本編(改)
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6.Very important to me(3)
──軽音楽部のライブは、文化祭を締めくくる大トリイベントだ。しかも今年は「一年生がボーカルを務める」という噂が瞬く間に広まり、会場は例年以上の熱気に包まれていた。
主役に押し上げられた誉は、もう腹を括るしかなかった。もし入学直後だったら逃げ出していたかもしれない。けれど、真一郎が信じてくれた──。
それだけで、前を向けた。
誉は、いつも鞄に入れて持ち歩いている山茶花のハンカチーフを左腕に巻いた。
真一郎がくれた“勇気の花”。それは、困難に立ち向かえる力を証明するべき時だ、と告げるように咲く。
壇上へ続く階段を一歩踏む。観客席のざわめきが、ゆっくりと遠のいて、それから鼓動が身体中を震わせた。
***
──叶えたい
君から受け取った
確かな道標の先に
描いてきた未来が見える
泣いて 泣いて 泣いて 今は笑って
もう立ち止まることをやめた僕は
ただひたすら走り続ける──
──誉の声は、一瞬で観客の歓声をさらった。
少し離れた場所から見守る真一郎と明司にも、その姿は眩しく映る。
「上出来じゃねぇか」
「……あぁ」
真一郎は思った。沖田が誉を誘ったのは、これ以上ない巡り合わせだったのかもしれない──。
家族を失い、傷つき、それでも未来を諦めなかった。誉の歌は、そんな彼女の半生そのもののように、胸に響く。
どうかこの先、彼女が描く未来へまっすぐ進めますように──。
黄昏の空を前に、真一郎はそっと願った。
***
片づけが終わり、校庭がすっかり夜の色に沈んだ頃、誉は真一郎と合流した。
彼から「話がある」と言われ、バイクの後ろに乗り込んだものの、胸の内は落ち着かなかった。
いつもより少しだけ──彼の背中が遠い気がした。
昼間、楽しそうにしていた姿が嘘のよう──。ざわめく不安に耐えきれず、誉はそっと頬を寄せて、その背中の温もりを確かめた。
──着いたのは、工業施設が広がる海沿いの堤防だった。
無機質な建物の灯りが幾つも瞬き、夜の海に浮かぶ光はまるで別世界のようだった。
「きれい……」
「ここ、よく万次郎と来るんだ」
兄弟の特別な場所──それを共有できたことが嬉しかった。
暫く二人は、同じ景色を静かに眺めていた。沈黙も何処か心地よく、穏やかなひと時──。
それを破ったのは、重みを乗せた真一郎の声だった。
「……誉。この間特進の先生に俺と関わるなって言われたんだろ?」
「……え?」
思いがけなかった話に、誉の心臓が強く打つ。
「こずえちゃんが聞いてたらしくて……誉のことすげぇ心配してたんだ。教師からもそこまで言われて、おまえがこの先傷つくかもしれないから、生半可な気持ちなら誉と距離を取れ……って」
嫌な予感が、ひやりと誉の背筋を這った。これ以上は聞きたくなかった。続く言葉は、きっと自分の望む未来を否定する──。
「もし、誉が医者になるために、俺のこと邪魔になったら言」
「邪魔なんかじゃないッ!!」
遮った自分の声の大きさに驚いた。それ以上に、目の前の真一郎は驚きのあまり目を見開いている。
それでも黙ってなんていられなくて、
「なんでそんなこと言うんですか?関係ないじゃないですか……!医者を目指すことと、真一郎先輩と一緒にいることは関係ないじゃないですかッ!」
誉は必死に震える声で訴えた。
「……誉……」
「あの時は、わたしが先生に上手く伝えられなかったのが悪いんです。だから──ッ」
溢れた涙が、コンクリートにぽつりと染みをつくっていく。
──人の表面しか見ていないような教師なんて、言わせておけばいいと思った。それで希望進路から外されても、いくらだってやり直しはきく。
でも、彼がこの話を知ってしまったら、迷惑をかけるくらいならと離れていく──。それは、悲しくて、淋しくて、絶対に嫌だった。
真一郎は、何ものにも代え難い、友達なのだ──。
「先輩が、教えてくれたのに……っヤクザの娘でも、医者になれるって……友達もできるって……だからそんな淋しいこと、言わないで……っ」
一歩、二歩──ゆっくりと近づいて来る気配。
誉が泣き腫らした顔を上げた瞬間、嗚咽する身体は真一郎に抱きしめられた。
触れる体温が夜風を遮って、涙は静かに彼の胸へ吸い込まれていった。
***
本当は、ずっと気がかりだった。心配していたトラブルもなく高校生活をおくる誉に、自分は必要なのだろうか──と。
泣かせてしまった罪悪感よりも、誉が離れたくないと思ってくれている事実が胸を満たす。
真一郎は、自分の気持ちを伝える前に、彼女がどう思っているのか知りたいと思ってしまった。
「誉……ごめん」
そんな自分を、なんて狡いんだ──と心のどこかで責めながら。
──やがて、涙の止まった誉が、
「……さっき、クラスの男の子に好きだって、言われたんです」
真一郎の胸に収まったまま、ぽつりと言った。
「……は?」
それ今ここで言っちゃう──!?
真一郎は、心の内でひっくり返った。
「わたし、そういうのよく分からないというか……だから断ったんですけど」
「……え?断ったの?」
「だって、その人のことなんとも思ってないのに、取りあえずで付き合うのは無理だもん……」
なんとも誉らしいと思える結末に、真一郎は思わず苦笑した。
「それに……真一郎先輩との時間、減っちゃうと思った、から……」
「え……」
それは反則だ──。
優しく胸の奥を掴まれたような感覚に、真一郎は観念した。もう言ってしまえと思った。この輝く景色も、誉の言葉も、己の背中を押している。いけそうな気がする。
「誉……っ」
身体を離して向き直れば、不思議そうに見つめてくる瞳──そこには、自分だけが映っていた。
「俺、おまえのこと……っ好」
PiPiPiPiPi!
二人して肩を跳ね上げた。誉のPHSが、狙いすましたように鳴り響く。
「あっ、ゴメンなさい……!音消すの忘……あ、柴田だ……っ」
画面を見た瞬間、誉は顔を引きつらせた。
慌てて通話ボタンを押せば、
『──お嬢!!今どこですか!?何度も電話したんですよ!!』
「ひっ……!」
耳を劈く怒声は、しっかり真一郎にも届いた。
「ご、ごめん!たぶん真一郎先輩のバイクに乗ってて、気づかなかったの……」
『……ア゛?』
不穏な気配に、真一郎の背筋が凍る。
「うん……うん……」
誉が頷きながら話を聞いている──と思ったら、突然PHSを真一郎へ差し出して、
「柴田が……代われって……」
「え゛……!?」
これまでも、柴田には事あるごとに脅されてきた。こんな遅い時間に誉を連れ回していると知られてしまった。いよいよ自分は、ヤクザにコンクリで生き埋めにされ海底に沈められるかもしれない──。
どこかで聞いたことのあるヤクザあるあるが、真一郎の脳裏を駆け巡る。言い訳を考える暇もなく、PHSを受け取った。
「……ハイ」
『真一郎、次の休みちょっとツラ貸せ』
第一声は「ぶっコ●す」だと思っていた真一郎は、意外と穏やかな口調に意表を突かれる──いや、罠だ。
「柴田さん……俺、まだ死にたくない」
『は?何言っとんやお前。話があるからツラ貸せ言うとんじゃ』
と、その言葉の奥に殺意がないことが分かって、少しだけ肩の力が抜ける。
それから、通話を切ってPHSを差し出せば、そわそわした誉が、
「……柴田、なんて?」
「ん?……またバイク走らせに行こうってさ」
「ツラ貸せ」と言われた──なんて言うと、もしかしたら心配させるかもしれない。
返答を濁せば、誉はほっとした顔を見せた。
「……あ、先輩。さっき、言いかけた話は……?」
そう問われ、真一郎はそっと視線を逸らした。
伝えるのは、今じゃないということかもしれない──。
「なんでもないよ。今日は遅いから、また今度話す」
そう言って、真一郎は瞬く夜景を背に誉を愛機へと誘 った。
卍おまけ卍
──軽音楽部のライブは、文化祭を締めくくる大トリイベントだ。しかも今年は「一年生がボーカルを務める」という噂が瞬く間に広まり、会場は例年以上の熱気に包まれていた。
主役に押し上げられた誉は、もう腹を括るしかなかった。もし入学直後だったら逃げ出していたかもしれない。けれど、真一郎が信じてくれた──。
それだけで、前を向けた。
誉は、いつも鞄に入れて持ち歩いている山茶花のハンカチーフを左腕に巻いた。
真一郎がくれた“勇気の花”。それは、困難に立ち向かえる力を証明するべき時だ、と告げるように咲く。
壇上へ続く階段を一歩踏む。観客席のざわめきが、ゆっくりと遠のいて、それから鼓動が身体中を震わせた。
***
──叶えたい
君から受け取った
確かな道標の先に
描いてきた未来が見える
泣いて 泣いて 泣いて 今は笑って
もう立ち止まることをやめた僕は
ただひたすら走り続ける──
──誉の声は、一瞬で観客の歓声をさらった。
少し離れた場所から見守る真一郎と明司にも、その姿は眩しく映る。
「上出来じゃねぇか」
「……あぁ」
真一郎は思った。沖田が誉を誘ったのは、これ以上ない巡り合わせだったのかもしれない──。
家族を失い、傷つき、それでも未来を諦めなかった。誉の歌は、そんな彼女の半生そのもののように、胸に響く。
どうかこの先、彼女が描く未来へまっすぐ進めますように──。
黄昏の空を前に、真一郎はそっと願った。
***
片づけが終わり、校庭がすっかり夜の色に沈んだ頃、誉は真一郎と合流した。
彼から「話がある」と言われ、バイクの後ろに乗り込んだものの、胸の内は落ち着かなかった。
いつもより少しだけ──彼の背中が遠い気がした。
昼間、楽しそうにしていた姿が嘘のよう──。ざわめく不安に耐えきれず、誉はそっと頬を寄せて、その背中の温もりを確かめた。
──着いたのは、工業施設が広がる海沿いの堤防だった。
無機質な建物の灯りが幾つも瞬き、夜の海に浮かぶ光はまるで別世界のようだった。
「きれい……」
「ここ、よく万次郎と来るんだ」
兄弟の特別な場所──それを共有できたことが嬉しかった。
暫く二人は、同じ景色を静かに眺めていた。沈黙も何処か心地よく、穏やかなひと時──。
それを破ったのは、重みを乗せた真一郎の声だった。
「……誉。この間特進の先生に俺と関わるなって言われたんだろ?」
「……え?」
思いがけなかった話に、誉の心臓が強く打つ。
「こずえちゃんが聞いてたらしくて……誉のことすげぇ心配してたんだ。教師からもそこまで言われて、おまえがこの先傷つくかもしれないから、生半可な気持ちなら誉と距離を取れ……って」
嫌な予感が、ひやりと誉の背筋を這った。これ以上は聞きたくなかった。続く言葉は、きっと自分の望む未来を否定する──。
「もし、誉が医者になるために、俺のこと邪魔になったら言」
「邪魔なんかじゃないッ!!」
遮った自分の声の大きさに驚いた。それ以上に、目の前の真一郎は驚きのあまり目を見開いている。
それでも黙ってなんていられなくて、
「なんでそんなこと言うんですか?関係ないじゃないですか……!医者を目指すことと、真一郎先輩と一緒にいることは関係ないじゃないですかッ!」
誉は必死に震える声で訴えた。
「……誉……」
「あの時は、わたしが先生に上手く伝えられなかったのが悪いんです。だから──ッ」
溢れた涙が、コンクリートにぽつりと染みをつくっていく。
──人の表面しか見ていないような教師なんて、言わせておけばいいと思った。それで希望進路から外されても、いくらだってやり直しはきく。
でも、彼がこの話を知ってしまったら、迷惑をかけるくらいならと離れていく──。それは、悲しくて、淋しくて、絶対に嫌だった。
真一郎は、何ものにも代え難い、友達なのだ──。
「先輩が、教えてくれたのに……っヤクザの娘でも、医者になれるって……友達もできるって……だからそんな淋しいこと、言わないで……っ」
一歩、二歩──ゆっくりと近づいて来る気配。
誉が泣き腫らした顔を上げた瞬間、嗚咽する身体は真一郎に抱きしめられた。
触れる体温が夜風を遮って、涙は静かに彼の胸へ吸い込まれていった。
***
本当は、ずっと気がかりだった。心配していたトラブルもなく高校生活をおくる誉に、自分は必要なのだろうか──と。
泣かせてしまった罪悪感よりも、誉が離れたくないと思ってくれている事実が胸を満たす。
真一郎は、自分の気持ちを伝える前に、彼女がどう思っているのか知りたいと思ってしまった。
「誉……ごめん」
そんな自分を、なんて狡いんだ──と心のどこかで責めながら。
──やがて、涙の止まった誉が、
「……さっき、クラスの男の子に好きだって、言われたんです」
真一郎の胸に収まったまま、ぽつりと言った。
「……は?」
それ今ここで言っちゃう──!?
真一郎は、心の内でひっくり返った。
「わたし、そういうのよく分からないというか……だから断ったんですけど」
「……え?断ったの?」
「だって、その人のことなんとも思ってないのに、取りあえずで付き合うのは無理だもん……」
なんとも誉らしいと思える結末に、真一郎は思わず苦笑した。
「それに……真一郎先輩との時間、減っちゃうと思った、から……」
「え……」
それは反則だ──。
優しく胸の奥を掴まれたような感覚に、真一郎は観念した。もう言ってしまえと思った。この輝く景色も、誉の言葉も、己の背中を押している。いけそうな気がする。
「誉……っ」
身体を離して向き直れば、不思議そうに見つめてくる瞳──そこには、自分だけが映っていた。
「俺、おまえのこと……っ好」
PiPiPiPiPi!
二人して肩を跳ね上げた。誉のPHSが、狙いすましたように鳴り響く。
「あっ、ゴメンなさい……!音消すの忘……あ、柴田だ……っ」
画面を見た瞬間、誉は顔を引きつらせた。
慌てて通話ボタンを押せば、
『──お嬢!!今どこですか!?何度も電話したんですよ!!』
「ひっ……!」
耳を劈く怒声は、しっかり真一郎にも届いた。
「ご、ごめん!たぶん真一郎先輩のバイクに乗ってて、気づかなかったの……」
『……ア゛?』
不穏な気配に、真一郎の背筋が凍る。
「うん……うん……」
誉が頷きながら話を聞いている──と思ったら、突然PHSを真一郎へ差し出して、
「柴田が……代われって……」
「え゛……!?」
これまでも、柴田には事あるごとに脅されてきた。こんな遅い時間に誉を連れ回していると知られてしまった。いよいよ自分は、ヤクザにコンクリで生き埋めにされ海底に沈められるかもしれない──。
どこかで聞いたことのあるヤクザあるあるが、真一郎の脳裏を駆け巡る。言い訳を考える暇もなく、PHSを受け取った。
「……ハイ」
『真一郎、次の休みちょっとツラ貸せ』
第一声は「ぶっコ●す」だと思っていた真一郎は、意外と穏やかな口調に意表を突かれる──いや、罠だ。
「柴田さん……俺、まだ死にたくない」
『は?何言っとんやお前。話があるからツラ貸せ言うとんじゃ』
と、その言葉の奥に殺意がないことが分かって、少しだけ肩の力が抜ける。
それから、通話を切ってPHSを差し出せば、そわそわした誉が、
「……柴田、なんて?」
「ん?……またバイク走らせに行こうってさ」
「ツラ貸せ」と言われた──なんて言うと、もしかしたら心配させるかもしれない。
返答を濁せば、誉はほっとした顔を見せた。
「……あ、先輩。さっき、言いかけた話は……?」
そう問われ、真一郎はそっと視線を逸らした。
伝えるのは、今じゃないということかもしれない──。
「なんでもないよ。今日は遅いから、また今度話す」
そう言って、真一郎は瞬く夜景を背に誉を愛機へと
卍おまけ卍
こずえ「佐野先輩っ」
真一郎「ん?」
こずえ「こねこちゃんの写真♪」
真一郎「ぬをッ!?」
こずえ「焼き増ししたから差し上げます♪」
真一郎「(……バブに貼ろっかな)」
真一郎「ん?」
こずえ「こねこちゃんの写真♪」
真一郎「ぬをッ!?」
こずえ「焼き増ししたから差し上げます♪」
真一郎「(……バブに貼ろっかな)」
