本編(改)
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
7.Quality time
文化祭明けの登校日。
あの日の熱気が嘘だったかのように、校内はすっかり日常に戻っていた。
誉も、いつもの時間、いつもの道を通り、いつも通り教室に入るため、いつも通り靴を履き替えようと下駄箱をガチャリと開けた。
──ドサドサドサッ。
──下駄箱の中だけいつもと違った。足元で広がった音に、胸がひゅっと縮む。
まさか、またゴミやカエルでも入れられたのでは──。過去の嫌な記憶が蘇り、背筋が凍る。
しかし、下駄箱から落ちてきたのはゴミでもカエルでもなく、
「……え?」
散らばったそれは、色とりどりの封筒だった。不穏な予感が外れたことにホっとする──のもつかの間、気づけば何事だと周囲の視線が一斉に集まる。
誉は、ハっと慌ててそれをかき集めると、大急ぎで教室へ向かって走った。
──机の上に広げた大量の手紙を前に、こずえと二人でそれを見つめていると、
「うっひゃー!こりゃすごいわ」
「こ……これ、ど、どうしようこずえちゃん!」
手紙の主は、主に仮装喫茶で披露したねこコスプレを見た生徒、そしてそれを凌ぐ数の軽音ライブを観ていた生徒たちからの──言わばファンレターであった。
「どうって、有難く受け取っときゃいいでしょ」
「へ、返事とか必要!?どうやって返事をすれば……!?」
「いやいーよ。『応援してます』って内容ばっかじゃん」
「あっ、そ、そうなの……?」
返事に追われる未来を想像して青ざめたが、その心配はなさそうで胸を撫で下ろす。
しかし、こずえが一通の封筒を持ち上げて、
「あ、待って。これは返事してあげたら?」
差し出された封筒を開くと、整った字で綴られていたものは、
──好きです。僕と付き合ってください──
「な……こっ、これは……!?」
「ラブレターだねぇ」
噓でしょ──。先日、クラスメイトの山縣に告白され断りを入れたばかりだというのに。あの精神的疲労をまた体験せねばならないのかと思うと、気が重い。
「……ねぇこずえちゃん。なるべく相手を傷つけない断り方ってあるのかな」
「え?うーん……私は告白された経験ないしなー。男子側の心理まではわかんないよ」
「そ、そうかぁ……」
誉は机に突っ伏して唸る──と、こずえの目が不意にぱっと輝いた。
「あ!ちょっと誉ちゃぁん。適任者がいるじゃないの」
「……適任者?」
こずえの口からその名が飛び出た瞬間、誉は目を見開いた。
──放課後。誉は真一郎と落ち合った。
「突然お呼び立てしてすみません……」
「んーや、全然」
潮風が頬を撫で、遠くで波音が立った。
向かった先は、先日二人で訪れた海沿いの堤防。コンクリートに落ちる夕陽を背に、天端に登って腰を落ち着かせる。
「で?話ってなに?」
「その……先輩って告白したとき、相手にどう断られたか覚えてますか?」
「……へ?」
「例えば、他に好きな人がいるんですー。とか、私のタイプじゃないですー。とか……。あ、ヤンキーだから嫌ですー。とか?」
「ちょ、ちょい待って。なに急に?そんなん聞いて」
真一郎は、心底戸惑った様子で目を瞬かせている。
「やっぱ断られると泣いちゃいますよね……先輩号泣してましたもんね……」
「え。あー、まぁ……ショックでしょ、フツーは」
「ですよね……」
そう言って、誉は膝を抱えて唸りだした。
暫しそうしていると真一郎が、
「……おい、誉。誰だ」
あからさまに不機嫌な声色で言った。それは、まるで喧嘩でもけしかけようかという気配を醸す。
「え?」
「言え」
「な、なにを?」
「誰に告られたか言えっつってんだよ」
「せっ先輩?恐いっ、近いっ!」
ぐっと詰め寄ってきた真一郎の目力に、誉は思わず怯んだ。
──海風が、二人の髪を揺らした。
天端の上で正座をする誉。その目の前には、胡坐をかいて腕を組む真一郎がいる。
「──で、相手を傷つけない断り方が知りたいと」
「仰る通りです……」
真一郎の鬼気迫る圧に観念し、誉が洗いざらい話したところだ。
人一倍……いや五倍?女子にフラれた経験をもつ真一郎なら、的確なアドバイスをくれるのでは──こずえに言われ、期待したわけだが。
「無ぇわ。そんなもん」
「なんと!?」
無かった。
「傷つけない方法は、“OKする”しかねぇ。あ、でもおまえは絶対断れよ」
期待に沿わない回答に、誉は肩を落とした。
世の恋愛とは、なんとハードなのだろう──。
「先輩、なんで19回も断られててそんなにお元気なんですか?」
「喧嘩売ってる?」
「ひぃっ……!総長!総長の顔になってますっ!」
怯える誉を見た真一郎が、くくっと笑う。
「考えすぎんなよ。傷つくのは当たり前だし」
「ぐぅ」
「その子が俺の言葉を受け止めて、ちゃんと自分の言葉で返してくれたら、俺はそれで納得するけどな」
それは、自然と誉の胸に落ちた。
真一郎はごまかしの言葉を使う人ではない──。彼と過ごす時間を重ねる度に、彼の元に多くの仲間が集まり慕う気持ちがとてもよく分かる。
「先輩、ありがとうございます。やっぱ経験者の言葉は違うや」
「はは。こんなんで褒められても嬉しくねぇけど」
「ふふっ。なんか、こうやって恋バナするのって、すごい友達って感じする」
そう言うと、二人のあいだに少しだけ気恥ずかしい沈黙が落ちた。
けれど、その沈黙すらも心地良くて、胸の奥が擽られるようだった。
「……そういえば、さ。文化祭の日、同じクラスのヤツに告白されたときは何て断ったんだよ」
「え……?え、っと……」
誉は、言いにくそうに視線を彷徨わせた。
言っても構いやしないのだが、改めて思い出すと僅かに気恥ずかしさもある。
真一郎をちらりと見れば、また顰めっ面で怖い顔をしている。どこか怯えているようにも見えるのは気のせいか──。
「……大切な人といる時間、今は大事にしたい……て、言いました……」
誉はあの日、「真一郎との時間が減ると思ったから断った」と言った。
頬を薄紅色に染めた真一郎は、
「……ねぇ、それって」
「だ、だって咄嗟にそれしか思いつかなくてっ!嘘は言えないし、だか」
ら──と言い終える前に、真一郎の腕が伸びてきて、誉の肩を引き寄せた。
誉が突然のことに固まっていると、
「……俺も、おまえのこと大切」
「先輩……」
「だからさ。悩んだり辛ぇ時は、絶対俺に言え。助けてやるから」
あの日のことを思い出す。
「夢を諦めるな」と言った彼が、変わらず傍にいてくれる──。
「はい……!」
それだけで、強くいられる。かけがえのない時間が、力になる。
二人の頭上に広がる空は、誉の心を映したように雲一つない秋晴れだった。
卍おまけ卍
文化祭明けの登校日。
あの日の熱気が嘘だったかのように、校内はすっかり日常に戻っていた。
誉も、いつもの時間、いつもの道を通り、いつも通り教室に入るため、いつも通り靴を履き替えようと下駄箱をガチャリと開けた。
──ドサドサドサッ。
──下駄箱の中だけいつもと違った。足元で広がった音に、胸がひゅっと縮む。
まさか、またゴミやカエルでも入れられたのでは──。過去の嫌な記憶が蘇り、背筋が凍る。
しかし、下駄箱から落ちてきたのはゴミでもカエルでもなく、
「……え?」
散らばったそれは、色とりどりの封筒だった。不穏な予感が外れたことにホっとする──のもつかの間、気づけば何事だと周囲の視線が一斉に集まる。
誉は、ハっと慌ててそれをかき集めると、大急ぎで教室へ向かって走った。
──机の上に広げた大量の手紙を前に、こずえと二人でそれを見つめていると、
「うっひゃー!こりゃすごいわ」
「こ……これ、ど、どうしようこずえちゃん!」
手紙の主は、主に仮装喫茶で披露したねこコスプレを見た生徒、そしてそれを凌ぐ数の軽音ライブを観ていた生徒たちからの──言わばファンレターであった。
「どうって、有難く受け取っときゃいいでしょ」
「へ、返事とか必要!?どうやって返事をすれば……!?」
「いやいーよ。『応援してます』って内容ばっかじゃん」
「あっ、そ、そうなの……?」
返事に追われる未来を想像して青ざめたが、その心配はなさそうで胸を撫で下ろす。
しかし、こずえが一通の封筒を持ち上げて、
「あ、待って。これは返事してあげたら?」
差し出された封筒を開くと、整った字で綴られていたものは、
──好きです。僕と付き合ってください──
「な……こっ、これは……!?」
「ラブレターだねぇ」
噓でしょ──。先日、クラスメイトの山縣に告白され断りを入れたばかりだというのに。あの精神的疲労をまた体験せねばならないのかと思うと、気が重い。
「……ねぇこずえちゃん。なるべく相手を傷つけない断り方ってあるのかな」
「え?うーん……私は告白された経験ないしなー。男子側の心理まではわかんないよ」
「そ、そうかぁ……」
誉は机に突っ伏して唸る──と、こずえの目が不意にぱっと輝いた。
「あ!ちょっと誉ちゃぁん。適任者がいるじゃないの」
「……適任者?」
こずえの口からその名が飛び出た瞬間、誉は目を見開いた。
──放課後。誉は真一郎と落ち合った。
「突然お呼び立てしてすみません……」
「んーや、全然」
潮風が頬を撫で、遠くで波音が立った。
向かった先は、先日二人で訪れた海沿いの堤防。コンクリートに落ちる夕陽を背に、天端に登って腰を落ち着かせる。
「で?話ってなに?」
「その……先輩って告白したとき、相手にどう断られたか覚えてますか?」
「……へ?」
「例えば、他に好きな人がいるんですー。とか、私のタイプじゃないですー。とか……。あ、ヤンキーだから嫌ですー。とか?」
「ちょ、ちょい待って。なに急に?そんなん聞いて」
真一郎は、心底戸惑った様子で目を瞬かせている。
「やっぱ断られると泣いちゃいますよね……先輩号泣してましたもんね……」
「え。あー、まぁ……ショックでしょ、フツーは」
「ですよね……」
そう言って、誉は膝を抱えて唸りだした。
暫しそうしていると真一郎が、
「……おい、誉。誰だ」
あからさまに不機嫌な声色で言った。それは、まるで喧嘩でもけしかけようかという気配を醸す。
「え?」
「言え」
「な、なにを?」
「誰に告られたか言えっつってんだよ」
「せっ先輩?恐いっ、近いっ!」
ぐっと詰め寄ってきた真一郎の目力に、誉は思わず怯んだ。
──海風が、二人の髪を揺らした。
天端の上で正座をする誉。その目の前には、胡坐をかいて腕を組む真一郎がいる。
「──で、相手を傷つけない断り方が知りたいと」
「仰る通りです……」
真一郎の鬼気迫る圧に観念し、誉が洗いざらい話したところだ。
人一倍……いや五倍?女子にフラれた経験をもつ真一郎なら、的確なアドバイスをくれるのでは──こずえに言われ、期待したわけだが。
「無ぇわ。そんなもん」
「なんと!?」
無かった。
「傷つけない方法は、“OKする”しかねぇ。あ、でもおまえは絶対断れよ」
期待に沿わない回答に、誉は肩を落とした。
世の恋愛とは、なんとハードなのだろう──。
「先輩、なんで19回も断られててそんなにお元気なんですか?」
「喧嘩売ってる?」
「ひぃっ……!総長!総長の顔になってますっ!」
怯える誉を見た真一郎が、くくっと笑う。
「考えすぎんなよ。傷つくのは当たり前だし」
「ぐぅ」
「その子が俺の言葉を受け止めて、ちゃんと自分の言葉で返してくれたら、俺はそれで納得するけどな」
それは、自然と誉の胸に落ちた。
真一郎はごまかしの言葉を使う人ではない──。彼と過ごす時間を重ねる度に、彼の元に多くの仲間が集まり慕う気持ちがとてもよく分かる。
「先輩、ありがとうございます。やっぱ経験者の言葉は違うや」
「はは。こんなんで褒められても嬉しくねぇけど」
「ふふっ。なんか、こうやって恋バナするのって、すごい友達って感じする」
そう言うと、二人のあいだに少しだけ気恥ずかしい沈黙が落ちた。
けれど、その沈黙すらも心地良くて、胸の奥が擽られるようだった。
「……そういえば、さ。文化祭の日、同じクラスのヤツに告白されたときは何て断ったんだよ」
「え……?え、っと……」
誉は、言いにくそうに視線を彷徨わせた。
言っても構いやしないのだが、改めて思い出すと僅かに気恥ずかしさもある。
真一郎をちらりと見れば、また顰めっ面で怖い顔をしている。どこか怯えているようにも見えるのは気のせいか──。
「……大切な人といる時間、今は大事にしたい……て、言いました……」
誉はあの日、「真一郎との時間が減ると思ったから断った」と言った。
頬を薄紅色に染めた真一郎は、
「……ねぇ、それって」
「だ、だって咄嗟にそれしか思いつかなくてっ!嘘は言えないし、だか」
ら──と言い終える前に、真一郎の腕が伸びてきて、誉の肩を引き寄せた。
誉が突然のことに固まっていると、
「……俺も、おまえのこと大切」
「先輩……」
「だからさ。悩んだり辛ぇ時は、絶対俺に言え。助けてやるから」
あの日のことを思い出す。
「夢を諦めるな」と言った彼が、変わらず傍にいてくれる──。
「はい……!」
それだけで、強くいられる。かけがえのない時間が、力になる。
二人の頭上に広がる空は、誉の心を映したように雲一つない秋晴れだった。
卍おまけ卍
誉「先輩は、今まで好きになった子のどんなところがいいなって思ったんですか?」
真一郎「ぇえ?あー……かわいいなー、とか?」
誉「それって、顔がってこと?」
真一郎「まぁ、顔もだけど……」
誉「……おっぱいおっきいなとか?」
真一郎「おっ!?おおぉおっそそそそんn」
誉「図星だ」
真一郎「いやそうは言ってねぇだろ!?」
誉「言ったも同然です」
真一郎「ぇえ?あー……かわいいなー、とか?」
誉「それって、顔がってこと?」
真一郎「まぁ、顔もだけど……」
誉「……おっぱいおっきいなとか?」
真一郎「おっ!?おおぉおっそそそそんn」
誉「図星だ」
真一郎「いやそうは言ってねぇだろ!?」
誉「言ったも同然です」
