本編(改)
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9.Stay at home
──すっかり秋も深まり、日に日に寒暖差が増してきた頃。
誉は急きょ手伝いに呼ばれ、佐野家へ向かう支度をしていた。祖父の万作がぎっくり腰で入院した──そんな知らせが入ったのだ。
「──先生、様子いかがでした?」
「あーいや、ほんとただのぎっくり腰だから」
佐野家に着くなり、病院から戻った真一郎に容体を尋ねれば、肩の力が抜けるような返事が返ってきた。
「歳だから念のため入院になっただけでさ。昨日までピンピンしてたんだぜ。さっきも“病院の飯がマズい”って看護婦さん困らせてたから」
「あはは……そうなんだ」
先生、お元気そうで何よりです──。
誉は天を仰いだ。極楽へ送り出す勢いで──いや、死んではいない。
「誉ちゃん、オセロして遊ぼ?」
小走りで駆け寄ってきたエマが、両腕に抱えたオセロ盤を見せてくる。
「エマ、誉はじいちゃんの代わりに家のこと手伝いに来てくれたんだ。オセロはマンジローとやれ」
真一郎がそう言うな否や、「えーっ」と不服の声が二つ重なる。
「やだよ。エマ、オセロ弱ぇもん。勝負になんねーし」
「お前なぁ、お兄ちゃんなんだから手加減してやれよ」
「やだね」
と、万次郎はいつもの生意気な態度を貫いている。
誉は、その小さな兄妹喧嘩を眉根を下げつつもにっこり眺めていた。誉にとっては、このやり取りを見ているだけで癒しのオアシスなのだ。
「先輩、いいですよ。これもお手伝いのうちです」
「いや、こいつら甘やかさなくていいって」
「大丈夫です。言われたことはちゃんとやりますから。それに、今日のおかず、もう作って持ってきました」
タッパーいっぱいに詰めてきた作り置きのおかずをテーブルに広げれば、
「ウマそー」
「真兄の煮物よりおいしそー!」
「おい。そりゃそうだろ」
すかさず真一郎が同意する。
思わず吹き出しそうになる笑いを堪える誉は、やっぱりこの家が大好きだ──。そう強く思えた。
──最初こそ黙って見ていた万次郎も、なんだかんだとオセロの相手をしてくれていた。切りのいいところで居間を後にした誉は、掃除に取り掛かり始めた。
佐野家は広く、神保家より一回り以上大きく感じた。さすがに全て一人で回るのは無理だと判断し、人がよく通るところから手をつけていく。
「台所と居間、廊下と玄関あたりもやっちゃおう」
「おいおい、そんなに張り切らなくていいって」
縁側の土埃を掃いていると、背後から不意に声がかかって振り向いた。
視線の先には、呆れ混じりの顔をした真一郎が立っていた。
「でも、家主が帰ってきて家の中がホコリだらけだったらゲンナリしちゃうじゃないですか」
「まぁまぁ、軽く掃くくらいでいいからさ。はい」
そうため息混じりに言った真一郎が、誉に茶封筒を差し出してきた。
それを、首を傾げながら受け取って封を切ると、
「じいちゃんから。食費とバイト代」
封筒の中には、バイト代にしては多すぎる額が入っていた。
「え……!?待ってください、こんなに困りますっ!」
そう言って、誉が封筒を突き返そうとすれば、
「なんで?四人分の飯代全部立て替えてくれたんだろ?これくらい貰っとけって」
真一郎は、誉の両手ごと押し返した。
いや、自分を頭数に入れないでくれ──。逆に申し訳なくなって、誉はどうしたものかと眉尻を下げる。
「別に、お金貰うために来たわけじゃないのに……」
「……オレ、おまえのそういうとこ好き」
「……っえ?」
ぽつりと漏れた言葉に、真一郎自身も驚いたのか、ハっとしたように表情が固まった。
好き──だなんて、直接的な言葉を聞いたのは初めてで。誉も、口をぽかんと開けたまま放心してしまう。
「ぁあ!?いや、違う!そうじゃなくて、いや違くないんだけどッ!」
大いに慌てて語彙が迷子になる真一郎。
きょろきょろバタバタと変な動きをしているのが可笑しくて、誉は耐えきれずに吹き出した。
「先輩、慌てすぎです」
ケラケラとひとしきり笑って彼を見れば、照れ隠しなのかポリポリと頬を掻いている。
誉がお返しに、
「私も、真一郎先輩のこと大好きです」
と言えば、真一郎がはたと動きを止めた。頬を染めて固まる彼は、やがてワナワナと震えだす。
「そ、そっ、そそそそれって……ッ!?」
「本当のお兄ちゃんみたいで」
と言った瞬間、その場に妙な静寂が落ちる。
庭先で、風に揺られた枯れ葉がはらりと舞った。
──掃除を終えた誉は、そのまま夕食も佐野家でいただくことになった。
炊いたご飯と簡単な味噌汁、持ってきたおかずを温め直し、ダイニングテーブルに並べていく。
ふと居間を見ると、真一郎が畳に寝転がり、天井をぼんやり見つめていた。
「シンイチロー。なにさっきからボケっとしてんだよ」
「ほっといてくれ」
ご機嫌ナナメのようである。
「「「いただきまーす!」」」
「召し上がれ」
膳が整い、ダイニングが賑やかになる。
誉が、そわそわしながら箸を進める様子をうかがっていると、子どもたちはすぐに頬を緩めた。
「たまご焼きうまっ」
「おいも、おいしい!」
子どもたちも食べやすいように、たまご焼き、キャベツと鰹節の和え物、煮物には鶏肉と里芋を多めにしてあった。万次郎とエマは、夢中になって箸を動かしている。
誉の隣では、真一郎がゆっくりと噛みしめるように咀嚼していた。
「先輩、どう……ですか……?」
心配になって、誉はそっと声をかけた。
張り切るなと言われたにもかかわらず、きっちり掃除をしたことが気に障ったのだろうかと考える。
しかし、そんなことで不機嫌になられては、たまったものではない。
「……うん。すげぇ美味い」
ふっと表情を和らげて、真一郎が言った。
彼の瞳は、どこか切なげに見えた。しかし、目を合わせ答えてくれたことに、誉は安堵した。
***
「いいよ、皿そのまま置いといて」
「いえ。バイト代までいただいたんですから」
誉が蛇口をひねれば、水音が台所に広がる。手慣れた様子でスポンジに洗剤を含ませる姿に、これ以上言っても無駄だな──。そう悟った真一郎は、諦めるようにダイニングテーブルへ腰を下ろし、その背中を眺めた。
「悪い、逆に気ぃ使わせた?」
「このくらいやらせてください。先輩にはたくさんお世話になってるんだし」
何気ないその言葉が、胸の奥底へと静かに沈む。嬉しいはずなのに、どうしてかその度、心が落ち着かない。
もう、妹にはなり得ないよなぁ──。
真一郎は、いつかのその時に思いを馳せて、想いをそっと奥底に仕舞った。
「誉ちゃん!それ終わったらオセロの続きやろ?」
「オレまだ誉と勝負してねぇんだから、早く来い」
声を弾ませて、万次郎とエマが駆け寄ってくる。普段はいない客人が、夜遅くまで家にいる。それだけで二人は落ち着かないらしい。
「うん、ちょっと待ってね」
「マンジロー、エマ。もう遅いから誉は帰るぞ」
「「えーッ」」
本日、何度目か分からない不満の声が水音に紛れた。
「泊まってけばいいじゃん」
「……え?」
「うち布団いっぱいあるんだし」
と、万次郎がなんてことない口ぶりで提案すれば、
「やったー!いっぱいオセロできるね」
「ちょいちょい待て待て。そんな急には無理だから」
勝手に話が転がっていくのを、真一郎が慌てて止めた──はずだった。
洗い物に集中していた誉の手が、ふと止まる。水音が止み、台所に一瞬、静寂が訪れた。
「せ、先輩……あの……もし、ご迷惑でなければなんですけど……」
「…………え?」
後に続いた誉の言葉は、真一郎を驚愕させた。
「──ここに置くと、次の手で角っこ取れるんよ」
「2対1はズルくね!?」
「やった!これでカドっこふたつだね!」
誉は、エマの脇でオセロの必勝法を伝授していた。向かいから文句を言う万次郎を宥めているところで、風呂を沸かしに行っていた真一郎が戻ってきた。
「誉、風呂沸いたから先入ってきな」
「ありがとうございます。じゃあ、エマちゃんと一緒に行ってきます」
部屋着を抱え、二人が廊下の奥へ消えていく。
その背中を見送ってから、真一郎は大きく息を吐いた。まさか、誉から「泊まりたい」なんて言ってくるとは思いもよらなかったのだ。
腰を落ち着かせ、止まらぬ動揺を誤魔化すように湯飲みの茶を一口含む。
「シンイチロー」
「なに」
「のぞきに行かねーの?」
ブーッ!!
真一郎が茶を盛大に吹いた。
「きったねぇッ!!」
「お前が変なこと言うからだろマンジローッ!!」
── 一方、脱衣所では。
「な、なんだ?なんだ??」
「いつものことだよー」
男二人の馬鹿騒ぎ。エマは慣れたものである。
「お先にいただきましたー」
暇つぶしにと、再びオセロを始めていた真一郎と万次郎ところへ誉たちが戻ってくる。
「先輩、ドライヤー借りてもいいですか?」
「……」
スウェット姿の誉に目が留まる。それは先程、慌ててタンスの奥から引っ張り出した、昔懐かし己が着ていたもので──。
「……真一郎先輩?」
「…………イイ」
「え?」
真一郎は少しだけ、心の中でそっと万次郎を称える。今日ばかりは、弟の無邪気な提案に眼福を得たのだった。
──すっかり秋も深まり、日に日に寒暖差が増してきた頃。
誉は急きょ手伝いに呼ばれ、佐野家へ向かう支度をしていた。祖父の万作がぎっくり腰で入院した──そんな知らせが入ったのだ。
「──先生、様子いかがでした?」
「あーいや、ほんとただのぎっくり腰だから」
佐野家に着くなり、病院から戻った真一郎に容体を尋ねれば、肩の力が抜けるような返事が返ってきた。
「歳だから念のため入院になっただけでさ。昨日までピンピンしてたんだぜ。さっきも“病院の飯がマズい”って看護婦さん困らせてたから」
「あはは……そうなんだ」
先生、お元気そうで何よりです──。
誉は天を仰いだ。極楽へ送り出す勢いで──いや、死んではいない。
「誉ちゃん、オセロして遊ぼ?」
小走りで駆け寄ってきたエマが、両腕に抱えたオセロ盤を見せてくる。
「エマ、誉はじいちゃんの代わりに家のこと手伝いに来てくれたんだ。オセロはマンジローとやれ」
真一郎がそう言うな否や、「えーっ」と不服の声が二つ重なる。
「やだよ。エマ、オセロ弱ぇもん。勝負になんねーし」
「お前なぁ、お兄ちゃんなんだから手加減してやれよ」
「やだね」
と、万次郎はいつもの生意気な態度を貫いている。
誉は、その小さな兄妹喧嘩を眉根を下げつつもにっこり眺めていた。誉にとっては、このやり取りを見ているだけで癒しのオアシスなのだ。
「先輩、いいですよ。これもお手伝いのうちです」
「いや、こいつら甘やかさなくていいって」
「大丈夫です。言われたことはちゃんとやりますから。それに、今日のおかず、もう作って持ってきました」
タッパーいっぱいに詰めてきた作り置きのおかずをテーブルに広げれば、
「ウマそー」
「真兄の煮物よりおいしそー!」
「おい。そりゃそうだろ」
すかさず真一郎が同意する。
思わず吹き出しそうになる笑いを堪える誉は、やっぱりこの家が大好きだ──。そう強く思えた。
──最初こそ黙って見ていた万次郎も、なんだかんだとオセロの相手をしてくれていた。切りのいいところで居間を後にした誉は、掃除に取り掛かり始めた。
佐野家は広く、神保家より一回り以上大きく感じた。さすがに全て一人で回るのは無理だと判断し、人がよく通るところから手をつけていく。
「台所と居間、廊下と玄関あたりもやっちゃおう」
「おいおい、そんなに張り切らなくていいって」
縁側の土埃を掃いていると、背後から不意に声がかかって振り向いた。
視線の先には、呆れ混じりの顔をした真一郎が立っていた。
「でも、家主が帰ってきて家の中がホコリだらけだったらゲンナリしちゃうじゃないですか」
「まぁまぁ、軽く掃くくらいでいいからさ。はい」
そうため息混じりに言った真一郎が、誉に茶封筒を差し出してきた。
それを、首を傾げながら受け取って封を切ると、
「じいちゃんから。食費とバイト代」
封筒の中には、バイト代にしては多すぎる額が入っていた。
「え……!?待ってください、こんなに困りますっ!」
そう言って、誉が封筒を突き返そうとすれば、
「なんで?四人分の飯代全部立て替えてくれたんだろ?これくらい貰っとけって」
真一郎は、誉の両手ごと押し返した。
いや、自分を頭数に入れないでくれ──。逆に申し訳なくなって、誉はどうしたものかと眉尻を下げる。
「別に、お金貰うために来たわけじゃないのに……」
「……オレ、おまえのそういうとこ好き」
「……っえ?」
ぽつりと漏れた言葉に、真一郎自身も驚いたのか、ハっとしたように表情が固まった。
好き──だなんて、直接的な言葉を聞いたのは初めてで。誉も、口をぽかんと開けたまま放心してしまう。
「ぁあ!?いや、違う!そうじゃなくて、いや違くないんだけどッ!」
大いに慌てて語彙が迷子になる真一郎。
きょろきょろバタバタと変な動きをしているのが可笑しくて、誉は耐えきれずに吹き出した。
「先輩、慌てすぎです」
ケラケラとひとしきり笑って彼を見れば、照れ隠しなのかポリポリと頬を掻いている。
誉がお返しに、
「私も、真一郎先輩のこと大好きです」
と言えば、真一郎がはたと動きを止めた。頬を染めて固まる彼は、やがてワナワナと震えだす。
「そ、そっ、そそそそれって……ッ!?」
「本当のお兄ちゃんみたいで」
と言った瞬間、その場に妙な静寂が落ちる。
庭先で、風に揺られた枯れ葉がはらりと舞った。
──掃除を終えた誉は、そのまま夕食も佐野家でいただくことになった。
炊いたご飯と簡単な味噌汁、持ってきたおかずを温め直し、ダイニングテーブルに並べていく。
ふと居間を見ると、真一郎が畳に寝転がり、天井をぼんやり見つめていた。
「シンイチロー。なにさっきからボケっとしてんだよ」
「ほっといてくれ」
ご機嫌ナナメのようである。
「「「いただきまーす!」」」
「召し上がれ」
膳が整い、ダイニングが賑やかになる。
誉が、そわそわしながら箸を進める様子をうかがっていると、子どもたちはすぐに頬を緩めた。
「たまご焼きうまっ」
「おいも、おいしい!」
子どもたちも食べやすいように、たまご焼き、キャベツと鰹節の和え物、煮物には鶏肉と里芋を多めにしてあった。万次郎とエマは、夢中になって箸を動かしている。
誉の隣では、真一郎がゆっくりと噛みしめるように咀嚼していた。
「先輩、どう……ですか……?」
心配になって、誉はそっと声をかけた。
張り切るなと言われたにもかかわらず、きっちり掃除をしたことが気に障ったのだろうかと考える。
しかし、そんなことで不機嫌になられては、たまったものではない。
「……うん。すげぇ美味い」
ふっと表情を和らげて、真一郎が言った。
彼の瞳は、どこか切なげに見えた。しかし、目を合わせ答えてくれたことに、誉は安堵した。
***
「いいよ、皿そのまま置いといて」
「いえ。バイト代までいただいたんですから」
誉が蛇口をひねれば、水音が台所に広がる。手慣れた様子でスポンジに洗剤を含ませる姿に、これ以上言っても無駄だな──。そう悟った真一郎は、諦めるようにダイニングテーブルへ腰を下ろし、その背中を眺めた。
「悪い、逆に気ぃ使わせた?」
「このくらいやらせてください。先輩にはたくさんお世話になってるんだし」
何気ないその言葉が、胸の奥底へと静かに沈む。嬉しいはずなのに、どうしてかその度、心が落ち着かない。
もう、妹にはなり得ないよなぁ──。
真一郎は、いつかのその時に思いを馳せて、想いをそっと奥底に仕舞った。
「誉ちゃん!それ終わったらオセロの続きやろ?」
「オレまだ誉と勝負してねぇんだから、早く来い」
声を弾ませて、万次郎とエマが駆け寄ってくる。普段はいない客人が、夜遅くまで家にいる。それだけで二人は落ち着かないらしい。
「うん、ちょっと待ってね」
「マンジロー、エマ。もう遅いから誉は帰るぞ」
「「えーッ」」
本日、何度目か分からない不満の声が水音に紛れた。
「泊まってけばいいじゃん」
「……え?」
「うち布団いっぱいあるんだし」
と、万次郎がなんてことない口ぶりで提案すれば、
「やったー!いっぱいオセロできるね」
「ちょいちょい待て待て。そんな急には無理だから」
勝手に話が転がっていくのを、真一郎が慌てて止めた──はずだった。
洗い物に集中していた誉の手が、ふと止まる。水音が止み、台所に一瞬、静寂が訪れた。
「せ、先輩……あの……もし、ご迷惑でなければなんですけど……」
「…………え?」
後に続いた誉の言葉は、真一郎を驚愕させた。
「──ここに置くと、次の手で角っこ取れるんよ」
「2対1はズルくね!?」
「やった!これでカドっこふたつだね!」
誉は、エマの脇でオセロの必勝法を伝授していた。向かいから文句を言う万次郎を宥めているところで、風呂を沸かしに行っていた真一郎が戻ってきた。
「誉、風呂沸いたから先入ってきな」
「ありがとうございます。じゃあ、エマちゃんと一緒に行ってきます」
部屋着を抱え、二人が廊下の奥へ消えていく。
その背中を見送ってから、真一郎は大きく息を吐いた。まさか、誉から「泊まりたい」なんて言ってくるとは思いもよらなかったのだ。
腰を落ち着かせ、止まらぬ動揺を誤魔化すように湯飲みの茶を一口含む。
「シンイチロー」
「なに」
「のぞきに行かねーの?」
ブーッ!!
真一郎が茶を盛大に吹いた。
「きったねぇッ!!」
「お前が変なこと言うからだろマンジローッ!!」
── 一方、脱衣所では。
「な、なんだ?なんだ??」
「いつものことだよー」
男二人の馬鹿騒ぎ。エマは慣れたものである。
「お先にいただきましたー」
暇つぶしにと、再びオセロを始めていた真一郎と万次郎ところへ誉たちが戻ってくる。
「先輩、ドライヤー借りてもいいですか?」
「……」
スウェット姿の誉に目が留まる。それは先程、慌ててタンスの奥から引っ張り出した、昔懐かし己が着ていたもので──。
「……真一郎先輩?」
「…………イイ」
「え?」
真一郎は少しだけ、心の中でそっと万次郎を称える。今日ばかりは、弟の無邪気な提案に眼福を得たのだった。
