🐾本編🐾
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8.玉響
「いた―――い!!」
寝起き間もなく油断していたところに響いた大音声。その耳を劈く悲鳴に、圭介は心臓が弾けた。
家の中二人きりの時は、〇〇を人間の姿のままにしておくのもすっかり日常となりつつあり、むしろ積極的にそうしていると圭介自身も自覚していた。彼女との言葉のやり取りは、今となっては掛け替えのない行為なのである。
そんな愛猫のピンチらしき悲鳴に、圭介が慌てて自室へ駆け込むと、涙目の〇〇が振り返った。痛がっている額がほんのり真っ赤に染まっていたが、手当てが必要なほどの負傷では無いようでほっと胸を撫で下ろす。
それよりも注目すべきは、床を転がるようにバタバタと暴れるモノ。間違いなく先程まで部屋にはいなかったので、どうやら窓から不法侵入したと思しき犯人。いや―――
「・・・インコだ」
鮮やかな頬の赤からして、オカメインコであると分かる。未だにバタバタと暴れているが、羽を切られているわけではなさそうなのでどうやらパニックに陥っているらしい―――圭介が冷静に所見を示す横で、〇〇は涙目になりながら訴えた。
「ケースケ、ココあなぼこあいた?ねぇあなぼこあいたっ??」
「あいてねぇよ」
圭介が患部を撫でながら見ると、赤く腫れている範囲は極端に狭い。くちばしがクリーンヒットしたのか・・・それなりのスピードで激突されたのだろうことが伺える。
「ピーチャン、ピーチャンコンニチハッ」
「「・・・しゃべった!」」
突然のことに、おっかなびっくり思わず二人の息が合う。得体の知れない生物に怯えた〇〇が圭介に抱きつくと、圭介も反射的に〇〇の肩を抱き寄せるが、そんな状況お構い無しにインコはマイペースに喋り続けている。
「ピーチャン、カワイイネ、モシモシ、モシモシ」
「コイツ、ピーちゃんって名前みたいだ」
「・・・ピーちゃん?こんにちは?」
「コンニチハ、コン、コンチッ、ピーチャン、ア゙ー」
「ほっ!」
挨拶に応答した姿に〇〇の満月が一際輝き、まんまるに見開きながらあれこれと言葉をかけ続けている。
さて、どうしたものか―――このあたりで野生のインコが生息している話など聞いたことも無い。おそらくは飼い主の元から脱走したかなにか―――圭介はピーちゃんの処遇に思いあぐねていた。
***
思いつくことは一通りやった。同じ団地でインコを買っている住人はいないか聞き込み、インコがいなくなったペットショップはないか足を運び、東卍メンバーに迷子インコのビラ配りを手伝わせ―――しかし、待てど暮らせど飼い主からの連絡は未だ無い。
「にぁんっ」
「ハイッモシモシ、ピ~~~ハイッ!」
「なぁ~んっ」
そうこうしているうちに、すっかり〇〇に懐いたピーちゃん―――むしろ〇〇がピーちゃんに懐いていると言った方が正しいか―――は、開け放った窓を目の前にしても逃げるそぶりを見せず居座り続けている。
「〇〇、ピーちゃんにべったりッスね」
「弟できたみたいに思ってんのかもな」
圭介の部屋に招かれた千冬には、〇〇がピーちゃんに懐いていると見えるらしい。何だかそれが妙に可笑しくて、ふっと微笑み2匹の様子を観察する圭介。その姿を見やる千冬は、少し憂いの感情を込めて問いかけた。
「バジさん、このまま飼い主が現れなかったら・・・」
「ああ・・・いや、もう少し粘ってみるわ」
あれからひと月も経っていないのだから、可能性を捨てるにはまだ早い。必死に探しているかもしれないピーちゃんの家族を思う圭介には、不思議と予感めいたものが頭を巡っていた。
***
その日の夜は満月だった。
寝床に着こうと布団を捲ると、〇〇とピーちゃんが身を寄せ合って眠っていた。ちゃんとケースケのスペースを避けているあたり、利口な奴らだと思わず頬が緩んでしまう。〇〇の頭を一撫で、次いでピーちゃんにも触れると、ゾワリ―――圭介の心臓を撫でた何とも不快な感触。
「―――冷、たい」
何が起きたのか理解できなかった。数時間前、元気よく〇〇と遊んでいたはずなのに―――もう一度、今度は掌で包むように触れるが、いつもの体温は感じない。
その時、圭介の気配で〇〇が起きた。寝ぼけ眼で圭介の手ごとピーちゃんに頭をすり寄せている。圭介は、ぎゅうっと胸の真ん中が締め付けられた。〇〇は、ピーちゃんの異変に誰よりも早く気がついていたのだ。
窓から入ってきた一陣の風がカーテンを割った。その隙間から月光が差し込みはじめると、ピーちゃんの身体から目を凝らしてやっと分かる程の薄い薄い小さな靄が現れた。靄は、今にも消え入りそうな蠟燭の火の如く弱々しくともっている。
ふと〇〇の鼻先が、そうっとその靄に触れる。まるで、旅立つ者へ贈る最期の口づけのように。躊躇う事なく流れるような所作―――それはまるで消えゆく命を慈しむかのようであった。
間もなくして、靄が小さな身体から離れ宙に浮く。そこでようやっと靄が球体であると分かった。暫し宙に停滞したあと、月の光に誘われるようにとうとう消えて無くなってしまった。
圭介は、非科学的な現象に興味は無いタイプの人間だ。しかし今のが、魂の類であったのなら―――
彼女は、"さよなら"を伝えられたのだろうか。
「にぁーん」
呼ばれて気づいた擦り寄る温もりを、圭介はそうっと抱き上げた。鼓動を鳴らし息をする、そこにある確かな命に、瞳の奥が熱くなった。
***
「看取ってくださって、本当に、ありがとう」
向かいに座る初老の女性から、涙ぐみながら礼の言葉を伝えられた。隣に座る母親が、腕を伸ばし女性の肩を摩っているのを横目に、圭介は改めて自分の不甲斐なさを痛感させられていた。
連絡があったのは、あの夜が明けた日のこと。圭介は失望落胆した。こんなすれ違い、あんまりではないか、と。
「オレは、何も・・・異変に気付けなかったし」
「小鳥は、自分の不調を隠してしまう習性があるそうよ。それに寿命でもあったのでしょう」
だから気にしないで―――そう言う女性に、圭介は益々頭が上がらなかった。
母親の箪笥に眠っていた真っ白のハンカチでピーちゃんの亡骸を包んでおいたもの―――圭介が手渡すと、女性は受け取り暫し両手の中に収めた。その姿を確認することなく持参した桐箱に入れ風呂敷に包んでいる。圭介は、その毅然とした所作をただひたすらに目で追った。
湯呑一杯の茶を飲み干すと、さっと立ち上がり女性は玄関へと向かった。上質な着物をまとった彼女は、御礼の菓子折りを贈りやるべきことを済ませた後は、無駄な長居するべからず、とそういう心得を身につけているような雰囲気があった。
玄関前へたどり着くと、〇〇がいた。初老の彼女も突然現れたネコに少々驚かされたようだが、感嘆の声を聞くに苦手ではなさそうで圭介はほっとした。
「あらまぁ、ネコちゃんがいたのね」
「ソイツが―――〇〇が、最期までピーと一緒にいてくれて」
「〇〇、ちゃん・・・まぁまぁ、そうだったの」
基本、人見知りはしない〇〇は、嬉しそうに女性の掌を受け入れている。何かと聡い愛猫は、きっと迎えに来た人なのだと理解しているかもしれない。
「綺麗な瞳をしてるのねぇ」
「え」
「亡くなった夫が可愛がっていたネコも、満月のように輝いていたっけ」
さぁお暇しましょ、と素早く草履に足を通した女性の背中を見つめる圭介は、その姿から視線を逸らすことができなかった。たまたま飼いネコに共通点があったという些細な話題のはずなのに、どういうネコで、今はどうしているのか、まさか人間に変身するなんてことは―――次々と明らかにしたい疑問が湧いてきて、居ても立っても居られない衝動に駆られる。
だが、それを口に出す隙も与えず、最後の挨拶を交わすと女性は玄関ドアを締めてしまった。
「ふー。お疲れケースケ」
「あ、・・・うん」
母親の声かけに現実へと戻された圭介は、こちらへ無邪気に視線を送る〇〇を見て思い巡らせた。あの女性と会うのは、本当にこれっきりになってしまうのだろうか―――と。
ーーー卍おまけ卍ーーー
トク…トク…トク…トク…
〇〇「ぎゅ―――っ」
圭介「(あったけぇ・・・生きてる・・・柔らけぇ・・・)」
ーーーーーーーーーーーー
あとがきみたいなもの
皆さんは、スピリチュアル的な体験、したことありますか?
信じる人も、信じない人も、フィクションとして情景を思う浮かべていただけたら幸いです。
写真に写り込む光球(オーブ)を玉響現象と言うんですけど、昔からそれを心霊的なものと捉える人もいるんですね。今回ストーリーの表現として拝借させていただきました。
生きとし生けるものいつか終わりが来ることを、動物を愛する彼はより身近に感じている。そう思います。
今回の出来事でより敏感になって暫く、〇〇の心音を確かめる癖が続いたかもしれない。
抜群の弾力を、顔面いっぱいに確認していたのかもしれない。かもしれない。
「いた―――い!!」
寝起き間もなく油断していたところに響いた大音声。その耳を劈く悲鳴に、圭介は心臓が弾けた。
家の中二人きりの時は、〇〇を人間の姿のままにしておくのもすっかり日常となりつつあり、むしろ積極的にそうしていると圭介自身も自覚していた。彼女との言葉のやり取りは、今となっては掛け替えのない行為なのである。
そんな愛猫のピンチらしき悲鳴に、圭介が慌てて自室へ駆け込むと、涙目の〇〇が振り返った。痛がっている額がほんのり真っ赤に染まっていたが、手当てが必要なほどの負傷では無いようでほっと胸を撫で下ろす。
それよりも注目すべきは、床を転がるようにバタバタと暴れるモノ。間違いなく先程まで部屋にはいなかったので、どうやら窓から不法侵入したと思しき犯人。いや―――
「・・・インコだ」
鮮やかな頬の赤からして、オカメインコであると分かる。未だにバタバタと暴れているが、羽を切られているわけではなさそうなのでどうやらパニックに陥っているらしい―――圭介が冷静に所見を示す横で、〇〇は涙目になりながら訴えた。
「ケースケ、ココあなぼこあいた?ねぇあなぼこあいたっ??」
「あいてねぇよ」
圭介が患部を撫でながら見ると、赤く腫れている範囲は極端に狭い。くちばしがクリーンヒットしたのか・・・それなりのスピードで激突されたのだろうことが伺える。
「ピーチャン、ピーチャンコンニチハッ」
「「・・・しゃべった!」」
突然のことに、おっかなびっくり思わず二人の息が合う。得体の知れない生物に怯えた〇〇が圭介に抱きつくと、圭介も反射的に〇〇の肩を抱き寄せるが、そんな状況お構い無しにインコはマイペースに喋り続けている。
「ピーチャン、カワイイネ、モシモシ、モシモシ」
「コイツ、ピーちゃんって名前みたいだ」
「・・・ピーちゃん?こんにちは?」
「コンニチハ、コン、コンチッ、ピーチャン、ア゙ー」
「ほっ!」
挨拶に応答した姿に〇〇の満月が一際輝き、まんまるに見開きながらあれこれと言葉をかけ続けている。
さて、どうしたものか―――このあたりで野生のインコが生息している話など聞いたことも無い。おそらくは飼い主の元から脱走したかなにか―――圭介はピーちゃんの処遇に思いあぐねていた。
***
思いつくことは一通りやった。同じ団地でインコを買っている住人はいないか聞き込み、インコがいなくなったペットショップはないか足を運び、東卍メンバーに迷子インコのビラ配りを手伝わせ―――しかし、待てど暮らせど飼い主からの連絡は未だ無い。
「にぁんっ」
「ハイッモシモシ、ピ~~~ハイッ!」
「なぁ~んっ」
そうこうしているうちに、すっかり〇〇に懐いたピーちゃん―――むしろ〇〇がピーちゃんに懐いていると言った方が正しいか―――は、開け放った窓を目の前にしても逃げるそぶりを見せず居座り続けている。
「〇〇、ピーちゃんにべったりッスね」
「弟できたみたいに思ってんのかもな」
圭介の部屋に招かれた千冬には、〇〇がピーちゃんに懐いていると見えるらしい。何だかそれが妙に可笑しくて、ふっと微笑み2匹の様子を観察する圭介。その姿を見やる千冬は、少し憂いの感情を込めて問いかけた。
「バジさん、このまま飼い主が現れなかったら・・・」
「ああ・・・いや、もう少し粘ってみるわ」
あれからひと月も経っていないのだから、可能性を捨てるにはまだ早い。必死に探しているかもしれないピーちゃんの家族を思う圭介には、不思議と予感めいたものが頭を巡っていた。
***
その日の夜は満月だった。
寝床に着こうと布団を捲ると、〇〇とピーちゃんが身を寄せ合って眠っていた。ちゃんとケースケのスペースを避けているあたり、利口な奴らだと思わず頬が緩んでしまう。〇〇の頭を一撫で、次いでピーちゃんにも触れると、ゾワリ―――圭介の心臓を撫でた何とも不快な感触。
「―――冷、たい」
何が起きたのか理解できなかった。数時間前、元気よく〇〇と遊んでいたはずなのに―――もう一度、今度は掌で包むように触れるが、いつもの体温は感じない。
その時、圭介の気配で〇〇が起きた。寝ぼけ眼で圭介の手ごとピーちゃんに頭をすり寄せている。圭介は、ぎゅうっと胸の真ん中が締め付けられた。〇〇は、ピーちゃんの異変に誰よりも早く気がついていたのだ。
窓から入ってきた一陣の風がカーテンを割った。その隙間から月光が差し込みはじめると、ピーちゃんの身体から目を凝らしてやっと分かる程の薄い薄い小さな靄が現れた。靄は、今にも消え入りそうな蠟燭の火の如く弱々しくともっている。
ふと〇〇の鼻先が、そうっとその靄に触れる。まるで、旅立つ者へ贈る最期の口づけのように。躊躇う事なく流れるような所作―――それはまるで消えゆく命を慈しむかのようであった。
間もなくして、靄が小さな身体から離れ宙に浮く。そこでようやっと靄が球体であると分かった。暫し宙に停滞したあと、月の光に誘われるようにとうとう消えて無くなってしまった。
圭介は、非科学的な現象に興味は無いタイプの人間だ。しかし今のが、魂の類であったのなら―――
彼女は、"さよなら"を伝えられたのだろうか。
「にぁーん」
呼ばれて気づいた擦り寄る温もりを、圭介はそうっと抱き上げた。鼓動を鳴らし息をする、そこにある確かな命に、瞳の奥が熱くなった。
***
「看取ってくださって、本当に、ありがとう」
向かいに座る初老の女性から、涙ぐみながら礼の言葉を伝えられた。隣に座る母親が、腕を伸ばし女性の肩を摩っているのを横目に、圭介は改めて自分の不甲斐なさを痛感させられていた。
連絡があったのは、あの夜が明けた日のこと。圭介は失望落胆した。こんなすれ違い、あんまりではないか、と。
「オレは、何も・・・異変に気付けなかったし」
「小鳥は、自分の不調を隠してしまう習性があるそうよ。それに寿命でもあったのでしょう」
だから気にしないで―――そう言う女性に、圭介は益々頭が上がらなかった。
母親の箪笥に眠っていた真っ白のハンカチでピーちゃんの亡骸を包んでおいたもの―――圭介が手渡すと、女性は受け取り暫し両手の中に収めた。その姿を確認することなく持参した桐箱に入れ風呂敷に包んでいる。圭介は、その毅然とした所作をただひたすらに目で追った。
湯呑一杯の茶を飲み干すと、さっと立ち上がり女性は玄関へと向かった。上質な着物をまとった彼女は、御礼の菓子折りを贈りやるべきことを済ませた後は、無駄な長居するべからず、とそういう心得を身につけているような雰囲気があった。
玄関前へたどり着くと、〇〇がいた。初老の彼女も突然現れたネコに少々驚かされたようだが、感嘆の声を聞くに苦手ではなさそうで圭介はほっとした。
「あらまぁ、ネコちゃんがいたのね」
「ソイツが―――〇〇が、最期までピーと一緒にいてくれて」
「〇〇、ちゃん・・・まぁまぁ、そうだったの」
基本、人見知りはしない〇〇は、嬉しそうに女性の掌を受け入れている。何かと聡い愛猫は、きっと迎えに来た人なのだと理解しているかもしれない。
「綺麗な瞳をしてるのねぇ」
「え」
「亡くなった夫が可愛がっていたネコも、満月のように輝いていたっけ」
さぁお暇しましょ、と素早く草履に足を通した女性の背中を見つめる圭介は、その姿から視線を逸らすことができなかった。たまたま飼いネコに共通点があったという些細な話題のはずなのに、どういうネコで、今はどうしているのか、まさか人間に変身するなんてことは―――次々と明らかにしたい疑問が湧いてきて、居ても立っても居られない衝動に駆られる。
だが、それを口に出す隙も与えず、最後の挨拶を交わすと女性は玄関ドアを締めてしまった。
「ふー。お疲れケースケ」
「あ、・・・うん」
母親の声かけに現実へと戻された圭介は、こちらへ無邪気に視線を送る〇〇を見て思い巡らせた。あの女性と会うのは、本当にこれっきりになってしまうのだろうか―――と。
ーーー卍おまけ卍ーーー
トク…トク…トク…トク…
〇〇「ぎゅ―――っ」
圭介「(あったけぇ・・・生きてる・・・柔らけぇ・・・)」
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あとがきみたいなもの
皆さんは、スピリチュアル的な体験、したことありますか?
信じる人も、信じない人も、フィクションとして情景を思う浮かべていただけたら幸いです。
写真に写り込む光球(オーブ)を玉響現象と言うんですけど、昔からそれを心霊的なものと捉える人もいるんですね。今回ストーリーの表現として拝借させていただきました。
生きとし生けるものいつか終わりが来ることを、動物を愛する彼はより身近に感じている。そう思います。
今回の出来事でより敏感になって暫く、〇〇の心音を確かめる癖が続いたかもしれない。
抜群の弾力を、顔面いっぱいに確認していたのかもしれない。かもしれない。
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