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企画story1.Melty kiss
学年末試験最終日。英語のテストが終わるや否や、〇〇は頭を抱えていた。
学年1位の才女が取り乱している。そんな物珍しそうな周囲の視線に構うことなく、やってしまったと言わんばかりに「どどどうしよう」とブツブツ独り言を唱えていた。
「・・・〇〇ちゃん?なんかやらかした?解答欄ズレてたとか?」
「ハ!い、いや、テストはちゃんと最後に見直したから大丈夫だったんだけど・・・」
隣に座るこずえが、その様子を見かねて声をかけた。
〇〇はつい先日、揉めに揉めた真一郎とついに想いが通じ合い、晴れて付き合うことになったばかり。目先の問題は万事解決したはずだったのだが。
「なぁに?ほれ言ってごらんなさい。」
「こずえちゃん・・・わたし・・・」
〇〇は思い出した。英語のテストで出題された長文問題。"絵美"が、ホームステイに来ている"ジェイク"の為に手づくりのお菓子を作るというストーリー。それは、2月14日の贈り物だった。
「真一郎先輩に、バレンタインチョコ渡してなかった・・・!」
「佐野。お返しってなに貰ったら一番嬉しいかなー?」
帰り際、沖田は真一郎の前の空席に座ると、突拍子のない質問を投げかけた。
「お返しって何の?」
「ホワイトデーだって~。来週の土曜だろ?なーにあげよっかなーって。」
「あぁ。大変だなお前も・・・」
「なに他人事のように言ってんだよ。お前だって・・・あ。」
そこで沖田は気がついた。2月14日。〇〇が、あの事件後に数日休みを取っていた頃。確実にそれどころではなかっただろうことは容易に想像出来た。
しまった。そう思った時には、既に真一郎がずーん、と項垂れていた。流石にかわいそうなことを思い出させてしまった。沖田が「ワリ。」と謝罪を入れる。
「つーか、よく考えたら俺も〇〇ちゃんからチョコ貰い損ねてた!なんてこった!」
「おい、なんで貰える前提なんだよ。」
「チョコくらい貰いたいね。俺お前らの為に結構頑張ったし。」
その一言で、何かを思い出しグッと渋い顔をした真一郎が「その節は大変お世話にナリマシタ・・・」と気まずそうに声を絞り出した。
「あの時八つ当たりで殴られたしよ~」
「あ、あれは謝っただろ!」
「ゴメンだけじゃなぁ~」
口を尖らせ不満顔の沖田は、勿論揶揄い半分である。予想通り真一郎の反応が面白いので、更に「あ、そーだ。」としたり顔で話を進める。
「ホワイトデー、〇〇ちゃんにもあげよーっと。」
「は・・・?」
「で、チョコねだろーっと♡」
「はぁ!?ざけんな!」
「いいだろそんくらい。」
「お前他の女子からいっぱい貰っただろ!」
「〇〇ちゃんがくれるチョコが食いてぇんだよ。」
「〇〇はオレのカノジョ!〇〇のチョコは全部俺のもん!」
「独占欲強い男はフラれんぞ~?」
ニヤニヤ顔の沖田の一言に、真一郎は顔をしかめ、二の句が告げない。嫌だ。もうフラれたくはない。
その時、ガラッとドアが開く音につられ二人が振り返った。そこには、今まさに話題に上がっている人物が居た。
恥ずかしそうに教室を覗いている不意打ちの〇〇に、真一郎の心臓が甘い鼓動を鳴らす。
「し、真一郎先輩。あの・・・///」
「ど、ドドドどした!?///」
「え、何そのドモり。」
初々しい反応を見せる二人に、沖田がツッコんだ。もっとイチャつくのかと思ったら、余計にじれったいってどういうことだ。
「今日、こずえちゃん家に行くことになって、一緒に帰れないんです。ゴメンなさい・・・」
「お、おぉぉおおそうか。」
「明日は大丈夫なので、あの、一緒に帰りたいです・・・///」
「う、う、うん!帰ろう!一緒に!バブ乗って来っから!」
何だかぎこちないまま、「じゃあまた明日。」と〇〇が去っていく姿をぼーっと見つめる真一郎に、沖田は言わずにいられなかった。
「なぁ。なんでそんなぎこちねーの?折角付き合うことになったのに。」
「・・・初めてなんだよ。」
「なにが?」
「カノジョ!できたの初めてだから、なんつーかこう、ど、どういう感じでいくのが正解?よく分っかんねーんだよ!」
「・・・エー?」
付き合ったら付き合ったでこれかよ。
呆れ顔の沖田は、それでも妙に放っておけない真一郎に、仕方ねぇな、と何やら語り始めた。
「よし、材料はこんなもんでしょう。」
「こずえちゃんがお菓子作り得意で助かった!」
放課後、〇〇はこずえ宅にやって来た。勿論、遅れたバレンタインチョコレート制作の為である。
「せっかくだから手の込んだやつ作って、佐野先輩の舌を唸らせてやろうじゃないの!」
「師匠~っ」
〇〇は腕まくりをするこずえに、キラキラと尊敬の眼差しを送る。遅れた分、良い物を渡したい。そして、いっぱいありがとうと大好きを伝えたい。付き合うことになってからというもの、意識しすぎてか未だにお互いギクシャクしたまま。贈り物をきっかけに、この妙な空気がなんとかなればと〇〇は期待した。
始めようかとこずえが声をかける。まるで合図のように、火にかけていたやかんが笛を鳴らした。
翌日。
約束通り二人で下校した真一郎と〇〇は、お馴染みの堤防を訪れていた。定位置に落ち着くと、〇〇が突然ゴソゴソと鞄の中を漁り出す。その様子を、真一郎が横でソワソワしながら見つめていた。
「真一郎先輩。これ・・・」
鞄から取り出したものは、掌よりも一回りほど大きなリボンのかかった箱。一目でプレゼントだと分かるが、このタイミングで贈り物をされる心当たりがない真一郎は、キョトンとしながらそれを見つめていた。
「え?なんかあったっけ?」
「バレンタイン、チョコ渡せてなかったから、作ってきたんです。///」
「・・・っえ!!」
もしや、昨日沖田との会話を聞かれていたか。いや、流石に窓際にいたあの距離で、ましてや締め切った扉を隔てて満足に聞こえるはずがない。まさかの展開に、真一郎は感動も一入だ。
「タイミング逃しちゃって。色々あったし。本当は、もうひと月近く経つからどうかなって思ったんですけど、でもやっぱ渡したくぅえあっ!?」
真一郎に力いっぱい抱き締められて、〇〇が悲鳴を上げた。予期せぬ不意打ちに心臓がバクバクと音を立てる。
「あー、すっげぇ嬉しい・・・」
「先輩・・・」
"嫌じゃない"程度に思っていたこの触れ合いも、彼に想いを寄せるようになって"好き"だったんだと自覚した。
真一郎に触れていると、ドキドキするのにほっとする。〇〇は、彼の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
と、二人の間で潰されそうな箱のことを思い出す。
「あ、あの、先輩っ。つ、潰れちゃう。と言うか溶けちゃう・・・!」
「あ。」
ごめん!と慌てて離れる。改めて〇〇から差し出された箱を受け取った真一郎が、リボンを解いた。ちゃんと保冷剤まで用意していたのかひんやりしている。わくわくしながら蓋を開けると、一口サイズのチョコレートが綺麗に整列していた。
「スゲェ。美味そう!」
「生チョコを作ってみました。こずえちゃんに教わって。」
「ああ、それで昨日こずえちゃんと帰ったのか。」
お~。と真一郎が、目を輝かせながらまじまじと箱の中を観察していた。いろんな角度から眺め、そして眉間に皺を寄せる。
「どうしよう・・・勿体なくて食えねぇ。」
「え!?た、食べてくださいっ」
本気で意義を申し立てる姿が可笑しくて、真一郎が思わず吹き出した。その笑顔に、〇〇がホッとした表情を見せる。緊張が解け、二人の間に心地良い空気が流れた。
そんな中、真一郎は、ふと昨日沖田が言っていた話を思い出していた。
―――
――
―
「女の子ってーのは、堂々としてて自分に自信のある男に惹かれんだよ!」
「そうだったのか!」
沖田が語り出した恋愛指南。興味深い話に、真一郎の反応も五月蝿いくらいに大きい。
「男は常に余裕。これ重要。」
「それが出来りゃ苦労しねぇんだよ・・・」
「キスとかちょっと強引にいってだな、「俺だけ見てろよ」とか大胆なこと言ってやれば〇〇ちゃんも「やだ、センパイ男らしいスキ♡」てなるだろ!」
「ナ、ナルホド!!?」
沖田が、ものまねジェスチャーを交えながら右へ左へ忙しなく動く。少女漫画宜しく、歯の浮くような台詞に大盛り上がりの17歳男子であった。
―
――
―――
「〇〇が食べさせてくれたら食う。・・・"口移し"で。」
少し頬を染め口を尖らせた真一郎が言った。沖田のアドバイス"強引に" "大胆に"を彼なりに試みようとした。
だが、万が一にも〇〇に嫌われたくはないので、無理やりは流石に勇気が出ない。ということで、取り敢えず"大胆に"が出来ないだろうかと、恐る恐る彼女の反応を伺ってみることに。
「っな、なんt!口、え!?///」
真一郎の何倍も顔を真っ赤にした〇〇はギョッとした。
そんな漫画に出てきそうなこと、要求されるなど思いもよらず口をパクパクさせる。良いも悪いもまともに答えられない程に、頭の中はパニックだった。
「ダメ・・・?」
「ダ、だ、ダm、!///」
眉尻を下げ、心做しか甘えたような口調。普段はお兄ちゃん気質の彼が見せる少し子どもっぽいお願いの仕方に、〇〇がぐぅっと口を引き結ぶ。更に、渡すのが遅れた手前なんだか断りにくい。ただでさえ、お願いをされるとノーとは言えない質の〇〇は、非常に難しい決断を迫られていた。
「・・・い・・・っ1回、だけですヨ・・・///」
「!」
バンザーイ!心の中で歓喜する真一郎の目の前で、真っ赤になりながら〇〇が箱から生チョコをひと粒摘まむと、彼を一瞥して俯いた。
「目、閉じてください・・・」
「〇〇の顔見ながらk」
「閉・じ・て!」
「ハイ。」
ぎゅっ。真一郎が目を閉じる。やっぱりやらない。とへそを曲げられてもいけないので素直に従った。
それから数秒躊躇っていた〇〇が、いよいよ迫ってくる気配を感じる。彼女が胸元をぎゅっと握り締めたのを合図に、真一郎は軽く口を開けた。
チョコの角が当たる。それを受け入れると、間も無く〇〇の柔らかい唇が触れた。あの日、告白した時以来の優しい感触。普通に食べたって味も食感も変わらないはずなのに、チョコレートが舌先から溶けだす感覚が酷く官能的で、このまま彼女の唇ごと食べてしまえたら。なんて欲求が真一郎の頭の中を掠めた。そしてスイッチが入る。これはイケるんじゃないだろうか。
甘い熱が二人を纏う。受け渡しが完了すると、至近距離で見つめ合った。
「・・・美味い。」
「よ・・・良かった、です///」
「次、オレの番な。」
「へ!?」
〇〇が抗議する間を与えることなく、真一郎が生チョコを咥えると、逃げ道を塞ぐように彼女の後頭部に手を添えた。
「やっ、んーっ!?」
拒否の声を上げようと、〇〇の口が開いたところにすかさずねじ込んだ。生チョコが入ったところで〇〇が慌てて口を閉じると、真一郎が溶けたチョコが乗った舌でその唇をぺろりと舐めた。
「~~~っ!?!?」
声にならない悲鳴を上げた彼女の唇を割って、真一郎が口内へと進む。〇〇は、未知の感覚と恐怖でビクッと肩を震わせた。
どうにか離れられないかと試みるが、彼の胸を押し返してもびくともしない。頭が真っ白になってぼーっとする。まるで、自分の意思では無い何かに支配されているかのような錯覚。当然チョコレートを味わう余裕もなく、〇〇は観念したように、真一郎に合わせ覚束無い動きで舌を絡ませるしかなかった。
「「・・・」」
チョコが溶けきって離れる。二人が熱い吐息混じりに息を整え、暫し無言で見つめ合っていると、
「あだぁ゙っ!!?」
余韻に浸っている真一郎に、不意打ちの頭突きが入った。額を押さえうずくまる彼を、赤面した〇〇がワナワナと睨みつけていた。
「1回だけって言ったのに!ばかぁっ!!///」
「n゙・・・っ!」
やってしまったかもしれない。真一郎が後悔するも後の祭り。その後、〇〇がまともに口をきいてくれるまで3日かかったのだった。
―――卍おまけ卍―――
真一郎「沖田!話が違うぞ!」
沖田「なんの事?」
真一郎「"強引"に"大胆"な事したら〇〇が口きいてくんなくなったじゃねーかぁ!」
沖田「・・・〇〇ちゃんはそーゆーのにキュンとこないタイプだったかぁ~」
真一郎「〇〇~~~っ!許してくれ~~~っ!」
学年末試験最終日。英語のテストが終わるや否や、〇〇は頭を抱えていた。
学年1位の才女が取り乱している。そんな物珍しそうな周囲の視線に構うことなく、やってしまったと言わんばかりに「どどどうしよう」とブツブツ独り言を唱えていた。
「・・・〇〇ちゃん?なんかやらかした?解答欄ズレてたとか?」
「ハ!い、いや、テストはちゃんと最後に見直したから大丈夫だったんだけど・・・」
隣に座るこずえが、その様子を見かねて声をかけた。
〇〇はつい先日、揉めに揉めた真一郎とついに想いが通じ合い、晴れて付き合うことになったばかり。目先の問題は万事解決したはずだったのだが。
「なぁに?ほれ言ってごらんなさい。」
「こずえちゃん・・・わたし・・・」
〇〇は思い出した。英語のテストで出題された長文問題。"絵美"が、ホームステイに来ている"ジェイク"の為に手づくりのお菓子を作るというストーリー。それは、2月14日の贈り物だった。
「真一郎先輩に、バレンタインチョコ渡してなかった・・・!」
「佐野。お返しってなに貰ったら一番嬉しいかなー?」
帰り際、沖田は真一郎の前の空席に座ると、突拍子のない質問を投げかけた。
「お返しって何の?」
「ホワイトデーだって~。来週の土曜だろ?なーにあげよっかなーって。」
「あぁ。大変だなお前も・・・」
「なに他人事のように言ってんだよ。お前だって・・・あ。」
そこで沖田は気がついた。2月14日。〇〇が、あの事件後に数日休みを取っていた頃。確実にそれどころではなかっただろうことは容易に想像出来た。
しまった。そう思った時には、既に真一郎がずーん、と項垂れていた。流石にかわいそうなことを思い出させてしまった。沖田が「ワリ。」と謝罪を入れる。
「つーか、よく考えたら俺も〇〇ちゃんからチョコ貰い損ねてた!なんてこった!」
「おい、なんで貰える前提なんだよ。」
「チョコくらい貰いたいね。俺お前らの為に結構頑張ったし。」
その一言で、何かを思い出しグッと渋い顔をした真一郎が「その節は大変お世話にナリマシタ・・・」と気まずそうに声を絞り出した。
「あの時八つ当たりで殴られたしよ~」
「あ、あれは謝っただろ!」
「ゴメンだけじゃなぁ~」
口を尖らせ不満顔の沖田は、勿論揶揄い半分である。予想通り真一郎の反応が面白いので、更に「あ、そーだ。」としたり顔で話を進める。
「ホワイトデー、〇〇ちゃんにもあげよーっと。」
「は・・・?」
「で、チョコねだろーっと♡」
「はぁ!?ざけんな!」
「いいだろそんくらい。」
「お前他の女子からいっぱい貰っただろ!」
「〇〇ちゃんがくれるチョコが食いてぇんだよ。」
「〇〇はオレのカノジョ!〇〇のチョコは全部俺のもん!」
「独占欲強い男はフラれんぞ~?」
ニヤニヤ顔の沖田の一言に、真一郎は顔をしかめ、二の句が告げない。嫌だ。もうフラれたくはない。
その時、ガラッとドアが開く音につられ二人が振り返った。そこには、今まさに話題に上がっている人物が居た。
恥ずかしそうに教室を覗いている不意打ちの〇〇に、真一郎の心臓が甘い鼓動を鳴らす。
「し、真一郎先輩。あの・・・///」
「ど、ドドドどした!?///」
「え、何そのドモり。」
初々しい反応を見せる二人に、沖田がツッコんだ。もっとイチャつくのかと思ったら、余計にじれったいってどういうことだ。
「今日、こずえちゃん家に行くことになって、一緒に帰れないんです。ゴメンなさい・・・」
「お、おぉぉおおそうか。」
「明日は大丈夫なので、あの、一緒に帰りたいです・・・///」
「う、う、うん!帰ろう!一緒に!バブ乗って来っから!」
何だかぎこちないまま、「じゃあまた明日。」と〇〇が去っていく姿をぼーっと見つめる真一郎に、沖田は言わずにいられなかった。
「なぁ。なんでそんなぎこちねーの?折角付き合うことになったのに。」
「・・・初めてなんだよ。」
「なにが?」
「カノジョ!できたの初めてだから、なんつーかこう、ど、どういう感じでいくのが正解?よく分っかんねーんだよ!」
「・・・エー?」
付き合ったら付き合ったでこれかよ。
呆れ顔の沖田は、それでも妙に放っておけない真一郎に、仕方ねぇな、と何やら語り始めた。
「よし、材料はこんなもんでしょう。」
「こずえちゃんがお菓子作り得意で助かった!」
放課後、〇〇はこずえ宅にやって来た。勿論、遅れたバレンタインチョコレート制作の為である。
「せっかくだから手の込んだやつ作って、佐野先輩の舌を唸らせてやろうじゃないの!」
「師匠~っ」
〇〇は腕まくりをするこずえに、キラキラと尊敬の眼差しを送る。遅れた分、良い物を渡したい。そして、いっぱいありがとうと大好きを伝えたい。付き合うことになってからというもの、意識しすぎてか未だにお互いギクシャクしたまま。贈り物をきっかけに、この妙な空気がなんとかなればと〇〇は期待した。
始めようかとこずえが声をかける。まるで合図のように、火にかけていたやかんが笛を鳴らした。
翌日。
約束通り二人で下校した真一郎と〇〇は、お馴染みの堤防を訪れていた。定位置に落ち着くと、〇〇が突然ゴソゴソと鞄の中を漁り出す。その様子を、真一郎が横でソワソワしながら見つめていた。
「真一郎先輩。これ・・・」
鞄から取り出したものは、掌よりも一回りほど大きなリボンのかかった箱。一目でプレゼントだと分かるが、このタイミングで贈り物をされる心当たりがない真一郎は、キョトンとしながらそれを見つめていた。
「え?なんかあったっけ?」
「バレンタイン、チョコ渡せてなかったから、作ってきたんです。///」
「・・・っえ!!」
もしや、昨日沖田との会話を聞かれていたか。いや、流石に窓際にいたあの距離で、ましてや締め切った扉を隔てて満足に聞こえるはずがない。まさかの展開に、真一郎は感動も一入だ。
「タイミング逃しちゃって。色々あったし。本当は、もうひと月近く経つからどうかなって思ったんですけど、でもやっぱ渡したくぅえあっ!?」
真一郎に力いっぱい抱き締められて、〇〇が悲鳴を上げた。予期せぬ不意打ちに心臓がバクバクと音を立てる。
「あー、すっげぇ嬉しい・・・」
「先輩・・・」
"嫌じゃない"程度に思っていたこの触れ合いも、彼に想いを寄せるようになって"好き"だったんだと自覚した。
真一郎に触れていると、ドキドキするのにほっとする。〇〇は、彼の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
と、二人の間で潰されそうな箱のことを思い出す。
「あ、あの、先輩っ。つ、潰れちゃう。と言うか溶けちゃう・・・!」
「あ。」
ごめん!と慌てて離れる。改めて〇〇から差し出された箱を受け取った真一郎が、リボンを解いた。ちゃんと保冷剤まで用意していたのかひんやりしている。わくわくしながら蓋を開けると、一口サイズのチョコレートが綺麗に整列していた。
「スゲェ。美味そう!」
「生チョコを作ってみました。こずえちゃんに教わって。」
「ああ、それで昨日こずえちゃんと帰ったのか。」
お~。と真一郎が、目を輝かせながらまじまじと箱の中を観察していた。いろんな角度から眺め、そして眉間に皺を寄せる。
「どうしよう・・・勿体なくて食えねぇ。」
「え!?た、食べてくださいっ」
本気で意義を申し立てる姿が可笑しくて、真一郎が思わず吹き出した。その笑顔に、〇〇がホッとした表情を見せる。緊張が解け、二人の間に心地良い空気が流れた。
そんな中、真一郎は、ふと昨日沖田が言っていた話を思い出していた。
―――
――
―
「女の子ってーのは、堂々としてて自分に自信のある男に惹かれんだよ!」
「そうだったのか!」
沖田が語り出した恋愛指南。興味深い話に、真一郎の反応も五月蝿いくらいに大きい。
「男は常に余裕。これ重要。」
「それが出来りゃ苦労しねぇんだよ・・・」
「キスとかちょっと強引にいってだな、「俺だけ見てろよ」とか大胆なこと言ってやれば〇〇ちゃんも「やだ、センパイ男らしいスキ♡」てなるだろ!」
「ナ、ナルホド!!?」
沖田が、ものまねジェスチャーを交えながら右へ左へ忙しなく動く。少女漫画宜しく、歯の浮くような台詞に大盛り上がりの17歳男子であった。
―
――
―――
「〇〇が食べさせてくれたら食う。・・・"口移し"で。」
少し頬を染め口を尖らせた真一郎が言った。沖田のアドバイス"強引に" "大胆に"を彼なりに試みようとした。
だが、万が一にも〇〇に嫌われたくはないので、無理やりは流石に勇気が出ない。ということで、取り敢えず"大胆に"が出来ないだろうかと、恐る恐る彼女の反応を伺ってみることに。
「っな、なんt!口、え!?///」
真一郎の何倍も顔を真っ赤にした〇〇はギョッとした。
そんな漫画に出てきそうなこと、要求されるなど思いもよらず口をパクパクさせる。良いも悪いもまともに答えられない程に、頭の中はパニックだった。
「ダメ・・・?」
「ダ、だ、ダm、!///」
眉尻を下げ、心做しか甘えたような口調。普段はお兄ちゃん気質の彼が見せる少し子どもっぽいお願いの仕方に、〇〇がぐぅっと口を引き結ぶ。更に、渡すのが遅れた手前なんだか断りにくい。ただでさえ、お願いをされるとノーとは言えない質の〇〇は、非常に難しい決断を迫られていた。
「・・・い・・・っ1回、だけですヨ・・・///」
「!」
バンザーイ!心の中で歓喜する真一郎の目の前で、真っ赤になりながら〇〇が箱から生チョコをひと粒摘まむと、彼を一瞥して俯いた。
「目、閉じてください・・・」
「〇〇の顔見ながらk」
「閉・じ・て!」
「ハイ。」
ぎゅっ。真一郎が目を閉じる。やっぱりやらない。とへそを曲げられてもいけないので素直に従った。
それから数秒躊躇っていた〇〇が、いよいよ迫ってくる気配を感じる。彼女が胸元をぎゅっと握り締めたのを合図に、真一郎は軽く口を開けた。
チョコの角が当たる。それを受け入れると、間も無く〇〇の柔らかい唇が触れた。あの日、告白した時以来の優しい感触。普通に食べたって味も食感も変わらないはずなのに、チョコレートが舌先から溶けだす感覚が酷く官能的で、このまま彼女の唇ごと食べてしまえたら。なんて欲求が真一郎の頭の中を掠めた。そしてスイッチが入る。これはイケるんじゃないだろうか。
甘い熱が二人を纏う。受け渡しが完了すると、至近距離で見つめ合った。
「・・・美味い。」
「よ・・・良かった、です///」
「次、オレの番な。」
「へ!?」
〇〇が抗議する間を与えることなく、真一郎が生チョコを咥えると、逃げ道を塞ぐように彼女の後頭部に手を添えた。
「やっ、んーっ!?」
拒否の声を上げようと、〇〇の口が開いたところにすかさずねじ込んだ。生チョコが入ったところで〇〇が慌てて口を閉じると、真一郎が溶けたチョコが乗った舌でその唇をぺろりと舐めた。
「~~~っ!?!?」
声にならない悲鳴を上げた彼女の唇を割って、真一郎が口内へと進む。〇〇は、未知の感覚と恐怖でビクッと肩を震わせた。
どうにか離れられないかと試みるが、彼の胸を押し返してもびくともしない。頭が真っ白になってぼーっとする。まるで、自分の意思では無い何かに支配されているかのような錯覚。当然チョコレートを味わう余裕もなく、〇〇は観念したように、真一郎に合わせ覚束無い動きで舌を絡ませるしかなかった。
「「・・・」」
チョコが溶けきって離れる。二人が熱い吐息混じりに息を整え、暫し無言で見つめ合っていると、
「あだぁ゙っ!!?」
余韻に浸っている真一郎に、不意打ちの頭突きが入った。額を押さえうずくまる彼を、赤面した〇〇がワナワナと睨みつけていた。
「1回だけって言ったのに!ばかぁっ!!///」
「n゙・・・っ!」
やってしまったかもしれない。真一郎が後悔するも後の祭り。その後、〇〇がまともに口をきいてくれるまで3日かかったのだった。
―――卍おまけ卍―――
真一郎「沖田!話が違うぞ!」
沖田「なんの事?」
真一郎「"強引"に"大胆"な事したら〇〇が口きいてくんなくなったじゃねーかぁ!」
沖田「・・・〇〇ちゃんはそーゆーのにキュンとこないタイプだったかぁ~」
真一郎「〇〇~~~っ!許してくれ~~~っ!」
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