本編(改)
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10.One and only(2)
「バカかお前は。お嬢が一人暮らしの部屋にひょいひょい男を上げるような尻軽女に見えるんか?ァア゛?」
「尻軽……」
真一郎は、柴田のヘッドロックが決まってソファの上で伸びていた。
先輩、ゴメンなさい──。ピクリとも動かない真一郎に向かって、誉は静かに手を合わせた。
──辛うじてまだ死んではいない。
「柴田、お夕飯の食材買っといたよ」
「ありがとうございます。では、すぐ支度します」
その会話を聞いて、真一郎が跳ね起きた。
「え!?柴田さんが作るの!?」
「大体お夕飯は柴田が作ってくれるんですよ。忙しくて帰らないときは自分で作りますけど」
真一郎は目の前の男をまじまじと見た。
強面、威圧、傷跡──。
そこに「家庭的」という単語は存在しないはずだった。
「真一郎、あとでもっかいシめちゃるわ」
「なぜ!?」
「なんとなくよ」
「先輩、柴田が食事面は全力サポートしますので、ちゃんと集中してやりましょうね」
何処となく哀愁漂う真一郎が、がくりと肩を落とした。
「……うまぁ」
サクサクのエビフライは、文句のつけようがない出来だった。
柴田はエプロン姿で黙々と揚げ物を続けている。
「おいしいですよね。柴田の揚げ物大好き」
「このソースすげぇ甘いな。美味い」
「広島のお好み焼き用ソースです。うちは何にでもこれかけます」
「どんどん食え。まだあるけぇ」
柴田が、山盛りのとんかつを持ってくれば、
「え。ちょ、柴田さん結婚してぇ?」
「残念やったのぉ真一郎。俺は既婚じゃ」
呆れ顔の柴田と目が合ったまま、真一郎の箸が止まる。
「ッえええええ!?」
「はははっ!見えませんよね。娘さんも一人いるんですよー」
柴田の立場などを鑑みて、家族とは別居中なのだ。
「元モデルで、銀座で有名なクラブの美人ママさんを落としたらしいです」
「スゲぇー柴田さん」
「褒めても手加減せんけぇの」
合宿初日の夕飯は、柴田の意外な一面で大層盛り上がったのだった。
──時計の針が、十一時を指そうとしていた。
「今日はここまでにしましょう。初日から飛ばしすぎると疲れますし」
明日は休みだから、一日中勉強時間に充てられる。そう判断して、誉は終わりを告げた。
「長かった……」
「お疲れさまでした」
ハグの効果か、柴田の圧のお陰か。真一郎の集中力は向上していた。
誉は、順調な滑り出しに胸を撫で下ろす。
「誉、勉強終わったらさ……毎日ひとつご褒美くれよ」
「へ?」
いつにも増して欲深い──。誉はじっと真一郎を睨んだ。
「今日、ハグしましたよね」
「アレとコレは別!ご褒美あったら毎日頑張れる!頼む!」
と拝まれてしまった。
誉は、真一郎のお願いに弱い自覚があった。あまり甘やかしすぎるのもどうかとは思ったが、集中力が切れてしまうよりはいい──。そう自分を納得させ、渋々頷く。
「で、どんなご褒美をご所望で?」
「誉の部屋が見たい」
思いもよらなかったお願いに、誉は目を瞬かせた。
「……それだけでいいんですか?」
「それがいい」
「じゃあ……どうぞ?」
そう言って、リビングのドアを抜けて自室へと向かった。
誰かを招き入れること自体慣れておらず、少しそわそわしてしまう。ましてや、年の近い異性となると尚更だ。
オフホワイトのクロスに、ナチュラルカラーを基調とした家具で揃えられた部屋。誉の自室は、無駄がない印象の部屋だった。
「おぉ!思ってたよりもシンプル」
「物があまりないだけです」
真一郎は興味深そうに室内を見回す。全身鏡やギター、棚の上には目覚まし時計や卓上ランプなど、必要最低限のものが置かれている。
ふと、その視線が一箇所で留まった。
「これ……」
「亡くなったお兄ちゃんです」
若い、高校生くらいの男と幼い少女が写った写真。真一郎は、それを神妙な顔つきで眺めていた。
「透君、か……」
「……なんで、名前……」
「柴田さんから聞いた。……柴田さん、俺のこと透君に似てるって言うんだ」
「え……?」
「誉も、そう思う……?」
誉は、言葉に詰まる。これまで考えたことも無かったのだ。言われてみれば──、と心の中で唱える。
佐野兄弟の中にいると、とても楽しくて、真一郎のことは兄のように慕っている。
しかし、無意識に透の影を追っていたのだとしたら、これ程失礼極まりないことは無い。否定したかった。でも、誉には絶対にそんなことは無い──と咄嗟に言い切れる自信も無かった。
「わたし、は……」
「俺は、透君の代わりになるつもりないから」
「え……」
「俺は、佐野真一郎として、おまえの傍にいて守るんだからな」
誉は、驚きのあまり瞬きも忘れていた。真一郎の言葉が、胸の奥で燻るもやを静かに晴らしていく。
「My one and only……」
「……へ?」
「さっき英文法で出てきたやつ。意味覚えてますか?」
意表を突かれた真一郎の思考が止まる。英語は、一番苦手な教科だ。
「えーっと……なんだったっけぇ?」
「唯一無二」
誉が、真一郎へため息混じりの微笑を向けた。
「……唯一、無二……」
「たった一つの。二つと無い。わたしにとってかけがえのない……真一郎先輩は、そんな存在です」
誰かの代わりなんかじゃない。誰かが取って代われるものでもない。初めて出会った時からそうだった。──とっくに答えは出ていた。
真一郎は、目を見開いたまま無反応だった。
それから暫くして、ふっと動き出したかと思うと、不意に手を掴まれて、
「ひぁあっ!?」
引き寄せられ抱きしめられた。力いっぱい。
誉は、突然のことに思わず悲鳴を上げてしまう。
「せっせんぱ……っ苦し……!」
「誉……!好──」
「お嬢!?どうしました!?」
バァンッ!とけたたましい音が立った。二人がドアの方へ目を向けると、そこには般若の形相をした柴田がいて、
「「あ」」
「……ア゛?」
深夜十一時──。本日二度目の断末魔が木霊した。
卍おまけ卍
「バカかお前は。お嬢が一人暮らしの部屋にひょいひょい男を上げるような尻軽女に見えるんか?ァア゛?」
「尻軽……」
真一郎は、柴田のヘッドロックが決まってソファの上で伸びていた。
先輩、ゴメンなさい──。ピクリとも動かない真一郎に向かって、誉は静かに手を合わせた。
──辛うじてまだ死んではいない。
「柴田、お夕飯の食材買っといたよ」
「ありがとうございます。では、すぐ支度します」
その会話を聞いて、真一郎が跳ね起きた。
「え!?柴田さんが作るの!?」
「大体お夕飯は柴田が作ってくれるんですよ。忙しくて帰らないときは自分で作りますけど」
真一郎は目の前の男をまじまじと見た。
強面、威圧、傷跡──。
そこに「家庭的」という単語は存在しないはずだった。
「真一郎、あとでもっかいシめちゃるわ」
「なぜ!?」
「なんとなくよ」
「先輩、柴田が食事面は全力サポートしますので、ちゃんと集中してやりましょうね」
何処となく哀愁漂う真一郎が、がくりと肩を落とした。
「……うまぁ」
サクサクのエビフライは、文句のつけようがない出来だった。
柴田はエプロン姿で黙々と揚げ物を続けている。
「おいしいですよね。柴田の揚げ物大好き」
「このソースすげぇ甘いな。美味い」
「広島のお好み焼き用ソースです。うちは何にでもこれかけます」
「どんどん食え。まだあるけぇ」
柴田が、山盛りのとんかつを持ってくれば、
「え。ちょ、柴田さん結婚してぇ?」
「残念やったのぉ真一郎。俺は既婚じゃ」
呆れ顔の柴田と目が合ったまま、真一郎の箸が止まる。
「ッえええええ!?」
「はははっ!見えませんよね。娘さんも一人いるんですよー」
柴田の立場などを鑑みて、家族とは別居中なのだ。
「元モデルで、銀座で有名なクラブの美人ママさんを落としたらしいです」
「スゲぇー柴田さん」
「褒めても手加減せんけぇの」
合宿初日の夕飯は、柴田の意外な一面で大層盛り上がったのだった。
──時計の針が、十一時を指そうとしていた。
「今日はここまでにしましょう。初日から飛ばしすぎると疲れますし」
明日は休みだから、一日中勉強時間に充てられる。そう判断して、誉は終わりを告げた。
「長かった……」
「お疲れさまでした」
ハグの効果か、柴田の圧のお陰か。真一郎の集中力は向上していた。
誉は、順調な滑り出しに胸を撫で下ろす。
「誉、勉強終わったらさ……毎日ひとつご褒美くれよ」
「へ?」
いつにも増して欲深い──。誉はじっと真一郎を睨んだ。
「今日、ハグしましたよね」
「アレとコレは別!ご褒美あったら毎日頑張れる!頼む!」
と拝まれてしまった。
誉は、真一郎のお願いに弱い自覚があった。あまり甘やかしすぎるのもどうかとは思ったが、集中力が切れてしまうよりはいい──。そう自分を納得させ、渋々頷く。
「で、どんなご褒美をご所望で?」
「誉の部屋が見たい」
思いもよらなかったお願いに、誉は目を瞬かせた。
「……それだけでいいんですか?」
「それがいい」
「じゃあ……どうぞ?」
そう言って、リビングのドアを抜けて自室へと向かった。
誰かを招き入れること自体慣れておらず、少しそわそわしてしまう。ましてや、年の近い異性となると尚更だ。
オフホワイトのクロスに、ナチュラルカラーを基調とした家具で揃えられた部屋。誉の自室は、無駄がない印象の部屋だった。
「おぉ!思ってたよりもシンプル」
「物があまりないだけです」
真一郎は興味深そうに室内を見回す。全身鏡やギター、棚の上には目覚まし時計や卓上ランプなど、必要最低限のものが置かれている。
ふと、その視線が一箇所で留まった。
「これ……」
「亡くなったお兄ちゃんです」
若い、高校生くらいの男と幼い少女が写った写真。真一郎は、それを神妙な顔つきで眺めていた。
「透君、か……」
「……なんで、名前……」
「柴田さんから聞いた。……柴田さん、俺のこと透君に似てるって言うんだ」
「え……?」
「誉も、そう思う……?」
誉は、言葉に詰まる。これまで考えたことも無かったのだ。言われてみれば──、と心の中で唱える。
佐野兄弟の中にいると、とても楽しくて、真一郎のことは兄のように慕っている。
しかし、無意識に透の影を追っていたのだとしたら、これ程失礼極まりないことは無い。否定したかった。でも、誉には絶対にそんなことは無い──と咄嗟に言い切れる自信も無かった。
「わたし、は……」
「俺は、透君の代わりになるつもりないから」
「え……」
「俺は、佐野真一郎として、おまえの傍にいて守るんだからな」
誉は、驚きのあまり瞬きも忘れていた。真一郎の言葉が、胸の奥で燻るもやを静かに晴らしていく。
「My one and only……」
「……へ?」
「さっき英文法で出てきたやつ。意味覚えてますか?」
意表を突かれた真一郎の思考が止まる。英語は、一番苦手な教科だ。
「えーっと……なんだったっけぇ?」
「唯一無二」
誉が、真一郎へため息混じりの微笑を向けた。
「……唯一、無二……」
「たった一つの。二つと無い。わたしにとってかけがえのない……真一郎先輩は、そんな存在です」
誰かの代わりなんかじゃない。誰かが取って代われるものでもない。初めて出会った時からそうだった。──とっくに答えは出ていた。
真一郎は、目を見開いたまま無反応だった。
それから暫くして、ふっと動き出したかと思うと、不意に手を掴まれて、
「ひぁあっ!?」
引き寄せられ抱きしめられた。力いっぱい。
誉は、突然のことに思わず悲鳴を上げてしまう。
「せっせんぱ……っ苦し……!」
「誉……!好──」
「お嬢!?どうしました!?」
バァンッ!とけたたましい音が立った。二人がドアの方へ目を向けると、そこには般若の形相をした柴田がいて、
「「あ」」
「……ア゛?」
深夜十一時──。本日二度目の断末魔が木霊した。
卍おまけ卍
真一郎「……」
誉「先輩、集中」
真一郎「だって、柴田さんの視線が……穴空きそう」
誉「……柴田、仕事はいいの?」
柴田「コイツがいる間の俺の仕事は、お嬢の貞操を守ることですから」
誉「先輩、集中」
真一郎「だって、柴田さんの視線が……穴空きそう」
誉「……柴田、仕事はいいの?」
柴田「コイツがいる間の俺の仕事は、お嬢の貞操を守ることですから」
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