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本編(完結)
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「お、〇〇ちゃん!」
恐る恐るその輪に入ってくる〇〇に気づき、黒龍の面々が出迎えた。今日は総長の晴れ舞台観に来たんだろ?とか、惚気話でもうお腹いっぱいなんだけど。とか、今日もコール一発鳴らしとく?とか、あっちからこっちから声をかけられ、〇〇はアワアワしながら目的の人物の元へと急いだ。
「よぉ。元気だったか?」
明司だった。〇〇は、やっとこさ集団の波から抜け出したところに、見知った人物がいて少しほっとする。彼の手には既に花束が握られていて、もうメインイベント終了。というような出で立ちだった。
「あれ、もう花束贈呈終わっちゃったんですか?」
「ああ?贈呈っつーか走る前から押し付けられた。」
「ええ・・・」
「俺らにゃ決まった進行なんてねーからな。」
テキトー。もっときちっとするもんだと思ってたのに、洋服選びに費やした時間を返してくれ。〇〇は、一生懸命悩んだのがバカバカしくなっていた。
「だーれだ?」
その時、フっと〇〇の視界が暗転した。こんないたずらを仕掛けてくるのは一人しかいない。なんつーこっ恥ずかしいことをしているんだこの人は。
「なっ、なにしてるんですかっ!///」
「ほら、誰だか当てねーとずっと見えないまんまだぞ?」
「・・し・・・真一郎先輩。」
「当たり♡」
「恥ずかしいことしないでください!しかも大勢の前で・・・っ」
「なんだよ。別にいいだろ?オレら付き合ってんだぞ?」
にこにこ顔で覗き込んでくる真一郎を、〇〇が顔を真っ赤にしながら睨みつけた。付き合ってるから良い悪いという話ではない。トレンディドラマか!とツッコみたくなるような恥ずかしさを抱かせないでいただきたい。しかし、そんな〇〇の訴えは、言ったところで彼には届きそうもない。
「〇〇、今日はいつにも増して浮かれてる。諦めろ。」
「・・・はい。」
明司に言われ、ため息をひとつ。〇〇は、楽しそうにメンバーと談笑する真一郎の姿に、苦笑するしかなかった。
「真、そろそろ締めようか。」
「そーだな。」
んじゃちょっくら行ってくる。と、真一郎がいつもの定位置へと上がった。彼が前に立つだけで、嫌でもその統率力を見せつけられてしまう。賑やかだった場が静まり返ると、空気が締まった。
「オレからお前らに伝えたいことは、今まで散々言ってきたから、今日は挨拶代わりにちょっとだけ好きなこと言わせてくれ。」
夜風で長ランの特攻服がはためく。この場に到底似つかわしくない夜の
「なんか、羨ましいな・・・」
「なにが?」
「あぁいや、皆さんはずっと先輩のこと、傍で見てきたのかーって思ったら。」
〇〇がつい口に出した言葉を、明司が拾った。嫉妬というより羨望の眼差しで男共を見渡す〇〇に、明司がふっと笑みを零す。
「変な奴だな。これからは、お前が一番近くで見ていくんだろ?」
「あ、明司さん・・・///」
そんなつもりはなかったが、明司に言われ、何だか自分がとんでもない欲深い人間のような気がした。〇〇が恥ずかしさから赤面していると、明司が見透かすようにその様子をニヤニヤと見つめている。悔しいので何か言い返してやりたいところではあったが、真一郎の話を聴き逃してもいけないので、ぐっと口を引き結ぶ。〇〇は、せめてもの反撃のつもりで彼を睨みつけるに留めた。
「今まではさ、オレのやりたいことやって、行きたいとこへ行って、自分の決めた道をただ真っ直ぐ、ナリフリ構わず突っ走ってきた。相棒のバイクにはハンドルなんかついて無ぇ、しっかり掴まんねーと振り落とされそうな跳ね馬で、別にブレーキなんてかける必要なかったからそれでよかった。
だけどそんな時、後ろに乗せたい女の子が現れた。その子の行きたいところに連れて行ってやりたくて、無かったハンドルつけて、後ろで恐る恐るオレにしがみつく様子が気になってミラーもつけた。笑顔が見たくて、守ってやりたくて、大切にしたいって思うようになった。
引退を決めたのはそんなことが理由じゃないけど、でもこれはオレの転機だと思ってる。」
彼が紡ぐ物語。それはあまりにも急なことで、他人事のように聴いていた〇〇は、真一郎と視線が合って漸くハッとした。何かが始まろうとしている。そんな予感に、淡い胸の震えを感じていた。
「〇〇。こっち上がってきてくれねーか。」
「・・・え?」
その場にいる全員の視線が〇〇に集まった。びくっと肩が跳ねて、一瞬どうしようかと戸惑ったところに、傍にいた明司に背中を押された。真一郎が呼んでいる。こんな大勢の前もう二度と立ちたくない。そう思っていたのに、不思議と抵抗感はなく、〇〇はその呼声に
「お前等に、最後オレの決意を宣言して引退する」そう一言置くと、彼はゆっくりと息を吸い込んだ。
「これからは、一生安全運転でこの子のこと幸せにするって決めた。」
〇〇は、弾かれたように真一郎を見上げた。そこにあったのは、初めて見る、決意に満ちた男の顔だった。
「お前等も、惚れた女が出来たら大ケガだけはすんなよ。」
彼が笑顔を向けた瞬間、歓声の渦に包まれた。この場にいる全員が、激励し、涙し、初代総長の引退を惜しんだ。
彼は、こんなにもたくさんの人に愛されている。〇〇は改めて、そんな人に選んでもらえたことが嬉しくて、彼の肩口に頭を預けた。相当走ってきたのだろう。そこは埃っぽくて、だけど温かくて、彼の香りを強く感じられた。
「先輩、ありがとう。」
「じゃ、ちゅーでもしとく?」
え!?と〇〇が思わず身体を離そうとした時には、既に真一郎の顔が迫って来ていた。
「やっ、待っ、こんなとこじゃいやーっ!」
「照れんなって。これは誓いのキッスだ!」
きゃーきゃーと抵抗する〇〇にやや力づくで迫る真一郎の姿を見て、すかさず周りが囃し立て始める。
「いいぞー!総長もっとやれー!」
「「「キース♡キース♡!」」」
「やめてぇ~~~っっ!」
最後は〇〇が根負けして、真一郎からほっぺにちゅーされた瞬間、今日一番の歓声が沸いたところで引退式はお開きとなったのだった。
―――数年後
「こんにちは。」
暖かな陽気の昼下がり。〇〇は、花のアレンジメントバスケットを手に店の戸をくぐると、ずらりと並んだピカピカのバイクに出迎えられた。ビールケースを逆さにした即席の腰掛けに座り、奥のスペースで作業をしていた男が、待ってましたと言わんばかりに振り向いた。
「よぉ。早かったな。」
真一郎は、ここに念願のバイクショックをオープンさせていた。咥えていたタバコを灰皿へ押し付けると、彼女の傍へと歩み寄る。
「全然やめる気ないんですね、タバコ。」
「ん?前より本数減らしたぞ?これでも。」
む。人が心配しているというのに。一向に言うことを聞かない目の前の男に、呆れ顔で抗議した〇〇は、彼の横をすり抜け奥のカウンターの上にバスケットを置いた。
「これは、わたしとこずえちゃんと沖田先輩からのお祝いです。」
「へぇ!あの二人元気してんの?」
「はい。こずえちゃんは、芸大でデザイナーの勉強頑張ってますよ。沖田先輩はライブハウスで仕事しながら、この間インディーズバンド組んで活動始めたって。二人とも、今度お店へ遊びに行くって言ってました。」
二人も忙しく、なかなか会う機会を持てないのが残念だが、それぞれ夢に向かって日々弛まぬ努力を続けているようだった。
「そっか。〇〇も、ありがとな。」
急に距離を縮めてきた真一郎が、背中に腕を回してきた。〇〇もそのまま彼に身をあずけると、誘われるように唇が重なる。一瞬ならまぁ、と思ってた〇〇だったが、そんな思いと裏腹に、真一郎はお構い無しに攻めてくる。先程まで彼が吸っていた煙草のにおいにクラクラしかけ、〇〇は一向に離れる様子のない彼の胸を押し返した。
「っん、ちょっ、と、先輩!?もう離れて///」
「え?何日ぶりだと思ってんだよ。まだまだ足んない。」
〇〇も、無事に大学の医学部へ進学。医師免許取得を目指し、勉強や研修に勤しむ日々は多忙を極めていた。真一郎と会う時間も限られ、寂しかった気持ちは一緒。だが、場所は弁えてください。
「ダダダダメですっ!お、お客さん来たらどうすんの!」
「まだ店出来たばっかだし、んな来ねぇって。」
「ていうか、外から丸見えだから!」
「通りすがりの人に見られてもオレ構わねぇもん。」
「わたしが構うー!」
きゃぁきゃぁと本気で嫌がる〇〇に、ちぇ。と真一郎が折れた。あまりしつこいとしばらく口をきいてくれないから、やりすぎる前に引くのが毎度のお約束だ。
「あ、おまえは上手くいったの?研修会だか発表会だか。」
「う、うん。まぁまぁ。」
〇〇は、何かあった時あからさまに歯切れの悪い返事を返す。迷惑だと思っているのか、普段あまり彼に大学の話をしたがらない。久しぶりに会う時は特に注意深く、その心配事をすかさず摘んでやるのが真一郎の決め事になっていた。
「何だよ、言ってみ?モヤモヤする事は聞いてやるって言っただろ?」
「で、でもぉ・・・」
「じゃあ走ろう。店早めに閉めるから。"夜景" 見りゃ気晴らしになるだろ?」
あの場所へ赴いたのはどれ程前だったろうか。二人が軌跡を描いてきた海沿いの堤防は、ちゃぷちゃぷとコンクリートを打つ波音に乗って、大人になって忘れかけていたあの頃の懐かしい感情を思い起こさせる。
「!うん、行く!」
ヤクザの娘と知っても尚、友達でいてくれた暴走族の総長は、いつの日か彼女の心の支えになっていた。女にフラれまくるし喧嘩も弱い。だけど、どんな困難にも逃げずに立ち向かう勇気をくれた。
彼は、今もあの頃と変わらない。迷えばいつでも後ろに乗れと、行くべき道を導いてくれる。〇〇の大好きな笑みをたたえ、夢は叶うよと言ってくれるのだ。もちろん、これから先も―――
「じゃ、さっきの続きは夜景見ながらだな!」
「え!?///」
End
