本編(改)
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
9.Stay at home(2)
──男二人が風呂を済ませた頃には、時計の針は九時を少し回っていた。
「万次郎の髪の毛もサラサラで羨ましいなー」
「誉、まだー?」
誉がドライヤーを手に、風呂上がりの万次郎の髪を乾かしていると、急かす声が飛んでくる。
やけに落ち着きのない様子に首を傾げながら、誉がドライヤーのスイッチを切った途端、万次郎が勢いよく立ち上がった。
「よし!まくら投げしよーぜ!」
「えー。マイキー本気で投げるからイヤ」
「まくら投げって……修学旅行の伝統行事と言われる、あの……っ?」
そう真顔で訊ねる誉に、万次郎は呆れたような視線を向ける。
「……誉、まくら投げやったことねーの?」
「うん」
「マジ?」
好奇な目で放心する万次郎と、より一層真剣な眼差しを向ける誉。
しばし見つめ合った後、ふんす、と鼻で息を鳴らした万次郎が、
「っし。じゃあ、まず布団を敷くぞ」
そう言って、誉に指示を飛ばした。
***
戸締りを終えた真一郎が居間の前まで戻ると、やけに賑やかな物音が漏れ聞こえてきた。
誉がいるからって夜更かしするつもりだな……ビシッと言って寝かしつけねーと──。
そんな事を考えながら勢いよく襖を開けると、
「……は?」
そこには布団が仲良く並んでいた。しかも四人分。
真一郎がよくよく見渡せば、布団の数を上回るまくらがそこらかしこに散らかっていて、
「おらぁ!」
「ちょ、万次郎コントロール良すぎ!」
「誉ちゃんがんばれー!」
まくら投げ大会が開催されていた。
「……おい」
「あ、先ぱブッ!」
万次郎の一撃が、誉の顔面にクリティカルヒットした。
「っしゃ!」
「痛、ぁ……っ」
顔を押さえてうずくまる誉の姿に、真一郎は言葉を失った。
「──お前ら何時だと思ってんだコラ」
三人は、布団の上に正座させられ、真一郎の説教を受けている。
「……スイマセン」
「いいじゃん。今日はお泊まり会だろ?」
「お泊まり会だろじゃねーわ。さっさと寝ろ」
ゴッ──。
「いッ……!」
真一郎の鉄拳が、万次郎の脳天に落ちた。誉は、その力強いゲンコツに肩を震わせる。とても痛そうである。
「誉」
「ひぁっ」
名を呼ばれた誉は、身体を強張らせた。
小さくため息を吐き出した真一郎は、正座する誉の前にしゃがみ込む。
「おまえも早く寝ろ」
「……え?」
「今日は疲れたろ。こいつらの相手してくれてありがとな」
「……わ、わたしのことは殴らないんですか……?」
「……は?」
本気で殴られると思ったらしい──。眉間に深いシワを寄せる誉の真剣な眼差しに、真一郎が耐えきれず吹き出せば、
「いや、女殴るわけねーだろ」
ケラケラと笑う姿に安心したのか、誉はつられるようにはにかんだ。
「……で、なんでここに布団敷いたの?」
「エマちゃんが、わたし一人じゃ寂しいだろうからみんなで寝ようって……」
エマ……兄ちゃんが眠れねーだろ──。
妹のかわいい気遣いが、兄の安眠を脅かす。
「──おやすみ。電気消すぞ」
「おー」
「はい、おやすみなさい」
結局、左からエマ、誉、万次郎、真一郎の順で川の字になった。
エマは既に寝落ち、万次郎も布団に入るとウトウトしだしていた。
祖父不在の初めての夜──。四人は仲良く床に就いたのだった。
──電気を消してから二十分ほどが経った頃。
真一郎は、案の定眠れずにいた。弟を挟んだ向こう側にいる彼女の存在を、意識するなという方が無理な話だ。
マンジローはいいな、気楽で──。
そんなことを考えていると、すぐそばから寝返りを打つ衣擦れの音が聞こえた。
「……先輩、もう寝ちゃいました?」
不意にかけられた声に、真一郎の心臓がどきりと跳ねる。今日は朝も早かったろうに、まさか起きているとは思わなかった。
首だけ向ければ、暗がりの中に誉の輪郭が見えた。
「……眠れねぇの?」
「なんか……興奮しちゃって。今日一日が楽しすぎて」
「……え?」
その思いがけない理由に、真一郎は間の抜けた声を出す。
「……わたし、修学旅行に行ったことがないんです」
唐突に語り出した誉を不思議に思いながらも、真一郎は黙って耳を傾けた。
「学校じゃあ、いつも浮いてて友達もいなかったし。行ってもきっと一緒だよな……って思って参加しなかったんです。なんなら先生たちも、来ない方がいいんじゃないかって空気出してたし」
向こうでいい思い出がなかったことは聞いていたが、こうして本人の口から語られるのは初めてだった。
一歩外へ出れば、いつもひとりだった彼女の姿が浮かぶ。胸の奥が、じくりと痛んだ。
「家族以外の人と一緒にごはん食べて、遊んで、こうやって一緒に寝るのって、こんなに楽しい事なんですね」
その言葉に、真一郎は、胸に浮かんだ下らない邪念を恥じた。
実のところ、今回の手伝いを頼むのを一度は躊躇った。やろうと思えば、自分たちでも出来たのだから。
それでも、誉と過ごす時間が少しでも──そんな私欲に負けた。
密かに後ろめたさを抱いていたが、その行いが間違いだったというわけでもなかったようで──。
少しでも、彼女の中で「楽しい思い出」として残るなら。
「……そっか。よかったな。でも、もう遅いから寝ろ」
「はい」
小さく微笑んで返事をした誉は、寝返りを打って布団をかぶり直した。
目を閉じる──。誉のお陰か落ち着きを取り戻した真一郎は、ほどなくして眠りに落ちた。
──日が昇るより少し前。真一郎は目を覚ました。
夜明け前の空気を感じた。枕元の時計を見れば、いつも起きる時間より一時間ほど早い。
今日は休みだし──と二度寝を決め込むことにする。寝返りを打って布団をかぶり直した。
すると、すぐ傍に気配を感じた。万次郎がまた自分の方に寄ってきたのかと思って薄目を開ける。
だが、そこにいたのは幼い弟ではない。
「!?!」
穏やかな寝息を立てる誉だった。声にならない驚きを噛み殺す。
視線を巡らせると、誉が寝ていたはずの布団でスヤスヤ寝息を立てる万次郎がいた。
寝相の悪い万次郎を起こすまいと、誉自身が場所を移したに違いなかった。しかし、状況を理解できたところで問題は解決しない。
「……もっと警戒しろよ……」
小さくぼやいた真一郎は、ため息をついて枕に顔を埋める。
「……」
改めてちらりと横目で見れば、熟睡しているのか起きる気配のない誉は、わずかに身体を上下させている。
「……今まで我慢してきたもん、ここでチャラになったか?」
その穏やかな寝顔が、答えのような気がした。
「……つーかこれ……キスできそうだな……?」
邪念を反省したことは、寝て起きると無かったことになっていた。
起きそうにないし、オレめっちゃ頑張ったしちょっとくらいご褒美あってもよくね──?半分寝ぼけ眼で半ば強引に言い分を正当化する思春期男子。
ほっぺにちゅーくらい、許されるはずだ──。真一郎は、とうとう寝息を立てる誉に顔を近づけた。
一瞬、殺気立つ柴田の顔が脳裏を過る。しかしそれも欲望には勝てず、徐々にその距離を縮めていく。
ゆっくりと。唇が触れるまであと数センチ──。
「オレのたい焼き返せーッ!!」
「ッ!?!?」
突然の叫び声に、真一郎は飛び上がる。
「そのどら焼きもオレんだ……むにゃ……」
「お、おま、……脅かすな……ッ」
バクバクと高鳴る胸を押さえて息を整える。それから、ハっとして誉へ視線を戻すと、既にその大きな瞳が半分顔を出していた。
「……朝ぁ……?」
寝ぼけ眼の誉が、至近距離で見つめていた。まさかバレていやしないかと冷や汗をかく真一郎。
そのうち、だんだんと意識がはっきりしてきた誉が、へらっと笑って
「おはようございます」
と言うや否や、僅かに保っていた自制心が飛ぶ。
企みが未遂に終わったせいか、理性もへったくれもなくなっていた真一郎は、両腕を伸ばし勢いのままに誉に抱き着こうとして、
「……あ!しまったッ!」
その瞬間、誉が叫びながら勢いよく起き上がった。真一郎の腕はスカっと空を切って、寝ていた布団にダイブする。
「柴田に弁当作ってくれって頼まれてたの、すっかり忘れてたっ!わたし、一旦帰ります!」
「お、おぉ……そうか……」
慌ただしく支度を始める誉を、真一郎は呆然と見つめるしかなかった。
──すっかり日も昇り、門前は眩しい朝日に照らされていた。
「悪い、バイクで送っていけたらよかったんだけど、あいつらいるから」
「いえ、気にしないでください。十分間に合いますから」
そう言って誉は歩き出す。
「……あ、先輩!」
何かを思い出したように振り返った誉を、真一郎が不思議そうに見ていると、
「柴田から伝言預かってたの、すっかり忘れてました」
苦笑を浮かべながらいう誉に、
「随分と物忘れが多いなぁ」
と真一郎が呆れ混じりに小言を吐けば、
「『今度会ったら覚悟しとけよ』……って。先輩なんかしたんですか?」
柴田はエスパーなのだろうか──。無邪気な誉から視線を外し、真一郎は肝を冷やしたのだった。
卍おまけ卍
──男二人が風呂を済ませた頃には、時計の針は九時を少し回っていた。
「万次郎の髪の毛もサラサラで羨ましいなー」
「誉、まだー?」
誉がドライヤーを手に、風呂上がりの万次郎の髪を乾かしていると、急かす声が飛んでくる。
やけに落ち着きのない様子に首を傾げながら、誉がドライヤーのスイッチを切った途端、万次郎が勢いよく立ち上がった。
「よし!まくら投げしよーぜ!」
「えー。マイキー本気で投げるからイヤ」
「まくら投げって……修学旅行の伝統行事と言われる、あの……っ?」
そう真顔で訊ねる誉に、万次郎は呆れたような視線を向ける。
「……誉、まくら投げやったことねーの?」
「うん」
「マジ?」
好奇な目で放心する万次郎と、より一層真剣な眼差しを向ける誉。
しばし見つめ合った後、ふんす、と鼻で息を鳴らした万次郎が、
「っし。じゃあ、まず布団を敷くぞ」
そう言って、誉に指示を飛ばした。
***
戸締りを終えた真一郎が居間の前まで戻ると、やけに賑やかな物音が漏れ聞こえてきた。
誉がいるからって夜更かしするつもりだな……ビシッと言って寝かしつけねーと──。
そんな事を考えながら勢いよく襖を開けると、
「……は?」
そこには布団が仲良く並んでいた。しかも四人分。
真一郎がよくよく見渡せば、布団の数を上回るまくらがそこらかしこに散らかっていて、
「おらぁ!」
「ちょ、万次郎コントロール良すぎ!」
「誉ちゃんがんばれー!」
まくら投げ大会が開催されていた。
「……おい」
「あ、先ぱブッ!」
万次郎の一撃が、誉の顔面にクリティカルヒットした。
「っしゃ!」
「痛、ぁ……っ」
顔を押さえてうずくまる誉の姿に、真一郎は言葉を失った。
「──お前ら何時だと思ってんだコラ」
三人は、布団の上に正座させられ、真一郎の説教を受けている。
「……スイマセン」
「いいじゃん。今日はお泊まり会だろ?」
「お泊まり会だろじゃねーわ。さっさと寝ろ」
ゴッ──。
「いッ……!」
真一郎の鉄拳が、万次郎の脳天に落ちた。誉は、その力強いゲンコツに肩を震わせる。とても痛そうである。
「誉」
「ひぁっ」
名を呼ばれた誉は、身体を強張らせた。
小さくため息を吐き出した真一郎は、正座する誉の前にしゃがみ込む。
「おまえも早く寝ろ」
「……え?」
「今日は疲れたろ。こいつらの相手してくれてありがとな」
「……わ、わたしのことは殴らないんですか……?」
「……は?」
本気で殴られると思ったらしい──。眉間に深いシワを寄せる誉の真剣な眼差しに、真一郎が耐えきれず吹き出せば、
「いや、女殴るわけねーだろ」
ケラケラと笑う姿に安心したのか、誉はつられるようにはにかんだ。
「……で、なんでここに布団敷いたの?」
「エマちゃんが、わたし一人じゃ寂しいだろうからみんなで寝ようって……」
エマ……兄ちゃんが眠れねーだろ──。
妹のかわいい気遣いが、兄の安眠を脅かす。
「──おやすみ。電気消すぞ」
「おー」
「はい、おやすみなさい」
結局、左からエマ、誉、万次郎、真一郎の順で川の字になった。
エマは既に寝落ち、万次郎も布団に入るとウトウトしだしていた。
祖父不在の初めての夜──。四人は仲良く床に就いたのだった。
──電気を消してから二十分ほどが経った頃。
真一郎は、案の定眠れずにいた。弟を挟んだ向こう側にいる彼女の存在を、意識するなという方が無理な話だ。
マンジローはいいな、気楽で──。
そんなことを考えていると、すぐそばから寝返りを打つ衣擦れの音が聞こえた。
「……先輩、もう寝ちゃいました?」
不意にかけられた声に、真一郎の心臓がどきりと跳ねる。今日は朝も早かったろうに、まさか起きているとは思わなかった。
首だけ向ければ、暗がりの中に誉の輪郭が見えた。
「……眠れねぇの?」
「なんか……興奮しちゃって。今日一日が楽しすぎて」
「……え?」
その思いがけない理由に、真一郎は間の抜けた声を出す。
「……わたし、修学旅行に行ったことがないんです」
唐突に語り出した誉を不思議に思いながらも、真一郎は黙って耳を傾けた。
「学校じゃあ、いつも浮いてて友達もいなかったし。行ってもきっと一緒だよな……って思って参加しなかったんです。なんなら先生たちも、来ない方がいいんじゃないかって空気出してたし」
向こうでいい思い出がなかったことは聞いていたが、こうして本人の口から語られるのは初めてだった。
一歩外へ出れば、いつもひとりだった彼女の姿が浮かぶ。胸の奥が、じくりと痛んだ。
「家族以外の人と一緒にごはん食べて、遊んで、こうやって一緒に寝るのって、こんなに楽しい事なんですね」
その言葉に、真一郎は、胸に浮かんだ下らない邪念を恥じた。
実のところ、今回の手伝いを頼むのを一度は躊躇った。やろうと思えば、自分たちでも出来たのだから。
それでも、誉と過ごす時間が少しでも──そんな私欲に負けた。
密かに後ろめたさを抱いていたが、その行いが間違いだったというわけでもなかったようで──。
少しでも、彼女の中で「楽しい思い出」として残るなら。
「……そっか。よかったな。でも、もう遅いから寝ろ」
「はい」
小さく微笑んで返事をした誉は、寝返りを打って布団をかぶり直した。
目を閉じる──。誉のお陰か落ち着きを取り戻した真一郎は、ほどなくして眠りに落ちた。
──日が昇るより少し前。真一郎は目を覚ました。
夜明け前の空気を感じた。枕元の時計を見れば、いつも起きる時間より一時間ほど早い。
今日は休みだし──と二度寝を決め込むことにする。寝返りを打って布団をかぶり直した。
すると、すぐ傍に気配を感じた。万次郎がまた自分の方に寄ってきたのかと思って薄目を開ける。
だが、そこにいたのは幼い弟ではない。
「!?!」
穏やかな寝息を立てる誉だった。声にならない驚きを噛み殺す。
視線を巡らせると、誉が寝ていたはずの布団でスヤスヤ寝息を立てる万次郎がいた。
寝相の悪い万次郎を起こすまいと、誉自身が場所を移したに違いなかった。しかし、状況を理解できたところで問題は解決しない。
「……もっと警戒しろよ……」
小さくぼやいた真一郎は、ため息をついて枕に顔を埋める。
「……」
改めてちらりと横目で見れば、熟睡しているのか起きる気配のない誉は、わずかに身体を上下させている。
「……今まで我慢してきたもん、ここでチャラになったか?」
その穏やかな寝顔が、答えのような気がした。
「……つーかこれ……キスできそうだな……?」
邪念を反省したことは、寝て起きると無かったことになっていた。
起きそうにないし、オレめっちゃ頑張ったしちょっとくらいご褒美あってもよくね──?半分寝ぼけ眼で半ば強引に言い分を正当化する思春期男子。
ほっぺにちゅーくらい、許されるはずだ──。真一郎は、とうとう寝息を立てる誉に顔を近づけた。
一瞬、殺気立つ柴田の顔が脳裏を過る。しかしそれも欲望には勝てず、徐々にその距離を縮めていく。
ゆっくりと。唇が触れるまであと数センチ──。
「オレのたい焼き返せーッ!!」
「ッ!?!?」
突然の叫び声に、真一郎は飛び上がる。
「そのどら焼きもオレんだ……むにゃ……」
「お、おま、……脅かすな……ッ」
バクバクと高鳴る胸を押さえて息を整える。それから、ハっとして誉へ視線を戻すと、既にその大きな瞳が半分顔を出していた。
「……朝ぁ……?」
寝ぼけ眼の誉が、至近距離で見つめていた。まさかバレていやしないかと冷や汗をかく真一郎。
そのうち、だんだんと意識がはっきりしてきた誉が、へらっと笑って
「おはようございます」
と言うや否や、僅かに保っていた自制心が飛ぶ。
企みが未遂に終わったせいか、理性もへったくれもなくなっていた真一郎は、両腕を伸ばし勢いのままに誉に抱き着こうとして、
「……あ!しまったッ!」
その瞬間、誉が叫びながら勢いよく起き上がった。真一郎の腕はスカっと空を切って、寝ていた布団にダイブする。
「柴田に弁当作ってくれって頼まれてたの、すっかり忘れてたっ!わたし、一旦帰ります!」
「お、おぉ……そうか……」
慌ただしく支度を始める誉を、真一郎は呆然と見つめるしかなかった。
──すっかり日も昇り、門前は眩しい朝日に照らされていた。
「悪い、バイクで送っていけたらよかったんだけど、あいつらいるから」
「いえ、気にしないでください。十分間に合いますから」
そう言って誉は歩き出す。
「……あ、先輩!」
何かを思い出したように振り返った誉を、真一郎が不思議そうに見ていると、
「柴田から伝言預かってたの、すっかり忘れてました」
苦笑を浮かべながらいう誉に、
「随分と物忘れが多いなぁ」
と真一郎が呆れ混じりに小言を吐けば、
「『今度会ったら覚悟しとけよ』……って。先輩なんかしたんですか?」
柴田はエスパーなのだろうか──。無邪気な誉から視線を外し、真一郎は肝を冷やしたのだった。
卍おまけ卍
柴田「お前ん家に行くっつってた次の日によぉ、お嬢からいつもと違うシャンプーの匂いがしたんだよ……」
真一郎「(ギクッ)」
柴田「泊まったよな?」
真一郎「……」
柴田「泊まったよなァア゛?」
真一郎「ッハイ、泊マリマシタ……(死んだ)」
真一郎「(ギクッ)」
柴田「泊まったよな?」
真一郎「……」
柴田「泊まったよなァア゛?」
真一郎「ッハイ、泊マリマシタ……(死んだ)」
