🌙番外編🌙
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寂寥
日が昇って間も無い早朝。何時もより早く起床した圭介は、自室でボストンバッグを目の前に胡座をかいていた。バッグの中身は、洋服やタオル、歯ブラシセット。誰もが旅行にでも行くのだろうと思うラインナップである。
窓の外からはスズメの鳴き声。そして、傍ではまだベッドで眠る愛猫の寝息が聞こえてくる。
「おし、全部入ってるな。」
「・・・ケースケぇ・・・?」
荷物を詰め終わると、〇〇が寝ぼけ眼でモソモソと起き上がった。今日も今日とて、朝になるとネコから人間に変わっていた彼女。銀色の髪についた寝癖に、思わず圭介の顔から笑みがこぼれた。
「〇〇、今日から林間学校行ってくるからな。」
「りー・・・?」
「帰るのは明後日だから、いい子で留守番してろよ。」
「るすばん、るすばん・・・」
きっと理解出来ていない。でも、母親がいるし、餌の心配などはしなくていい。圭介は、ベッドの上でコクリコクリと船を漕ぐ〇〇の頬に手を添える。小さな唇にキスを落とすと、その身体が徐々に縮んでいった。
ネコの姿に戻った〇〇は、眠気に抗えず顔から布団に突っ込んだ。そのままごろりと横になり、欠伸と同時に全身で伸びをすると、再び眠りについたのだった。
パチッと目を開けると、部屋の中はシンと静まり返っていた。
何時もなら、圭介の「行ってきます」と言う声が響き、それに合わせ彼を玄関まで見送るのが〇〇の日課だ。
時計を見る。現在、午前8時40分。
短い針が"8"を指す時間に学校へ行く。"3"と"4"の間を指す頃帰ってくる。〇〇は、彼からそう教わっていた。
今日はもう出てしまったのだろう。〇〇は、残念に思いながらベッドから飛び降りると、台所へ続く襖を器用に開けた。
まずは、台所へ入ってすぐ脇にある砂トイレで用を足す。次に、いつも圭介が用意してくれる朝ごはんの元へ向かった。
「はぐはぐ」
綺麗に腹へ収めると、口のまわりをペロリとひと舐め。ごちそうさまの合図を出した。
ふと、台所にある壁掛け時計を見る。現在、午前9時。短い針が3を指すまでまだまだ先のようだ。
ベッドでゴロゴロしたり、窓の向こう側を眺めたり、タンスの角をカリカリ引っ掻いてみたり。〇〇は、いつも通り気ままに過ごしながら彼の帰りを待っていた。
ガチャリ。
ひとり遊びも飽きた頃、〇〇がウトウトしているとドアの鍵を回す音が聞こえた。ピクっと耳を震わせ、素早くベットから降りる。時計を見ると、午後4時。短い針は、既に4に到達していた。
帰ってきた
〇〇は、心做しか急ぎ足で玄関へと向かう。その視界に靴を脱ぐ人物を捉えた瞬間、ピタッと思わず急ブレーキをかけた。
「あら、今日はお母さんもお出迎えしてくれるの?」
ただいま、〇〇。と帰ってきたのは、圭介の母だった。いつもより帰りが早い。
「もうちょっとしたらごはんだから、待ってね~」
目の前を通り過ぎる姿を見送った〇〇は、ガッカリした。大体、帰りは圭介の方が早いからだ。
買い込んだ食料を冷蔵庫へしまう母親をチラリと一瞥すると、〇〇は圭介の部屋へと戻った。
暫く、まだかまだかとベッドの上でゴロゴロ寝転がっていると、名前を呼ばれた。〇〇が台所へと向かうと、目に入ったのはいつもの定位置に置いてある餌と水。
ケースケが用意してくれるはずなのに
〇〇は、違和感を覚えずにはいられなかった。しかし、様子は違えど腹は減る。圭介が不在の間に夕飯を食べるのは、この日が初めてだった。
「にぁ~~~ん」
食べ終わると、〇〇は玄関ドアの前に座っていた。時計の短い針は、もうすぐで7を指す。外もすっかり暮れてきた。
「・・・もしかして、圭介が帰ってくるの待ってるの?」
「なぁぁあん」
オフクロさん、いくらなんでも遅すぎやしませんか
〇〇は目で訴えた。その様子を見た圭介の母は、眉尻を下げため息混じりに微笑んだ。息子が迎え入れたネコは、今ではすっかり家族の一員である。
「〇〇。圭介、今日は帰ってこないのよ」
その言葉に、パチパチと瞬き。そして、小さな顔面に衝撃が走った。
〇〇は、しかと理解した。「帰ってこない」つまり、圭介は居ない。
驚きと悲しみ。なぜ帰ってこない。彼女は、なんとも理不尽な心境だった。今朝、彼はどこかへ行ってくると言っていた。そして「帰る」とも言っていた筈だ。寝ぼけていたから細かい話は覚えていないけれど。
そんなことを思いながら、〇〇は見つめていた玄関ドアから名残惜しそうに視線を外す。元気の無い様子で踵を返し、トボトボと圭介の部屋へと入っていった。
「にぁぁん・・・」
暗い部屋に、窓から月の薄明かりが差し込んでいる。畳に影を作りながら、〇〇はベットに飛び乗った。
主不在のひんやりとした布団に潜り込む。身体を丸めると、寂しさを紛らわせるようにそっと瞼を閉じたのだった。
翌日。
〇〇は、ベッドの上から開け放たれた窓を見ていた。今日は、息子不在の合間に掃除をしようと母親が忙しなく部屋を出入りしている。まだ圭介は帰ってこない。
その時、〇〇はふと思い出した。ペケJが言っていたのだ。外から圭介の部屋へと向かう"ルート"があることを。彼は、幾度もこの部屋を訪れたことがあるらしい。
ケースケを探しに行こう
〇〇は閃いた。帰ってこないなら、こちらから出向けばいいではないか。彼がいつも行き来している方向へ向かえば、どこかにいる筈だと考えた。
善は急げと言わんばかりに、窓の桟へ前足を掛ける。
「・・・」
ひゅう。5階からの眺めは絶景。基、絶壁。
確かに足場はあるものの、ペケよ。お前どうやってココから降りたんだ。〇〇は、その高さに一瞬たじろいだ。
「~~~っにゃ!」
手すりの縁に乗った。そこから、近くの小庇やベランダの柵などを伝い慎重に渡っていく。流石にここから落ちたらどうなるか分からない。
2つ3つと順調に下り、3階のベランダに到達したその時、一際強く吹いた風に〇〇の身体が煽られる。
グラリ。気づいた時には足場が無かった。〇〇は、地面目掛けて真っ逆さまに落下した。
「・・・」
次の瞬間、気づいた時にはしっかり地に足がついていた。〇〇は、バクバクと心臓を鳴らしながら空中で身を翻し、本人もびっくりな完璧過ぎる着地に成功した。
それは正しく、にゃんぱらり。
「にぁん♪」
やれば出来るじゃないか。そんな得意げなすまし顔で歩き出す。
銀色のネコは、颯爽と団地からの脱出に成功したのだった。
「???」
あれから2時間ほど歩いただろうか。だが、いくら歩みを進めても圭介は見当たらない。それどころか、
ココはドコ?
〇〇は、勘を頼り見知らぬ街を当てもなくさ迷っていた。
「にぁ~ん・・・」
圭介は居ない。うっかり遠くまで来すぎたが為に、帰り道も分からなくなった。このまま彼に会えなかったらどうしよう。彼女は絶望の淵に立たされていた。
「あれ?〇〇?」
項垂れていると、名前を呼ばれて振り向いた。そこに居たのは、制服を着た見覚えのある人物。
「あ!やっぱり〇〇じゃん!」
「あー、場地のネコ」
"マイキー"と"ケンチン"
〇〇は、見知った人物の姿に心底安堵した。この二人なら圭介の居場所を知っているに違いない。そう思うや否や、タッタと二人の傍へ近寄り間髪入れずに訴えた。
「にゃぁぁあん!みゃぁぁあん!」
「〇〇。何言ってんのか全っ然分かんねぇぞ」
「なんか、ものスゲェ勢いだな・・・」
万次郎とドラケンは、なにやら切羽詰っている様子のネコに困惑した。生憎と、二人共に動物の飼育経験は学校にいるうさぎとメダカくらい。彼女の訴えは悲しいかな、彼らにはこれっぽっちも届かなかった。
このままでは埒が明かない。〇〇は最終手段に打って出る。万次郎の脚に掛けた両前足を、強請るように彼に向かって伸ばした。
「にゃうにゃう」
「ん?あ!そーだ!女の子にすりゃイイじゃん!」
カタコトだろうが舌っ足らずだろうがネコ語よりはマシ。万次郎は、〇〇を抱き上げその顔を近づける。
「待てマイキー!ココじゃマズイだろ」
人が往来する道のど真ん中。いきなり裸の女の子が現れたら大騒ぎどころではない。下手をしたら警察沙汰である。
「あ。それもそうだ」
じゃあ家に行こう。そう言うと、〇〇を抱き抱えたまま、万次郎はニコニコ顔でドラケンを連れ自宅へと向かったのだった。
〇〇は、人間の姿になっていた。万次郎からエマの服を被せられ、襟ぐりからスポンと頭が通ったところで事の次第を話し出す。
「ケースケのトコ、いくー」
「んん?バジのとこ?て、アイツまだ学校に居るんじゃねーか?」
「いや、千冬と一緒に林間学校行くって言ってたろ。だからアイツら、昨日の集会休んだじゃん」
「あ。そーいえば」
ということは、昨夜から帰っていないはず。そこで漸く二人は悟った。じぃ、とこちらを見つめる少女は、主を探しに飛び出してきたのだ。
「おまえはホントにカワイイなぁ~♪」
「ケースケどこぉぉぉぉおっ?」
その健気な姿に、思わず万次郎が〇〇を抱き締めた。
しかし、彼の拘束を解こうと〇〇がじたばたと暴れ出す。その様子を眺めながらドラケンは考えていた。予定では明日帰ってくるはず。場所は知ってるので連れて行けないこともないだろうが、彼女の要求を呑んで事を荒立てるより、大人しく帰りを待たせる方が懸命だ。
「〇〇。場地は明日帰ってくっから、もう少し辛抱しろ」
「ケースケぇぇぇぇえっ」
「わっ、コラ」
暴れた勢いで、〇〇の着ているシャツが裾から捲れ上がる。腹が丸見えになり、ズルズルと床へ落ちていくと所謂"ヘソ天"状態に。
「わお、セクスィー♡」
「マイキー、ふざけてねェd」
「ただいまー!マイキー!!先に帰ってきたら洗濯物入れてっていつも言っ」
帰宅したエマが、万次郎の部屋のドアを勢いよく開けた。彼女は、ドラケンの姿に思わず胸を高鳴らせたのもつかの間、見知らぬ存在に気づき驚いた。
女の子だ。二人が連れてきたのか。いや、それよりもこの状況は何だ。女の子は、身体を押えられ少々着衣に乱れが―――
「なっなな何やってんのー!?その子誰!!?」
「あ。エマ、待て。これにはワケが」
「ワケって!?てか、その子が着てる服見覚えがあるんだけど!!?」
「よし、エマ。一旦落ち着け」
察したドラケンが、どーどーと落ち着かせにかかる。
エマの勢いに圧倒され、〇〇はぱちくりと目を丸くしたまま固まっていたのだった。
日が昇って間も無い早朝。何時もより早く起床した圭介は、自室でボストンバッグを目の前に胡座をかいていた。バッグの中身は、洋服やタオル、歯ブラシセット。誰もが旅行にでも行くのだろうと思うラインナップである。
窓の外からはスズメの鳴き声。そして、傍ではまだベッドで眠る愛猫の寝息が聞こえてくる。
「おし、全部入ってるな。」
「・・・ケースケぇ・・・?」
荷物を詰め終わると、〇〇が寝ぼけ眼でモソモソと起き上がった。今日も今日とて、朝になるとネコから人間に変わっていた彼女。銀色の髪についた寝癖に、思わず圭介の顔から笑みがこぼれた。
「〇〇、今日から林間学校行ってくるからな。」
「りー・・・?」
「帰るのは明後日だから、いい子で留守番してろよ。」
「るすばん、るすばん・・・」
きっと理解出来ていない。でも、母親がいるし、餌の心配などはしなくていい。圭介は、ベッドの上でコクリコクリと船を漕ぐ〇〇の頬に手を添える。小さな唇にキスを落とすと、その身体が徐々に縮んでいった。
ネコの姿に戻った〇〇は、眠気に抗えず顔から布団に突っ込んだ。そのままごろりと横になり、欠伸と同時に全身で伸びをすると、再び眠りについたのだった。
パチッと目を開けると、部屋の中はシンと静まり返っていた。
何時もなら、圭介の「行ってきます」と言う声が響き、それに合わせ彼を玄関まで見送るのが〇〇の日課だ。
時計を見る。現在、午前8時40分。
短い針が"8"を指す時間に学校へ行く。"3"と"4"の間を指す頃帰ってくる。〇〇は、彼からそう教わっていた。
今日はもう出てしまったのだろう。〇〇は、残念に思いながらベッドから飛び降りると、台所へ続く襖を器用に開けた。
まずは、台所へ入ってすぐ脇にある砂トイレで用を足す。次に、いつも圭介が用意してくれる朝ごはんの元へ向かった。
「はぐはぐ」
綺麗に腹へ収めると、口のまわりをペロリとひと舐め。ごちそうさまの合図を出した。
ふと、台所にある壁掛け時計を見る。現在、午前9時。短い針が3を指すまでまだまだ先のようだ。
ベッドでゴロゴロしたり、窓の向こう側を眺めたり、タンスの角をカリカリ引っ掻いてみたり。〇〇は、いつも通り気ままに過ごしながら彼の帰りを待っていた。
ガチャリ。
ひとり遊びも飽きた頃、〇〇がウトウトしているとドアの鍵を回す音が聞こえた。ピクっと耳を震わせ、素早くベットから降りる。時計を見ると、午後4時。短い針は、既に4に到達していた。
帰ってきた
〇〇は、心做しか急ぎ足で玄関へと向かう。その視界に靴を脱ぐ人物を捉えた瞬間、ピタッと思わず急ブレーキをかけた。
「あら、今日はお母さんもお出迎えしてくれるの?」
ただいま、〇〇。と帰ってきたのは、圭介の母だった。いつもより帰りが早い。
「もうちょっとしたらごはんだから、待ってね~」
目の前を通り過ぎる姿を見送った〇〇は、ガッカリした。大体、帰りは圭介の方が早いからだ。
買い込んだ食料を冷蔵庫へしまう母親をチラリと一瞥すると、〇〇は圭介の部屋へと戻った。
暫く、まだかまだかとベッドの上でゴロゴロ寝転がっていると、名前を呼ばれた。〇〇が台所へと向かうと、目に入ったのはいつもの定位置に置いてある餌と水。
ケースケが用意してくれるはずなのに
〇〇は、違和感を覚えずにはいられなかった。しかし、様子は違えど腹は減る。圭介が不在の間に夕飯を食べるのは、この日が初めてだった。
「にぁ~~~ん」
食べ終わると、〇〇は玄関ドアの前に座っていた。時計の短い針は、もうすぐで7を指す。外もすっかり暮れてきた。
「・・・もしかして、圭介が帰ってくるの待ってるの?」
「なぁぁあん」
オフクロさん、いくらなんでも遅すぎやしませんか
〇〇は目で訴えた。その様子を見た圭介の母は、眉尻を下げため息混じりに微笑んだ。息子が迎え入れたネコは、今ではすっかり家族の一員である。
「〇〇。圭介、今日は帰ってこないのよ」
その言葉に、パチパチと瞬き。そして、小さな顔面に衝撃が走った。
〇〇は、しかと理解した。「帰ってこない」つまり、圭介は居ない。
驚きと悲しみ。なぜ帰ってこない。彼女は、なんとも理不尽な心境だった。今朝、彼はどこかへ行ってくると言っていた。そして「帰る」とも言っていた筈だ。寝ぼけていたから細かい話は覚えていないけれど。
そんなことを思いながら、〇〇は見つめていた玄関ドアから名残惜しそうに視線を外す。元気の無い様子で踵を返し、トボトボと圭介の部屋へと入っていった。
「にぁぁん・・・」
暗い部屋に、窓から月の薄明かりが差し込んでいる。畳に影を作りながら、〇〇はベットに飛び乗った。
主不在のひんやりとした布団に潜り込む。身体を丸めると、寂しさを紛らわせるようにそっと瞼を閉じたのだった。
翌日。
〇〇は、ベッドの上から開け放たれた窓を見ていた。今日は、息子不在の合間に掃除をしようと母親が忙しなく部屋を出入りしている。まだ圭介は帰ってこない。
その時、〇〇はふと思い出した。ペケJが言っていたのだ。外から圭介の部屋へと向かう"ルート"があることを。彼は、幾度もこの部屋を訪れたことがあるらしい。
ケースケを探しに行こう
〇〇は閃いた。帰ってこないなら、こちらから出向けばいいではないか。彼がいつも行き来している方向へ向かえば、どこかにいる筈だと考えた。
善は急げと言わんばかりに、窓の桟へ前足を掛ける。
「・・・」
ひゅう。5階からの眺めは絶景。基、絶壁。
確かに足場はあるものの、ペケよ。お前どうやってココから降りたんだ。〇〇は、その高さに一瞬たじろいだ。
「~~~っにゃ!」
手すりの縁に乗った。そこから、近くの小庇やベランダの柵などを伝い慎重に渡っていく。流石にここから落ちたらどうなるか分からない。
2つ3つと順調に下り、3階のベランダに到達したその時、一際強く吹いた風に〇〇の身体が煽られる。
グラリ。気づいた時には足場が無かった。〇〇は、地面目掛けて真っ逆さまに落下した。
「・・・」
次の瞬間、気づいた時にはしっかり地に足がついていた。〇〇は、バクバクと心臓を鳴らしながら空中で身を翻し、本人もびっくりな完璧過ぎる着地に成功した。
それは正しく、にゃんぱらり。
「にぁん♪」
やれば出来るじゃないか。そんな得意げなすまし顔で歩き出す。
銀色のネコは、颯爽と団地からの脱出に成功したのだった。
「???」
あれから2時間ほど歩いただろうか。だが、いくら歩みを進めても圭介は見当たらない。それどころか、
ココはドコ?
〇〇は、勘を頼り見知らぬ街を当てもなくさ迷っていた。
「にぁ~ん・・・」
圭介は居ない。うっかり遠くまで来すぎたが為に、帰り道も分からなくなった。このまま彼に会えなかったらどうしよう。彼女は絶望の淵に立たされていた。
「あれ?〇〇?」
項垂れていると、名前を呼ばれて振り向いた。そこに居たのは、制服を着た見覚えのある人物。
「あ!やっぱり〇〇じゃん!」
「あー、場地のネコ」
"マイキー"と"ケンチン"
〇〇は、見知った人物の姿に心底安堵した。この二人なら圭介の居場所を知っているに違いない。そう思うや否や、タッタと二人の傍へ近寄り間髪入れずに訴えた。
「にゃぁぁあん!みゃぁぁあん!」
「〇〇。何言ってんのか全っ然分かんねぇぞ」
「なんか、ものスゲェ勢いだな・・・」
万次郎とドラケンは、なにやら切羽詰っている様子のネコに困惑した。生憎と、二人共に動物の飼育経験は学校にいるうさぎとメダカくらい。彼女の訴えは悲しいかな、彼らにはこれっぽっちも届かなかった。
このままでは埒が明かない。〇〇は最終手段に打って出る。万次郎の脚に掛けた両前足を、強請るように彼に向かって伸ばした。
「にゃうにゃう」
「ん?あ!そーだ!女の子にすりゃイイじゃん!」
カタコトだろうが舌っ足らずだろうがネコ語よりはマシ。万次郎は、〇〇を抱き上げその顔を近づける。
「待てマイキー!ココじゃマズイだろ」
人が往来する道のど真ん中。いきなり裸の女の子が現れたら大騒ぎどころではない。下手をしたら警察沙汰である。
「あ。それもそうだ」
じゃあ家に行こう。そう言うと、〇〇を抱き抱えたまま、万次郎はニコニコ顔でドラケンを連れ自宅へと向かったのだった。
〇〇は、人間の姿になっていた。万次郎からエマの服を被せられ、襟ぐりからスポンと頭が通ったところで事の次第を話し出す。
「ケースケのトコ、いくー」
「んん?バジのとこ?て、アイツまだ学校に居るんじゃねーか?」
「いや、千冬と一緒に林間学校行くって言ってたろ。だからアイツら、昨日の集会休んだじゃん」
「あ。そーいえば」
ということは、昨夜から帰っていないはず。そこで漸く二人は悟った。じぃ、とこちらを見つめる少女は、主を探しに飛び出してきたのだ。
「おまえはホントにカワイイなぁ~♪」
「ケースケどこぉぉぉぉおっ?」
その健気な姿に、思わず万次郎が〇〇を抱き締めた。
しかし、彼の拘束を解こうと〇〇がじたばたと暴れ出す。その様子を眺めながらドラケンは考えていた。予定では明日帰ってくるはず。場所は知ってるので連れて行けないこともないだろうが、彼女の要求を呑んで事を荒立てるより、大人しく帰りを待たせる方が懸命だ。
「〇〇。場地は明日帰ってくっから、もう少し辛抱しろ」
「ケースケぇぇぇぇえっ」
「わっ、コラ」
暴れた勢いで、〇〇の着ているシャツが裾から捲れ上がる。腹が丸見えになり、ズルズルと床へ落ちていくと所謂"ヘソ天"状態に。
「わお、セクスィー♡」
「マイキー、ふざけてねェd」
「ただいまー!マイキー!!先に帰ってきたら洗濯物入れてっていつも言っ」
帰宅したエマが、万次郎の部屋のドアを勢いよく開けた。彼女は、ドラケンの姿に思わず胸を高鳴らせたのもつかの間、見知らぬ存在に気づき驚いた。
女の子だ。二人が連れてきたのか。いや、それよりもこの状況は何だ。女の子は、身体を押えられ少々着衣に乱れが―――
「なっなな何やってんのー!?その子誰!!?」
「あ。エマ、待て。これにはワケが」
「ワケって!?てか、その子が着てる服見覚えがあるんだけど!!?」
「よし、エマ。一旦落ち着け」
察したドラケンが、どーどーと落ち着かせにかかる。
エマの勢いに圧倒され、〇〇はぱちくりと目を丸くしたまま固まっていたのだった。
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