本編(改)【完】
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12.What the luck suggests(2)
大行列の中、拝殿まであともう少しというところまで来た。
その時、周囲から一斉にカウントダウンの声が沸き上がる。
「お、もうすぐ0時だ」
「3、2、1……!」
周りに倣って声を張り上げる万次郎とエマの横で、誉たちは静かにその瞬間を迎えた。
「あけましておめでとー!!」
一瞬にして、境内が盛大に沸き返る。家族や友人、恋人たち、そして偶然居合わせた見ず知らずの人同士まで、そこら中で新年の挨拶が賑やかに交わされていた。
歓声に包まれる中、誉は一歩だけ真一郎に寄り添った。
昨年は転機の年だった。故郷を離れ、この街で彼と出会い、新しい世界を知った──。
「真一郎先輩、今年もよろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな」
──どうかこの温かい日常が、一秒でも長く続きますように。
心からそう願った。
「なんということでしょう……!」
お参り後、軽い気持ちで引いたおみくじを手に誉は絶望していた。
「あはは! 誉、凶かよ。ダッセー!」
「初めて引いた……ホントにあるんだ……!?」
万次郎の容赦ない言葉が突き刺さる。
あまりの結果に固まる誉の横から、真一郎が自分の紙をぐいっと差し出してきた。
「大丈夫だ誉! オレ大吉だから、これで足して二で割ればプラマイゼロだろ!?」
「そ、そういうもんなんですか!?」
物騒な輩に尾けられているかもしれないという、お世辞にも穏やかとは言えないこの状況での『凶』は、冗談抜きで笑えなかった。今から境内を出る前に「撒く」という大仕事が控えているというのに、どうしてくれるんだ神様──。
***
──全員がおみくじを結び終えた時、「トイレに行きたい」というエマを連れて、誉は公衆トイレへと向かっていった。
万が一、敵が女子トイレへ入ろうもんなら間違いなく目立つ──真一郎は、警戒しながらトイレの入り口をじっと注視した。
「さっきからなにコエー顔してんだ、シンイチロー」
「ん?……あぁ、別になんでもねぇよ」
「嘘つけ。さっき並んでた時も後ろばっか気にしてたし、誉もビクついてたろ。あいつ、ヤクザにでも狙われてる?」
「おま、……なんでそんなに勘が鋭いんだよ!?」
小学一年生とは思えない名推理っぷりに、感心を通り越して背筋が寒くなった。
──もしや自分の弟は、見た目は子供、頭脳は大人なのか……?
「おまたせー!」
そんなくだらない思考を遮るようにエマの元気な声が届く。
何事もなく戻ったか──安堵の息をつく真一郎だったが、目の前にいたのはエマひとりだけ。
「……おいエマ、誉はどうした?」
「え、……あれ?一緒に出てきたのに、おかしいな?」
トイレの入口には、中が丸見えにならないよう衝立が設置されていた。
──その死角をつかれたか。
嫌な予感が脳裏をよぎり、真一郎が急ぎ衝立の奥を覗く。しかし、誉の姿は見えず。エマに中を確認させるも、やはりいない。
「誉!!どこだッ!!?」
完全に頭に血が上り、人混みも構わずに声を張り上げる。しかし、雑踏の喧騒にかき消されるばかりで、誉の返事が聞こえてくることはなかった。
***
エマの後ろをついてトイレから出た瞬間、誉は突後ろから口を塞がれた。
恐怖に身体をこわばらせながら、建物裏の暗い茂みへと強引に引きずり込まれる。
──狙いが自分なら、あの兄弟たちに危害が及ぶことはないはず。
けれど、不安は拭いきれない。三人の安否を気にかけながらも、誉は必死にこの拘束を解く算段を巡らせた。
「むぅー!!」
「お嬢……! 落ち着いてください、 何もしませんけぇ……!」
自分を「お嬢」と呼ぶ、聞き馴染みのある広島訛り──。
誉が驚いて振り向こうとした、まさにその時だった。
「う゛ッ!?」
鈍い呻き声と共に、突然、後ろの拘束がガクンと解けた。あまりの衝撃の連鎖に、誉は思わずその場に膝をついて崩れ落ちてしまう。
「い、た……な、なにっ?」
「──誉!!」
必死に名を呼ぶ声が聞こえて顔を向けると、こちらに向かって駆けてくる真一郎が見えた。エマも一緒にいる。
──万次郎の姿だけがなく、不安に胸がざわめいた。
「──あっけな」
その安否を案じていると、聞き覚えのある声がすぐ傍で聞こえた。
弾かれるように後ろを振り向くと、そこには倒れ伏している大人の男を、冷めきった瞳で見下ろしている万次郎が立っていた。
「ま、万次郎!?な、なにして……」
「飛び蹴り」
予想だにしていなかった展開に、誉はあんぐりと口を開けたまま放心してしまう。
──小学生、飛び蹴りでヤクザをKO?
「誉!無事か!?ケガは……ッ!?」
すぐさま駆け寄ってきた真一郎が、肩を掴み慌てて全身を確かめてきた。どれほど探し回ったのだろう、彼の額からは大粒の汗が滴り落ちている。
「だ、大丈夫です……」
誉がそう答えるや否や、折れそうなほど力いっぱい抱きしめられた。
「よかった……っ、ごめん油断した……!」
「いえ、先輩のせいじゃ……それより、あの……っ 」
言いにくそうに顔を曇らせる誉の様子に、真一郎が怪訝そうに腕の力を緩めた瞬間、ガササッ!と激しく茂みが揺れた。
「巧ー!」
「大丈夫かタクー!?」
倒れ込む男に向かって、新たな男たちが慌てて飛び出してくる。
真一郎は瞬時に誉を自分の背中に隠し、万次郎もすぐさま低く身を構えた。
しかし、背後から誉がひっくり返ったような声を上げる。
「あ、あの!その人たち敵じゃないんです!!」
「「……は?」」
***
「「「お嬢!スイヤッセンシター!!」」」
「もう、信じらんない!!」
仁王立ちで怒髪天を衝く誉の前に、綺麗に並んで正座させられている大人の男が三人──。
彼らは全員、広島の神保組に所属する若手の組員たちだった。
「初詣はどーしたの!?」
「それは他の奴らに任せてきました!お嬢の危機に黙ってられんかったけぇ!」
「男と着物で初詣なんて、何が起きてもおかしくねぇっちゅうて、満場一致でワシらが代表して参上仕りましたぁ!」
「満場一致って、柴田に止められなかった!?」
「柴田さんには黙ってきましたぁ!」
「おバカー!!」
夜の境内裏で、ガチのヤクザ相手に堂々と怒鳴り散らす誉の姿を、少し離れた場所から佐野家の面々は呆気に取られ見つめていた。
「誉って、ホントにクミチョーの娘だったんだ」
「……やっぱオレ、誉には一生勝てねぇ気がしてきた」
「シンイチローは他の女相手でも勝てねぇだろ」
「ねーねー、クミチョーってなんの話?」
「エマは知らなくていーの」
真一郎に優しく頭を撫でられつつも、やんわり濁されたエマは不満そうに口をへの字に曲げていた。
***
「ほんとに、お騒がせして申し訳ございません……」
「いや、まぁおまえのこと心配してのことだったんだから、大目に見てやれ」
あの後、クタクタになりながら佐野家へと戻ってきた。
帰宅してすぐに布団へと潜り込んだ万次郎とエマの寝顔を見届けると、柴田から「間もなく到着する」との一報を受けて、誉と真一郎は、迎えの車を待つために玄関前に出てきたところだ。
「……オレ、あの時ちょっとやばかった」
「何がですか?」
「誉がこのまま居なくなっちまうかもしれないって思ったら、すげぇ怖かった……」
「え……」
気づけば、真一郎が近くにいた。
先ほど駆けつけてくれた時の余裕のない感じとは違う、ゆっくりと愛おしむような優しい抱き締め方に、誉の鼓動が激しく高鳴る。
肌を刺す冬の冷気も、彼から伝わる心地いい体温のせいで、全く気にならなくなっていた。
「取りあえず今年は、誉の傍を離れないようにしねぇとな」
「え?」
「そうすれば、縁起の悪いこともプラマイゼロだからさ」
『大吉』の運気で『凶』を相殺しようとする彼の前向きさに、肩の力が抜けて思わず笑みがこぼれる。
「でも、それで先輩に縁起悪いこと起きたらやだな」
「そこはまぁ、オレ的にはどうでもいい。ただの口実だし」
「え……?なんの──」
問いかけようとしたその時、低いエンジン音が響き、塀の向こうからヘッドライトの明かりが差し込んできた。スーツ姿の柴田が運転席から降り、急ぎ足で二人の方へと向かってくる。
密着させた身体が離れ、再び冷気が全身を包んだ。
「お嬢っ!あのバカヤロー共がすいやせん!」
「いいよ、わたしもその場で結構怒鳴っちゃったし……」
「真一郎も、迷惑かけてすまんかったの」
「いや、まぁ身内で安心しました」
「お嬢、寒いですから早く中へ」
そう促された誉は、少し名残惜しさを感じながら真一郎へと向き直る。
「あの、今日はありがとうございました。色々あって疲れたけど、楽しかったです」
別れを告げようとした誉の瞳を見つめ、真一郎がふっと優しく微笑む。
「凶ってさ、『これ以上不幸なことは起きない』って意味でもあるらしいよ」
「え……?」
「これから、きっと最強にいい事が起こるぜ」
──そんな考え方、したこともなかった。
けれど真一郎の言葉を聞いていると、この先起こるどんな辛い出来事も「最強にいい事」の前触れなのではと思えてくるから不思議だ。
──その最強の瞬間を、もし彼の傍で迎えられたら、どんなに素晴らしいだろう。
そんないつかの未来をひそかに思い描きながら、誉は真一郎に別れを告げた。
車の前で待機する柴田の元へと歩き、後部座席へ乗り込む。暖房で少し暑いくらいの車内に包まれながら、誉はそっと自分の胸に手を当てて温かい余韻に浸っていた。
卍おまけ卍
大行列の中、拝殿まであともう少しというところまで来た。
その時、周囲から一斉にカウントダウンの声が沸き上がる。
「お、もうすぐ0時だ」
「3、2、1……!」
周りに倣って声を張り上げる万次郎とエマの横で、誉たちは静かにその瞬間を迎えた。
「あけましておめでとー!!」
一瞬にして、境内が盛大に沸き返る。家族や友人、恋人たち、そして偶然居合わせた見ず知らずの人同士まで、そこら中で新年の挨拶が賑やかに交わされていた。
歓声に包まれる中、誉は一歩だけ真一郎に寄り添った。
昨年は転機の年だった。故郷を離れ、この街で彼と出会い、新しい世界を知った──。
「真一郎先輩、今年もよろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな」
──どうかこの温かい日常が、一秒でも長く続きますように。
心からそう願った。
「なんということでしょう……!」
お参り後、軽い気持ちで引いたおみくじを手に誉は絶望していた。
「あはは! 誉、凶かよ。ダッセー!」
「初めて引いた……ホントにあるんだ……!?」
万次郎の容赦ない言葉が突き刺さる。
あまりの結果に固まる誉の横から、真一郎が自分の紙をぐいっと差し出してきた。
「大丈夫だ誉! オレ大吉だから、これで足して二で割ればプラマイゼロだろ!?」
「そ、そういうもんなんですか!?」
物騒な輩に尾けられているかもしれないという、お世辞にも穏やかとは言えないこの状況での『凶』は、冗談抜きで笑えなかった。今から境内を出る前に「撒く」という大仕事が控えているというのに、どうしてくれるんだ神様──。
***
──全員がおみくじを結び終えた時、「トイレに行きたい」というエマを連れて、誉は公衆トイレへと向かっていった。
万が一、敵が女子トイレへ入ろうもんなら間違いなく目立つ──真一郎は、警戒しながらトイレの入り口をじっと注視した。
「さっきからなにコエー顔してんだ、シンイチロー」
「ん?……あぁ、別になんでもねぇよ」
「嘘つけ。さっき並んでた時も後ろばっか気にしてたし、誉もビクついてたろ。あいつ、ヤクザにでも狙われてる?」
「おま、……なんでそんなに勘が鋭いんだよ!?」
小学一年生とは思えない名推理っぷりに、感心を通り越して背筋が寒くなった。
──もしや自分の弟は、見た目は子供、頭脳は大人なのか……?
「おまたせー!」
そんなくだらない思考を遮るようにエマの元気な声が届く。
何事もなく戻ったか──安堵の息をつく真一郎だったが、目の前にいたのはエマひとりだけ。
「……おいエマ、誉はどうした?」
「え、……あれ?一緒に出てきたのに、おかしいな?」
トイレの入口には、中が丸見えにならないよう衝立が設置されていた。
──その死角をつかれたか。
嫌な予感が脳裏をよぎり、真一郎が急ぎ衝立の奥を覗く。しかし、誉の姿は見えず。エマに中を確認させるも、やはりいない。
「誉!!どこだッ!!?」
完全に頭に血が上り、人混みも構わずに声を張り上げる。しかし、雑踏の喧騒にかき消されるばかりで、誉の返事が聞こえてくることはなかった。
***
エマの後ろをついてトイレから出た瞬間、誉は突後ろから口を塞がれた。
恐怖に身体をこわばらせながら、建物裏の暗い茂みへと強引に引きずり込まれる。
──狙いが自分なら、あの兄弟たちに危害が及ぶことはないはず。
けれど、不安は拭いきれない。三人の安否を気にかけながらも、誉は必死にこの拘束を解く算段を巡らせた。
「むぅー!!」
「お嬢……! 落ち着いてください、 何もしませんけぇ……!」
自分を「お嬢」と呼ぶ、聞き馴染みのある広島訛り──。
誉が驚いて振り向こうとした、まさにその時だった。
「う゛ッ!?」
鈍い呻き声と共に、突然、後ろの拘束がガクンと解けた。あまりの衝撃の連鎖に、誉は思わずその場に膝をついて崩れ落ちてしまう。
「い、た……な、なにっ?」
「──誉!!」
必死に名を呼ぶ声が聞こえて顔を向けると、こちらに向かって駆けてくる真一郎が見えた。エマも一緒にいる。
──万次郎の姿だけがなく、不安に胸がざわめいた。
「──あっけな」
その安否を案じていると、聞き覚えのある声がすぐ傍で聞こえた。
弾かれるように後ろを振り向くと、そこには倒れ伏している大人の男を、冷めきった瞳で見下ろしている万次郎が立っていた。
「ま、万次郎!?な、なにして……」
「飛び蹴り」
予想だにしていなかった展開に、誉はあんぐりと口を開けたまま放心してしまう。
──小学生、飛び蹴りでヤクザをKO?
「誉!無事か!?ケガは……ッ!?」
すぐさま駆け寄ってきた真一郎が、肩を掴み慌てて全身を確かめてきた。どれほど探し回ったのだろう、彼の額からは大粒の汗が滴り落ちている。
「だ、大丈夫です……」
誉がそう答えるや否や、折れそうなほど力いっぱい抱きしめられた。
「よかった……っ、ごめん油断した……!」
「いえ、先輩のせいじゃ……それより、あの……っ 」
言いにくそうに顔を曇らせる誉の様子に、真一郎が怪訝そうに腕の力を緩めた瞬間、ガササッ!と激しく茂みが揺れた。
「巧ー!」
「大丈夫かタクー!?」
倒れ込む男に向かって、新たな男たちが慌てて飛び出してくる。
真一郎は瞬時に誉を自分の背中に隠し、万次郎もすぐさま低く身を構えた。
しかし、背後から誉がひっくり返ったような声を上げる。
「あ、あの!その人たち敵じゃないんです!!」
「「……は?」」
***
「「「お嬢!スイヤッセンシター!!」」」
「もう、信じらんない!!」
仁王立ちで怒髪天を衝く誉の前に、綺麗に並んで正座させられている大人の男が三人──。
彼らは全員、広島の神保組に所属する若手の組員たちだった。
「初詣はどーしたの!?」
「それは他の奴らに任せてきました!お嬢の危機に黙ってられんかったけぇ!」
「男と着物で初詣なんて、何が起きてもおかしくねぇっちゅうて、満場一致でワシらが代表して参上仕りましたぁ!」
「満場一致って、柴田に止められなかった!?」
「柴田さんには黙ってきましたぁ!」
「おバカー!!」
夜の境内裏で、ガチのヤクザ相手に堂々と怒鳴り散らす誉の姿を、少し離れた場所から佐野家の面々は呆気に取られ見つめていた。
「誉って、ホントにクミチョーの娘だったんだ」
「……やっぱオレ、誉には一生勝てねぇ気がしてきた」
「シンイチローは他の女相手でも勝てねぇだろ」
「ねーねー、クミチョーってなんの話?」
「エマは知らなくていーの」
真一郎に優しく頭を撫でられつつも、やんわり濁されたエマは不満そうに口をへの字に曲げていた。
***
「ほんとに、お騒がせして申し訳ございません……」
「いや、まぁおまえのこと心配してのことだったんだから、大目に見てやれ」
あの後、クタクタになりながら佐野家へと戻ってきた。
帰宅してすぐに布団へと潜り込んだ万次郎とエマの寝顔を見届けると、柴田から「間もなく到着する」との一報を受けて、誉と真一郎は、迎えの車を待つために玄関前に出てきたところだ。
「……オレ、あの時ちょっとやばかった」
「何がですか?」
「誉がこのまま居なくなっちまうかもしれないって思ったら、すげぇ怖かった……」
「え……」
気づけば、真一郎が近くにいた。
先ほど駆けつけてくれた時の余裕のない感じとは違う、ゆっくりと愛おしむような優しい抱き締め方に、誉の鼓動が激しく高鳴る。
肌を刺す冬の冷気も、彼から伝わる心地いい体温のせいで、全く気にならなくなっていた。
「取りあえず今年は、誉の傍を離れないようにしねぇとな」
「え?」
「そうすれば、縁起の悪いこともプラマイゼロだからさ」
『大吉』の運気で『凶』を相殺しようとする彼の前向きさに、肩の力が抜けて思わず笑みがこぼれる。
「でも、それで先輩に縁起悪いこと起きたらやだな」
「そこはまぁ、オレ的にはどうでもいい。ただの口実だし」
「え……?なんの──」
問いかけようとしたその時、低いエンジン音が響き、塀の向こうからヘッドライトの明かりが差し込んできた。スーツ姿の柴田が運転席から降り、急ぎ足で二人の方へと向かってくる。
密着させた身体が離れ、再び冷気が全身を包んだ。
「お嬢っ!あのバカヤロー共がすいやせん!」
「いいよ、わたしもその場で結構怒鳴っちゃったし……」
「真一郎も、迷惑かけてすまんかったの」
「いや、まぁ身内で安心しました」
「お嬢、寒いですから早く中へ」
そう促された誉は、少し名残惜しさを感じながら真一郎へと向き直る。
「あの、今日はありがとうございました。色々あって疲れたけど、楽しかったです」
別れを告げようとした誉の瞳を見つめ、真一郎がふっと優しく微笑む。
「凶ってさ、『これ以上不幸なことは起きない』って意味でもあるらしいよ」
「え……?」
「これから、きっと最強にいい事が起こるぜ」
──そんな考え方、したこともなかった。
けれど真一郎の言葉を聞いていると、この先起こるどんな辛い出来事も「最強にいい事」の前触れなのではと思えてくるから不思議だ。
──その最強の瞬間を、もし彼の傍で迎えられたら、どんなに素晴らしいだろう。
そんないつかの未来をひそかに思い描きながら、誉は真一郎に別れを告げた。
車の前で待機する柴田の元へと歩き、後部座席へ乗り込む。暖房で少し暑いくらいの車内に包まれながら、誉はそっと自分の胸に手を当てて温かい余韻に浸っていた。
卍おまけ卍
──翌朝──
真一郎「しまったぁぁぁあ!!」
万次郎「シンイチローうるせぇ……朝から大声出すな」
真一郎「誉の着物姿、写真に収めるの忘れてたぁぁぁあッ!」
万次郎「……つーか早く告れよ」
真一郎「しまったぁぁぁあ!!」
万次郎「シンイチローうるせぇ……朝から大声出すな」
真一郎「誉の着物姿、写真に収めるの忘れてたぁぁぁあッ!」
万次郎「……つーか早く告れよ」
