第1夜



「やっぱり体冷えちゃってますね。ちゃんとあったかくしないと。はい、服あげて」

「……はい」

雨に打たれていたせいで体が寒い。特に顔。自業自得だが風邪なんてひいてはたまったもんじゃない。外出禁止になってしまう。何も言われませんように…。先生はいつものように聴診器を取り出すと、胸にあてた。

僕はまだ……

「まだ心臓、元気ですか?」

先生は一瞬ぽかんとしたが、すぐに笑った。

「……元気ですよ。君はまだ、生きている」

「そう、ですか」

先生は腕のいい医者だ。定期的に僕の家に来て診察をする。いつからだっけ。僕に元気だった時があっただろうかと思うくらい、昔から診てもらっていた気がする。

……でも先生もわかっているんだろう。

僕が長く生きられないのを。

「よし。後は薬飲んで、今日は大人しくしてなさい。雨の日の散歩はよくないですよ」

機器の片付けをしている先生の様子をぼーっと見つめながら、僕は特に考えもせずその質問を投げかけた。

「………先生は、」

「ん?」

「吸血鬼、いると思いますか?」

その時、一瞬だけ身体中の奥からじんわりとしたような感覚があった。全身の血が熱を帯びたような、そんな感覚。何だろう。気のせいだと思って特に気にしなかった。先生は少し考えた後、ああ!と言った。

「最近ニュースでよくやっていますねぇ。レオくんは吸血鬼を信じてるんですか?」

「いいえ。…でも、たまに思う時があるんです。もし吸血鬼みたいになれたら、自分も病気になんてならないし、激しく動いても倒れることはないだろうって」

「………」

「かといって、他の人みたいに普通に生活できるわけじゃないですからね。人間を越えた化け物になってしまう」

軽く笑いながら言うと、先生は溜め息をついて僕の頭をぽんぽんしてきた。やっぱりこういうのされると安心する。

「吸血鬼はいませんよ。いたとしても、西洋の妖怪だとか言われてるでしょう?日本にはいない。テレビのニュースも信じられませんね」

「……ですよね」

そう言いながら、再び窓の外に目をやった。朝だというのにやけに暗い。雨が降っているせいにしても、どことなく不安にさせるような色をしていた。

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