🐾本編🐾
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1.満月
錯誤相関とは、相関がないデータに相関があると思い込んでしまう現象である。たとえば「満月」。はるか昔より、人々は不可解な事象や行動を満月と結びつけてきた。あちらでは奇異な事件が起こり、こちらでは病に倒れる人が出た。何かある毎に「今日は満月だから」と気づかないうちに自分を騙してしまう。今宵起こった一人と一匹の不思議な出会いも、またその一つ―――
今日は、久しぶりに大人数を相手にした喧嘩だった。
場地圭介は、バイクの後ろに少年を一人乗せ、痛む身体を誤魔化すようにギアを操作しアクセルを回した。
「場地さん、大丈夫っスか?」
「あン?大丈夫に決まってんだろ。千冬ぅ、お前こそ今日は派手にヤられたなぁ。」
目的地に着くと、後ろの少年を降ろし機体のエンジンを切った。
今日の戦況、多勢に無勢の不利な状況だった。普段の彼らなら屁でもないことなのだが、相手も相当の手練れで珍しく油断した。圭介は、腹に食らった一発が想像以上に効いていて、今日は早く横になりたくてたまらなかった。しかし、後輩の手前、そんな弱音を吐くわけにもいかず。
東京卍會壱番隊隊長である圭介の元につく副隊長 松野千冬は、そんな先輩の本音に気づきながらも、ここは彼の意地を汲んで大人しく引き下がることにした。
「じゃあ、今日は早めに休みます。明日も学校だし、場地さんも早く寝てください。」
「おぅ。じゃあな。」
二人は、同じ団地の5階と2階に住んでいる。千冬の家の玄関前で別れると、圭介はさらに上を目指しのらりくらりと階段を上がっていった。
「やべ。千冬とダベってたらカギ抜くの忘れてた。」
バイクのカギを差しっぱなしにしていたことに気づいた圭介が、引き返し階段を下っていた。
彼が無事にバイクのカギを回収すると、ふと奥の方、駐輪場の端に落ちている不思議な形をした塊が目に留まった。
「・・・ゴミか?」
暗がりでよく見えない。普段ならただのゴミだろとスルーするところだが、妙にその正体が気になった圭介が、その塊に向かって近づいていく。
その時、雲のすき間から月明かりが漏れ、その塊を照らした。今日は満月だった。
「あ。ネコだ。」
塊の正体は、丸まったネコだった。こんなところで寝ているのも珍しい。人が出入りする場所で、しかも通路のど真ん中。不自然なその姿に、圭介は言い様のない不安に駆られた。
「おまえ・・・具合でもわりぃのか?」
様子を見ようと更に近づく。首輪をしていないようだから、野良猫の可能性が高い。結構な距離まで迫っても、ネコは逃げるそぶりを見せなかった。まさか、もう息絶えているのか・・・そう思い、圭介がその頭に触れようと手を伸ばす。
ぴくっ。指が毛の先に当たったタイミングで、ネコの耳が反応した。よかった、生きていた。その時、ネコの目が開いた。黄金に輝く、まるで満月のような瞳をしていた。逆に全身の毛色は、月明かりを集めたような美しい銀色をしていて、野良にしてはとても綺麗なネコだなと圭介は思った。
「こんなところで寝てると、轢かれんぞ?」
安全な場所へ行け。と圭介が全身を撫でながら促すと、気だるそうに体を起こそうとしたネコが、ガクっと崩れ落ちた。
「!おい、」
様子のおかしいネコをよく観察すると、右前足にケガを負っていた。このせいで倒れていたのか。このままにしてはおけない。圭介は、ネコを抱きかかえると団地の階段を急ぎ駆け上がった。
「こんなもんでいいか。」
ネコをバスタオルで包むと負傷箇所を水で洗い流し、布で押さえ止血をしてやる。幸い、化膿などは起こしていないようだった。
同居する母親は、すでに寝入っている。圭介は、前足にガーゼと包帯を巻いたネコを抱え静かに自室へと運んだ。
「取りあえず、ここに寝てろ。」
押し入れの中にある自身のベッドにネコを寝かせると、圭介は身体の汚れを落とそうと風呂場へ向かった。いつからあそこでうずくまっていたんだろうか。目を覚ましたら何か腹に入れてやらねば。体力が戻ったら風呂にも入れてやろうか。そんなことを考えながら、ガシガシと長髪にこびりついた汚れを落とした。
「・・・」
自室に戻ると、ベッドの上には先ほどのまま一歩も動いていないネコの姿があった。圭介が傍へ寄ると、スースーと小さな寝息が聞こえてきて、ほっと胸を撫で下ろす。
「寝るか・・・」
ネコを奥へと寄せ、その隣に横になった。今日は疲れた。明日はいつもの時間には起きれそうもない。遅刻していこうか。目を閉じると、眠気は直ぐに襲ってきた。
明日になったら目を覚ましているといいが。圭介は、微睡みの中、隣で眠る小さないのちが早く元気な姿を見せてくれるようにと願った。
「圭介ー!!起きたー!?」
大音量の目覚ましで目が覚めた。いつも8時までに起きないと聞こえてくる母親の叫び声。ということは、遅刻は決定だ。のんびり準備をしよう。昨日よりは大分調子が戻ってきた身体をのそっと起こす。ふと、圭介はいつもよりベッド際ギリギリの位置で寝ていたことに気が付いた。もう少しで転がり落ちるところだった。そこで、昨晩ケガをした野良猫を拾ってきたことを思い出す。そうだ、あいつは?慌ててネコを寝かした方へ顔を向けると、どう見てもネコのサイズではないものがいた。いや、もはやサイズがどうのこうのという問題でもなかった。
「!?!?」
女の子が寝ている。しかも、裸。圭介は、思わず掛け布団をめくって自身の下半身を確認する。しっかり寝間着を履いていた。はて。自分はネコではなく女を連れ込んだのだろうか。いやいや、あれは間違いなくネコだった。ふわふわの毛を抱きかかえてここまで連れてきたのだ。では、この子は一体何者だ。
「・・・んっ・・・」
少女が僅かに身体を震わすと、瞼をゆっくりと開けた。圭介は、ドキドキしながらその様子を見ていた。全く身に覚えがない。こうなれば、本人に直接聞くしかない。一度深呼吸をした圭介が、意を決して口を開いた。
「おい。お前誰」
「にゃーん」
ネコの鳴き声がした。いつも開け放っている窓から入ってきたのだろうか。窓の方を見たが、声の主の姿は見えない。では昨日拾ってきたネコがどこかに隠れているのだろうか。部屋を見渡すが、見えるところにはいないようだった。いや、それよりも今は目の前の少女だ。
とその時、少女ががばっと起き上がった。彼女は、真っ直ぐ圭介を見つめている。起きた拍子に掛け布団で隠れていた素肌が露になり、ばくん。と彼の心臓が大きく跳ねた。突然のことに思わず赤面する圭介の耳に、またあの鳴き声が聞こえてくる。
「にぁおん」
「・・・は?」
目の前の少女がネコの声真似をしていた。随分とふざけた女だ。裸で男の布団に潜り込んでおいて、もしかしたら相当ヤバい奴なのでは。圭介が変な汗をかき始めた時、ふと彼女の瞳に目が留まる。黄金に輝く双眼に既視感を覚えた。そう、昨晩ケガをしていたネコと同じ瞳の色だ。そういえば、彼女の髪の色。まるで月明かりを集めたような銀色をしている。あのネコの毛色と同じ・・・
「!」
彼女の右手の甲を見て、疑いが核心に変わる。解けかかった包帯とその手の痛々しい傷。
「おまえ・・・まさか・・・」
「にゃあん♡」
これは夢か。こういう時は頬をつねるんだったか。圭介が思いっきりつねってみると、少し涙が出る程痛かった。
錯誤相関とは、相関がないデータに相関があると思い込んでしまう現象である。たとえば「満月」。はるか昔より、人々は不可解な事象や行動を満月と結びつけてきた。あちらでは奇異な事件が起こり、こちらでは病に倒れる人が出た。何かある毎に「今日は満月だから」と気づかないうちに自分を騙してしまう。今宵起こった一人と一匹の不思議な出会いも、またその一つ―――
今日は、久しぶりに大人数を相手にした喧嘩だった。
場地圭介は、バイクの後ろに少年を一人乗せ、痛む身体を誤魔化すようにギアを操作しアクセルを回した。
「場地さん、大丈夫っスか?」
「あン?大丈夫に決まってんだろ。千冬ぅ、お前こそ今日は派手にヤられたなぁ。」
目的地に着くと、後ろの少年を降ろし機体のエンジンを切った。
今日の戦況、多勢に無勢の不利な状況だった。普段の彼らなら屁でもないことなのだが、相手も相当の手練れで珍しく油断した。圭介は、腹に食らった一発が想像以上に効いていて、今日は早く横になりたくてたまらなかった。しかし、後輩の手前、そんな弱音を吐くわけにもいかず。
東京卍會壱番隊隊長である圭介の元につく副隊長 松野千冬は、そんな先輩の本音に気づきながらも、ここは彼の意地を汲んで大人しく引き下がることにした。
「じゃあ、今日は早めに休みます。明日も学校だし、場地さんも早く寝てください。」
「おぅ。じゃあな。」
二人は、同じ団地の5階と2階に住んでいる。千冬の家の玄関前で別れると、圭介はさらに上を目指しのらりくらりと階段を上がっていった。
「やべ。千冬とダベってたらカギ抜くの忘れてた。」
バイクのカギを差しっぱなしにしていたことに気づいた圭介が、引き返し階段を下っていた。
彼が無事にバイクのカギを回収すると、ふと奥の方、駐輪場の端に落ちている不思議な形をした塊が目に留まった。
「・・・ゴミか?」
暗がりでよく見えない。普段ならただのゴミだろとスルーするところだが、妙にその正体が気になった圭介が、その塊に向かって近づいていく。
その時、雲のすき間から月明かりが漏れ、その塊を照らした。今日は満月だった。
「あ。ネコだ。」
塊の正体は、丸まったネコだった。こんなところで寝ているのも珍しい。人が出入りする場所で、しかも通路のど真ん中。不自然なその姿に、圭介は言い様のない不安に駆られた。
「おまえ・・・具合でもわりぃのか?」
様子を見ようと更に近づく。首輪をしていないようだから、野良猫の可能性が高い。結構な距離まで迫っても、ネコは逃げるそぶりを見せなかった。まさか、もう息絶えているのか・・・そう思い、圭介がその頭に触れようと手を伸ばす。
ぴくっ。指が毛の先に当たったタイミングで、ネコの耳が反応した。よかった、生きていた。その時、ネコの目が開いた。黄金に輝く、まるで満月のような瞳をしていた。逆に全身の毛色は、月明かりを集めたような美しい銀色をしていて、野良にしてはとても綺麗なネコだなと圭介は思った。
「こんなところで寝てると、轢かれんぞ?」
安全な場所へ行け。と圭介が全身を撫でながら促すと、気だるそうに体を起こそうとしたネコが、ガクっと崩れ落ちた。
「!おい、」
様子のおかしいネコをよく観察すると、右前足にケガを負っていた。このせいで倒れていたのか。このままにしてはおけない。圭介は、ネコを抱きかかえると団地の階段を急ぎ駆け上がった。
「こんなもんでいいか。」
ネコをバスタオルで包むと負傷箇所を水で洗い流し、布で押さえ止血をしてやる。幸い、化膿などは起こしていないようだった。
同居する母親は、すでに寝入っている。圭介は、前足にガーゼと包帯を巻いたネコを抱え静かに自室へと運んだ。
「取りあえず、ここに寝てろ。」
押し入れの中にある自身のベッドにネコを寝かせると、圭介は身体の汚れを落とそうと風呂場へ向かった。いつからあそこでうずくまっていたんだろうか。目を覚ましたら何か腹に入れてやらねば。体力が戻ったら風呂にも入れてやろうか。そんなことを考えながら、ガシガシと長髪にこびりついた汚れを落とした。
「・・・」
自室に戻ると、ベッドの上には先ほどのまま一歩も動いていないネコの姿があった。圭介が傍へ寄ると、スースーと小さな寝息が聞こえてきて、ほっと胸を撫で下ろす。
「寝るか・・・」
ネコを奥へと寄せ、その隣に横になった。今日は疲れた。明日はいつもの時間には起きれそうもない。遅刻していこうか。目を閉じると、眠気は直ぐに襲ってきた。
明日になったら目を覚ましているといいが。圭介は、微睡みの中、隣で眠る小さないのちが早く元気な姿を見せてくれるようにと願った。
「圭介ー!!起きたー!?」
大音量の目覚ましで目が覚めた。いつも8時までに起きないと聞こえてくる母親の叫び声。ということは、遅刻は決定だ。のんびり準備をしよう。昨日よりは大分調子が戻ってきた身体をのそっと起こす。ふと、圭介はいつもよりベッド際ギリギリの位置で寝ていたことに気が付いた。もう少しで転がり落ちるところだった。そこで、昨晩ケガをした野良猫を拾ってきたことを思い出す。そうだ、あいつは?慌ててネコを寝かした方へ顔を向けると、どう見てもネコのサイズではないものがいた。いや、もはやサイズがどうのこうのという問題でもなかった。
「!?!?」
女の子が寝ている。しかも、裸。圭介は、思わず掛け布団をめくって自身の下半身を確認する。しっかり寝間着を履いていた。はて。自分はネコではなく女を連れ込んだのだろうか。いやいや、あれは間違いなくネコだった。ふわふわの毛を抱きかかえてここまで連れてきたのだ。では、この子は一体何者だ。
「・・・んっ・・・」
少女が僅かに身体を震わすと、瞼をゆっくりと開けた。圭介は、ドキドキしながらその様子を見ていた。全く身に覚えがない。こうなれば、本人に直接聞くしかない。一度深呼吸をした圭介が、意を決して口を開いた。
「おい。お前誰」
「にゃーん」
ネコの鳴き声がした。いつも開け放っている窓から入ってきたのだろうか。窓の方を見たが、声の主の姿は見えない。では昨日拾ってきたネコがどこかに隠れているのだろうか。部屋を見渡すが、見えるところにはいないようだった。いや、それよりも今は目の前の少女だ。
とその時、少女ががばっと起き上がった。彼女は、真っ直ぐ圭介を見つめている。起きた拍子に掛け布団で隠れていた素肌が露になり、ばくん。と彼の心臓が大きく跳ねた。突然のことに思わず赤面する圭介の耳に、またあの鳴き声が聞こえてくる。
「にぁおん」
「・・・は?」
目の前の少女がネコの声真似をしていた。随分とふざけた女だ。裸で男の布団に潜り込んでおいて、もしかしたら相当ヤバい奴なのでは。圭介が変な汗をかき始めた時、ふと彼女の瞳に目が留まる。黄金に輝く双眼に既視感を覚えた。そう、昨晩ケガをしていたネコと同じ瞳の色だ。そういえば、彼女の髪の色。まるで月明かりを集めたような銀色をしている。あのネコの毛色と同じ・・・
「!」
彼女の右手の甲を見て、疑いが核心に変わる。解けかかった包帯とその手の痛々しい傷。
「おまえ・・・まさか・・・」
「にゃあん♡」
これは夢か。こういう時は頬をつねるんだったか。圭介が思いっきりつねってみると、少し涙が出る程痛かった。
