本編(改)
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1.First meeting(2)
──そろそろ帰ろうか、というところで、「近所の人から貰ったビワをおすそ分けしたい」という真一郎に連れられ、誉は彼の自宅へと向かっていた。旬物をいただけるのはとても有り難いことなのだが、たくさんあって困っているらしい。
そんな道中、誉は彼の人となりを分析していた。
見てくれはヤンキーだが、話せば話すほど不良集団をまとめ上げている総長だなんて信じられなかった。
今なんて、歩きながら自分の家族構成をぺらぺらと喋っている。両親はおらず、祖父と歳の離れた弟妹の4人暮らしなのだとか。
彼が不良への道を歩み出したのは、やはり家庭環境に起因するところがあったのだろうか──。“お友達”になった真一郎のお口は、誉に対してかなり緩くなっているようだった。
そんなことを考えるうち、彼の家に到着する。
すると突然、
「よォシンイチロー。今回も連敗更新、盛大に祝ってやるぜ」
少々挑発的な、という表現がしっくりくるような幼声を聞いた途端、突如真一郎がグッと苦しそうに胸を押さえだした。
何事だ?と振り向けば、そこにはランドセルを背負った小さな男の子が立っていた。髪の色が明るく、かなり目立つ形 をしている。
──不良小学生だ。
しかし、よくよくその少年を観察してみると、どことなく真一郎の面影があることに気づく。誉は、先ほどの立ち話で出てきた弟妹のことを思い出した。
「神保。コイツさっき言ってた弟の万次郎……」
「へぇ。フラれてすぐ別の女連れまわしてるとかやるじゃん」
「ばッ!お、お前なんつーことを!ちげーしッ!!てかフラれたなんてまだ言ってねーッ!!」
と、真一郎は歳の離れた弟に向かって吠える。
誉は、そのやり取りを前にして呆気にとられていた。暴走族の総長が、10も下の弟に押されているではないか──。
「えーっと、はじめまして。わたし、佐野先輩の一つ下の神保誉。よろしく万次郎くん」
屈みながら目線を合わせ挨拶をすると、彼はまっすぐ誉を見てきた。それから少し思案して、
「……ふーん。誉ね。“くん”つけなくていいよ。めんどくせぇだろ?俺も呼び捨てで呼ぶし」
生意気なガキ、と呼ぶに相応しい太々しさでそう言った。
先輩、どういう教育をなさっているのですか──。と思っていると、万次郎からとてつもなく凝視されていることに気づく。
歳の離れた小学生にここまで見つめられることなんて経験がなかったものだから、狼狽えた。
「な、な、なに……?」
「……まぁ、確かにシンイチローのタイプではないな」
「……はい?」
「おいマンジロー。年上のお姉さんにいきなり呼び捨てすんじゃねーよ」
どうも彼は、兄の恋愛事情に詳しいようだった。今日、告白することも知っていたに違いない。その兄弟仲に、ほっこりとした気持ちになる。
なんだか少し、羨ましくもなった。
「ったく。ごめん神保。ちょっとここで待ってて」
そういうと真一郎は、ビワを取りに行ったのだろう。家の中へと消えていった。
誉が立ち上がりふと横を見ると、てっきり一緒に入っていくと思った弟の万次郎は、何故かこの場に留まり続けている。
ちょっと気まずい──誉は冷や汗を流しながらチラチラと彼を見る。
「えーと。お家入らないの……?」
「なぁ。なんでシンイチローについてきたんだ?」
なんで、とは──?
真一郎と違って掴みどころのない空気を纏う彼は、ほんの一瞬深い深い漆黒の瞳を見せた。
「アイツが女連れてきたの、はじめてだったから」
もしかすると、兄を取られた──みたいな嫉妬心でも芽生えたのかも──?
そんなことを思えば、この太々しい態度から垣間見える可愛らしい一面に、少し微笑ましくなる。
「今日、学校で不良たちに絡まれてたところを助けてもらってね。また絡まれないようにって、友達になってくれたんよ」
“友達”だと説明するも、彼はまだ誉へ向ける視線を止めない。
なぜ止めない。もういいでしょお家に入りなさい──!
自分に弟がいたらこんな感じで話すのかな──なんて誉が頭の中で妄想していると、突然彼はニッと笑いだし、
「誉は変わってんな」
そう言い捨てた小さな不良少年は、スタスタと家の中に入っていったのだった。
***
「アイツ生意気だろ?気ぃ悪くしてたらゴメンな」
駅への帰り道を二人並んで歩いていると、袋いっぱいに詰めたビワを提げた真一郎が言った。
「いえ。兄弟って羨ましいです。周りは大人ばっかりで、わたしひとりだったから……」
誉は、まっすぐ前を見つめたまま答えた。それは、真一郎が今まで見てきたどの女よりも凛としているのに、儚さを感じる横顔だった。
彼女を初めてみた時、逃げ場を失っていたにも関わらず、取り乱すことなく冷静に次の手を探っている様子に、度胸のありそうな子だと思った。暴走族の総長だと名乗っても、最初こそ驚きはしていたが逃げ出す素振りも見せない。
そんな彼女が見せた寂しげな姿に、真一郎は言い知れぬ不安を感じた。
「……よかったらまたうち来いよ。じいちゃんが空手道場やっててさ、普段賑やかなんだ。女の子あんまいないし、きっと妹も喜ぶよ」
僅かに目を瞠る誉が、真一郎へと視線を向ける。一瞬戸惑ったように見えたが、程なくして表情をほころばせた。
「はい、是非」
その笑顔に、ほっと胸を撫でおろす。
真一郎から見ても、見た目は可愛い部類に入る、探せばそこらにいそうな普通の女子高生。
だけど、度胸があって夢は医者になること。
不良の自分にも動じることなく接してくるその姿に、興味が湧かないわけがなかった。
「……あのさ。その佐野先輩やめねぇか?俺のことも真一郎でいいよ」
先程、弟が言い放った呼び捨て発言を意識しているわけではない──わけではなかったが、なんか癪だった。
いや、なにが癪だというのだろう。10も下の弟に対してくだらない──。
真一郎は、この不可思議な感情を持て余した。
「え?でも……同じ高校の先輩ですし、それは……」
「あーほら。ダチアピールしないとだろ?それにさ、おまえとは他人行儀なやり取りしたくねーっつーか……うん」
眉根を寄せる誉に、ドキドキと心臓が逸る。
「嫌だったら、無理にとは言わねーけど……」
情けない声が出た。今日、告白をしたときよりも真一郎は緊張していた。
「……いいですよ。でも、やっぱ先輩は先輩なので、真一郎先輩じゃ、ダメですか?」
ドキリ、と心臓が強く打った。
真一郎は、火照る頬を慌てて誤魔化すように笑顔をつくる。
「い、いいよ!じゃあ俺も、誉って呼ぶ」
「はい。よろしくお願いします、真一郎先輩」
──そろそろ帰ろうか、というところで、「近所の人から貰ったビワをおすそ分けしたい」という真一郎に連れられ、誉は彼の自宅へと向かっていた。旬物をいただけるのはとても有り難いことなのだが、たくさんあって困っているらしい。
そんな道中、誉は彼の人となりを分析していた。
見てくれはヤンキーだが、話せば話すほど不良集団をまとめ上げている総長だなんて信じられなかった。
今なんて、歩きながら自分の家族構成をぺらぺらと喋っている。両親はおらず、祖父と歳の離れた弟妹の4人暮らしなのだとか。
彼が不良への道を歩み出したのは、やはり家庭環境に起因するところがあったのだろうか──。“お友達”になった真一郎のお口は、誉に対してかなり緩くなっているようだった。
そんなことを考えるうち、彼の家に到着する。
すると突然、
「よォシンイチロー。今回も連敗更新、盛大に祝ってやるぜ」
少々挑発的な、という表現がしっくりくるような幼声を聞いた途端、突如真一郎がグッと苦しそうに胸を押さえだした。
何事だ?と振り向けば、そこにはランドセルを背負った小さな男の子が立っていた。髪の色が明るく、かなり目立つ
──不良小学生だ。
しかし、よくよくその少年を観察してみると、どことなく真一郎の面影があることに気づく。誉は、先ほどの立ち話で出てきた弟妹のことを思い出した。
「神保。コイツさっき言ってた弟の万次郎……」
「へぇ。フラれてすぐ別の女連れまわしてるとかやるじゃん」
「ばッ!お、お前なんつーことを!ちげーしッ!!てかフラれたなんてまだ言ってねーッ!!」
と、真一郎は歳の離れた弟に向かって吠える。
誉は、そのやり取りを前にして呆気にとられていた。暴走族の総長が、10も下の弟に押されているではないか──。
「えーっと、はじめまして。わたし、佐野先輩の一つ下の神保誉。よろしく万次郎くん」
屈みながら目線を合わせ挨拶をすると、彼はまっすぐ誉を見てきた。それから少し思案して、
「……ふーん。誉ね。“くん”つけなくていいよ。めんどくせぇだろ?俺も呼び捨てで呼ぶし」
生意気なガキ、と呼ぶに相応しい太々しさでそう言った。
先輩、どういう教育をなさっているのですか──。と思っていると、万次郎からとてつもなく凝視されていることに気づく。
歳の離れた小学生にここまで見つめられることなんて経験がなかったものだから、狼狽えた。
「な、な、なに……?」
「……まぁ、確かにシンイチローのタイプではないな」
「……はい?」
「おいマンジロー。年上のお姉さんにいきなり呼び捨てすんじゃねーよ」
どうも彼は、兄の恋愛事情に詳しいようだった。今日、告白することも知っていたに違いない。その兄弟仲に、ほっこりとした気持ちになる。
なんだか少し、羨ましくもなった。
「ったく。ごめん神保。ちょっとここで待ってて」
そういうと真一郎は、ビワを取りに行ったのだろう。家の中へと消えていった。
誉が立ち上がりふと横を見ると、てっきり一緒に入っていくと思った弟の万次郎は、何故かこの場に留まり続けている。
ちょっと気まずい──誉は冷や汗を流しながらチラチラと彼を見る。
「えーと。お家入らないの……?」
「なぁ。なんでシンイチローについてきたんだ?」
なんで、とは──?
真一郎と違って掴みどころのない空気を纏う彼は、ほんの一瞬深い深い漆黒の瞳を見せた。
「アイツが女連れてきたの、はじめてだったから」
もしかすると、兄を取られた──みたいな嫉妬心でも芽生えたのかも──?
そんなことを思えば、この太々しい態度から垣間見える可愛らしい一面に、少し微笑ましくなる。
「今日、学校で不良たちに絡まれてたところを助けてもらってね。また絡まれないようにって、友達になってくれたんよ」
“友達”だと説明するも、彼はまだ誉へ向ける視線を止めない。
なぜ止めない。もういいでしょお家に入りなさい──!
自分に弟がいたらこんな感じで話すのかな──なんて誉が頭の中で妄想していると、突然彼はニッと笑いだし、
「誉は変わってんな」
そう言い捨てた小さな不良少年は、スタスタと家の中に入っていったのだった。
***
「アイツ生意気だろ?気ぃ悪くしてたらゴメンな」
駅への帰り道を二人並んで歩いていると、袋いっぱいに詰めたビワを提げた真一郎が言った。
「いえ。兄弟って羨ましいです。周りは大人ばっかりで、わたしひとりだったから……」
誉は、まっすぐ前を見つめたまま答えた。それは、真一郎が今まで見てきたどの女よりも凛としているのに、儚さを感じる横顔だった。
彼女を初めてみた時、逃げ場を失っていたにも関わらず、取り乱すことなく冷静に次の手を探っている様子に、度胸のありそうな子だと思った。暴走族の総長だと名乗っても、最初こそ驚きはしていたが逃げ出す素振りも見せない。
そんな彼女が見せた寂しげな姿に、真一郎は言い知れぬ不安を感じた。
「……よかったらまたうち来いよ。じいちゃんが空手道場やっててさ、普段賑やかなんだ。女の子あんまいないし、きっと妹も喜ぶよ」
僅かに目を瞠る誉が、真一郎へと視線を向ける。一瞬戸惑ったように見えたが、程なくして表情をほころばせた。
「はい、是非」
その笑顔に、ほっと胸を撫でおろす。
真一郎から見ても、見た目は可愛い部類に入る、探せばそこらにいそうな普通の女子高生。
だけど、度胸があって夢は医者になること。
不良の自分にも動じることなく接してくるその姿に、興味が湧かないわけがなかった。
「……あのさ。その佐野先輩やめねぇか?俺のことも真一郎でいいよ」
先程、弟が言い放った呼び捨て発言を意識しているわけではない──わけではなかったが、なんか癪だった。
いや、なにが癪だというのだろう。10も下の弟に対してくだらない──。
真一郎は、この不可思議な感情を持て余した。
「え?でも……同じ高校の先輩ですし、それは……」
「あーほら。ダチアピールしないとだろ?それにさ、おまえとは他人行儀なやり取りしたくねーっつーか……うん」
眉根を寄せる誉に、ドキドキと心臓が逸る。
「嫌だったら、無理にとは言わねーけど……」
情けない声が出た。今日、告白をしたときよりも真一郎は緊張していた。
「……いいですよ。でも、やっぱ先輩は先輩なので、真一郎先輩じゃ、ダメですか?」
ドキリ、と心臓が強く打った。
真一郎は、火照る頬を慌てて誤魔化すように笑顔をつくる。
「い、いいよ!じゃあ俺も、誉って呼ぶ」
「はい。よろしくお願いします、真一郎先輩」
