本編
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中央(四)
白石は、全身にまとわりつく鈍い痛みに悶えた。中でも、頭は鐘つきにでも打たれたように痛み、額から後頭部にかけてズキズキと響く。
ぼんやりした意識のまま薄っすら目を開けると、そこは見慣れぬ路地裏だった。薄暗い道の上に転がされ、砂利の冷たさが頬にこびりついている。
──今日は朝から業者に扮して陸軍省に潜入していた。兵器局を目指し、奥へ奥へと歩を進めて……その先の記憶が曖昧だ。
確か、廊下で「何用か」と声をかけられた。偶然にも相手が自分を知る人物で、あっさり正体が割れてしまったのだ。慌てて逃げるうちに、角を曲がりざま顔面に衝撃──そこからは真っ暗闇。
あぁ、ヘマをしたのだ。と気付く。
一連の情報収集は、勿論首謀者の動きを把握するためだが、時間稼ぎでもあった。杉本に送った電報が第七師団の鯉登たちにも伝われば、必ず東京まで捜索に来るはず。菊乃を引き渡し、掴んだ情報を彼女のために役立ててもらえれば──それで借りを返す算段だったのに。
「──い。おい起きろッ、白石由竹!!」
霞んだ音が、段々とはっきり大きくなった。耳に懐かしい声が響き、身体を揺さぶられる。意識が少しずつ浮上し、白石が泥だらけの顔を上げると、そこには逞しい影があった。
「……ん、だぁ……?いって……」
頭を押さえながら呻く。額には特大のたん瘤が膨らみ、その下から涙目で見上げた。その瞬間、視界に懐かしい顔が映る。
「すっ……杉本、佐一……!」
「大丈夫か、白石っ!?」
「え、アシㇼパちゃんまで……!?」
無様な自分に差し伸べられた手。放心したのち感極まった白石は、わーっと両腕を広げ二人に迫る──が、次の瞬間、杉元とアシㇼパの見事な同時蹴りが炸裂した。
「別れの挨拶も真面に出来ないのか、お前は!」
「黙って姿くらましやがって。アシㇼパさんに謝れ!」
「ああっ、痛いイタイっ!でも悪くないかもっ」
そんな変態極まりない発言には一切触れず、白石がひっくり返る脇で、
「おい白石!菊乃はどうしたッ!!一緒だたのだろうッ!?」
「へぁっ……あっ!?こ、鯉登ちゃあん!?」
「足止めしているんじゃなったのか!!」
かつての敵を前にして、白石は狼狽する。しかし、彼等がここにいるということは、間違いなく電報の内容が伝わったのだと理解する。今や、心強い味方と言ってもいい。
「おう、菊乃ちゃんは宿で待機して──」
「先刻、その宿に行ったんだが菊乃さんはいなかった」
鯉登の脇で構える月島が、言葉を遮り告げた。
「う、そ。……あれほど出るなって言っといたのに……っ」
白石の顔が青ざめる。
「やはり、先手を取られたということか」
「待て。有坂中将が芹沢に接触できていれば……!このあたりに郵便局は!?」
鯉登の問いかけに、月島が周囲を見渡し指差した。
「この先の角に分局があります!」
一行は、郵便局と掲げられた建物へ飛び込んだ。既に営業時間は過ぎ、締めの作業をしていた職員がぎょっと目を見開いた。鯉登が陸軍省の有坂中将へ至急つなぐよう迫ると、職員が慌てて交換手を呼びに走った。杉元とアシㇼパ、白石が固唾を飲んで見守るなか、鯉登が差し出された受話器を取る。
「──待っていたよぉ鯉登くんッ!」
有坂の弾むような声が、受話器越しに響いた。
「芹沢だが未だに捕まらなくてねッ!菊乃くんはどうだったッ!?」
「それが、宿は見つけたのですがもぬけの殻で……ッ」
「それはよくないなッ!」
「芹沢の行方に心当たりは!?」
鯉登の声は焦りに震え、受話器を握る手に力がこもる。ここへ向かう道中、有坂から何度も芹沢へ呼び出しを試みたが、空振りに終わっていた。
「思いつく場所は当たったんだがッ……ちょっと君ィッ!」
むむむと思考を走らせる有坂が、電話口で誰かを呼び止めた。暫し押し問答の気配が続き──やがて一転、決然とした声が届く。
「──芝浦の鉄道倉庫だッ!」
「芝浦……?」
「兵器局創設と同時に管轄が移った武器倉庫だよッ。今は殆ど使われておらんはずだッ!」
その言葉を聞き終えるや否や、鯉登は受話器を叩きつけるように置いて外へと飛び出した。
「あっ!鯉登少尉!!」
月島も、弾丸の如く消え去った後ろ姿を慌てて追いかけた。
「俺たちも行こう!」
杉本の言葉を号令に、アシㇼパは座り込んでいた白石の腕を掴み、必死に立ち上がらせる。
「走れるか?白石!」
「おうよ……!菊乃ちゃんが待ってんだ。意地でもついて行くぜッ!」
四人は闇夜に沈もうとする街路を駆け抜け、鯉登の背を追った。
全てに決着をつけるべく、芝浦へ。
白石は、全身にまとわりつく鈍い痛みに悶えた。中でも、頭は鐘つきにでも打たれたように痛み、額から後頭部にかけてズキズキと響く。
ぼんやりした意識のまま薄っすら目を開けると、そこは見慣れぬ路地裏だった。薄暗い道の上に転がされ、砂利の冷たさが頬にこびりついている。
──今日は朝から業者に扮して陸軍省に潜入していた。兵器局を目指し、奥へ奥へと歩を進めて……その先の記憶が曖昧だ。
確か、廊下で「何用か」と声をかけられた。偶然にも相手が自分を知る人物で、あっさり正体が割れてしまったのだ。慌てて逃げるうちに、角を曲がりざま顔面に衝撃──そこからは真っ暗闇。
あぁ、ヘマをしたのだ。と気付く。
一連の情報収集は、勿論首謀者の動きを把握するためだが、時間稼ぎでもあった。杉本に送った電報が第七師団の鯉登たちにも伝われば、必ず東京まで捜索に来るはず。菊乃を引き渡し、掴んだ情報を彼女のために役立ててもらえれば──それで借りを返す算段だったのに。
「──い。おい起きろッ、白石由竹!!」
霞んだ音が、段々とはっきり大きくなった。耳に懐かしい声が響き、身体を揺さぶられる。意識が少しずつ浮上し、白石が泥だらけの顔を上げると、そこには逞しい影があった。
「……ん、だぁ……?いって……」
頭を押さえながら呻く。額には特大のたん瘤が膨らみ、その下から涙目で見上げた。その瞬間、視界に懐かしい顔が映る。
「すっ……杉本、佐一……!」
「大丈夫か、白石っ!?」
「え、アシㇼパちゃんまで……!?」
無様な自分に差し伸べられた手。放心したのち感極まった白石は、わーっと両腕を広げ二人に迫る──が、次の瞬間、杉元とアシㇼパの見事な同時蹴りが炸裂した。
「別れの挨拶も真面に出来ないのか、お前は!」
「黙って姿くらましやがって。アシㇼパさんに謝れ!」
「ああっ、痛いイタイっ!でも悪くないかもっ」
そんな変態極まりない発言には一切触れず、白石がひっくり返る脇で、
「おい白石!菊乃はどうしたッ!!一緒だたのだろうッ!?」
「へぁっ……あっ!?こ、鯉登ちゃあん!?」
「足止めしているんじゃなったのか!!」
かつての敵を前にして、白石は狼狽する。しかし、彼等がここにいるということは、間違いなく電報の内容が伝わったのだと理解する。今や、心強い味方と言ってもいい。
「おう、菊乃ちゃんは宿で待機して──」
「先刻、その宿に行ったんだが菊乃さんはいなかった」
鯉登の脇で構える月島が、言葉を遮り告げた。
「う、そ。……あれほど出るなって言っといたのに……っ」
白石の顔が青ざめる。
「やはり、先手を取られたということか」
「待て。有坂中将が芹沢に接触できていれば……!このあたりに郵便局は!?」
鯉登の問いかけに、月島が周囲を見渡し指差した。
「この先の角に分局があります!」
一行は、郵便局と掲げられた建物へ飛び込んだ。既に営業時間は過ぎ、締めの作業をしていた職員がぎょっと目を見開いた。鯉登が陸軍省の有坂中将へ至急つなぐよう迫ると、職員が慌てて交換手を呼びに走った。杉元とアシㇼパ、白石が固唾を飲んで見守るなか、鯉登が差し出された受話器を取る。
「──待っていたよぉ鯉登くんッ!」
有坂の弾むような声が、受話器越しに響いた。
「芹沢だが未だに捕まらなくてねッ!菊乃くんはどうだったッ!?」
「それが、宿は見つけたのですがもぬけの殻で……ッ」
「それはよくないなッ!」
「芹沢の行方に心当たりは!?」
鯉登の声は焦りに震え、受話器を握る手に力がこもる。ここへ向かう道中、有坂から何度も芹沢へ呼び出しを試みたが、空振りに終わっていた。
「思いつく場所は当たったんだがッ……ちょっと君ィッ!」
むむむと思考を走らせる有坂が、電話口で誰かを呼び止めた。暫し押し問答の気配が続き──やがて一転、決然とした声が届く。
「──芝浦の鉄道倉庫だッ!」
「芝浦……?」
「兵器局創設と同時に管轄が移った武器倉庫だよッ。今は殆ど使われておらんはずだッ!」
その言葉を聞き終えるや否や、鯉登は受話器を叩きつけるように置いて外へと飛び出した。
「あっ!鯉登少尉!!」
月島も、弾丸の如く消え去った後ろ姿を慌てて追いかけた。
「俺たちも行こう!」
杉本の言葉を号令に、アシㇼパは座り込んでいた白石の腕を掴み、必死に立ち上がらせる。
「走れるか?白石!」
「おうよ……!菊乃ちゃんが待ってんだ。意地でもついて行くぜッ!」
四人は闇夜に沈もうとする街路を駆け抜け、鯉登の背を追った。
全てに決着をつけるべく、芝浦へ。
