番外編
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恋文
*コタンで暮らしていた時のお話(リパ→杉 原作程度の描写有)
菊乃が最初に気づいたのは、フチが杉元へ「孫を嫁にもらってくれ」と乞うたことだった。アシㇼパに、フチの言葉の意味を問うもハッキリせず。──ある日、こっそりマカナックルから聞いてやっと事情を理解した──。
その度に、アシㇼパは困った顔をしつつ受け流すか話を逸らすかで、耳を赤く染めてそわそわと落ち着きがなくなる。
その一途で密かな恋心を、今日も静かに見守るのが菊乃の日課だ。
「──それは、ケと読むんだよな」
鯉登宛ての手紙をしたためていると、不意にアシㇼパの指が手紙の一文を指した。初夏の花が華麗に咲き始め──。そんな小樽の便りを綴っていた。
「はい。よくご存知ですね」
「刺青の暗号に入っていた漢字だったから、覚えたんだ」
アイヌが集めた莫大な砂金の行方──その鍵となった刺青は、監獄囚人の身体に彫られていたという。
「これも分かるぞ。シ、とホ、だ」
「次、はツギとも読みますよ。歩、はアルくという意味の漢字ですね」
「……やはり漢字は難しいな。何故ひとつの文字に多数の読み方をつけるんだ」
「んー、なんでだろ……?そっちのほうが便利だった、とか?」
「でも覚えるのが大変だっ」
降参。とでも言うように、アシㇼパは大の字に寝転がった。その姿に穏やかな笑みを漏らし、菊乃は改めて筆を握り直す。
「……そうだな。菊乃の言う通りとても便利だ。こうやって遠く離れていても想いを伝えられる。……形に残せる」
菊乃は、思わず振り返る。天井を見つめ呟いたアシㇼパを窺えば、何か思い馳せているように見えた。
それは、未来への憂いか。それとも──。
「……想いを文字に乗せると、自分の気持ちに素直になれるんですよ」
「……素直?」
「口に出すには憚られる考えや想いも、文字に乗せてしまえば不思議と伝えられちゃう、ってことです」
「そういうもの、なのか?……手紙とは、私が思っている以上に有能だな」
「そうなんですよ。気持ちを贈る恋文だって……そうだ!」
ぱちり、と菊乃の瞳が弾けるように瞬いた。口元に浮かんだ笑みは、どこか企みを含んでいる。
ふふ、と喉奥で小さく笑うと、筆をそっと置いた。
「アシㇼパさんもお手紙書いてみませんか?──杉本さん宛に」
ぴくり、とアシㇼパの肩が跳ねた。時が止まったかのように静まり返る中、みるみるうちに耳の先が赤く染まり、瞬きの速度が上がる。
「……ッな!?ななにを言ってるんだ!!す、す杉元は相棒だぞ!?こ、恋文なんて──!」
「あ、恋文ではなくて。今日こんなことがあったとか、他愛のないことでもいいんです。せっかくですから、アシㇼパさんにとって杉元さんはどんな存在なのか、改めて考えながら思ったことをそのまま綴れば、きっと素敵なお手紙になります」
「どんな、存在……」
「ね?」
暫し思案するアシㇼパは、菊乃の手元を見つめている。連なる文字を捉える青く澄んだその目が、興味と期待を寄せ輝いている──そう菊乃には見えた。
──翌日。
差し出された手紙を前に、杉元は困惑を隠しきれぬ様子だった。ずい、と腕を目一杯伸ばすアシㇼパは、耳を真っ赤に染めながら顔を俯かせている。
「……っえ?手紙?……アシㇼパさんが、俺に……?」
「いっ、いらないなら捨てる……ッ!」
「ぇえッ!?待って待って!?いるいる!!」
手に力がこもって手紙がグシャリと音を立てると、杉元は慌ててそれを掴みにかかった。その瞬間、アシㇼパが弾かれるように顔を上げる。──ようやく二人の視線が交わった。
「菊乃さんと何かやってると思ったら……、いつの間に文字覚えたの?」
「ほ、ほんの少しだけだ……。あんまり、上手く書けなかったし」
「そうだとしても、一生懸命書いてくれたんでしょ?すごく嬉しい……。ありがとう、アシㇼパさん」
「ん……」
「今、読んでみてもいいかい?」
その甘いやりとりを、チセの塀の影から覗く菊乃は、歓喜の悲鳴が漏れぬよう口を押さえた。自分の閃きに己自身で褒め称える。頭の中は、拍手喝采お祭り騒ぎだ。
そうこうしているうちに、杉元は手紙の封を開けはじめた。そこで菊乃は、はっと息を呑む。つい、二人のやり取りに夢中になって失念していた。あの手紙には、ひとつ懸念があって──。
「…………んん?」
杉元の唸りが漏れ聞こえた。封筒から取り出した手紙を、顔を顰めながら食い入るように凝視している。
──手紙には、円で囲われた複数の漢字と小さなかな文字が不規則に散りばめられていた。
「……なんかこれ、刺青人皮の暗号に似てない……?」
「あっ、暗号が解けなければ読めないからな、杉元ッ!」
「え……っ、うそぉッ!?」
あまりの衝撃に上がった驚きの声が、遠く山の向こうで木霊する。
杉元が、無事暗号を解読できたかどうかは……──また別のお話。
アシㇼパさんの手紙
side storyで答えが分かります。解読してみたい方は、挑戦してからお読みくださいませ
🎏side story🎏
「……これ、刺青人皮の暗号に似とらんか……?」
届いた手紙を開いた鯉登が、開口一番に言った。漢字やかな文字だらけの奇妙なそれは、本当に菊乃が書いたのか疑わしいものだった。
「は?刺青人皮……?」
そっと鯉登の手元を覗き込んだ月島も、それが見えた瞬間、目を細めて怪訝な顔付きに変わる。
「……おい。なんだこの悪趣味な悪戯はッ。私に不満があるならはっきり言え月島ッ!」
「い、いえ、私じゃありません……。正真正銘、今日届いた菊乃さんからのお手紙で間違いありません」
半眼にへの字口で睨む上官を前に、困惑気味の月島は真っ直ぐに答えた。納得いかぬと言わんばかりに疑いの目を止めない鯉登は、しかし改めてもう一度手紙へと視線を戻す。
「……確かに、菊乃の字、か……。どういうつもりだ?」
「検討もつきませんね……。杉元たちにあの暗号のことを聞いたのか。余程重要なことが書かれ──……いや、暇を持て余し遊んでいる可能性もあるか」
「遊び……?」
「悪戯がお好きな方ですから、少尉殿を試しておられるのかも──と」
月島の言葉に、鯉登の眉がぴくりと跳ねた。
揶揄い半分で寄越したとでもいうのか。こんな事態の中で何を呑気な──。
呆れ返り、しかし同時に、どこか愉しげな灯火が鯉登の瞳の奥で揺れていた。
「……ふん。成程。解いてみろという訳だな?……いいだろう、受けっ立ッ!」
がさり、と音を立てて手紙を広げ直す。机上に叩きつけるように置き、腕を組んだ。真剣な眼差しが、奇妙な漢字を追い始める。
「刺青人皮の暗号は確か……のっぺらぼうの名前が解読の鍵となっていたな?」
「はい。ホロケウ……なんとかだった気が」
「流石に全く同じ解読方法とは思えんが……。暗号が記されているものはこれ一枚だけだし」
鯉登は顎に手を当て、紙面を睨み据える。円で囲われた文字が、等間隔でもなく、無造作な配置で散らばっている。囲い文字の横には、必ず小さなかな文字が一つないし二つ添えられていて、それが解読の道筋となるのか、はたまたそれ自体が意味を成すものなのか──思考の中で藻掻く程に、謎の深みにはまっていくばかり。
指先で一つ、また一つと円をなぞってみる。
「……あ。そういえば、封筒の宛名に薄いマルが書かれていたの、お気づきになりましたか?」
「ん?あぁ、字が曲がらぬよう書いた下書き線ではないのか……あっ!」
篠遠十一子様──。封筒に書かれている鯉登の偽名には、限りなく薄いマル線が一文字ずつに描かれていた。一見すれば、下書き線の消し忘れ。──しかし、それは手元の暗号と容易に結びつくものだった。
「はぁーん。見えてきたぞ月島ァ!」
「それは何より」
「篠・遠・十・一・子・様……あるある。この六文字だけを抜き出してみればよいのだな?」
該当する文字を、名前の順に追っていった。小さく添えられたかな文字が、遂にその意味を成していく。
──拾い出した文字を並べ、ゆっくりと読み上げた。
「……わ・た・し・の…………イ・コロ……?」
「イコロ……?」
謎の単語を前に、思わず二人が視線を交わす。
「……石ころ?」
鯉登が、似ている言葉を無理矢理引き出せば、
「……わたしの石ころ……?」
完成した解読文を唱える月島は、これは見当違いだろうと言わんばかりに訝しげだ。
「…………っ、解読できておらんぞ月島ァッ!!」
「……ほらほら、頑張ってください。諦めるには早いですよ」
「きぇぇぇッ!」
パンパンと手拍子で煽る月島。
──何事も無かったかのように振る舞う部下を、鯉登は恨めしそうに睨みつけたのだった。
おわり
*答え合わせ*
*コタンで暮らしていた時のお話(リパ→杉 原作程度の描写有)
菊乃が最初に気づいたのは、フチが杉元へ「孫を嫁にもらってくれ」と乞うたことだった。アシㇼパに、フチの言葉の意味を問うもハッキリせず。──ある日、こっそりマカナックルから聞いてやっと事情を理解した──。
その度に、アシㇼパは困った顔をしつつ受け流すか話を逸らすかで、耳を赤く染めてそわそわと落ち着きがなくなる。
その一途で密かな恋心を、今日も静かに見守るのが菊乃の日課だ。
「──それは、ケと読むんだよな」
鯉登宛ての手紙をしたためていると、不意にアシㇼパの指が手紙の一文を指した。初夏の花が華麗に咲き始め──。そんな小樽の便りを綴っていた。
「はい。よくご存知ですね」
「刺青の暗号に入っていた漢字だったから、覚えたんだ」
アイヌが集めた莫大な砂金の行方──その鍵となった刺青は、監獄囚人の身体に彫られていたという。
「これも分かるぞ。シ、とホ、だ」
「次、はツギとも読みますよ。歩、はアルくという意味の漢字ですね」
「……やはり漢字は難しいな。何故ひとつの文字に多数の読み方をつけるんだ」
「んー、なんでだろ……?そっちのほうが便利だった、とか?」
「でも覚えるのが大変だっ」
降参。とでも言うように、アシㇼパは大の字に寝転がった。その姿に穏やかな笑みを漏らし、菊乃は改めて筆を握り直す。
「……そうだな。菊乃の言う通りとても便利だ。こうやって遠く離れていても想いを伝えられる。……形に残せる」
菊乃は、思わず振り返る。天井を見つめ呟いたアシㇼパを窺えば、何か思い馳せているように見えた。
それは、未来への憂いか。それとも──。
「……想いを文字に乗せると、自分の気持ちに素直になれるんですよ」
「……素直?」
「口に出すには憚られる考えや想いも、文字に乗せてしまえば不思議と伝えられちゃう、ってことです」
「そういうもの、なのか?……手紙とは、私が思っている以上に有能だな」
「そうなんですよ。気持ちを贈る恋文だって……そうだ!」
ぱちり、と菊乃の瞳が弾けるように瞬いた。口元に浮かんだ笑みは、どこか企みを含んでいる。
ふふ、と喉奥で小さく笑うと、筆をそっと置いた。
「アシㇼパさんもお手紙書いてみませんか?──杉本さん宛に」
ぴくり、とアシㇼパの肩が跳ねた。時が止まったかのように静まり返る中、みるみるうちに耳の先が赤く染まり、瞬きの速度が上がる。
「……ッな!?ななにを言ってるんだ!!す、す杉元は相棒だぞ!?こ、恋文なんて──!」
「あ、恋文ではなくて。今日こんなことがあったとか、他愛のないことでもいいんです。せっかくですから、アシㇼパさんにとって杉元さんはどんな存在なのか、改めて考えながら思ったことをそのまま綴れば、きっと素敵なお手紙になります」
「どんな、存在……」
「ね?」
暫し思案するアシㇼパは、菊乃の手元を見つめている。連なる文字を捉える青く澄んだその目が、興味と期待を寄せ輝いている──そう菊乃には見えた。
──翌日。
差し出された手紙を前に、杉元は困惑を隠しきれぬ様子だった。ずい、と腕を目一杯伸ばすアシㇼパは、耳を真っ赤に染めながら顔を俯かせている。
「……っえ?手紙?……アシㇼパさんが、俺に……?」
「いっ、いらないなら捨てる……ッ!」
「ぇえッ!?待って待って!?いるいる!!」
手に力がこもって手紙がグシャリと音を立てると、杉元は慌ててそれを掴みにかかった。その瞬間、アシㇼパが弾かれるように顔を上げる。──ようやく二人の視線が交わった。
「菊乃さんと何かやってると思ったら……、いつの間に文字覚えたの?」
「ほ、ほんの少しだけだ……。あんまり、上手く書けなかったし」
「そうだとしても、一生懸命書いてくれたんでしょ?すごく嬉しい……。ありがとう、アシㇼパさん」
「ん……」
「今、読んでみてもいいかい?」
その甘いやりとりを、チセの塀の影から覗く菊乃は、歓喜の悲鳴が漏れぬよう口を押さえた。自分の閃きに己自身で褒め称える。頭の中は、拍手喝采お祭り騒ぎだ。
そうこうしているうちに、杉元は手紙の封を開けはじめた。そこで菊乃は、はっと息を呑む。つい、二人のやり取りに夢中になって失念していた。あの手紙には、ひとつ懸念があって──。
「…………んん?」
杉元の唸りが漏れ聞こえた。封筒から取り出した手紙を、顔を顰めながら食い入るように凝視している。
──手紙には、円で囲われた複数の漢字と小さなかな文字が不規則に散りばめられていた。
「……なんかこれ、刺青人皮の暗号に似てない……?」
「あっ、暗号が解けなければ読めないからな、杉元ッ!」
「え……っ、うそぉッ!?」
あまりの衝撃に上がった驚きの声が、遠く山の向こうで木霊する。
杉元が、無事暗号を解読できたかどうかは……──また別のお話。
アシㇼパさんの手紙

side storyで答えが分かります。解読してみたい方は、挑戦してからお読みくださいませ
🎏side story🎏
「……これ、刺青人皮の暗号に似とらんか……?」
届いた手紙を開いた鯉登が、開口一番に言った。漢字やかな文字だらけの奇妙なそれは、本当に菊乃が書いたのか疑わしいものだった。
「は?刺青人皮……?」
そっと鯉登の手元を覗き込んだ月島も、それが見えた瞬間、目を細めて怪訝な顔付きに変わる。
「……おい。なんだこの悪趣味な悪戯はッ。私に不満があるならはっきり言え月島ッ!」
「い、いえ、私じゃありません……。正真正銘、今日届いた菊乃さんからのお手紙で間違いありません」
半眼にへの字口で睨む上官を前に、困惑気味の月島は真っ直ぐに答えた。納得いかぬと言わんばかりに疑いの目を止めない鯉登は、しかし改めてもう一度手紙へと視線を戻す。
「……確かに、菊乃の字、か……。どういうつもりだ?」
「検討もつきませんね……。杉元たちにあの暗号のことを聞いたのか。余程重要なことが書かれ──……いや、暇を持て余し遊んでいる可能性もあるか」
「遊び……?」
「悪戯がお好きな方ですから、少尉殿を試しておられるのかも──と」
月島の言葉に、鯉登の眉がぴくりと跳ねた。
揶揄い半分で寄越したとでもいうのか。こんな事態の中で何を呑気な──。
呆れ返り、しかし同時に、どこか愉しげな灯火が鯉登の瞳の奥で揺れていた。
「……ふん。成程。解いてみろという訳だな?……いいだろう、受けっ立ッ!」
がさり、と音を立てて手紙を広げ直す。机上に叩きつけるように置き、腕を組んだ。真剣な眼差しが、奇妙な漢字を追い始める。
「刺青人皮の暗号は確か……のっぺらぼうの名前が解読の鍵となっていたな?」
「はい。ホロケウ……なんとかだった気が」
「流石に全く同じ解読方法とは思えんが……。暗号が記されているものはこれ一枚だけだし」
鯉登は顎に手を当て、紙面を睨み据える。円で囲われた文字が、等間隔でもなく、無造作な配置で散らばっている。囲い文字の横には、必ず小さなかな文字が一つないし二つ添えられていて、それが解読の道筋となるのか、はたまたそれ自体が意味を成すものなのか──思考の中で藻掻く程に、謎の深みにはまっていくばかり。
指先で一つ、また一つと円をなぞってみる。
「……あ。そういえば、封筒の宛名に薄いマルが書かれていたの、お気づきになりましたか?」
「ん?あぁ、字が曲がらぬよう書いた下書き線ではないのか……あっ!」
篠遠十一子様──。封筒に書かれている鯉登の偽名には、限りなく薄いマル線が一文字ずつに描かれていた。一見すれば、下書き線の消し忘れ。──しかし、それは手元の暗号と容易に結びつくものだった。
「はぁーん。見えてきたぞ月島ァ!」
「それは何より」
「篠・遠・十・一・子・様……あるある。この六文字だけを抜き出してみればよいのだな?」
該当する文字を、名前の順に追っていった。小さく添えられたかな文字が、遂にその意味を成していく。
──拾い出した文字を並べ、ゆっくりと読み上げた。
「……わ・た・し・の…………イ・コロ……?」
「イコロ……?」
謎の単語を前に、思わず二人が視線を交わす。
「……石ころ?」
鯉登が、似ている言葉を無理矢理引き出せば、
「……わたしの石ころ……?」
完成した解読文を唱える月島は、これは見当違いだろうと言わんばかりに訝しげだ。
「…………っ、解読できておらんぞ月島ァッ!!」
「……ほらほら、頑張ってください。諦めるには早いですよ」
「きぇぇぇッ!」
パンパンと手拍子で煽る月島。
──何事も無かったかのように振る舞う部下を、鯉登は恨めしそうに睨みつけたのだった。
おわり
*答え合わせ*
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