本編(改)
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5.Your birthday(2)
──8月1日。
PM2:00
「よし!始めよう」
誉が、調理開始を宣言した。よく晴れた夏の午後、気分も上々だ。
まずは下ごしらえから。幼い二人には、野菜の水洗いと皮むきを任せた──のだが、
「おりゃおりゃー!」
「ちょっとマイキーッ!?水がはねるーッ!」
万次郎がじゃぶじゃぶと勢いよく野菜を洗うものだから、隣に立つエマがびしょ濡れだ。
「こーら。もっと丁寧に洗いなさいっ」
「イテッ」
誉が万次郎の脳天にベシッとチョップをお見舞いすれば、渋々ながら手を動かしはじめた。
小さな子と料理するのは初めてで少し不安だったが、思っていた以上に手際がよくて、誉は壁の時計を見上げてそっと安堵した。
PM2:30
真一郎は、明司と共にバイクを走らせていた。
峠道を抜け、展望スポットへ来たところでバイクを停める。晴天の下街を見下ろせば、柵の向こうに鮮やかな光景が広がっていた。
「お前からツーリングに誘ってくるなんて珍しいよな。こりゃ雨でも降るかぁ?お前雨男だし」
茶化す真一郎の言葉にふっと鼻で笑った明司は、絶景を見下ろしながら、
「オレが渋谷で誉に会った日、あいつに電話かけたんだって?」
「……は?なんでお前がそれ知ってんだよ」
「誉から聞いた」
明司がそう言うと、徐々に怪訝な顔になる真一郎が、
「あれから誉にまた会ったのか……?」
「いや、電話で聞いた」
「電話ぁ!?な、なんでお前が誉の番号知ってんだよ」
声を張り上げて真一郎が明司に迫れば、
「渋谷で会った時に聞かれたから教えた」
その答えに、真一郎がぐっと言葉を詰まらせた。横目でその反応を楽しむように、明司がにやりと笑う。
「そんなにあの子のこと気になるか?」
「ば……ッ!そ、そそそそんなんじゃねぇしッ」
吃る真一郎に、明司は肩を震わせて笑い、煙草を咥える。
「らしくねぇな。気になる女の尻片っ端から追っかけてたお前が、随分と慎重じゃねぇか」
図星を突かれた真一郎は、唇を結んだまま沈黙する。
それから少し間を置いて、
「……分かんねぇんだ、オレも」
ぽつり、と弱々しい声が溢れた。
「あ?」
「あいつ、医者になろうとしてるんだ。賢いし、本当ならオレみたいな不良と好んで関わり合うような子じゃねぇ……」
「そう思うのは、この間の集会で誉に怒られたからか?」
「……誉の夢、応援したくて友達になったけど、逆に邪魔してないか、って思ってよ……」
そんな弱音に、灰を落としながら明司がふっと笑った。
「それは本人に聞くこったな」
明司が、今頃準備に追われている誰かさんに思いを馳せるように、その紫煙を青空いっぱいに吐き出した。
PM4:30
「お、いいねぇ。きれいにできた!」
ハンバーグづくりは順調に進んでいた。冷蔵庫でタネを寝かせ、いよいよ形を整える工程に入る。
「これオレの!」
「ウチのはこっち!」
各自、思い思いの大きさと形にしたタネを誇らしげに掲げる弟妹。なんて可愛いのだろう。時間よ止まれ──。
「……ちょっと待って。万次郎のナニコレ」
「ウ〇コ」
焼いたら形崩れしそう──。しかし、あえて黙っておくことにする。
「さぁ、そろそろ先輩帰ってくるかな」
フライパンに火を入れた。ハンバーグは、弱火でじっくり焼くのが肝心だ。
「誉。そういえばコーラはどーすんだよ」
万次郎の問いかけに、誉は待ってましたといわんばかりに、
「お肉を焼いた後に使うよ」
満面の笑みで答えた。
PM5:00
「ただいまー」
「おかえりー!」
真一郎が帰宅すると、エマが出迎えに走って来た。
彼女が真一郎の足にしがみついたとき、土間に家族のものではない小さな靴が一足並んでいることに気づく。
「誰が来てんの?」
「誉ちゃんだよー」
「えっ?」
まだ来るには早いはずなのに──驚く真一郎の手を、エマが引っ張る。
「つーか、めっちゃいい匂いすんな」
「えへへ、真兄はやく来てー」
エマに連れられ、真一郎が戸惑いなら家の中へと入っていくと、
「あ、おかえりなさい」
台所に、微笑んだエプロン姿の誉がいた。
「……誉?え、おまえなんでエプロンなんかしてんの?」
「お夕飯つくってます。もう少しでできるので待っててくださいね」
と言う誉を呆けた顔で見つめる。それから真一郎は、目の前のダイニングテーブルを見回した。
五人分の皿にサラダが盛られており、あとはメインを乗せるだけ──というような状態だ。
「え……これもしかして、オレの……?」
誉は、サプライズで誕生日を祝うと言っていた──。
つまりは、そういうことである。
「誕生日ディナーです!」
──誉の眩しい笑顔を浴びた真一郎は、席に着くなりおんおんと泣いていた。
その横ではエマが、誉とあれをやったこれをやったと嬉しそうに教えてくる。
「うぜぇからいい加減泣くのやめろ」
万次郎から辛辣な言葉を放たれようが、構うことなく真一郎はぐしぐしと袖で涙を拭い続けた。
「だってぇ、お前らも手伝ったんだろぉ?兄ちゃん嬉しいんだぁ……ッ」
「真兄、ハナミズ汚いから拭きなよっ」
真一郎が二人の頭をこれでもかと撫でながら涙を流す。
その様子を微笑ましく見ていた誉が、
「じゃ、コーラ入れまーすっ」
そう声を弾ませれば、弟妹二人がキッチンに駆け寄る。いよいよ、本日のメインとも言える食材の登場だ。
「は?コーラ?」
あまりに似つかわしくないワードに、真一郎も思わず席を立った。誉の背に立ち、手元を覗き込む。
「なに作るの?」
「デミグラスソースです」
「……え、コーラで作れんの!?」
「やってみたら意外とうまくいきまして。もちろんケチャップとかしょうゆも入れるんですけどね」
「てか、なんでコーラ……?」
何故こんな一風変わった作り方をしているのか──。思わずそう訊ねると、
「先輩、コーラが好きって聞いたから」
きゅ、と心臓を柔く掴まれたような感覚がした。
感動、幸せ──真一郎は、感情が溢れ出しそうになって堪えた。
──誉の横顔から、目が離せないでいると、
「はい、できた!」
「「「早ッ!」」」
見事きれいに揃った声に、誉が吹き出した。
日が延びるこの季節、夕方5時を回ってもまだまだ明るい。今日一番の賑やかさを見せる佐野家に負けず劣らず、外では蝉時雨が降り注いでいた。
***
「「「誕生日おめでとうー!」」」
「おう、ありがとな!」
クラッカーの紙吹雪がひらりと舞い、佐野家の食卓にぱっと明るさが広がった。
万作も加わり、一層賑やかになる。滅多にないご馳走に、皆笑顔で箸を伸ばした。
「先生。今日は台所貸してくださってありがとうございました」
「いや、なんのなんの」
「マイキーのハンバーグ変ー」
「うっせーな。こんなはずじゃなかったのに……なんでだ?」
万次郎は悔しそうに眉を寄せ、エマは楽しそうにケタケタ笑っている。
やっぱりウ〇コは焼いたら潰れた。
「……みんな、今日はありがとな」
頬をかくように照れ笑いを浮かべる真一郎──。彼を囲む家族の顔は、皆心から嬉しそうな笑顔を浮かべる。
誉のサプライズは、見事大成功を収めたのだった。
***
「──ありがとうございました。送っていただいて」
後部座席から降り、誉はヘルメットを外して差し出した。
真一郎はそれを受け取りながら、軽く笑って目を細める。夏の夜風がふっと二人の間を通り抜けた。
「礼を言うのはこっち。今日はありがとう。サプライズ、すげぇ嬉しかった」
これ以上ない感喜の言葉に、誉も笑顔で応える。
「……なぁ、誉」
名を呼ぶ声は、いつもより少しだけ真剣で──誉が不思議そうに見つめる先の真一郎が、
「オレ、もっとおまえのこと知りたい」
街灯の下、少し躊躇いながらもはっきりと言葉を紡いだ。
唐突な言葉に、誉は目を見開く。
──憶えている。いつだったか、優しい笑顔で“彼”もそう言ったこと──。
心の中の夢と現実の狭間に揺れる。誉は、そんな戸惑いを押し隠すように拳をぎゅっと握った。
「……どんなことが、知りたい……?」
そう訊ねると、真一郎は一呼吸置いて、
「……おまえの誕生日」
返ってきた言葉に、誉の口元が緩んだ。
真一郎も、自分の誕生日が気になっていたんだと思ったら、それが堪らなく嬉しかった。
誕生日を祝いあうのは、とても友達っぽい。これからも、お互いのことをもっと知っていけたら──。
「12月21日、です」
答えた声が、静かな夜空に吸い込まれていく。
この関係が、いつまでも穏やかに続きますように──そう願った。
卍おまけ卍
万作「真一郎」
真一郎「なに、じーちゃん」
万作「嫁をもらうなら、あーゆー娘 にしなさい」
真一郎「……はぁ!?」
万作「青春、かぁ」(ズズッ)
──8月1日。
PM2:00
「よし!始めよう」
誉が、調理開始を宣言した。よく晴れた夏の午後、気分も上々だ。
まずは下ごしらえから。幼い二人には、野菜の水洗いと皮むきを任せた──のだが、
「おりゃおりゃー!」
「ちょっとマイキーッ!?水がはねるーッ!」
万次郎がじゃぶじゃぶと勢いよく野菜を洗うものだから、隣に立つエマがびしょ濡れだ。
「こーら。もっと丁寧に洗いなさいっ」
「イテッ」
誉が万次郎の脳天にベシッとチョップをお見舞いすれば、渋々ながら手を動かしはじめた。
小さな子と料理するのは初めてで少し不安だったが、思っていた以上に手際がよくて、誉は壁の時計を見上げてそっと安堵した。
PM2:30
真一郎は、明司と共にバイクを走らせていた。
峠道を抜け、展望スポットへ来たところでバイクを停める。晴天の下街を見下ろせば、柵の向こうに鮮やかな光景が広がっていた。
「お前からツーリングに誘ってくるなんて珍しいよな。こりゃ雨でも降るかぁ?お前雨男だし」
茶化す真一郎の言葉にふっと鼻で笑った明司は、絶景を見下ろしながら、
「オレが渋谷で誉に会った日、あいつに電話かけたんだって?」
「……は?なんでお前がそれ知ってんだよ」
「誉から聞いた」
明司がそう言うと、徐々に怪訝な顔になる真一郎が、
「あれから誉にまた会ったのか……?」
「いや、電話で聞いた」
「電話ぁ!?な、なんでお前が誉の番号知ってんだよ」
声を張り上げて真一郎が明司に迫れば、
「渋谷で会った時に聞かれたから教えた」
その答えに、真一郎がぐっと言葉を詰まらせた。横目でその反応を楽しむように、明司がにやりと笑う。
「そんなにあの子のこと気になるか?」
「ば……ッ!そ、そそそそんなんじゃねぇしッ」
吃る真一郎に、明司は肩を震わせて笑い、煙草を咥える。
「らしくねぇな。気になる女の尻片っ端から追っかけてたお前が、随分と慎重じゃねぇか」
図星を突かれた真一郎は、唇を結んだまま沈黙する。
それから少し間を置いて、
「……分かんねぇんだ、オレも」
ぽつり、と弱々しい声が溢れた。
「あ?」
「あいつ、医者になろうとしてるんだ。賢いし、本当ならオレみたいな不良と好んで関わり合うような子じゃねぇ……」
「そう思うのは、この間の集会で誉に怒られたからか?」
「……誉の夢、応援したくて友達になったけど、逆に邪魔してないか、って思ってよ……」
そんな弱音に、灰を落としながら明司がふっと笑った。
「それは本人に聞くこったな」
明司が、今頃準備に追われている誰かさんに思いを馳せるように、その紫煙を青空いっぱいに吐き出した。
PM4:30
「お、いいねぇ。きれいにできた!」
ハンバーグづくりは順調に進んでいた。冷蔵庫でタネを寝かせ、いよいよ形を整える工程に入る。
「これオレの!」
「ウチのはこっち!」
各自、思い思いの大きさと形にしたタネを誇らしげに掲げる弟妹。なんて可愛いのだろう。時間よ止まれ──。
「……ちょっと待って。万次郎のナニコレ」
「ウ〇コ」
焼いたら形崩れしそう──。しかし、あえて黙っておくことにする。
「さぁ、そろそろ先輩帰ってくるかな」
フライパンに火を入れた。ハンバーグは、弱火でじっくり焼くのが肝心だ。
「誉。そういえばコーラはどーすんだよ」
万次郎の問いかけに、誉は待ってましたといわんばかりに、
「お肉を焼いた後に使うよ」
満面の笑みで答えた。
PM5:00
「ただいまー」
「おかえりー!」
真一郎が帰宅すると、エマが出迎えに走って来た。
彼女が真一郎の足にしがみついたとき、土間に家族のものではない小さな靴が一足並んでいることに気づく。
「誰が来てんの?」
「誉ちゃんだよー」
「えっ?」
まだ来るには早いはずなのに──驚く真一郎の手を、エマが引っ張る。
「つーか、めっちゃいい匂いすんな」
「えへへ、真兄はやく来てー」
エマに連れられ、真一郎が戸惑いなら家の中へと入っていくと、
「あ、おかえりなさい」
台所に、微笑んだエプロン姿の誉がいた。
「……誉?え、おまえなんでエプロンなんかしてんの?」
「お夕飯つくってます。もう少しでできるので待っててくださいね」
と言う誉を呆けた顔で見つめる。それから真一郎は、目の前のダイニングテーブルを見回した。
五人分の皿にサラダが盛られており、あとはメインを乗せるだけ──というような状態だ。
「え……これもしかして、オレの……?」
誉は、サプライズで誕生日を祝うと言っていた──。
つまりは、そういうことである。
「誕生日ディナーです!」
──誉の眩しい笑顔を浴びた真一郎は、席に着くなりおんおんと泣いていた。
その横ではエマが、誉とあれをやったこれをやったと嬉しそうに教えてくる。
「うぜぇからいい加減泣くのやめろ」
万次郎から辛辣な言葉を放たれようが、構うことなく真一郎はぐしぐしと袖で涙を拭い続けた。
「だってぇ、お前らも手伝ったんだろぉ?兄ちゃん嬉しいんだぁ……ッ」
「真兄、ハナミズ汚いから拭きなよっ」
真一郎が二人の頭をこれでもかと撫でながら涙を流す。
その様子を微笑ましく見ていた誉が、
「じゃ、コーラ入れまーすっ」
そう声を弾ませれば、弟妹二人がキッチンに駆け寄る。いよいよ、本日のメインとも言える食材の登場だ。
「は?コーラ?」
あまりに似つかわしくないワードに、真一郎も思わず席を立った。誉の背に立ち、手元を覗き込む。
「なに作るの?」
「デミグラスソースです」
「……え、コーラで作れんの!?」
「やってみたら意外とうまくいきまして。もちろんケチャップとかしょうゆも入れるんですけどね」
「てか、なんでコーラ……?」
何故こんな一風変わった作り方をしているのか──。思わずそう訊ねると、
「先輩、コーラが好きって聞いたから」
きゅ、と心臓を柔く掴まれたような感覚がした。
感動、幸せ──真一郎は、感情が溢れ出しそうになって堪えた。
──誉の横顔から、目が離せないでいると、
「はい、できた!」
「「「早ッ!」」」
見事きれいに揃った声に、誉が吹き出した。
日が延びるこの季節、夕方5時を回ってもまだまだ明るい。今日一番の賑やかさを見せる佐野家に負けず劣らず、外では蝉時雨が降り注いでいた。
***
「「「誕生日おめでとうー!」」」
「おう、ありがとな!」
クラッカーの紙吹雪がひらりと舞い、佐野家の食卓にぱっと明るさが広がった。
万作も加わり、一層賑やかになる。滅多にないご馳走に、皆笑顔で箸を伸ばした。
「先生。今日は台所貸してくださってありがとうございました」
「いや、なんのなんの」
「マイキーのハンバーグ変ー」
「うっせーな。こんなはずじゃなかったのに……なんでだ?」
万次郎は悔しそうに眉を寄せ、エマは楽しそうにケタケタ笑っている。
やっぱりウ〇コは焼いたら潰れた。
「……みんな、今日はありがとな」
頬をかくように照れ笑いを浮かべる真一郎──。彼を囲む家族の顔は、皆心から嬉しそうな笑顔を浮かべる。
誉のサプライズは、見事大成功を収めたのだった。
***
「──ありがとうございました。送っていただいて」
後部座席から降り、誉はヘルメットを外して差し出した。
真一郎はそれを受け取りながら、軽く笑って目を細める。夏の夜風がふっと二人の間を通り抜けた。
「礼を言うのはこっち。今日はありがとう。サプライズ、すげぇ嬉しかった」
これ以上ない感喜の言葉に、誉も笑顔で応える。
「……なぁ、誉」
名を呼ぶ声は、いつもより少しだけ真剣で──誉が不思議そうに見つめる先の真一郎が、
「オレ、もっとおまえのこと知りたい」
街灯の下、少し躊躇いながらもはっきりと言葉を紡いだ。
唐突な言葉に、誉は目を見開く。
──憶えている。いつだったか、優しい笑顔で“彼”もそう言ったこと──。
心の中の夢と現実の狭間に揺れる。誉は、そんな戸惑いを押し隠すように拳をぎゅっと握った。
「……どんなことが、知りたい……?」
そう訊ねると、真一郎は一呼吸置いて、
「……おまえの誕生日」
返ってきた言葉に、誉の口元が緩んだ。
真一郎も、自分の誕生日が気になっていたんだと思ったら、それが堪らなく嬉しかった。
誕生日を祝いあうのは、とても友達っぽい。これからも、お互いのことをもっと知っていけたら──。
「12月21日、です」
答えた声が、静かな夜空に吸い込まれていく。
この関係が、いつまでも穏やかに続きますように──そう願った。
卍おまけ卍
万作「真一郎」
真一郎「なに、じーちゃん」
万作「嫁をもらうなら、あーゆー
真一郎「……はぁ!?」
万作「青春、かぁ」(ズズッ)
