本編(改)
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4.The gathering(2)
生ぬるい夜風が頬を掠める中、誉は集団から少し離れた場所に腰を下ろした。
向こうから聞こえてくるのは、「どこのチームが幅を利かせている」だの、「誰それをシメた」だの、喧嘩の話ばかりだ。
それを、雑音の如く聞き流しながら、先程の出来事を思い返す──。
──はしゃぎ倒す群れを冷めた目で見下ろしながら、誉は真一郎に、
「先輩のせいですよ。ちゃんと訂正してくださいね」
感情のこもらぬ声で言った。
「……ごめん」
バイクに無理やり乗せられた挙句、これでまた変な人に絡まれたらどう責任を取ってくれるのか──。そんな溜め込んでいた鬱憤を容赦なくぶつければ、真一郎はしょんぼりと肩を落とした。叱られた子犬みたいな顔をして。
その姿に、喉元まで出かかったもう一言は、吐き出されることなく引っ込んだ。
「はっはっは!」
すぐ横で、腹の底から湧くような笑い声が響いた。
「なんだ。ついに女ができたのかと思ったのに」
先程、鋭い目つきで見下ろしてきた人物──武臣と呼ばれていた男が豪快に笑った。
「誉って言ったな?俺は明司武臣。副総長やってる」
「あ、どうも……神保誉です」
明司が差し出した手を取りながら、誉は「今日は突然お邪魔してすみません」と言いながら頭を下げた。自分のせいではないけども。
「ふっ……怯えたツラが消えたな」
「え?」
お祭り騒ぎと怒りの所為か、気づけば怖さなど忘れていた。
──その代わり、どっと疲れが押し寄せてくる。
「とりあえず始めよう、真。訂正は終わった後な」
明司が笑いながら集団の方へ歩いていく。
真一郎も、
「誉、終わったら声かけるから」
と手を上げてそれに続いた。
──真一郎が前へ出た途端、騒がしかった群れは一転、ぴたりと静まる。皆の視線が彼へと集まり、空気が一気に張り詰めた。
それはまるで、西洋絵画を見ているようだと誉は思った。長丈の特攻服が夜風に揺れて、ライトに照らされた彼の姿が、どこか神聖なものに見えたのだ──。
──やはり、先程の例えは無しだ。物騒な話題が飛び交うこの場が、そんな神聖なものであるはずがない。
そうこう考えている間に、話し合いは終わったようで、「さっきの誤解だから」という真一郎の声が聞こえてきた。
「なぁんすかー!彼女さんじゃないんすかぁー!」
「総長ー!男見せろーッ!」
野次が飛び交う中、「うっせ!」と一言吐いた真一郎が苦笑した。
やがて、誉の元へと駆けてくると、
「誉ー!ごめん、待たせた!」
「銀座のスタバ、2杯奢りですからね!」
「お、おぉぉ……銀座?」
有無を言わさぬ圧に、真一郎はたじたじだ。
「誉、コイツも悪気はなかったんだ。許してやってくれ」
明司は腹を抱えて笑っている。
「大丈夫です。コーヒー2杯でチャラなのでっ」
「ははっ。真、面白い子見つけたな」
「それ褒めてんの?」
気の置けない関係性が垣間見えて、誉は思わず笑みが溢れた。この二人が率いているのならば、思っているより悪いチームではないのかもしれない──。
ブォンッ──バーバババッ!
突如、バイクの排気音が鳴り響いた。不意の事に、誉の肩が大きく揺れる。
「誉。“チョッカンコール”って知ってるか?」
「チョッ、カン……?キン〇ョールの親戚かなにか?」
そう答えた瞬間、爆笑する二人を誉は無表情で睨みつけた。
「直管コール。エンジンを空吹かしして音鳴らすんだよ」
「あー……あれですか」
ただ喧しいとしか思えない群れを見遣る。
「誉もやってみろよ。面白いぜ?」
「……へ?」
良いことを思いついた。と言わんばかりの無邪気な笑みで、真一郎が言った。
誉が慌てて首を横に振る。
「い、いや、いいですよわたしは」
「んなこと言うなって。何事も経験だろ?」
腕を取られた誉は、真一郎によって彼の愛機のもとへと誘導される。
誉は、思わず明司を見た。少しの期待を込めて──。しかし、彼は肩を竦めるだけ。
結局、誉は言われるがままバイクに跨っていた。脇であれこれと説明する真一郎は、実に嬉しそうだ。まるで、幼子が宝物を自慢するような無垢な笑顔を向けてくる。
その姿に、誉もつい笑みをこぼした。
「じゃ、エンジンかけるぞ」
そう言って真一郎がキックペダルを力強く踏みこむと、
「わっ」
ブルンッ──と低い音が地を響かせた。全身まるごと揺らす振動に、まるで自分も機体の一部になったかのような不思議な感覚がする。
「どう?後ろに乗ってた時と違うだろ?」
「は、はいっ」
「じゃあ吹かしてみ」
言われるままに、アクセルスロットルを回す。
刹那、聞き覚えのある轟音が鳴り響き、誉は思わず叫んだ。
「うるっさ!」
真一郎が笑う。──その声に混じって、周囲からもどよめきが起きた。
誉が弾かれるように顔を上げると、いつの間にか大勢のギャラリーに囲まれていて、
「女の子がコールするの、滅多に見られないからなぁ」
「うぅっ、圧が……」
「誉ちゃん、俺の真似してみて!」
突然呼びかけられて、戸惑いながらも振り向けば、視線の先で少年のコールが始まる。──誉は、その規則的なリズムを耳で追った。
それはまるで、楽器を奏でているようだった。そう思うと、自然に手先が動く。リズムを音符に変えて、彼の音を追うようにスロットルを操った。
最初は様子を見つつゆっくり、徐々に速度を上げていく──。やがてそれは、軽快な音色を生んだ。
「……は……!?」
誉が手を止めれば、多くの視線がまっすぐと自分に注がれているのに気づく。
冷や汗を流す誉に、
「……上手ぇ」
「え?」
真一郎がぽつりと呟いた。次の瞬間、
「「「上手ぇぇぇぇえッ!!」」」
「今のコイツより上手かったよなぁ!」
「誉ちゃん、ほんとに初めて!?」
あちこちから爆発したかの如く歓声が上がった。理由が分からず呆ける誉を他所に、称賛の嵐が降り注ぐ。
「そ、それは、どうも……ありがとうございます……?」
そう呟く誉の肩に手を置いた真一郎が、
「すげぇよ誉!次、クラッチも使ってみようぜ!」
「え。や、先輩落ち着いて……クラッチってなに?」
真一郎のテンションは最高潮。
無邪気で憎めない人──その姿に、誉は思わず苦笑した。
卍おまけ卍
明司「誉。もしかして楽器でもやってた?」
誉「はい。ギターを少し。歌うのも好きなので、リズム感には自信あります」
明司「ほぉ」
誉「成程。クラッチを使うと音の高さが変わるのか」
真一郎「なぁ誉!ウチのコール担当になっ」
誉「なりませんっ」
生ぬるい夜風が頬を掠める中、誉は集団から少し離れた場所に腰を下ろした。
向こうから聞こえてくるのは、「どこのチームが幅を利かせている」だの、「誰それをシメた」だの、喧嘩の話ばかりだ。
それを、雑音の如く聞き流しながら、先程の出来事を思い返す──。
──はしゃぎ倒す群れを冷めた目で見下ろしながら、誉は真一郎に、
「先輩のせいですよ。ちゃんと訂正してくださいね」
感情のこもらぬ声で言った。
「……ごめん」
バイクに無理やり乗せられた挙句、これでまた変な人に絡まれたらどう責任を取ってくれるのか──。そんな溜め込んでいた鬱憤を容赦なくぶつければ、真一郎はしょんぼりと肩を落とした。叱られた子犬みたいな顔をして。
その姿に、喉元まで出かかったもう一言は、吐き出されることなく引っ込んだ。
「はっはっは!」
すぐ横で、腹の底から湧くような笑い声が響いた。
「なんだ。ついに女ができたのかと思ったのに」
先程、鋭い目つきで見下ろしてきた人物──武臣と呼ばれていた男が豪快に笑った。
「誉って言ったな?俺は明司武臣。副総長やってる」
「あ、どうも……神保誉です」
明司が差し出した手を取りながら、誉は「今日は突然お邪魔してすみません」と言いながら頭を下げた。自分のせいではないけども。
「ふっ……怯えたツラが消えたな」
「え?」
お祭り騒ぎと怒りの所為か、気づけば怖さなど忘れていた。
──その代わり、どっと疲れが押し寄せてくる。
「とりあえず始めよう、真。訂正は終わった後な」
明司が笑いながら集団の方へ歩いていく。
真一郎も、
「誉、終わったら声かけるから」
と手を上げてそれに続いた。
──真一郎が前へ出た途端、騒がしかった群れは一転、ぴたりと静まる。皆の視線が彼へと集まり、空気が一気に張り詰めた。
それはまるで、西洋絵画を見ているようだと誉は思った。長丈の特攻服が夜風に揺れて、ライトに照らされた彼の姿が、どこか神聖なものに見えたのだ──。
──やはり、先程の例えは無しだ。物騒な話題が飛び交うこの場が、そんな神聖なものであるはずがない。
そうこう考えている間に、話し合いは終わったようで、「さっきの誤解だから」という真一郎の声が聞こえてきた。
「なぁんすかー!彼女さんじゃないんすかぁー!」
「総長ー!男見せろーッ!」
野次が飛び交う中、「うっせ!」と一言吐いた真一郎が苦笑した。
やがて、誉の元へと駆けてくると、
「誉ー!ごめん、待たせた!」
「銀座のスタバ、2杯奢りですからね!」
「お、おぉぉ……銀座?」
有無を言わさぬ圧に、真一郎はたじたじだ。
「誉、コイツも悪気はなかったんだ。許してやってくれ」
明司は腹を抱えて笑っている。
「大丈夫です。コーヒー2杯でチャラなのでっ」
「ははっ。真、面白い子見つけたな」
「それ褒めてんの?」
気の置けない関係性が垣間見えて、誉は思わず笑みが溢れた。この二人が率いているのならば、思っているより悪いチームではないのかもしれない──。
ブォンッ──バーバババッ!
突如、バイクの排気音が鳴り響いた。不意の事に、誉の肩が大きく揺れる。
「誉。“チョッカンコール”って知ってるか?」
「チョッ、カン……?キン〇ョールの親戚かなにか?」
そう答えた瞬間、爆笑する二人を誉は無表情で睨みつけた。
「直管コール。エンジンを空吹かしして音鳴らすんだよ」
「あー……あれですか」
ただ喧しいとしか思えない群れを見遣る。
「誉もやってみろよ。面白いぜ?」
「……へ?」
良いことを思いついた。と言わんばかりの無邪気な笑みで、真一郎が言った。
誉が慌てて首を横に振る。
「い、いや、いいですよわたしは」
「んなこと言うなって。何事も経験だろ?」
腕を取られた誉は、真一郎によって彼の愛機のもとへと誘導される。
誉は、思わず明司を見た。少しの期待を込めて──。しかし、彼は肩を竦めるだけ。
結局、誉は言われるがままバイクに跨っていた。脇であれこれと説明する真一郎は、実に嬉しそうだ。まるで、幼子が宝物を自慢するような無垢な笑顔を向けてくる。
その姿に、誉もつい笑みをこぼした。
「じゃ、エンジンかけるぞ」
そう言って真一郎がキックペダルを力強く踏みこむと、
「わっ」
ブルンッ──と低い音が地を響かせた。全身まるごと揺らす振動に、まるで自分も機体の一部になったかのような不思議な感覚がする。
「どう?後ろに乗ってた時と違うだろ?」
「は、はいっ」
「じゃあ吹かしてみ」
言われるままに、アクセルスロットルを回す。
刹那、聞き覚えのある轟音が鳴り響き、誉は思わず叫んだ。
「うるっさ!」
真一郎が笑う。──その声に混じって、周囲からもどよめきが起きた。
誉が弾かれるように顔を上げると、いつの間にか大勢のギャラリーに囲まれていて、
「女の子がコールするの、滅多に見られないからなぁ」
「うぅっ、圧が……」
「誉ちゃん、俺の真似してみて!」
突然呼びかけられて、戸惑いながらも振り向けば、視線の先で少年のコールが始まる。──誉は、その規則的なリズムを耳で追った。
それはまるで、楽器を奏でているようだった。そう思うと、自然に手先が動く。リズムを音符に変えて、彼の音を追うようにスロットルを操った。
最初は様子を見つつゆっくり、徐々に速度を上げていく──。やがてそれは、軽快な音色を生んだ。
「……は……!?」
誉が手を止めれば、多くの視線がまっすぐと自分に注がれているのに気づく。
冷や汗を流す誉に、
「……上手ぇ」
「え?」
真一郎がぽつりと呟いた。次の瞬間、
「「「上手ぇぇぇぇえッ!!」」」
「今のコイツより上手かったよなぁ!」
「誉ちゃん、ほんとに初めて!?」
あちこちから爆発したかの如く歓声が上がった。理由が分からず呆ける誉を他所に、称賛の嵐が降り注ぐ。
「そ、それは、どうも……ありがとうございます……?」
そう呟く誉の肩に手を置いた真一郎が、
「すげぇよ誉!次、クラッチも使ってみようぜ!」
「え。や、先輩落ち着いて……クラッチってなに?」
真一郎のテンションは最高潮。
無邪気で憎めない人──その姿に、誉は思わず苦笑した。
卍おまけ卍
明司「誉。もしかして楽器でもやってた?」
誉「はい。ギターを少し。歌うのも好きなので、リズム感には自信あります」
明司「ほぉ」
誉「成程。クラッチを使うと音の高さが変わるのか」
真一郎「なぁ誉!ウチのコール担当になっ」
誉「なりませんっ」
