本編
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アイヌ(二)
随分と森の奥へ入った頃、不意に視界の端に一つの明かりが浮かび上がった。──風に揺れる、焚火の炎だ。
鯉登と月島が瞬時に手網をそちらに向ける。その光は、木々の影を照らし、朧げながらも傍にある小屋の輪郭をも映し出していた。
「もう近いな」
鯉登が小声で呟くと、
「火を起こした奴はどこ行った……?」
そう言って、月島が慎重に周囲を見渡した。
確かに火はしっかりと燃え続けている。つまり、つい先ほどまで誰かがいたということ。菊乃も不安げに辺りを見回した。葉の擦れる音すら、妙に大きく聞こえてきて不気味さが強まった。
「──動くな」
その時、すぐ傍で鋭く低い声が響いた。びくりと身体を強張らせた菊乃が振り向くと、焚火の光の中に浮かび上がる男の顔があった。月島と同じ軍帽を被っていて、その顔は傷に覆われ瞳には鋭い光が宿る。まるで、野に生きる獣のような、むき出しの殺気。
菊乃は息を呑んだ。男が構える銃口は、鯉登の背に突きつけられている。
「っお前まさか、杉元佐一……っ!?」
「生きていたのか……!」
鯉登が驚きに打たれたように言い放ち、月島も随分と動揺していた。菊乃が鯉登の顔を窺い見ると、目を見開き「杉本」と呼んだ彼を凝視している。
「テメェらの上官のお陰で死にかけたがな……今更何の用だ」
杉元が吐き捨てるように言う。その声音には、奥深く根を張った憎しみの色が漂う。銃口の先に込められた怒りに、鯉登の背筋も強張っていた。
菊乃は、咄嗟に身を乗り出し、
「待ってください!私たち、話をしに来ただけなんです!どうか銃を下ろして……!」
そこではじめて菊乃の姿を認めたらしい杉本が、驚き目を瞠った。
「……女?」
「杉本やめろ!」
その瞬間、もう一つの声が夜気を裂いた。杉元の背後の暗がりから、一歩、また一歩と近づいてきたのは、アイヌの装束に身を包んだ少女だった。
「それは必要ない」
彼女の瞳とその言葉には、強い意志が込められている。
「アシㇼパさん、下がってて。コイツらまだ諦めてなかったかもしれない」
杉元はまだ警戒を解かない。菊乃は堪らず馬から滑り降りた。
「菊乃……!」
鯉登の制止を振り切って、菊乃は杉元の前に進み出た。
「お二人は、私のことを連れてきてくださっただけです。用があるのは私です……。アシㇼパさんに、お願いがあって参りました」
その言葉に、杉元とアシㇼパの視線が菊乃に注がれる。強く張り詰めた空気が、僅かに解けるのを感じた。
「分かった。話を聞こう」
「アシㇼパさん……!」
「構わない。杉本だって分かってるだろ?敵意はない」
そう言って、アシㇼパが静かに歩み寄ってくる。菊乃は、アイヌの少女が無事だったことにほっとした。焚火の光に照らされたアシㇼパの瞳は、深い藍色の夜に浮かぶ星のようだった。
「アシㇼパだ」
その堂々とした姿に、菊乃も背筋を伸ばして応える。
「小樽 魁燿亭から参りました、菊乃と申します」
そう名乗った瞬間、「えっ!?」と驚く声と共に杉元から殺気が消える。
「魁燿、亭……って、あの?有名な、料亭の?」
僅かに狼狽えながら言う杉本に、菊乃は思わず微笑み、深く一礼した。
「ご存知いただき、光栄です」
その柔らかな返答に、杉元は毒気を抜かれたように口を開けたまま立ち尽くしていた。彼の手元から、小銃の銃口がゆっくりと地面へ下ろされる。
「杉本、知ってるのか?」
「俺もこの間街で聞いたばっかなんだけど、とーっても高級で、とーっても美味しい料理が出てくる店らしいよ」
不意に口調が柔らかくなった杉元に、菊乃の目が瞬いた。先程まで、あれ程鋭い眼光を向けていた男とは思えない姿だった。
「そうなのか!そこでは脳みそ食べられるか?菊乃」
「のっ……脳みそ……?」
いきなりの質問に、菊乃は小さく声を裏返した。そんな料理、記憶にない。
「アシㇼパさん、高級料亭だよ~?俺らじゃ手が出せないってぇ~」
杉元が笑いながら肩を竦める。
それから、ふと何かを期待する視線が、二人から鯉登へ向けられた。
「……あそこで脳みそは出んぞ」
鯉登が無表情のまま、ぽつりと呟くと、
「「なーんだ」」
アシㇼパと杉元が揃って落胆する。気づけば、緊迫した霧はすっかり晴れていた。
「杉本。俺たちはもう金塊も権利書も追ってはいない。一先ず、話だけ聞いてくれ」
ずっと沈黙を守っていた月島が口を開いた。それから、どこか呆れたような表情で馬から降りる。
「……どうか、我々に手を貸してほしい」
鯉登もまた、真剣な眼差しで杉元たちを見据えた。菊乃の表情にも、緊張の色が滲む。
問題は、ここからだ。
──夜の帳が降りた森の中、静寂と虫の声が辺りを包んでいた。木々の隙間を橙色に照らす焚火の炎を囲むように各々が座ると、
「菊乃を、アシㇼパたちの集落で匿ってほしい」
鯉登が神妙な面持ちで切り出した。
「匿う、って……菊乃さん、何かしたの?」
「菊乃は何もしておらん!」
鯉登がすぐに語気を強めて言い返した。見兼ねた月島が、代わって説明を続ける。
「菊乃さんは、中央にいる何者かの画策によって拉致未遂にあった」
「はぁ?なんで中央なんかに」
「中央ってなんだ?」
アシㇼパが声を上げる。
「鯉登少尉たちの親玉みたいなもんだ。東京にある、陸軍省ってところのことだよ」
杉元の回答を聞いたアシㇼパは、ただならぬ事情を察してその瞳は鋭くなる。改めて月島の声に耳を傾けた。
「事の発端は三ヶ月前──魁燿亭が、ロシア人の武装集団に襲撃された。奴らの狙っていたものに、菊乃さんが関係している可能性が高かった。その我々の判断を受けて、中央は“保護”を名目に第七師団本部へ連れてこいと命じてきた」
「……だが、陰で刺客を差し向け、菊乃の身柄を確保するための罠だった。中央の息がかかった場所では、また同じようなことが起きかねん。……それでお前たちを頼ってここに来た」
鯉登が言葉を継ぎ、手を握り締める。火の光に照らされたその表情には、憤りの感情が漂う。
静寂が訪れ、やがて焚火をじっと見ていた杉元が、
「……手癖が悪い身内の躾くらいお前らでやれよ」
低くつぶやいた。吐き捨てるような声音で。
「分かっている……!それには時間がいる。せめてその間だけでも、安全な場所にいてもらわなければならん!」
歯を噛みしめ、悔しさをこらえるように鯉登が俯いた。その言葉は、自責の念と焦燥で溢れている。
「菊乃さんには悪いと思ってる。けどな、俺等が『はい喜んで』とでも言うと思ったか?今までのこと棚に上げて、都合良すぎるだろ」
杉元の声に反応するかのように、焚火の炎が大きく揺れた。
「お前の言い分は尤もだ……だが我々は」
「そのことについては、私からお話しさせてください」
それまでの重苦しく淀んだ空気に、菊乃の声が抜けた。皆の視線を受ける菊乃は、薄羽織を纏い、静かに毅然とした姿で座っている。
「私は、金塊を巡る争いのことは聞き及んだばかりで、どれほど痛ましいことがあったのかどんな犠牲が払われたのか……すべてを知っているわけではありません。ですが──」
その声は、焚火の音をかき消すほどに、力強く響く。
「どんな大義があったとしても、私は……誰かを傷つける行為が許されていいとは思いません」
そう言い切った菊乃の目は、熱い揺らぎの向こうにいる杉元とアシㇼパをまっすぐ見つめる。
「だから、父が起こした一連の行いで、アシㇼパさんや杉元さんを傷つけてしまったこと、彼らに変わって私から謝罪させていただきたいのです」
杉元とアシㇼパが、驚きに目を瞠る。
「えっ……父、って……」
「まさか……鶴見中尉の……?」
驚きを隠せない二人の声に、菊乃は静かに地に座して、額を地面にすりつけるように深く頭を下げた。
「私は、鶴見の娘としてその業を背負っていく所存です。本当に、申し訳ありませんでした」
不思議と、風の音も虫の声も止んでいた。思わず立ち上がろうとする鯉登を、月島が肩に手を置いて制する。
やがて、沈黙を破ったのはアシㇼパだった。
「菊乃。顔を上げてくれ」
アシㇼパは立ち上がり、菊乃の元へ静かに歩み寄る。火の光を浴びてなお青く澄んだその目は、優しく菊乃を映していた。
「確かに私は、失くしたものもあったけど得られたものがたくさんあった。私が未来のアイヌの為に成すべきことも」
その言葉に、菊乃はそっと顔を上げた。アシㇼパの目に、怒りも恨みもない。ただ、静かな決意と慈しみを感じた。
「菊乃も父親の業に縛られるんじゃなくて、自分と大切な人たちの為に、未来へ進んでいってほしい」
未来へ──その言葉が、菊乃の心に深く響いた。
全てが許されたとは思わない。それでも彼女の笑顔は、このどうしようもない心の重荷を下ろしてもいいのだと、思わせた。
それからアシㇼパは皆を見回し、
「私たちのコタンで、菊乃を預かろう」
そのあたたかな希望の言葉が、心に光を灯した。
随分と森の奥へ入った頃、不意に視界の端に一つの明かりが浮かび上がった。──風に揺れる、焚火の炎だ。
鯉登と月島が瞬時に手網をそちらに向ける。その光は、木々の影を照らし、朧げながらも傍にある小屋の輪郭をも映し出していた。
「もう近いな」
鯉登が小声で呟くと、
「火を起こした奴はどこ行った……?」
そう言って、月島が慎重に周囲を見渡した。
確かに火はしっかりと燃え続けている。つまり、つい先ほどまで誰かがいたということ。菊乃も不安げに辺りを見回した。葉の擦れる音すら、妙に大きく聞こえてきて不気味さが強まった。
「──動くな」
その時、すぐ傍で鋭く低い声が響いた。びくりと身体を強張らせた菊乃が振り向くと、焚火の光の中に浮かび上がる男の顔があった。月島と同じ軍帽を被っていて、その顔は傷に覆われ瞳には鋭い光が宿る。まるで、野に生きる獣のような、むき出しの殺気。
菊乃は息を呑んだ。男が構える銃口は、鯉登の背に突きつけられている。
「っお前まさか、杉元佐一……っ!?」
「生きていたのか……!」
鯉登が驚きに打たれたように言い放ち、月島も随分と動揺していた。菊乃が鯉登の顔を窺い見ると、目を見開き「杉本」と呼んだ彼を凝視している。
「テメェらの上官のお陰で死にかけたがな……今更何の用だ」
杉元が吐き捨てるように言う。その声音には、奥深く根を張った憎しみの色が漂う。銃口の先に込められた怒りに、鯉登の背筋も強張っていた。
菊乃は、咄嗟に身を乗り出し、
「待ってください!私たち、話をしに来ただけなんです!どうか銃を下ろして……!」
そこではじめて菊乃の姿を認めたらしい杉本が、驚き目を瞠った。
「……女?」
「杉本やめろ!」
その瞬間、もう一つの声が夜気を裂いた。杉元の背後の暗がりから、一歩、また一歩と近づいてきたのは、アイヌの装束に身を包んだ少女だった。
「それは必要ない」
彼女の瞳とその言葉には、強い意志が込められている。
「アシㇼパさん、下がってて。コイツらまだ諦めてなかったかもしれない」
杉元はまだ警戒を解かない。菊乃は堪らず馬から滑り降りた。
「菊乃……!」
鯉登の制止を振り切って、菊乃は杉元の前に進み出た。
「お二人は、私のことを連れてきてくださっただけです。用があるのは私です……。アシㇼパさんに、お願いがあって参りました」
その言葉に、杉元とアシㇼパの視線が菊乃に注がれる。強く張り詰めた空気が、僅かに解けるのを感じた。
「分かった。話を聞こう」
「アシㇼパさん……!」
「構わない。杉本だって分かってるだろ?敵意はない」
そう言って、アシㇼパが静かに歩み寄ってくる。菊乃は、アイヌの少女が無事だったことにほっとした。焚火の光に照らされたアシㇼパの瞳は、深い藍色の夜に浮かぶ星のようだった。
「アシㇼパだ」
その堂々とした姿に、菊乃も背筋を伸ばして応える。
「小樽 魁燿亭から参りました、菊乃と申します」
そう名乗った瞬間、「えっ!?」と驚く声と共に杉元から殺気が消える。
「魁燿、亭……って、あの?有名な、料亭の?」
僅かに狼狽えながら言う杉本に、菊乃は思わず微笑み、深く一礼した。
「ご存知いただき、光栄です」
その柔らかな返答に、杉元は毒気を抜かれたように口を開けたまま立ち尽くしていた。彼の手元から、小銃の銃口がゆっくりと地面へ下ろされる。
「杉本、知ってるのか?」
「俺もこの間街で聞いたばっかなんだけど、とーっても高級で、とーっても美味しい料理が出てくる店らしいよ」
不意に口調が柔らかくなった杉元に、菊乃の目が瞬いた。先程まで、あれ程鋭い眼光を向けていた男とは思えない姿だった。
「そうなのか!そこでは脳みそ食べられるか?菊乃」
「のっ……脳みそ……?」
いきなりの質問に、菊乃は小さく声を裏返した。そんな料理、記憶にない。
「アシㇼパさん、高級料亭だよ~?俺らじゃ手が出せないってぇ~」
杉元が笑いながら肩を竦める。
それから、ふと何かを期待する視線が、二人から鯉登へ向けられた。
「……あそこで脳みそは出んぞ」
鯉登が無表情のまま、ぽつりと呟くと、
「「なーんだ」」
アシㇼパと杉元が揃って落胆する。気づけば、緊迫した霧はすっかり晴れていた。
「杉本。俺たちはもう金塊も権利書も追ってはいない。一先ず、話だけ聞いてくれ」
ずっと沈黙を守っていた月島が口を開いた。それから、どこか呆れたような表情で馬から降りる。
「……どうか、我々に手を貸してほしい」
鯉登もまた、真剣な眼差しで杉元たちを見据えた。菊乃の表情にも、緊張の色が滲む。
問題は、ここからだ。
──夜の帳が降りた森の中、静寂と虫の声が辺りを包んでいた。木々の隙間を橙色に照らす焚火の炎を囲むように各々が座ると、
「菊乃を、アシㇼパたちの集落で匿ってほしい」
鯉登が神妙な面持ちで切り出した。
「匿う、って……菊乃さん、何かしたの?」
「菊乃は何もしておらん!」
鯉登がすぐに語気を強めて言い返した。見兼ねた月島が、代わって説明を続ける。
「菊乃さんは、中央にいる何者かの画策によって拉致未遂にあった」
「はぁ?なんで中央なんかに」
「中央ってなんだ?」
アシㇼパが声を上げる。
「鯉登少尉たちの親玉みたいなもんだ。東京にある、陸軍省ってところのことだよ」
杉元の回答を聞いたアシㇼパは、ただならぬ事情を察してその瞳は鋭くなる。改めて月島の声に耳を傾けた。
「事の発端は三ヶ月前──魁燿亭が、ロシア人の武装集団に襲撃された。奴らの狙っていたものに、菊乃さんが関係している可能性が高かった。その我々の判断を受けて、中央は“保護”を名目に第七師団本部へ連れてこいと命じてきた」
「……だが、陰で刺客を差し向け、菊乃の身柄を確保するための罠だった。中央の息がかかった場所では、また同じようなことが起きかねん。……それでお前たちを頼ってここに来た」
鯉登が言葉を継ぎ、手を握り締める。火の光に照らされたその表情には、憤りの感情が漂う。
静寂が訪れ、やがて焚火をじっと見ていた杉元が、
「……手癖が悪い身内の躾くらいお前らでやれよ」
低くつぶやいた。吐き捨てるような声音で。
「分かっている……!それには時間がいる。せめてその間だけでも、安全な場所にいてもらわなければならん!」
歯を噛みしめ、悔しさをこらえるように鯉登が俯いた。その言葉は、自責の念と焦燥で溢れている。
「菊乃さんには悪いと思ってる。けどな、俺等が『はい喜んで』とでも言うと思ったか?今までのこと棚に上げて、都合良すぎるだろ」
杉元の声に反応するかのように、焚火の炎が大きく揺れた。
「お前の言い分は尤もだ……だが我々は」
「そのことについては、私からお話しさせてください」
それまでの重苦しく淀んだ空気に、菊乃の声が抜けた。皆の視線を受ける菊乃は、薄羽織を纏い、静かに毅然とした姿で座っている。
「私は、金塊を巡る争いのことは聞き及んだばかりで、どれほど痛ましいことがあったのかどんな犠牲が払われたのか……すべてを知っているわけではありません。ですが──」
その声は、焚火の音をかき消すほどに、力強く響く。
「どんな大義があったとしても、私は……誰かを傷つける行為が許されていいとは思いません」
そう言い切った菊乃の目は、熱い揺らぎの向こうにいる杉元とアシㇼパをまっすぐ見つめる。
「だから、父が起こした一連の行いで、アシㇼパさんや杉元さんを傷つけてしまったこと、彼らに変わって私から謝罪させていただきたいのです」
杉元とアシㇼパが、驚きに目を瞠る。
「えっ……父、って……」
「まさか……鶴見中尉の……?」
驚きを隠せない二人の声に、菊乃は静かに地に座して、額を地面にすりつけるように深く頭を下げた。
「私は、鶴見の娘としてその業を背負っていく所存です。本当に、申し訳ありませんでした」
不思議と、風の音も虫の声も止んでいた。思わず立ち上がろうとする鯉登を、月島が肩に手を置いて制する。
やがて、沈黙を破ったのはアシㇼパだった。
「菊乃。顔を上げてくれ」
アシㇼパは立ち上がり、菊乃の元へ静かに歩み寄る。火の光を浴びてなお青く澄んだその目は、優しく菊乃を映していた。
「確かに私は、失くしたものもあったけど得られたものがたくさんあった。私が未来のアイヌの為に成すべきことも」
その言葉に、菊乃はそっと顔を上げた。アシㇼパの目に、怒りも恨みもない。ただ、静かな決意と慈しみを感じた。
「菊乃も父親の業に縛られるんじゃなくて、自分と大切な人たちの為に、未来へ進んでいってほしい」
未来へ──その言葉が、菊乃の心に深く響いた。
全てが許されたとは思わない。それでも彼女の笑顔は、このどうしようもない心の重荷を下ろしてもいいのだと、思わせた。
それからアシㇼパは皆を見回し、
「私たちのコタンで、菊乃を預かろう」
そのあたたかな希望の言葉が、心に光を灯した。
