧としてきた。ここで死ぬのか?いずれ病死してたにしても、まだやりたいことあったのに…。金で好きなものを買いまくる?
違う。
ただ純粋に恋がしたかったです。
………誰に言ってるんだ僕は。
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