本編(改)
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6.Very important to me
新学期が始まり、9月も半ばに差し掛かった頃──。
学校では、来月行われる文化祭の準備が動き出していた。
「では、多数決の結果、うちのクラスは『仮装喫茶』やりまーす!」
拍手が一斉に巻き起こり、教室が沸いた。
クラスをまとめるのは、学年一のイケメンと評判の山縣、そして誉の友人、こずえだ。
「次の打ち合わせで担当決めるから、それまでにどれがいいか考えといてねー!」
黒板には「ホール」「キッチン」「衣装」などの担当が並んでいる。
これまで、家の事情でイベント事を楽めたことなど殆どなかった誉は、胸躍らせた。
教室に広がるソワソワした空気、ワクワクした声──。
こんな気持ち、今まで味わったことがない。
高揚した気持ちを抱えているところに、こずえが、
「誉ちゃん、どれやるか決めた?」
「ううん。どれも楽しそうで迷ってる」
器用さには自信がある。衣装担当なんていいかもな──、と誉が考えたその瞬間、
「誉ちゃんは絶対ホールだよ!」
「……へ?」
「その美貌を裏方になんて回すもんですか!」
「え。いや、ちょっとこずえちゃん、まっ……」
勢いよく迫ってくるこずえに、誉は思わずのけぞる。
こんなド田舎から出てきた芋娘が“美貌”なんて──。
こずえの視力が心配になった。
──その日の夜。
「先輩のクラスはなにやるんですか?」
誉は、真一郎に電話をかけた。
誕生日の事があって以来、二人はこうしてよく電話で話すようになってい」た。
「おまえのことが知りたい」と言った真一郎の希望に、少しでも応えたくて──。
『うちは中庭で焼きそば。模擬店だって』
「いいなぁ。聞いただけで美味しそう!」
真一郎が鉄板で焼きそばを焼く姿を想像して、胸が弾む。
「文化祭、楽しみです!」
『誉は仮装喫茶でなにすんの?』
その穏やかな声に、誉も自然と笑みがこぼれる。
「最初は、衣装作るのやりがいがありそうだなって思ってたんですけど、こずえちゃんに「絶対ホールだ」って言われちゃって。多分ホールになると思います」
と答えた瞬間、真一郎の声が途切れた。
「……あれ。先輩?」
『誉、担当は衣装にしとけ』
「え……?」
『ぜってぇ衣装のがいいって』
「あー……でもこずえちゃんってこうと決めたら譲らないところがあっ」
『衣・装・担・当な』
「……が、がんばります……説得」
耳元からかけられる圧に、誉の高揚した気持ちが少ししぼんだ。
──翌日。
「こずえちゃん。仮装喫茶の……やっぱわたし衣装担当じゃダメかなぁ……?」
そう言うと、こずえは顔をあからさまに顰めた。
「えーっなんで?誉ちゃんどれも面白そうって言ってたじゃん」
「いや、そーなんですけども……そのぉ、事情がありまして……」
「どんな事情?」
と迫られ、押され負けしてしまった誉は、
「──という訳でして……」
結局洗いざらい吐き出してしまった。自席に座る誉の正面には、脚を組み頬杖をつくこずえが、じぃ、とこちらを探るような視線を向けている。
「……で、佐野先輩が『衣装担当やれ』って?」
「う、うん……」
視線が鋭い。やっぱり無理だったかも……先輩ごめんなさい──。
心の中でそっと謝る。
ところが、こずえは突然にやり、と口角を上げた。
「はーん。そういうこと」
「え?どゆこと?」
「分かった。佐野先輩のことは心配いらない。だから誉ちゃんは、心置きなくホールやってちょーだい!」
と半ば押し切られた誉は、まぁ、面白いなら別にどっちでもいいんだけど──と開き直ったのだった。
***
──昼休憩。
「ふぁ~~……ねみ……」
真一郎が自席で微睡んでいると、
「失礼します!」
不意に、ハキハキと元気のいい声が教室に響いて覚醒した。
思わず声の主を探せば、一人の女子生徒が教室に入ってくるのが見えた。
誉といつも一緒にいる子──。
「真一郎先輩と同じ中学出身の子だ」と言っていたことを思い出し、真一郎はその姿をぼーっと眺める。
やがて、ずんずんと進んできた彼女は、気づいたときには真一郎の目の前まで来ていて、
「佐野先輩。1年の住田こずえって言います。ちょっとお時間よろしいですか?」
不良として名が知れた真一郎に物怖じしない一年女子。その姿に教室中がそわそわと見守る中、
「お、おぉ……なに?」
ただならぬ気迫に、真一郎はたじろいだ。
──二人は、中庭のベンチまでやってきた。
「えっと……こずえちゃん、だっけ?聞きたいことって?」
真一郎が隣に一人分の距離を置いて腰掛けると、
「佐野先輩、誉ちゃんのこと好きなんですか?」
「っゲッホ!!」
あまりに突飛な質問に、真一郎はむせた。
「な……ッ、なんのことかよく分かんねーんだけど……」
「うちのクラスがやる仮装喫茶で、誉ちゃんがホールやるの反対したって聞きました」
──なんでその話を。
考えるまでもなく、誉が話したに違いない。だが、何故わざわざ突っかかってくるのかさっぱり分からなかった。
「私、ずっと思ってたんです。どういうつもりで誉ちゃんに絡んでるんですか?」
その棘のある物言いに、真一郎は察した。
こずえは、誉との事情を何も聞かされていないのだ、と。
「誉ちゃん、お医者さんになるって勉強頑張ってて、気遣いもできて優しくて、いい子だから先生からも人目置かれてるんです。……この間、特進の進路希望出したあと、担当の先生に『佐野先輩とはあまり関わるな』、って言われてたの聞いて」
「……は?」
初耳だった。自分のせいでそんなことを言われていたなんて──。
胸が、どんと重石を抱えたように軋んだ。こちらに言えばいいものを、わざわざ彼女に言い放った教師は勿論、何もできない自分にも腹が立つ──。
「だから、ちょっとかわいいからとか、遊びのつもりなら誉ちゃんに絡むのやめてください。誉ちゃんは、佐野先輩を“いい人”って言ってますけど……近くにいたらケンカに巻き込まれるかもしれないし……。だから私、よく思ってません……!」
──誉、いい友達できたじゃん。
徐々に俯くこずえを見て、真一郎は思った。友達がいなかったと言っていた誉が、こんなにも誰かに大切にされている。それが嬉しくてたまらない。
クラスや教師たちからの信頼も厚い。元々そういう魅力を持ち合わせている人間なのだ。
それなのに、家のことが壁になっていたとは、なんて皮肉な話だろう──。
「……遊びじゃねぇよ」
真正面からぶつかってきたこずえに、真一郎は一切迷いなく言い切った。
目の前で俯いていた顔が、はっとしたように上がる。
「最初は、あいつが不良に絡まれて、勉強に集中できなくなるのが嫌だって言うから……俺が傍にいた方がいいだろうって提案したのが始まりだったんだ」
「え……っ」
「でも、そんな単純なことだけじゃなくて、もっと重たいもん背負ってるみたいでさ。放っておけなくなったんだよね」
こずえは、驚いたように息を呑んだ。
そんな彼女の瞳から視線を逸らすことなく、真一郎は、
「誉に何かあったら、俺が守ってやるって決めてんだ。だから、あいつから言われない限り、離れるつもりはない」
そのまま二人、互いを真っ直ぐ捉えたまま沈黙した。
やがて、真一郎が驚き目を見開いた。こずえの瞳から溢れた涙が、ひとつふたつと頬を伝っていた。
「……っよ、よかったよぉぉ……ッ!」
それから、張り詰めていた糸が切れたように、こずえはわんわんと泣いた。
堪らず真一郎は、
「ちょ、ちょい待って!こずえちゃん!?これ俺が泣かせたみたいじゃない!?あれ俺なの!?いや俺か!?」
大層慌てる真一郎を前にこずえは、涙を流しながら安心したように笑っていた。
──やがて、ひとしきり泣いたこずえは鼻をすすり、
「佐野先輩。誉ちゃん、他のクラスの男子からも人気だから、もたもたしてると取られますよ?」
それを聞いて口をあんぐり開けた真一郎が、
「……あーのさ。一つ聞いてもいい?」
「なんです?」
「俺って……そんなに分かりやすい?」
「はい」
秒で返され、顔を掌で覆った真一郎は項垂れた。
「でも、誉ちゃんは気づかない気がします」
「え゙っ」
それはそれで複雑だった。
「で、他の男子から人気っての……マジ?」
「はい。ちなみに、うちのクラスに学年一のイケメンがいるんですけど、文化祭の日に誉ちゃんに告白するって言ってました」
「はぁ!?」
どこのどいつだそのふてぇ野郎は──。
真一郎は、心中穏やかではなかった。しかし、誉とは恋人同士というわけではない。誰に告白され、誰と付き合おうがとやかく言う筋合いはない。
──それが余計に苛立ちを募らせた。
「ちょっと。俺余計にホールやらせたくねぇんだけど」
「なんでですか?佐野先輩見たくないんですか?誉ちゃんの“カワイイコスプレ”」
──悪魔が真一郎にささやいた。
「見たいです」
「ですよね♡」
真面目な顔をした真一郎は、即答した。
こうして、誉のホール担当はあっさり決定したのだった。
***
無事、各自担当が振られ、ホールスタッフ用の衣装を作るため採寸が始まった。
「こずえちゃん、裁縫が趣味だなんて知らなかった」
「だから、誉ちゃんは衣装じゃなくてよかったの!」
こずえがメジャーを手に意気揚々と採寸していく。その姿を眺めながら、適材適所の采配だったのだと納得する。
「そういえば、今日お昼に佐野先輩と話したよ」
「なんですって……!?」
「佐野先輩、誉ちゃんの仮装姿、楽しみにしてるって♪」
「……え?」
あれほど衣装担当を推していたのに──?そんな疑問を抱きつつ、頬を赤らめた誉は俯いた。
「……楽しみ、に……?」
ということは──見に、来てくれるのだ。
真一郎はどんな顔をするだろう、と想像してみる。誉は、淡く灯る期待に胸を焦がした。
新学期が始まり、9月も半ばに差し掛かった頃──。
学校では、来月行われる文化祭の準備が動き出していた。
「では、多数決の結果、うちのクラスは『仮装喫茶』やりまーす!」
拍手が一斉に巻き起こり、教室が沸いた。
クラスをまとめるのは、学年一のイケメンと評判の山縣、そして誉の友人、こずえだ。
「次の打ち合わせで担当決めるから、それまでにどれがいいか考えといてねー!」
黒板には「ホール」「キッチン」「衣装」などの担当が並んでいる。
これまで、家の事情でイベント事を楽めたことなど殆どなかった誉は、胸躍らせた。
教室に広がるソワソワした空気、ワクワクした声──。
こんな気持ち、今まで味わったことがない。
高揚した気持ちを抱えているところに、こずえが、
「誉ちゃん、どれやるか決めた?」
「ううん。どれも楽しそうで迷ってる」
器用さには自信がある。衣装担当なんていいかもな──、と誉が考えたその瞬間、
「誉ちゃんは絶対ホールだよ!」
「……へ?」
「その美貌を裏方になんて回すもんですか!」
「え。いや、ちょっとこずえちゃん、まっ……」
勢いよく迫ってくるこずえに、誉は思わずのけぞる。
こんなド田舎から出てきた芋娘が“美貌”なんて──。
こずえの視力が心配になった。
──その日の夜。
「先輩のクラスはなにやるんですか?」
誉は、真一郎に電話をかけた。
誕生日の事があって以来、二人はこうしてよく電話で話すようになってい」た。
「おまえのことが知りたい」と言った真一郎の希望に、少しでも応えたくて──。
『うちは中庭で焼きそば。模擬店だって』
「いいなぁ。聞いただけで美味しそう!」
真一郎が鉄板で焼きそばを焼く姿を想像して、胸が弾む。
「文化祭、楽しみです!」
『誉は仮装喫茶でなにすんの?』
その穏やかな声に、誉も自然と笑みがこぼれる。
「最初は、衣装作るのやりがいがありそうだなって思ってたんですけど、こずえちゃんに「絶対ホールだ」って言われちゃって。多分ホールになると思います」
と答えた瞬間、真一郎の声が途切れた。
「……あれ。先輩?」
『誉、担当は衣装にしとけ』
「え……?」
『ぜってぇ衣装のがいいって』
「あー……でもこずえちゃんってこうと決めたら譲らないところがあっ」
『衣・装・担・当な』
「……が、がんばります……説得」
耳元からかけられる圧に、誉の高揚した気持ちが少ししぼんだ。
──翌日。
「こずえちゃん。仮装喫茶の……やっぱわたし衣装担当じゃダメかなぁ……?」
そう言うと、こずえは顔をあからさまに顰めた。
「えーっなんで?誉ちゃんどれも面白そうって言ってたじゃん」
「いや、そーなんですけども……そのぉ、事情がありまして……」
「どんな事情?」
と迫られ、押され負けしてしまった誉は、
「──という訳でして……」
結局洗いざらい吐き出してしまった。自席に座る誉の正面には、脚を組み頬杖をつくこずえが、じぃ、とこちらを探るような視線を向けている。
「……で、佐野先輩が『衣装担当やれ』って?」
「う、うん……」
視線が鋭い。やっぱり無理だったかも……先輩ごめんなさい──。
心の中でそっと謝る。
ところが、こずえは突然にやり、と口角を上げた。
「はーん。そういうこと」
「え?どゆこと?」
「分かった。佐野先輩のことは心配いらない。だから誉ちゃんは、心置きなくホールやってちょーだい!」
と半ば押し切られた誉は、まぁ、面白いなら別にどっちでもいいんだけど──と開き直ったのだった。
***
──昼休憩。
「ふぁ~~……ねみ……」
真一郎が自席で微睡んでいると、
「失礼します!」
不意に、ハキハキと元気のいい声が教室に響いて覚醒した。
思わず声の主を探せば、一人の女子生徒が教室に入ってくるのが見えた。
誉といつも一緒にいる子──。
「真一郎先輩と同じ中学出身の子だ」と言っていたことを思い出し、真一郎はその姿をぼーっと眺める。
やがて、ずんずんと進んできた彼女は、気づいたときには真一郎の目の前まで来ていて、
「佐野先輩。1年の住田こずえって言います。ちょっとお時間よろしいですか?」
不良として名が知れた真一郎に物怖じしない一年女子。その姿に教室中がそわそわと見守る中、
「お、おぉ……なに?」
ただならぬ気迫に、真一郎はたじろいだ。
──二人は、中庭のベンチまでやってきた。
「えっと……こずえちゃん、だっけ?聞きたいことって?」
真一郎が隣に一人分の距離を置いて腰掛けると、
「佐野先輩、誉ちゃんのこと好きなんですか?」
「っゲッホ!!」
あまりに突飛な質問に、真一郎はむせた。
「な……ッ、なんのことかよく分かんねーんだけど……」
「うちのクラスがやる仮装喫茶で、誉ちゃんがホールやるの反対したって聞きました」
──なんでその話を。
考えるまでもなく、誉が話したに違いない。だが、何故わざわざ突っかかってくるのかさっぱり分からなかった。
「私、ずっと思ってたんです。どういうつもりで誉ちゃんに絡んでるんですか?」
その棘のある物言いに、真一郎は察した。
こずえは、誉との事情を何も聞かされていないのだ、と。
「誉ちゃん、お医者さんになるって勉強頑張ってて、気遣いもできて優しくて、いい子だから先生からも人目置かれてるんです。……この間、特進の進路希望出したあと、担当の先生に『佐野先輩とはあまり関わるな』、って言われてたの聞いて」
「……は?」
初耳だった。自分のせいでそんなことを言われていたなんて──。
胸が、どんと重石を抱えたように軋んだ。こちらに言えばいいものを、わざわざ彼女に言い放った教師は勿論、何もできない自分にも腹が立つ──。
「だから、ちょっとかわいいからとか、遊びのつもりなら誉ちゃんに絡むのやめてください。誉ちゃんは、佐野先輩を“いい人”って言ってますけど……近くにいたらケンカに巻き込まれるかもしれないし……。だから私、よく思ってません……!」
──誉、いい友達できたじゃん。
徐々に俯くこずえを見て、真一郎は思った。友達がいなかったと言っていた誉が、こんなにも誰かに大切にされている。それが嬉しくてたまらない。
クラスや教師たちからの信頼も厚い。元々そういう魅力を持ち合わせている人間なのだ。
それなのに、家のことが壁になっていたとは、なんて皮肉な話だろう──。
「……遊びじゃねぇよ」
真正面からぶつかってきたこずえに、真一郎は一切迷いなく言い切った。
目の前で俯いていた顔が、はっとしたように上がる。
「最初は、あいつが不良に絡まれて、勉強に集中できなくなるのが嫌だって言うから……俺が傍にいた方がいいだろうって提案したのが始まりだったんだ」
「え……っ」
「でも、そんな単純なことだけじゃなくて、もっと重たいもん背負ってるみたいでさ。放っておけなくなったんだよね」
こずえは、驚いたように息を呑んだ。
そんな彼女の瞳から視線を逸らすことなく、真一郎は、
「誉に何かあったら、俺が守ってやるって決めてんだ。だから、あいつから言われない限り、離れるつもりはない」
そのまま二人、互いを真っ直ぐ捉えたまま沈黙した。
やがて、真一郎が驚き目を見開いた。こずえの瞳から溢れた涙が、ひとつふたつと頬を伝っていた。
「……っよ、よかったよぉぉ……ッ!」
それから、張り詰めていた糸が切れたように、こずえはわんわんと泣いた。
堪らず真一郎は、
「ちょ、ちょい待って!こずえちゃん!?これ俺が泣かせたみたいじゃない!?あれ俺なの!?いや俺か!?」
大層慌てる真一郎を前にこずえは、涙を流しながら安心したように笑っていた。
──やがて、ひとしきり泣いたこずえは鼻をすすり、
「佐野先輩。誉ちゃん、他のクラスの男子からも人気だから、もたもたしてると取られますよ?」
それを聞いて口をあんぐり開けた真一郎が、
「……あーのさ。一つ聞いてもいい?」
「なんです?」
「俺って……そんなに分かりやすい?」
「はい」
秒で返され、顔を掌で覆った真一郎は項垂れた。
「でも、誉ちゃんは気づかない気がします」
「え゙っ」
それはそれで複雑だった。
「で、他の男子から人気っての……マジ?」
「はい。ちなみに、うちのクラスに学年一のイケメンがいるんですけど、文化祭の日に誉ちゃんに告白するって言ってました」
「はぁ!?」
どこのどいつだそのふてぇ野郎は──。
真一郎は、心中穏やかではなかった。しかし、誉とは恋人同士というわけではない。誰に告白され、誰と付き合おうがとやかく言う筋合いはない。
──それが余計に苛立ちを募らせた。
「ちょっと。俺余計にホールやらせたくねぇんだけど」
「なんでですか?佐野先輩見たくないんですか?誉ちゃんの“カワイイコスプレ”」
──悪魔が真一郎にささやいた。
「見たいです」
「ですよね♡」
真面目な顔をした真一郎は、即答した。
こうして、誉のホール担当はあっさり決定したのだった。
***
無事、各自担当が振られ、ホールスタッフ用の衣装を作るため採寸が始まった。
「こずえちゃん、裁縫が趣味だなんて知らなかった」
「だから、誉ちゃんは衣装じゃなくてよかったの!」
こずえがメジャーを手に意気揚々と採寸していく。その姿を眺めながら、適材適所の采配だったのだと納得する。
「そういえば、今日お昼に佐野先輩と話したよ」
「なんですって……!?」
「佐野先輩、誉ちゃんの仮装姿、楽しみにしてるって♪」
「……え?」
あれほど衣装担当を推していたのに──?そんな疑問を抱きつつ、頬を赤らめた誉は俯いた。
「……楽しみ、に……?」
ということは──見に、来てくれるのだ。
真一郎はどんな顔をするだろう、と想像してみる。誉は、淡く灯る期待に胸を焦がした。
