本編(改)
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8.Life is impermanence(3)
風が少し冷たくなり始めたいつもの堤防──。
天端に登った二人は、ぎこちなく並んで座った。
「あの、先輩……この間のことなんですけど……」
誉が、沖田とのことを黙っていた件について切り出しかければ、
「隠さず言ってくれりゃあいいじゃねーか」
「え……?」
「好きなんだろ……沖田のこと」
「……へ?」
誉は思わず固まった。
──今なんと仰いました?
「アイツは、誰とでも気さくに話せるから人気だし。バンドマンでカッケーし。いい奴だから俺反対しねぇし」
「あ、あのぉ……何のお話しでしょうか?」
「だから、沖田とデート行くこと黙ってたのは、アイツに気があるから恥ずかしくて言えなかったんだろ?」
──あ。そうだった。沖田とデートに行くということになっていたんだった──。今の今まですっかりすっ飛んでいた記憶。
「っふ、あははは!」
真一郎の妙な勘違いが可笑しくて、たまらず誉は吹き出せば、
「え?ちょ、なに笑ってんだよ!俺は真剣に」
「だって、わたし沖田先輩のこと好きだなんて思ってないですし」
「……へ?」
「あ、いや親切だし優しいから好きですけど」
「ほら!好きなんじゃねーか!」
「いや恋愛的な意味ではなくて」
「……そうなの?」
徐々に気の抜けた顔へ戻っていく真一郎。それを見ているうちに、誉の笑いもようやく落ち着いた。
「ギターの練習、付き合ってくれてたんです。弾きたい曲があったから」
「ギター……の練習?」
誉は頷いて応えた。
「それで……真一郎先輩には内緒にしておきたくて。そう沖田先輩にもお願いしたから、あの日はバレないように嘘ついてくれたんです」
なんだか逆効果な嘘だったけれども。
「……ってか、ギターの練習するだけなのになんで内緒にすんだよ」
腑に落ちない、という顔で睨んでくる真一郎。その視線を正面から受け止めて、誉はそっと微笑んだ。
「先輩に、一番最初のお客さんになってもらいたかったから」
「……客?」
「亡くなったお兄ちゃんと約束してたんです。わたしがギターの弾き語りができるようになったら、一番最初に聴かせてほしいって」
海を抜ける風の音が遠のいて、同時に胸の奥が少しだけ痛んだ。
「もう叶わなくなってしまって……。でも、東京出てくる前に父がギターを譲ってくれたんです。だから弾けるようにはなりたいなって思って、ずっと練習してて」
いつか、実現できる日が来ると信じていたあの日──。誉は、布団の中で交わした透との約束を思い出す。
深く閉じた瞳を、再び開いた。
「上手になったら、一番に聴いてもらうの、真一郎先輩がいいなって思ったんです」
「え」
「今は、もし透くんが生きてたとしても、たぶん先輩に聴いて欲しいって思ってたんじゃないかなって……気がする」
「誉……」
「わたしのこと、信じて応援してくれる……一番最初の友達だから」
透が生きていたら医者を目指そうとも思わなかったかもしれない。
東京へも来ていなかっただろう。それでも――。
自分のタラレバの想像に、誉は小さく苦笑した。
「ねぇ、今聴かせてよ」
伏せていた視線を上げれば、目の前の真一郎は微笑んでいた。
「い、今?」
「もう大分練習やったんだろ?」
「え、まぁ……」
丁度、今日はギターを持参している。ここは人通りのない場所だし──出来なくはない。
「ダメ?」
「……えっと、じゃあ、ちょっと待ってください」
ケースからギターを取り出し、ストラップを肩に掛けた。沖田が張り直してくれたばかりの弦を丁寧に調弦する。張ったばかりの弦は、やはり狂っていた。
「おー、プロっぽい」
「茶化さないでください。恥ずかしい……」
シシッ、と真一郎が楽しそうに笑った。
「じゃあ、誉ここ立って」
真一郎は、天端の上を指した。
「ええ!?おっ落っこちそうだからヤダ!」
「大丈夫だよ。落ちそうになったら俺が引っ張るって」
そう言って、真一郎は先にひょいと登り、誉の手を取って引き上げた。
「うわっ……!」
「よしよし、いい感じ」
それから下に降りた真一郎は、バブの座席に腰掛ける。
「特等席だ」
見下ろす位置に立つというのは、こんなにも不思議な感覚なのかと誉は思った。いつも自分より背の高い真一郎を見上げてばかりだから、こうして逆の景色を見るのは妙に新鮮だった。──文化祭の時は、そんな事を考える余裕すらなかった。
「なんの曲練習してたの?」
「“情熱の薔薇”です」
「おお!ブルーハーツ。意外すぎる!」
「お兄ちゃんが好きだったんです、ブルーハーツ」
「なるほどな」
「運命感じたってよく聴いてました。CDの発売日が誕生日だったらしくて」
「へぇ」
誉は、そっと目を閉じた。ひとつ息を整えるように深く呼吸をし、ゆっくりと前奏を鳴らした。
透は、この曲を初めて聞いた時泣いたと言った。自分の生い立ちに、歌詞を重ねたのか──今ならその気持ちが分かる気がした。
時代を超えて愛されるこの曲は、3分とない短い中で語りかけてくる。“答えは必ずしも見えるところにあるものでは無い”と。
「──永遠なのか本当か
時の流れは続くのか
いつまでたっても変わらない
そんな物あるだろうか──」
風音が静かに足を止める中、真一郎が見つめる気配と、ギターの振動。弦を弾く指先──すべての感覚をひとつに溶かすように、まっすぐ声を放つ。
あの時と違って、無理に上手く歌おうとする必要もない。感じたままを押し出せば、そのまま音になって二人の空間を満たしていく。
夕空色のスポットライトが、誉の輪郭を柔らかく浮かび上がらせた。
最後に、ストロークを絡める──。沖田がアレンジしたアルペジオで締めたところで、惜しみない拍手が鳴り響く。瞬きひとつしない瞳と目が合った。
「……誉はさぁ、心で歌うんだな。凄すぎてなんも出てこねぇや」
こんな気持ちを、誉は抱いたことなどなかった。たった一人の称賛が、たまらなく嬉しいなんて──。
歌の余韻がまだ残る中で、考えた。幸せは永遠じゃない。そして、不幸も永遠じゃない。
“この世に不変なんてあるのか”と問いかけるこの歌は、無常のこの世で語られることが全てじゃない。答えはお前の心の奥にあると言う。
──真一郎とは、無常の上で出会った。そして、いつか別れが来るのだろうかと、つい思ってしまう。
出来ればそれは、まだまだ先であってほしい──。
「……ありがとう、先輩」
誉が天端から降りようと身を屈めると、真一郎がそっと手を差し出した。
微笑んでその手を迷わず取る。温かく大きな手に支えられながら、誉は軽く足を蹴って地面へと降りた。
「お」
「え?」
「いや、もーちょい風が強かったらパンツ見えたなっ──」
ボゴッ。
誉のグーパンが、真一郎の顔面にヒットした。
卍おまけ卍
風が少し冷たくなり始めたいつもの堤防──。
天端に登った二人は、ぎこちなく並んで座った。
「あの、先輩……この間のことなんですけど……」
誉が、沖田とのことを黙っていた件について切り出しかければ、
「隠さず言ってくれりゃあいいじゃねーか」
「え……?」
「好きなんだろ……沖田のこと」
「……へ?」
誉は思わず固まった。
──今なんと仰いました?
「アイツは、誰とでも気さくに話せるから人気だし。バンドマンでカッケーし。いい奴だから俺反対しねぇし」
「あ、あのぉ……何のお話しでしょうか?」
「だから、沖田とデート行くこと黙ってたのは、アイツに気があるから恥ずかしくて言えなかったんだろ?」
──あ。そうだった。沖田とデートに行くということになっていたんだった──。今の今まですっかりすっ飛んでいた記憶。
「っふ、あははは!」
真一郎の妙な勘違いが可笑しくて、たまらず誉は吹き出せば、
「え?ちょ、なに笑ってんだよ!俺は真剣に」
「だって、わたし沖田先輩のこと好きだなんて思ってないですし」
「……へ?」
「あ、いや親切だし優しいから好きですけど」
「ほら!好きなんじゃねーか!」
「いや恋愛的な意味ではなくて」
「……そうなの?」
徐々に気の抜けた顔へ戻っていく真一郎。それを見ているうちに、誉の笑いもようやく落ち着いた。
「ギターの練習、付き合ってくれてたんです。弾きたい曲があったから」
「ギター……の練習?」
誉は頷いて応えた。
「それで……真一郎先輩には内緒にしておきたくて。そう沖田先輩にもお願いしたから、あの日はバレないように嘘ついてくれたんです」
なんだか逆効果な嘘だったけれども。
「……ってか、ギターの練習するだけなのになんで内緒にすんだよ」
腑に落ちない、という顔で睨んでくる真一郎。その視線を正面から受け止めて、誉はそっと微笑んだ。
「先輩に、一番最初のお客さんになってもらいたかったから」
「……客?」
「亡くなったお兄ちゃんと約束してたんです。わたしがギターの弾き語りができるようになったら、一番最初に聴かせてほしいって」
海を抜ける風の音が遠のいて、同時に胸の奥が少しだけ痛んだ。
「もう叶わなくなってしまって……。でも、東京出てくる前に父がギターを譲ってくれたんです。だから弾けるようにはなりたいなって思って、ずっと練習してて」
いつか、実現できる日が来ると信じていたあの日──。誉は、布団の中で交わした透との約束を思い出す。
深く閉じた瞳を、再び開いた。
「上手になったら、一番に聴いてもらうの、真一郎先輩がいいなって思ったんです」
「え」
「今は、もし透くんが生きてたとしても、たぶん先輩に聴いて欲しいって思ってたんじゃないかなって……気がする」
「誉……」
「わたしのこと、信じて応援してくれる……一番最初の友達だから」
透が生きていたら医者を目指そうとも思わなかったかもしれない。
東京へも来ていなかっただろう。それでも――。
自分のタラレバの想像に、誉は小さく苦笑した。
「ねぇ、今聴かせてよ」
伏せていた視線を上げれば、目の前の真一郎は微笑んでいた。
「い、今?」
「もう大分練習やったんだろ?」
「え、まぁ……」
丁度、今日はギターを持参している。ここは人通りのない場所だし──出来なくはない。
「ダメ?」
「……えっと、じゃあ、ちょっと待ってください」
ケースからギターを取り出し、ストラップを肩に掛けた。沖田が張り直してくれたばかりの弦を丁寧に調弦する。張ったばかりの弦は、やはり狂っていた。
「おー、プロっぽい」
「茶化さないでください。恥ずかしい……」
シシッ、と真一郎が楽しそうに笑った。
「じゃあ、誉ここ立って」
真一郎は、天端の上を指した。
「ええ!?おっ落っこちそうだからヤダ!」
「大丈夫だよ。落ちそうになったら俺が引っ張るって」
そう言って、真一郎は先にひょいと登り、誉の手を取って引き上げた。
「うわっ……!」
「よしよし、いい感じ」
それから下に降りた真一郎は、バブの座席に腰掛ける。
「特等席だ」
見下ろす位置に立つというのは、こんなにも不思議な感覚なのかと誉は思った。いつも自分より背の高い真一郎を見上げてばかりだから、こうして逆の景色を見るのは妙に新鮮だった。──文化祭の時は、そんな事を考える余裕すらなかった。
「なんの曲練習してたの?」
「“情熱の薔薇”です」
「おお!ブルーハーツ。意外すぎる!」
「お兄ちゃんが好きだったんです、ブルーハーツ」
「なるほどな」
「運命感じたってよく聴いてました。CDの発売日が誕生日だったらしくて」
「へぇ」
誉は、そっと目を閉じた。ひとつ息を整えるように深く呼吸をし、ゆっくりと前奏を鳴らした。
透は、この曲を初めて聞いた時泣いたと言った。自分の生い立ちに、歌詞を重ねたのか──今ならその気持ちが分かる気がした。
時代を超えて愛されるこの曲は、3分とない短い中で語りかけてくる。“答えは必ずしも見えるところにあるものでは無い”と。
「──永遠なのか本当か
時の流れは続くのか
いつまでたっても変わらない
そんな物あるだろうか──」
風音が静かに足を止める中、真一郎が見つめる気配と、ギターの振動。弦を弾く指先──すべての感覚をひとつに溶かすように、まっすぐ声を放つ。
あの時と違って、無理に上手く歌おうとする必要もない。感じたままを押し出せば、そのまま音になって二人の空間を満たしていく。
夕空色のスポットライトが、誉の輪郭を柔らかく浮かび上がらせた。
最後に、ストロークを絡める──。沖田がアレンジしたアルペジオで締めたところで、惜しみない拍手が鳴り響く。瞬きひとつしない瞳と目が合った。
「……誉はさぁ、心で歌うんだな。凄すぎてなんも出てこねぇや」
こんな気持ちを、誉は抱いたことなどなかった。たった一人の称賛が、たまらなく嬉しいなんて──。
歌の余韻がまだ残る中で、考えた。幸せは永遠じゃない。そして、不幸も永遠じゃない。
“この世に不変なんてあるのか”と問いかけるこの歌は、無常のこの世で語られることが全てじゃない。答えはお前の心の奥にあると言う。
──真一郎とは、無常の上で出会った。そして、いつか別れが来るのだろうかと、つい思ってしまう。
出来ればそれは、まだまだ先であってほしい──。
「……ありがとう、先輩」
誉が天端から降りようと身を屈めると、真一郎がそっと手を差し出した。
微笑んでその手を迷わず取る。温かく大きな手に支えられながら、誉は軽く足を蹴って地面へと降りた。
「お」
「え?」
「いや、もーちょい風が強かったらパンツ見えたなっ──」
ボゴッ。
誉のグーパンが、真一郎の顔面にヒットした。
卍おまけ卍
真一郎「誉ちゃん……不意打ちのストレートはちょっと……っ」
誉「護身術の基本は不意打ちです」
誉「護身術の基本は不意打ちです」
