本編(改)【完】
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11.Taste of your kiss(3)
「……」
「……」
「……ねぇ、誉?」
「はいなんですかぁ?」
「目ぇ、閉じないの?」
誉は、しっかと目を開き至近距離にある真一郎の顔をガン見していた。
「どうしてですかぁ?」
「いやー、今からオレ、誉にキスしよっかなーって思ってっからさぁ」
「キスする時って、目ぇ閉じないとダメなんですかぁ?」
「ダメって訳じゃねぇけど、なんつーかこう……ムードが出るかなぁって」
「あぁ、なるほどぉ」
ちゃんと理解したのかどうなのか怪しい誉が、ポンッと手を打つと、「ん」と言われるがままに目を閉じた。
──あ、やべぇかわいい最高。
誉のキス待ち顔に、真一郎は天を仰いだ。このキスを皮切りに、万が一そーゆー流れになっても準備は抜かりない。念の為、さっとポケットの中身を確認した真一郎が、仕切り直して顔を近づける。
──が、次の瞬間「ゴッ」という鈍く、確実に重い衝撃が至近距離で真一郎の脳を派手に揺さぶった。
「いt○■※□◇#△~ッ!?」
あと僅か──という完璧な頃合いだった。あまりの痛さに、真一郎は涙目で額を押さえ、声にならない悲鳴を上げる。
ハっとして目の前の誉を見ると、フラフラと前後左右に舟を漕いでいる。それはまさに、授業中に座ったまま居眠りをする姿そのもの。
嫌な予感がした。
「……ねるぅ」
そう一言告げると、誉は真一郎の肩口目掛けてダイブした。慌ててその身体を支えると、スー、スーとすぐ傍で聞こえてきたのは寝息。
「……嘘だろ?」
──なんかオレ、こんなんばっかじゃね!?
真一郎は叫びたい気持ちをなんとか押し込む。その姿からは想像つかない誉の石頭にも動揺を隠せない。
何かの間違いでは──そう思い、じっくり誉を観察するが、まごうことなき寝入った姿だった。
意識のないままアレコレしようという気は流石に起きない。言いようのない疲労感と、じわじわと赤くなってきた額の痛みに襲われた真一郎は、諦めたように誉の身体ごと後方に倒れこんだ。
「あ゛ーッ!」
真一郎の嘆きが木霊した瞬間、時計の針全てが頂点の数字を指し示した。
***
「──……う、ん……?」
誉は、少し気だるさを感じ目を覚ました。どうにも身体が言うことを聞かない。
──しかも、ちょっとおでこに違和感がある。
「……あれ、そういえばいつベッドに入ったっけ……?」
記憶がはっきりしない。確か昨晩は、こずえたちが誕生日会を開いてくれた。そして真一郎とシャンメリーを開けようということになって、二人でそれを飲んだはず。
──そこからが思い出せない。
「先輩、ちゃんと帰ったんだっけかな……」
ベッドから抜け出した誉は、重い身体をなんとか起こしてリビングへと向かった。
「おぅ、はよ」
「……ん!?」
心臓が跳ねた。キッチンに真一郎が立っていた。更には、彼の額がほんのり赤く腫れていて、誉はさらに目を丸くする。
「な、なんっ、え?先輩?おでこどうしたんですか……?じゃなくて、なんでここにいるの!?」
「なんでって……おまえが酔っ払って寝落ちして、カギ締めるヤツいなくて帰れなくなったから……これはまぁ、ちょっとしたハプニングっつつーか……」
──はて、寝落ちた……?酔っ払って??
「アレなぁ、シャンメリーじゃなくてワインだったぞ」
「……ええーっ!?」
──30分後。
「本当に、本っ当に申し訳ございません……!」
大急ぎでシャワーを浴びてリビングへ戻ると、ダイニングテーブルには真一郎が作った朝食が並んでいた。ベーコンエッグにレタスとトマトスライス、それにバターがたっぷり塗られた焼き立てトーストが添えられている。
「いいよ。気にしてねぇから」
「うぅ、美味しそう……いただきます……!」
これだけの失態を犯した自分に、文句ひとつ言わず朝食まで作ってくれるなんて。誉は胸がいっぱいになりながら、その優しさを噛み締めた。
──やはり真一郎は神様か仏様なのか。
「先輩、好きぃ」
「はいはい。いいから食え」
軽口だと捉えたのだろう。真一郎から気にも留めぬ素振りであしらわれたが、今はそれが有難かった。
「良かったな、今日が日曜で」
「ハイ……本当に……」
食後、ソファーに並んでコーヒーをすする。いつもは自分がせわしなく動いている朝だからこそ、真一郎が用意してくれた至れり尽くせりなひとときは、贅沢すぎるほど幸せな時間だった。
「あ、そーだ。はい、これ──」
そう言って真一郎が長細い箱を差し出してきた。リボンが添えられていて、プレゼント用のラッピングに包まれているのだと分かる。
「誕生日、おめでとう」
「え……?で、でも昨日の誕生日会でごちそういっぱい用意してもらったのに」
「いやコレは別でしょ」
そう言って呆れ混じりに笑う真一郎の顔が、眩しくて。
真っ直ぐな彼の好意が、たまらなく嬉しくて。
じわじわと顔に熱が集まっていくのを感じながら、誉は宝物でも手にするかのように、両手でそっとその箱を迎え入れた。
「ありがとうございます!」
「開けてみ」
真一郎に促され、早速、包装紙を剥がして箱を開いた。
「あ……え、簪?」
中には、一本差しの玉簪が入っていた。金属製の"耳かき"と呼ばれる一本足に、一粒玉が挿してある。鮮やかな赤色の玉には、蒔絵風の花柄が描かれていた。白に桃色が混ざった可愛らしい印象の花弁。
「これ……山茶花?」
「そ。オレ、遠くから見てて気づいてなかったんだけど、文化祭でステージ立ってた時、腕に巻いてたんだろ?あのハンカチーフ」
「あ、は、はい」
「沖田から聞いてさ。気に入ってくれてたのかなって思ったから、山茶花の柄が入ったやつにしてみた」
真一郎は、祖父と暮らしているからなのか、見かけによらず少し古風なところがある。
──簪を贈る意味を知っていたのだろうか。
そんな考えが頭をよぎると同時に、胸の奥から熱い感動が込み上げてきた。大好きな真一郎が再び手渡してくれた、大切な勇気の花。
ありがとうの言葉じゃ到底足りない、この言いようのない喜びをどうにかして彼に伝えたくて、誉は必死に言葉を探した。
「……誉?」
簪を見つめたまま固まった誉に、不安そうに瞳を揺らす真一郎が呼びかける。
誉は不意に真一郎へと向き直ると、意を決したように彼の方へとじり、と体を寄せた。
座面がわずかに沈み、驚きに目を見開く真一郎の顔がすぐ近くに迫る。その無防備な顔に向けて、誉はそっと目を閉じ、彼の頬へかすめるように唇を寄せた。
それからは恥ずかしさのあまり目を合わすことが出来ず、うつむき加減のまま暫しの沈黙が過ぎていく。
「…………え。まっ、てちょっと、今のなに!?!?」
「ほ……ほっぺにちゅー……です」
「いやそっ、分かってっけど!!?」
パニックに陥っている真一郎に、誉は観念したように視線を上げた。
「透くんが……」
「と……透君?」
「透くんに昔、ありがとうの言葉で足りないくらい嬉しい時はどうしたらいい?って聞いたら、『そんときゃ黙ってほっぺにちゅーだろ』って言ってたから……」
「……おん?」
「それからは、いっぱいありがとうって思ったら──あっ、でも恥ずかしいから家族にしかしてませんよっ」
「……ねぇ、それって透君にも?」
「え?……あ、はいまぁ」
「もしかして、柴田さんにも?」
「う、うんと……2回くらい、あったかなぁ」
そう答えた瞬間、真一郎は目に見えて分かりやすく肩を落とした。さっきまでの取り乱し様が嘘のように、魂が抜けたような顔で遠い目をしている──かと思えば、急に真剣な表情で見つめてきて、
「よし。じゃあオレも、ありがとうじゃ足りないときは誉のほっぺにちゅーしよ」
「え!?やだ!恥ずかしい!」
「却下。先に誉がやってきたんだからオレにも権利はある」
全力で拒否しているにも関わらず、真一郎は意に介していないのか呑気に吹き出している。
それから、逃げ道を塞ぐかのように肩をそっと抱き寄せられた。
卍おまけ卍
「……」
「……」
「……ねぇ、誉?」
「はいなんですかぁ?」
「目ぇ、閉じないの?」
誉は、しっかと目を開き至近距離にある真一郎の顔をガン見していた。
「どうしてですかぁ?」
「いやー、今からオレ、誉にキスしよっかなーって思ってっからさぁ」
「キスする時って、目ぇ閉じないとダメなんですかぁ?」
「ダメって訳じゃねぇけど、なんつーかこう……ムードが出るかなぁって」
「あぁ、なるほどぉ」
ちゃんと理解したのかどうなのか怪しい誉が、ポンッと手を打つと、「ん」と言われるがままに目を閉じた。
──あ、やべぇかわいい最高。
誉のキス待ち顔に、真一郎は天を仰いだ。このキスを皮切りに、万が一そーゆー流れになっても準備は抜かりない。念の為、さっとポケットの中身を確認した真一郎が、仕切り直して顔を近づける。
──が、次の瞬間「ゴッ」という鈍く、確実に重い衝撃が至近距離で真一郎の脳を派手に揺さぶった。
「いt○■※□◇#△~ッ!?」
あと僅か──という完璧な頃合いだった。あまりの痛さに、真一郎は涙目で額を押さえ、声にならない悲鳴を上げる。
ハっとして目の前の誉を見ると、フラフラと前後左右に舟を漕いでいる。それはまさに、授業中に座ったまま居眠りをする姿そのもの。
嫌な予感がした。
「……ねるぅ」
そう一言告げると、誉は真一郎の肩口目掛けてダイブした。慌ててその身体を支えると、スー、スーとすぐ傍で聞こえてきたのは寝息。
「……嘘だろ?」
──なんかオレ、こんなんばっかじゃね!?
真一郎は叫びたい気持ちをなんとか押し込む。その姿からは想像つかない誉の石頭にも動揺を隠せない。
何かの間違いでは──そう思い、じっくり誉を観察するが、まごうことなき寝入った姿だった。
意識のないままアレコレしようという気は流石に起きない。言いようのない疲労感と、じわじわと赤くなってきた額の痛みに襲われた真一郎は、諦めたように誉の身体ごと後方に倒れこんだ。
「あ゛ーッ!」
真一郎の嘆きが木霊した瞬間、時計の針全てが頂点の数字を指し示した。
***
「──……う、ん……?」
誉は、少し気だるさを感じ目を覚ました。どうにも身体が言うことを聞かない。
──しかも、ちょっとおでこに違和感がある。
「……あれ、そういえばいつベッドに入ったっけ……?」
記憶がはっきりしない。確か昨晩は、こずえたちが誕生日会を開いてくれた。そして真一郎とシャンメリーを開けようということになって、二人でそれを飲んだはず。
──そこからが思い出せない。
「先輩、ちゃんと帰ったんだっけかな……」
ベッドから抜け出した誉は、重い身体をなんとか起こしてリビングへと向かった。
「おぅ、はよ」
「……ん!?」
心臓が跳ねた。キッチンに真一郎が立っていた。更には、彼の額がほんのり赤く腫れていて、誉はさらに目を丸くする。
「な、なんっ、え?先輩?おでこどうしたんですか……?じゃなくて、なんでここにいるの!?」
「なんでって……おまえが酔っ払って寝落ちして、カギ締めるヤツいなくて帰れなくなったから……これはまぁ、ちょっとしたハプニングっつつーか……」
──はて、寝落ちた……?酔っ払って??
「アレなぁ、シャンメリーじゃなくてワインだったぞ」
「……ええーっ!?」
──30分後。
「本当に、本っ当に申し訳ございません……!」
大急ぎでシャワーを浴びてリビングへ戻ると、ダイニングテーブルには真一郎が作った朝食が並んでいた。ベーコンエッグにレタスとトマトスライス、それにバターがたっぷり塗られた焼き立てトーストが添えられている。
「いいよ。気にしてねぇから」
「うぅ、美味しそう……いただきます……!」
これだけの失態を犯した自分に、文句ひとつ言わず朝食まで作ってくれるなんて。誉は胸がいっぱいになりながら、その優しさを噛み締めた。
──やはり真一郎は神様か仏様なのか。
「先輩、好きぃ」
「はいはい。いいから食え」
軽口だと捉えたのだろう。真一郎から気にも留めぬ素振りであしらわれたが、今はそれが有難かった。
「良かったな、今日が日曜で」
「ハイ……本当に……」
食後、ソファーに並んでコーヒーをすする。いつもは自分がせわしなく動いている朝だからこそ、真一郎が用意してくれた至れり尽くせりなひとときは、贅沢すぎるほど幸せな時間だった。
「あ、そーだ。はい、これ──」
そう言って真一郎が長細い箱を差し出してきた。リボンが添えられていて、プレゼント用のラッピングに包まれているのだと分かる。
「誕生日、おめでとう」
「え……?で、でも昨日の誕生日会でごちそういっぱい用意してもらったのに」
「いやコレは別でしょ」
そう言って呆れ混じりに笑う真一郎の顔が、眩しくて。
真っ直ぐな彼の好意が、たまらなく嬉しくて。
じわじわと顔に熱が集まっていくのを感じながら、誉は宝物でも手にするかのように、両手でそっとその箱を迎え入れた。
「ありがとうございます!」
「開けてみ」
真一郎に促され、早速、包装紙を剥がして箱を開いた。
「あ……え、簪?」
中には、一本差しの玉簪が入っていた。金属製の"耳かき"と呼ばれる一本足に、一粒玉が挿してある。鮮やかな赤色の玉には、蒔絵風の花柄が描かれていた。白に桃色が混ざった可愛らしい印象の花弁。
「これ……山茶花?」
「そ。オレ、遠くから見てて気づいてなかったんだけど、文化祭でステージ立ってた時、腕に巻いてたんだろ?あのハンカチーフ」
「あ、は、はい」
「沖田から聞いてさ。気に入ってくれてたのかなって思ったから、山茶花の柄が入ったやつにしてみた」
真一郎は、祖父と暮らしているからなのか、見かけによらず少し古風なところがある。
──簪を贈る意味を知っていたのだろうか。
そんな考えが頭をよぎると同時に、胸の奥から熱い感動が込み上げてきた。大好きな真一郎が再び手渡してくれた、大切な勇気の花。
ありがとうの言葉じゃ到底足りない、この言いようのない喜びをどうにかして彼に伝えたくて、誉は必死に言葉を探した。
「……誉?」
簪を見つめたまま固まった誉に、不安そうに瞳を揺らす真一郎が呼びかける。
誉は不意に真一郎へと向き直ると、意を決したように彼の方へとじり、と体を寄せた。
座面がわずかに沈み、驚きに目を見開く真一郎の顔がすぐ近くに迫る。その無防備な顔に向けて、誉はそっと目を閉じ、彼の頬へかすめるように唇を寄せた。
それからは恥ずかしさのあまり目を合わすことが出来ず、うつむき加減のまま暫しの沈黙が過ぎていく。
「…………え。まっ、てちょっと、今のなに!?!?」
「ほ……ほっぺにちゅー……です」
「いやそっ、分かってっけど!!?」
パニックに陥っている真一郎に、誉は観念したように視線を上げた。
「透くんが……」
「と……透君?」
「透くんに昔、ありがとうの言葉で足りないくらい嬉しい時はどうしたらいい?って聞いたら、『そんときゃ黙ってほっぺにちゅーだろ』って言ってたから……」
「……おん?」
「それからは、いっぱいありがとうって思ったら──あっ、でも恥ずかしいから家族にしかしてませんよっ」
「……ねぇ、それって透君にも?」
「え?……あ、はいまぁ」
「もしかして、柴田さんにも?」
「う、うんと……2回くらい、あったかなぁ」
そう答えた瞬間、真一郎は目に見えて分かりやすく肩を落とした。さっきまでの取り乱し様が嘘のように、魂が抜けたような顔で遠い目をしている──かと思えば、急に真剣な表情で見つめてきて、
「よし。じゃあオレも、ありがとうじゃ足りないときは誉のほっぺにちゅーしよ」
「え!?やだ!恥ずかしい!」
「却下。先に誉がやってきたんだからオレにも権利はある」
全力で拒否しているにも関わらず、真一郎は意に介していないのか呑気に吹き出している。
それから、逃げ道を塞ぐかのように肩をそっと抱き寄せられた。
卍おまけ卍
真一郎「折角だからちょっと練習しとくか」
誉「な、なんの……?」
真一郎「んぅ~♡」
誉「ちょっ!やだって言ってるのにー!」
ガチャッ
柴田「お嬢!!誕生日おめd」
真・誉「「あ」」
誉「な、なんの……?」
真一郎「んぅ~♡」
誉「ちょっ!やだって言ってるのにー!」
ガチャッ
柴田「お嬢!!誕生日おめd」
真・誉「「あ」」
