本編(改)
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1.First meeting(3)
そんなやり取りをしつつ駅へ向かって歩いていると、数メートル先の角から黒塗りベンツが走ってくるのが見えた。
こんな高級住宅街でもないところにベンツ──?そんな違和感に、真一郎は顔を顰めその様子を窺った。
やがて、車は目の前で止まると、運転席にいる男の顔がはっきりと見えて、「あ」と思わず声が漏れた。
ふと、誉を見る。こんな見るからに怪しい車が目の前に止まって、怖がっていたらと心配になった。
──案の定、冷や汗をだらだらとかいているではないか。
真一郎が安心させる為に声をかけようとした時、運転席からスーツ姿の男が出てきた。
男は、安芸水心会 神保組 東京支部代表幹部の柴田佑大。真一郎とは顔見知りであった。
「お嬢ッ!!いつもの時間より遅いんで、学校までお迎えに──」
「うっす。柴田さ……おー、お嬢?」
「あ?おぉ、真一郎じゃねーか。こんなところで何し……」
「何って、この子駅まで送っていってる途中だけど。てか、お嬢ってなん」
「オイ。テメぇうちのお嬢と何しとったんじゃゴルァ……!?」
「は……?人の話聞いてた?てか、お嬢って……?」
真一郎は眉を顰め、柴田と誉を交互に見た。誉は、瞼を閉じて唇を引き結び、その横顔はどこか諦めにも似た哀しげな影が差している。
──三人は一旦、互いの関係を整理した。
真一郎と柴田は、ひょんなことからお互いバイク好きということで意気投合し、知り合った仲だ。彼のバイクへの情熱、その人となりを気に入った柴田が可愛がるようになってかれこれ数か月経つ。
そして、柴田は誉──基、組長令嬢の世話役だ。
「まさか、お嬢と真一郎が同じ高校だったとはな」
柴田が感慨深げに言う。
「俺もびっくりですよ……。てか誉、お前組長さんの娘だったなんてなぁ」
真一郎がそう声をかけるも、誉は何も言わず、ただ俯いたままだった。
「すいやせんお嬢ッ!俺もうっかりしてて……」
柴田が慌てて膝に手を当て、中腰になりながら誉に向かって頭を下げる。
各々の疑問が解け、和やかな雰囲気を迎えようか──となりかけて、
「……わたしがッ!何の為にッ!身元隠してきたと思ってんのよッ!柴田のバカッ!もう口きいてやらんッ!!」
堪えていた感情を誉が爆発させた。その瞬間、柴田の顔が、ガーン!とまるで鐘でも突いたように歪んだ。
真一郎は、見るからに憤慨している誉の姿に驚いた。先程までの、どちらかといえばしおらしいイメージだった彼女が、かなり強気な態度で39歳の強面おっさん相手に凄んでいるのだ。
「……な、なぁ誉?」
「……なんですか」
真一郎は、柴田のあまりにも不憫な姿に同情した。見るに見かねて、ひとまず誉を落ち着かせようと、
「大丈夫だって。俺誰にも言わねーし。心配しなくても何とかなるって!」
努めて明るく言い切った。
しかし、その良かれと思ったその一言は、残念なことに誉の逆鱗に触れることとなる。
「……真一郎先輩」
「ん?」
「先輩は他人事だからそんな呑気なこと言えるんですよね?ヤクザの娘だって知られて、いい事なんてひとっつもなかった!わたしがどれだけ苦労しきたか知らないからそんなこと言えるんでしょ!?どうにかなってたら東京まで来てこんな苦労してないッ!!それでなくても入学早々絡まれるし殴られるし、先輩に家の事バレちゃうしッ!!」
途中から真一郎の襟元をひっつかみながら、誉は堰を切ったように捲し立てた。
そんな鬼気迫る状況の中、真一郎は冷静に考えていた。
最初から不思議に思っていた。わざわざ遠く離れた広島からやって来てまで通う程の名門校でもない。ならば何故──。
それは想像でしかない。でもきっと孤独と戦う日々だったのだろう。今日だってきっと──。
真一郎は、静かに誉の言葉に耳を傾ける。
「今日だって……なんとかしなきゃって……先輩がいなかったら……っ」
やがて、誉の目から雫が一つ二つと流れていく。
これには堪らず、真一郎がギョッとしたのもつかの間、誉は次の瞬間には、わぁぁぁあん、と彼の肩口に顔を埋め泣き出していた。
「お、お嬢!?」
「っお、おぉぉおぉお誉!?ちょっ、分かった!とりあえず落ち着け!」
あたふたした真一郎が、宥めるようにそっと誉の頭に手を置いた。優しく撫でる掌の温もりが、また誉の涙腺を刺激したのか、更に溢れる涙は止まらなかった。
***
「ごめん……さっき俺がハンカチ借りたばっかりに……」
誉が路上で大号泣をかました為、三人はひとまず車の中に避難していた。
「いえ……わたしこそすいません……。もう大丈夫です」
今度は、誉がハンカチ(柴田の)をヒタヒタに濡らしていた。
ムダにいい匂いがするハンカチに、お前は女子か。と心の中でツッコミを入れられる程、誉は冷静を取り戻していた。
「とりあえず、今日聞いたことはぜってー誰にも言わねえから。そこは安心してな?」
「恩に着ます……。ごめんなさい、怒鳴ったりして」
誉は今日の出来事を振り返る。他人の号泣した姿を見るのも、自分が号泣した姿を見せたのも、いつのことだったか思い出せない程に久しぶりだった。
高校生にもなった男女が何をしているのだろう──。誉は考える程に、何とも馬鹿らしくなってきて、ついには笑いが込み上げた。
「ふふっ」
「え、なに……?」
「ははっ。……今日二人して号泣して、何やってんだろって思ったらすごく可笑しくって」
そう言うと、真一郎はふっと僅かに笑みを漏らし、
「だな!」
と弾ませた。
こちらの様子をバックミラー越しに見ている気配にチラリと視線を向ける。その先に、柴田が一瞬安心したようにひとつ息を吐いた姿が見えた。
ベンツはそのまま、真一郎の家へ向かって走った。
「──ありがとうございます、柴田さん。誉も、なんか悪いな。逆に送ってもらって」
「成り行きですから。こちらこそありがとうございました、先輩」
誉は、まるで荷が下りたような柔らかい表情を浮かべていた。
「誉。……なんかあったら、俺がお前のこと守ってやるから」
「え……」
「だから医者になる夢、諦めんなよ。じゃ、また学校でな!」
優しい笑みを携えながら、真一郎はひらひらと手を振り家の中に入っていった。
振り返していた手を下ろした誉は、今まで抱えていた不安がスッと抜けていったような気がした。
卍おまけ卍
そんなやり取りをしつつ駅へ向かって歩いていると、数メートル先の角から黒塗りベンツが走ってくるのが見えた。
こんな高級住宅街でもないところにベンツ──?そんな違和感に、真一郎は顔を顰めその様子を窺った。
やがて、車は目の前で止まると、運転席にいる男の顔がはっきりと見えて、「あ」と思わず声が漏れた。
ふと、誉を見る。こんな見るからに怪しい車が目の前に止まって、怖がっていたらと心配になった。
──案の定、冷や汗をだらだらとかいているではないか。
真一郎が安心させる為に声をかけようとした時、運転席からスーツ姿の男が出てきた。
男は、安芸水心会 神保組 東京支部代表幹部の柴田佑大。真一郎とは顔見知りであった。
「お嬢ッ!!いつもの時間より遅いんで、学校までお迎えに──」
「うっす。柴田さ……おー、お嬢?」
「あ?おぉ、真一郎じゃねーか。こんなところで何し……」
「何って、この子駅まで送っていってる途中だけど。てか、お嬢ってなん」
「オイ。テメぇうちのお嬢と何しとったんじゃゴルァ……!?」
「は……?人の話聞いてた?てか、お嬢って……?」
真一郎は眉を顰め、柴田と誉を交互に見た。誉は、瞼を閉じて唇を引き結び、その横顔はどこか諦めにも似た哀しげな影が差している。
──三人は一旦、互いの関係を整理した。
真一郎と柴田は、ひょんなことからお互いバイク好きということで意気投合し、知り合った仲だ。彼のバイクへの情熱、その人となりを気に入った柴田が可愛がるようになってかれこれ数か月経つ。
そして、柴田は誉──基、組長令嬢の世話役だ。
「まさか、お嬢と真一郎が同じ高校だったとはな」
柴田が感慨深げに言う。
「俺もびっくりですよ……。てか誉、お前組長さんの娘だったなんてなぁ」
真一郎がそう声をかけるも、誉は何も言わず、ただ俯いたままだった。
「すいやせんお嬢ッ!俺もうっかりしてて……」
柴田が慌てて膝に手を当て、中腰になりながら誉に向かって頭を下げる。
各々の疑問が解け、和やかな雰囲気を迎えようか──となりかけて、
「……わたしがッ!何の為にッ!身元隠してきたと思ってんのよッ!柴田のバカッ!もう口きいてやらんッ!!」
堪えていた感情を誉が爆発させた。その瞬間、柴田の顔が、ガーン!とまるで鐘でも突いたように歪んだ。
真一郎は、見るからに憤慨している誉の姿に驚いた。先程までの、どちらかといえばしおらしいイメージだった彼女が、かなり強気な態度で39歳の強面おっさん相手に凄んでいるのだ。
「……な、なぁ誉?」
「……なんですか」
真一郎は、柴田のあまりにも不憫な姿に同情した。見るに見かねて、ひとまず誉を落ち着かせようと、
「大丈夫だって。俺誰にも言わねーし。心配しなくても何とかなるって!」
努めて明るく言い切った。
しかし、その良かれと思ったその一言は、残念なことに誉の逆鱗に触れることとなる。
「……真一郎先輩」
「ん?」
「先輩は他人事だからそんな呑気なこと言えるんですよね?ヤクザの娘だって知られて、いい事なんてひとっつもなかった!わたしがどれだけ苦労しきたか知らないからそんなこと言えるんでしょ!?どうにかなってたら東京まで来てこんな苦労してないッ!!それでなくても入学早々絡まれるし殴られるし、先輩に家の事バレちゃうしッ!!」
途中から真一郎の襟元をひっつかみながら、誉は堰を切ったように捲し立てた。
そんな鬼気迫る状況の中、真一郎は冷静に考えていた。
最初から不思議に思っていた。わざわざ遠く離れた広島からやって来てまで通う程の名門校でもない。ならば何故──。
それは想像でしかない。でもきっと孤独と戦う日々だったのだろう。今日だってきっと──。
真一郎は、静かに誉の言葉に耳を傾ける。
「今日だって……なんとかしなきゃって……先輩がいなかったら……っ」
やがて、誉の目から雫が一つ二つと流れていく。
これには堪らず、真一郎がギョッとしたのもつかの間、誉は次の瞬間には、わぁぁぁあん、と彼の肩口に顔を埋め泣き出していた。
「お、お嬢!?」
「っお、おぉぉおぉお誉!?ちょっ、分かった!とりあえず落ち着け!」
あたふたした真一郎が、宥めるようにそっと誉の頭に手を置いた。優しく撫でる掌の温もりが、また誉の涙腺を刺激したのか、更に溢れる涙は止まらなかった。
***
「ごめん……さっき俺がハンカチ借りたばっかりに……」
誉が路上で大号泣をかました為、三人はひとまず車の中に避難していた。
「いえ……わたしこそすいません……。もう大丈夫です」
今度は、誉がハンカチ(柴田の)をヒタヒタに濡らしていた。
ムダにいい匂いがするハンカチに、お前は女子か。と心の中でツッコミを入れられる程、誉は冷静を取り戻していた。
「とりあえず、今日聞いたことはぜってー誰にも言わねえから。そこは安心してな?」
「恩に着ます……。ごめんなさい、怒鳴ったりして」
誉は今日の出来事を振り返る。他人の号泣した姿を見るのも、自分が号泣した姿を見せたのも、いつのことだったか思い出せない程に久しぶりだった。
高校生にもなった男女が何をしているのだろう──。誉は考える程に、何とも馬鹿らしくなってきて、ついには笑いが込み上げた。
「ふふっ」
「え、なに……?」
「ははっ。……今日二人して号泣して、何やってんだろって思ったらすごく可笑しくって」
そう言うと、真一郎はふっと僅かに笑みを漏らし、
「だな!」
と弾ませた。
こちらの様子をバックミラー越しに見ている気配にチラリと視線を向ける。その先に、柴田が一瞬安心したようにひとつ息を吐いた姿が見えた。
ベンツはそのまま、真一郎の家へ向かって走った。
「──ありがとうございます、柴田さん。誉も、なんか悪いな。逆に送ってもらって」
「成り行きですから。こちらこそありがとうございました、先輩」
誉は、まるで荷が下りたような柔らかい表情を浮かべていた。
「誉。……なんかあったら、俺がお前のこと守ってやるから」
「え……」
「だから医者になる夢、諦めんなよ。じゃ、また学校でな!」
優しい笑みを携えながら、真一郎はひらひらと手を振り家の中に入っていった。
振り返していた手を下ろした誉は、今まで抱えていた不安がスッと抜けていったような気がした。
卍おまけ卍
──帰り際。
柴田「まぁ、今日はありがとな。お嬢を送ってくれて助かった」
真一郎「いえ、そんな大したことしてな」
柴田「(肩ガシッ)……おい真一郎(小声)」
真一郎「な……んスか(小声)」
柴田「お嬢に手ェ出したらタダじゃおかんけぇのう(小声)」
真一郎「テッ!?だっ、だだだだ出しませんよなに言ってンすかッ(小声)」
誉 「(柴田、また余計なことを言ってる気がする……っ)」
柴田「まぁ、今日はありがとな。お嬢を送ってくれて助かった」
真一郎「いえ、そんな大したことしてな」
柴田「(肩ガシッ)……おい真一郎(小声)」
真一郎「な……んスか(小声)」
柴田「お嬢に手ェ出したらタダじゃおかんけぇのう(小声)」
真一郎「テッ!?だっ、だだだだ出しませんよなに言ってンすかッ(小声)」
誉 「(柴田、また余計なことを言ってる気がする……っ)」
