本編(改)【完】
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15.Bondisforever(1)
──翌日。
「えええええ!?告白されたぁあむがぁっ!!」
「だから声が大きいぃぃぃぃ!!」
昼休みの中庭。昨日の出来事をこずえに報告していた誉が、再び彼女の口を押さえにかかっていた。
「やったじゃん!オッケーしたんでしょ!?」
「い、いやそれがその……」
雲行きが怪しい様子に、こずえの額から変な汗が出てくる。
──事の顛末を聞いたのち、一転してこずえが驚愕の表情で叫んだ。
「『ごめんなさい』って言って逃げたァ!?」
「お、思わず……!」
満身創痍の告白のあと、拒絶されて置き去りにされた真一郎は、果たして今も息をしているだろうか──そんな同情を禁じ得ないとばかりに、こずえは頭を抱えてのけぞった。
「どうしてそんなことに……」
「だって、まさか真一郎先輩がわたしのこと、そういうす、す、好きだって想ってるなんて考えてなかったから……」
「いや、まさかもクソもないでしょ!今までめちゃくちゃあからさまだったじゃん!」
「ええ!?」
「少なくとも、文化祭の時には誉ちゃんのこと好きなんだろうなって思ったよ」
「でっ……!でも、凄く、怖くて……」
「……怖い?」
膝の上で、ぎゅっと制服のスカートを掴む手に力が入る。
両思いという降って湧いたような奇跡を前にして、誉の胸中では自分に対する自信のなさが勝ってしまっていた。
家族以外の人間からは、ずっと己の存在そのものを否定され、いじめられ続けてきた人生だ。自分のそんな惨めな生い立ちや欠点を全て知っている真一郎が、いつか心変わりして自分を嫌いになったっておかしくない。真っ直ぐに「好きだ」と言われたからこそ、失う恐怖が膨れ上がり、余計に怖くなってしまう。
「好きなのは勘違いだったって、いつか言われるかもしれない……先輩にいつも助けてもらってばかりで、いつか愛想つかされちゃったりするかもしれない……わたし、真一郎先輩の気持ちを信じてあげられないまんまじゃ、付き合うなんて無理だと思う……っ」
大好きだから、臆病になる。大切で失いたくないからこそ、心が迷路に入り込んでしまう。
泣き出しそうな声を絞り出した誉を、こずえは呆れたような、だけどそれ以上に温かい眼差しで見つめていた。そして、優しく、けれど諭すように力強い声で言葉を紡ぐ。
「誉ちゃん。大好きだから怖くなるのは分かるけど、それは心配無用だよ」
「え……?」
「佐野先輩が、どれだけ長い間一途に誉ちゃんだけを想い続けてきたと思ってんの?ちょっと不器用だけど、ずっと誉ちゃんを守ってきたのは先輩でしょ。何より──」
こずえは一歩、誉に歩み寄ってその目を真っ直ぐに見つめた。
「文化祭の前にね、私、先輩の覚悟をちゃんと聞いたんだ。先輩はね、誉ちゃんの不安も、過去の傷も、欠点も、全部ひっくるめて受け止めるって、そうハッキリ言ってたよ。誉ちゃんだって、先輩のそういう真っ直ぐで優しい人柄に惹かれて、今まで一緒に過ごしてきたんでしょ?自分だけの価値観で先輩の想いを気の迷いだなんて決めつけちゃダメだよ……二人なら、絶対に上手くやっていけるから」
こずえの言葉が、じんわりと誉の頑なな心を溶かしていく。
いつも隣で自分を見ていてくれた親友だからこその、迷いのない言葉。
こずえの真っ直ぐな瞳を見て、誉は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「こずえちゃん、わたし──」
「──こずえちゃん。と、誉ちゃん、だったよね?」
その時、頭上から突然、穏やかな声がかけられた。
驚いた二人が弾かれたように振り向くと、そこには全く予想だにしていない意外な人物が立っていた。
***
「──ごめんね、急に押しかけて」
気づけば、誉の隣にはマイが座っていた。
つい昨日まで「真一郎の想い人」だと思っていた張本人の登場に、誉は全身に妙な緊張感を漂わせる。横顔だけでも、ため息が出るほどキレイだ。そして何より、至近距離で見るとはち切れんばかりのバストは、遠目で見るよりさらに大きく見えた。
「あ、あの……わたしにお話って……」
緊張で声が震える。もしや「やっぱり私も彼が好きになっちゃったから、あなたは手を引いて」なんていう修羅場の宣告だろうかと身構える。
こんな巨乳美人と真っ向から張り合う勇気なんて、逆立ちしたって湧くはずがなかった。先ほどまで「自信がないから付き合えない」などと弱音を宣った誉だったが、いざ奪われるかもと思ったらそれはそれで猛烈に泣きたくなった。
「私、佐野君とは何にもないからね」
「……へ?」
拍子抜けして声を漏らす。マイがニコッと浮かべた笑顔は、同性から見ても見惚れてしまうほどだった。思わず意識がクラっとしかけ、誉は首を横に振って必死に意識を保つ。
「あの時はね、弟の忘れ物を持ってきてくれてたの。弟が佐野君ちの空手道場に通ってて、わざわざ届けてくれてね。そのことで話してただけ」
「お……弟さんの、忘れ物?」
誤解が解けてホッとしたものの、何故わざわざそれを自分に言いに来たのだろう──誉はそんな疑問を抱きながらも、どうしても目の前の立派な巨乳から目が離せなかった。
──天は二物を与えずなんて、大嘘だ。世の中は本当に不平等にできている。
「佐野君って、見た目あんなだけど、すごく誠実な人だよね」
誉は慌ててマイの胸元から視線を上げた。真一郎が誰かに褒められているところなんて、滅多に聞けるものではなくて驚いてしまう。
「彼に告白された時、最初怖くてびっくりし過ぎちゃって。なんて返事したかよく覚えてないんだけど……確か『好きな人がいるから君の気持ちには応えられない』って返事したんだったかなぁ」
「そっ、それで……?」
「そうしたら彼ね、『オレとちゃんと向き合ってくれてありがとう。返事聞けて嬉しいよ』って言ってくれたの」
──あぁ、真一郎先輩だ。
自分と出会う前、この素敵な先輩に恋をしていたときから、彼は自分のよく知っている「佐野真一郎」のままだったのだ。当たり前のことなのに、その変わらない彼の誠実さが誉はたまらなく嬉しかった。胸の奥がじんわりと熱くなり、泣きそうになる。
「佐野君って、結構有名な暴走族のリーダーなんでしょ?何人くらい仲間がいるのか誉ちゃん知ってる?」
「え?えと……ひとクラス分以上は、いたような……」
「スゴイよね。何十人って人が、彼のところに集まってるって思ったら。同性からそれだけ慕われる人はね、信頼できて、正直者で、友達を大切にする真面目な人だよ。だから、佐野君ならきっと誉ちゃんのこと幸せにしてくれるって思う」
「えっ!?」
驚いて顔を真っ赤にした誉の反応を見て、マイはクスクスと愛らしそうに笑った。それから「そういえば」と思い出したように言葉を続ける。
「私がフッた後からよく女の子を連れてるなーって思って、実は時々見てたんだけどね。こずえちゃんから付き合ってはいないって聞いて不思議に思ってたの。私とはほとんど接点を持たないまんま突然告白してきた人だったから──きっと、誉ちゃんのことはすごく大切に思ってるのかなって」
まさか、一歩引いたところから見ていたマイが、そんな風に自分たちを観察していたなんて考えもしなかった。
こずえが「少なくとも文化祭の時には」と言っていたけれど、真一郎は自分が想像するよりも、ずっと、ずっと前から、自分のことを真っ直ぐに想い続けてくれていたのだろうか──と誉は考える。
頭の中に、いつもの眩しい彼の笑顔が浮かび上がる。胸がいっぱいで、彼に会いたくて、焦がれる気持ちが止まらなくなった。
「佐野君なら、ちゃんとありのままの誉ちゃんを受け止めてくれるから、自信持っていいと思うよ……って、今日はそれを言いたくて」
こんなに優しくて素敵な女性が真っ直ぐに認める男性。そんな人に、あんなにも全力で想われている。その事実に誉の胸が震えた。
「マイ先輩、ありがとうございます……!わたし、もう逃げないで今度こそ自分の気持ちを伝えに行きます」
「うん!応援してる」
誉は胸に溢れる愛しさを握りしめて、決意の一歩を踏み出した。
──翌日。
「えええええ!?告白されたぁあむがぁっ!!」
「だから声が大きいぃぃぃぃ!!」
昼休みの中庭。昨日の出来事をこずえに報告していた誉が、再び彼女の口を押さえにかかっていた。
「やったじゃん!オッケーしたんでしょ!?」
「い、いやそれがその……」
雲行きが怪しい様子に、こずえの額から変な汗が出てくる。
──事の顛末を聞いたのち、一転してこずえが驚愕の表情で叫んだ。
「『ごめんなさい』って言って逃げたァ!?」
「お、思わず……!」
満身創痍の告白のあと、拒絶されて置き去りにされた真一郎は、果たして今も息をしているだろうか──そんな同情を禁じ得ないとばかりに、こずえは頭を抱えてのけぞった。
「どうしてそんなことに……」
「だって、まさか真一郎先輩がわたしのこと、そういうす、す、好きだって想ってるなんて考えてなかったから……」
「いや、まさかもクソもないでしょ!今までめちゃくちゃあからさまだったじゃん!」
「ええ!?」
「少なくとも、文化祭の時には誉ちゃんのこと好きなんだろうなって思ったよ」
「でっ……!でも、凄く、怖くて……」
「……怖い?」
膝の上で、ぎゅっと制服のスカートを掴む手に力が入る。
両思いという降って湧いたような奇跡を前にして、誉の胸中では自分に対する自信のなさが勝ってしまっていた。
家族以外の人間からは、ずっと己の存在そのものを否定され、いじめられ続けてきた人生だ。自分のそんな惨めな生い立ちや欠点を全て知っている真一郎が、いつか心変わりして自分を嫌いになったっておかしくない。真っ直ぐに「好きだ」と言われたからこそ、失う恐怖が膨れ上がり、余計に怖くなってしまう。
「好きなのは勘違いだったって、いつか言われるかもしれない……先輩にいつも助けてもらってばかりで、いつか愛想つかされちゃったりするかもしれない……わたし、真一郎先輩の気持ちを信じてあげられないまんまじゃ、付き合うなんて無理だと思う……っ」
大好きだから、臆病になる。大切で失いたくないからこそ、心が迷路に入り込んでしまう。
泣き出しそうな声を絞り出した誉を、こずえは呆れたような、だけどそれ以上に温かい眼差しで見つめていた。そして、優しく、けれど諭すように力強い声で言葉を紡ぐ。
「誉ちゃん。大好きだから怖くなるのは分かるけど、それは心配無用だよ」
「え……?」
「佐野先輩が、どれだけ長い間一途に誉ちゃんだけを想い続けてきたと思ってんの?ちょっと不器用だけど、ずっと誉ちゃんを守ってきたのは先輩でしょ。何より──」
こずえは一歩、誉に歩み寄ってその目を真っ直ぐに見つめた。
「文化祭の前にね、私、先輩の覚悟をちゃんと聞いたんだ。先輩はね、誉ちゃんの不安も、過去の傷も、欠点も、全部ひっくるめて受け止めるって、そうハッキリ言ってたよ。誉ちゃんだって、先輩のそういう真っ直ぐで優しい人柄に惹かれて、今まで一緒に過ごしてきたんでしょ?自分だけの価値観で先輩の想いを気の迷いだなんて決めつけちゃダメだよ……二人なら、絶対に上手くやっていけるから」
こずえの言葉が、じんわりと誉の頑なな心を溶かしていく。
いつも隣で自分を見ていてくれた親友だからこその、迷いのない言葉。
こずえの真っ直ぐな瞳を見て、誉は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「こずえちゃん、わたし──」
「──こずえちゃん。と、誉ちゃん、だったよね?」
その時、頭上から突然、穏やかな声がかけられた。
驚いた二人が弾かれたように振り向くと、そこには全く予想だにしていない意外な人物が立っていた。
***
「──ごめんね、急に押しかけて」
気づけば、誉の隣にはマイが座っていた。
つい昨日まで「真一郎の想い人」だと思っていた張本人の登場に、誉は全身に妙な緊張感を漂わせる。横顔だけでも、ため息が出るほどキレイだ。そして何より、至近距離で見るとはち切れんばかりのバストは、遠目で見るよりさらに大きく見えた。
「あ、あの……わたしにお話って……」
緊張で声が震える。もしや「やっぱり私も彼が好きになっちゃったから、あなたは手を引いて」なんていう修羅場の宣告だろうかと身構える。
こんな巨乳美人と真っ向から張り合う勇気なんて、逆立ちしたって湧くはずがなかった。先ほどまで「自信がないから付き合えない」などと弱音を宣った誉だったが、いざ奪われるかもと思ったらそれはそれで猛烈に泣きたくなった。
「私、佐野君とは何にもないからね」
「……へ?」
拍子抜けして声を漏らす。マイがニコッと浮かべた笑顔は、同性から見ても見惚れてしまうほどだった。思わず意識がクラっとしかけ、誉は首を横に振って必死に意識を保つ。
「あの時はね、弟の忘れ物を持ってきてくれてたの。弟が佐野君ちの空手道場に通ってて、わざわざ届けてくれてね。そのことで話してただけ」
「お……弟さんの、忘れ物?」
誤解が解けてホッとしたものの、何故わざわざそれを自分に言いに来たのだろう──誉はそんな疑問を抱きながらも、どうしても目の前の立派な巨乳から目が離せなかった。
──天は二物を与えずなんて、大嘘だ。世の中は本当に不平等にできている。
「佐野君って、見た目あんなだけど、すごく誠実な人だよね」
誉は慌ててマイの胸元から視線を上げた。真一郎が誰かに褒められているところなんて、滅多に聞けるものではなくて驚いてしまう。
「彼に告白された時、最初怖くてびっくりし過ぎちゃって。なんて返事したかよく覚えてないんだけど……確か『好きな人がいるから君の気持ちには応えられない』って返事したんだったかなぁ」
「そっ、それで……?」
「そうしたら彼ね、『オレとちゃんと向き合ってくれてありがとう。返事聞けて嬉しいよ』って言ってくれたの」
──あぁ、真一郎先輩だ。
自分と出会う前、この素敵な先輩に恋をしていたときから、彼は自分のよく知っている「佐野真一郎」のままだったのだ。当たり前のことなのに、その変わらない彼の誠実さが誉はたまらなく嬉しかった。胸の奥がじんわりと熱くなり、泣きそうになる。
「佐野君って、結構有名な暴走族のリーダーなんでしょ?何人くらい仲間がいるのか誉ちゃん知ってる?」
「え?えと……ひとクラス分以上は、いたような……」
「スゴイよね。何十人って人が、彼のところに集まってるって思ったら。同性からそれだけ慕われる人はね、信頼できて、正直者で、友達を大切にする真面目な人だよ。だから、佐野君ならきっと誉ちゃんのこと幸せにしてくれるって思う」
「えっ!?」
驚いて顔を真っ赤にした誉の反応を見て、マイはクスクスと愛らしそうに笑った。それから「そういえば」と思い出したように言葉を続ける。
「私がフッた後からよく女の子を連れてるなーって思って、実は時々見てたんだけどね。こずえちゃんから付き合ってはいないって聞いて不思議に思ってたの。私とはほとんど接点を持たないまんま突然告白してきた人だったから──きっと、誉ちゃんのことはすごく大切に思ってるのかなって」
まさか、一歩引いたところから見ていたマイが、そんな風に自分たちを観察していたなんて考えもしなかった。
こずえが「少なくとも文化祭の時には」と言っていたけれど、真一郎は自分が想像するよりも、ずっと、ずっと前から、自分のことを真っ直ぐに想い続けてくれていたのだろうか──と誉は考える。
頭の中に、いつもの眩しい彼の笑顔が浮かび上がる。胸がいっぱいで、彼に会いたくて、焦がれる気持ちが止まらなくなった。
「佐野君なら、ちゃんとありのままの誉ちゃんを受け止めてくれるから、自信持っていいと思うよ……って、今日はそれを言いたくて」
こんなに優しくて素敵な女性が真っ直ぐに認める男性。そんな人に、あんなにも全力で想われている。その事実に誉の胸が震えた。
「マイ先輩、ありがとうございます……!わたし、もう逃げないで今度こそ自分の気持ちを伝えに行きます」
「うん!応援してる」
誉は胸に溢れる愛しさを握りしめて、決意の一歩を踏み出した。
