本編(改)【完】
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15.Bond is forever(2)
「居ない、か……」
──放課後。昨日あれだけ盛大に自爆したというのに、学校へ来るなり沖田から『好きも嫌いも聞いてねぇんだからハッキリさせてこい』と、文字通り背中を蹴飛ばされるように急かされ、真一郎は藁にもすがる思いで誉の教室を訪ねていた。
だが、少々タイミングが遅かったらしい。まばらに残っている数人の生徒の中に誉の姿は見当たらず、真一郎は深く重いため息をこぼす。
肩を落とし下駄箱へと向かっていると、廊下の向こうから小走りで向かってくるこずえの姿が目に飛び込んできた。
「あっ、いたいた!佐野先輩!」
「……こずえちゃん?」
「教室にいないから焦ったー!」
こずえは安堵の表情を浮かべている。どうやらすれ違ってしまっていたようだった。
「どうしたの?」
「誉ちゃんが、佐野先輩のバイクの前で待ってるって!」
「……え?」
「突然居てびっくりさせちゃいけないから、先に私から伝えてほしいって言わ──」
こずえが最後まで言い終わるより前に、真一郎の身体は動き出していた。
何かを叫ぶこずえの声を背中で聞きながら、猛烈な勢いで廊下を駆け抜ける。階段を二段飛ばしで駆け下り、ただひたすらに愛車の待つ駐輪場へと向かって突き進んだ。
──駐輪場が見えた瞬間、真一郎は思わず距離を置いた場所でピタリと足を止めた。
西日に照らされたバブのシートに、ちょこんと腰かけている少女。それを見た途端、真一郎の心音は五月蝿いほどの音を立てた。
「……誉」
祈るような、あるいは怯えるような、掠れた声でその名を呼べば、誉がゆっくりと振り向いた。
──何を言うつもりなんだろう。
気持ちを聴きたい。けれど、「もう話しかけないで」なんて言われてしまったら、今度こそ全てが終わる──真一郎は、気持ちの狭間で揺れ動いていた。
「……先輩、もう逃げないので、お話聞いてもらえませんか……?」
その声が、強張った心にじわりと染み溶けていく。
誉の手には、山茶花のハンカチーフが握り締められていた。
──よく訪れる堤防へとやってきた。まだまだ春めくには早い時期。天端に座れば身体が冷えたが、いろんな感情が入り混じる真一郎はそれどころではなかった。
「誉……なんでオレのこと嫌いになったの……?」
恐る恐る、質問を口にする。
すると、誉は俯いたまま、小さく呟いた。
「好きです……」
「だからどうして好……えッ!?」
あまりにも予想外の単語が鼓膜を揺らし、真一郎は飛び上がりそうになる。
「大好きです」
「あ、あぁ……じゃああれか……お兄ちゃんみたいで好きってやつね」
必死に防衛線を張る。ここで調子に乗って、あとから「兄」として、なんて言われたら今度こそ立ち直れない。
だが、誉は首を横に振る。
「ううん、先輩と同じ『大好き』です」
「…………ぉおん!?」
誉はハッキリと「大好きだ」と言った。嫌われていなかったどころか、両想い。その事実に脳内が完全に許容量を超えて、真一郎は声を裏返らせた。
「じゃ、じゃあどうしてあのとき断ったんだよ!?」
「あ、あれは、その……まさか、先輩があんなところで好きって言ってくれるって思ってなくて、つい……」
「お、ん、ぬ、ッ!?」
予想だにしていなかった展開に、真一郎の喉の奥から変な声が出る。
「怖かった……自分が自分じゃないみたいで……なんで先輩のこと考えてるだけで泣いちゃうのとか、心の奥がぎゅってなってごはん食べられないのとか、全部……」
「え……」
「わたしの知らない好きって分かったら、今度は先輩が離れていっちゃったらどうしようって……やっぱり好きじゃなかったって言われるかもとか考えて……」
「そっ、そんな訳ないだろ!」
「でも、おっぱいおっきい女の子に「好き」って言われたら、その人といっぱい過ごすでしょ?そう考えたら、嫌になっちゃって……」
「……おっぱい?」
「前、おっぱいおっきい女の子が好きって言ってたじゃないですか」
──あの時はっきり否定していなかったやつ!
脳内に巨大な岩が落ちてきた感覚がした。一度こずえに猛烈に責められたが、その場でうやむやにしたきり放置していた過去の失態を思い出す。
「ち、違う!あれは誤解で……ッ!」
「誤解?だってマイ先輩はすごいおっきいじゃないですか!」
「ぁあ!?あ、あああれはだな、そのー……!」
「ほら、やっぱ好きなんじゃん!」
「待て!そうじゃない!おっぱいだけじゃないんだってッ!」
「つまり、おっきいおっぱいも好きってことでしょ!?」
「…………うん。ハッ!いや、だからって誉のこと好きにならないとかいうわけじゃなくてね!?……ん?」
墓穴を掘った──しかし、気づいた時には誉がツンとそっぽを向いて膝を抱え込んでいた。
「……いいですよ。わたしの胸は貧相だって思ってるんでしょ?」
「ちちち違うって!!」
終わりの見えない痴話喧嘩が白熱していく。
真一郎は、この最悪な自爆ループから脱しようと懸命に言葉を探した。しかし、情けないことに誉を納得させられるような気の利いたセリフなど、これっぽっちも出てこない。
「……もう、いいんです」
狼狽する真一郎の身体が、その一言で硬直した 。驚きに目を見開いたまま、吸い込まれるように誉を見つめる。
その手に握りしめる山茶花のハンカチーフが、より強く皺寄った。
「それでも、わたしのこと好きって想ってくれる先輩のこと、信じたい」
「誉……」
「先輩に初めて会った日、守ってやるから医者になる夢諦めるなって言ってもらったの、すごく嬉しかった」
それは、誉がひとり抱えていた孤独を知って、力になってやりたいと思った日──。
「おまえなら絶対できるよって言ってくれたのも、悩んだ時はオレに言えって言ってくれたのも、全部……っもう先輩がいないと、迷った時にどっちに進んだらいいか分かんなくなるの……前に進めないの……だから……っ」
涙で詰まりそうな声を、一生懸命に振り絞って想いを乗せる誉。
「わたし、先輩の彼女になりたいって思っ──」
その切実で一生懸命な姿に、もう一秒だって待てなかった。
ふわりと吹き抜けた風の中、真一郎は溢れる愛おしさのままに誉へと顔を寄せた。重ねた唇から、驚いたような誉の吐息が漏れる。
一度ゆっくりと唇を離すと、すぐ目の前で、濡れた長い睫毛が揺れた。
どちらからともなく、引き寄せられるように再び顔を寄せ合う。今度は、ゆっくりと啄むような口づけだった。二人の吐息が甘く混ざり合い、冬の名残で冷えた身体にじんわりと熱が灯っていく。誉も戸惑いながら、真一郎の背中に小さな手を回して応えてくれていた。
ひゅっと僅かな隙間を抜けた冷たい海風を合図に、距離が開いていく。
頬を林檎のように真っ赤に染めた誉が、上目遣いで真一郎を見つめていた。
「……なぁ、もう一回オレから言い直してもいい?」
「え……?」
真一郎は小さく息を吐き出し、とびきりの笑顔を浮かべた。きょとんとする誉の前で一呼吸置き、覚悟を込めて、ゆっくりと息を吸い込む。
「誉、大好きだ──だから、オレの彼女になってください」
その瞬間、誉の瞳から、引っ込んだはずの涙がまた堰を切ったように流れ落ちる。
21回目の正直──真一郎にとって、これまでの人生でこれ程緊張して、これ程心躍る告白は無かった。
「――っはい……!」
涙を流したまま満面の笑みで飛び込んできた誉を、真一郎が受け止めた。そのかけがえのない温もりを、強く抱きしめる。
まだ、肌寒さ残る浅春の風が息吹く頃──ヤクザの娘と暴走族総長という異色のコンビに、新たな絆が芽生えた。
卍おまけ卍
「居ない、か……」
──放課後。昨日あれだけ盛大に自爆したというのに、学校へ来るなり沖田から『好きも嫌いも聞いてねぇんだからハッキリさせてこい』と、文字通り背中を蹴飛ばされるように急かされ、真一郎は藁にもすがる思いで誉の教室を訪ねていた。
だが、少々タイミングが遅かったらしい。まばらに残っている数人の生徒の中に誉の姿は見当たらず、真一郎は深く重いため息をこぼす。
肩を落とし下駄箱へと向かっていると、廊下の向こうから小走りで向かってくるこずえの姿が目に飛び込んできた。
「あっ、いたいた!佐野先輩!」
「……こずえちゃん?」
「教室にいないから焦ったー!」
こずえは安堵の表情を浮かべている。どうやらすれ違ってしまっていたようだった。
「どうしたの?」
「誉ちゃんが、佐野先輩のバイクの前で待ってるって!」
「……え?」
「突然居てびっくりさせちゃいけないから、先に私から伝えてほしいって言わ──」
こずえが最後まで言い終わるより前に、真一郎の身体は動き出していた。
何かを叫ぶこずえの声を背中で聞きながら、猛烈な勢いで廊下を駆け抜ける。階段を二段飛ばしで駆け下り、ただひたすらに愛車の待つ駐輪場へと向かって突き進んだ。
──駐輪場が見えた瞬間、真一郎は思わず距離を置いた場所でピタリと足を止めた。
西日に照らされたバブのシートに、ちょこんと腰かけている少女。それを見た途端、真一郎の心音は五月蝿いほどの音を立てた。
「……誉」
祈るような、あるいは怯えるような、掠れた声でその名を呼べば、誉がゆっくりと振り向いた。
──何を言うつもりなんだろう。
気持ちを聴きたい。けれど、「もう話しかけないで」なんて言われてしまったら、今度こそ全てが終わる──真一郎は、気持ちの狭間で揺れ動いていた。
「……先輩、もう逃げないので、お話聞いてもらえませんか……?」
その声が、強張った心にじわりと染み溶けていく。
誉の手には、山茶花のハンカチーフが握り締められていた。
──よく訪れる堤防へとやってきた。まだまだ春めくには早い時期。天端に座れば身体が冷えたが、いろんな感情が入り混じる真一郎はそれどころではなかった。
「誉……なんでオレのこと嫌いになったの……?」
恐る恐る、質問を口にする。
すると、誉は俯いたまま、小さく呟いた。
「好きです……」
「だからどうして好……えッ!?」
あまりにも予想外の単語が鼓膜を揺らし、真一郎は飛び上がりそうになる。
「大好きです」
「あ、あぁ……じゃああれか……お兄ちゃんみたいで好きってやつね」
必死に防衛線を張る。ここで調子に乗って、あとから「兄」として、なんて言われたら今度こそ立ち直れない。
だが、誉は首を横に振る。
「ううん、先輩と同じ『大好き』です」
「…………ぉおん!?」
誉はハッキリと「大好きだ」と言った。嫌われていなかったどころか、両想い。その事実に脳内が完全に許容量を超えて、真一郎は声を裏返らせた。
「じゃ、じゃあどうしてあのとき断ったんだよ!?」
「あ、あれは、その……まさか、先輩があんなところで好きって言ってくれるって思ってなくて、つい……」
「お、ん、ぬ、ッ!?」
予想だにしていなかった展開に、真一郎の喉の奥から変な声が出る。
「怖かった……自分が自分じゃないみたいで……なんで先輩のこと考えてるだけで泣いちゃうのとか、心の奥がぎゅってなってごはん食べられないのとか、全部……」
「え……」
「わたしの知らない好きって分かったら、今度は先輩が離れていっちゃったらどうしようって……やっぱり好きじゃなかったって言われるかもとか考えて……」
「そっ、そんな訳ないだろ!」
「でも、おっぱいおっきい女の子に「好き」って言われたら、その人といっぱい過ごすでしょ?そう考えたら、嫌になっちゃって……」
「……おっぱい?」
「前、おっぱいおっきい女の子が好きって言ってたじゃないですか」
──あの時はっきり否定していなかったやつ!
脳内に巨大な岩が落ちてきた感覚がした。一度こずえに猛烈に責められたが、その場でうやむやにしたきり放置していた過去の失態を思い出す。
「ち、違う!あれは誤解で……ッ!」
「誤解?だってマイ先輩はすごいおっきいじゃないですか!」
「ぁあ!?あ、あああれはだな、そのー……!」
「ほら、やっぱ好きなんじゃん!」
「待て!そうじゃない!おっぱいだけじゃないんだってッ!」
「つまり、おっきいおっぱいも好きってことでしょ!?」
「…………うん。ハッ!いや、だからって誉のこと好きにならないとかいうわけじゃなくてね!?……ん?」
墓穴を掘った──しかし、気づいた時には誉がツンとそっぽを向いて膝を抱え込んでいた。
「……いいですよ。わたしの胸は貧相だって思ってるんでしょ?」
「ちちち違うって!!」
終わりの見えない痴話喧嘩が白熱していく。
真一郎は、この最悪な自爆ループから脱しようと懸命に言葉を探した。しかし、情けないことに誉を納得させられるような気の利いたセリフなど、これっぽっちも出てこない。
「……もう、いいんです」
狼狽する真一郎の身体が、その一言で硬直した 。驚きに目を見開いたまま、吸い込まれるように誉を見つめる。
その手に握りしめる山茶花のハンカチーフが、より強く皺寄った。
「それでも、わたしのこと好きって想ってくれる先輩のこと、信じたい」
「誉……」
「先輩に初めて会った日、守ってやるから医者になる夢諦めるなって言ってもらったの、すごく嬉しかった」
それは、誉がひとり抱えていた孤独を知って、力になってやりたいと思った日──。
「おまえなら絶対できるよって言ってくれたのも、悩んだ時はオレに言えって言ってくれたのも、全部……っもう先輩がいないと、迷った時にどっちに進んだらいいか分かんなくなるの……前に進めないの……だから……っ」
涙で詰まりそうな声を、一生懸命に振り絞って想いを乗せる誉。
「わたし、先輩の彼女になりたいって思っ──」
その切実で一生懸命な姿に、もう一秒だって待てなかった。
ふわりと吹き抜けた風の中、真一郎は溢れる愛おしさのままに誉へと顔を寄せた。重ねた唇から、驚いたような誉の吐息が漏れる。
一度ゆっくりと唇を離すと、すぐ目の前で、濡れた長い睫毛が揺れた。
どちらからともなく、引き寄せられるように再び顔を寄せ合う。今度は、ゆっくりと啄むような口づけだった。二人の吐息が甘く混ざり合い、冬の名残で冷えた身体にじんわりと熱が灯っていく。誉も戸惑いながら、真一郎の背中に小さな手を回して応えてくれていた。
ひゅっと僅かな隙間を抜けた冷たい海風を合図に、距離が開いていく。
頬を林檎のように真っ赤に染めた誉が、上目遣いで真一郎を見つめていた。
「……なぁ、もう一回オレから言い直してもいい?」
「え……?」
真一郎は小さく息を吐き出し、とびきりの笑顔を浮かべた。きょとんとする誉の前で一呼吸置き、覚悟を込めて、ゆっくりと息を吸い込む。
「誉、大好きだ──だから、オレの彼女になってください」
その瞬間、誉の瞳から、引っ込んだはずの涙がまた堰を切ったように流れ落ちる。
21回目の正直──真一郎にとって、これまでの人生でこれ程緊張して、これ程心躍る告白は無かった。
「――っはい……!」
涙を流したまま満面の笑みで飛び込んできた誉を、真一郎が受け止めた。そのかけがえのない温もりを、強く抱きしめる。
まだ、肌寒さ残る浅春の風が息吹く頃──ヤクザの娘と暴走族総長という異色のコンビに、新たな絆が芽生えた。
卍おまけ卍
真一郎「誉、彼氏として一つお願いがあんだけど」
誉「は、はい……!」
真一郎「どれくらいあんのかなってすげぇ気になっててさ……
誉「なにが……?」
真一郎「誉のおっぱい、ちょっっっとだけ触ってみ──」
ボゴッ!
真一郎「……ゴベンナハィ」
誉「は、はい……!」
真一郎「どれくらいあんのかなってすげぇ気になっててさ……
誉「なにが……?」
真一郎「誉のおっぱい、ちょっっっとだけ触ってみ──」
ボゴッ!
真一郎「……ゴベンナハィ」
