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本編(完結)
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14.What is love?
「佐野。」
昼休み、自席に座り窓の外をぼーっと眺めていた真一郎に沖田が声をかけていた。
「さっき、こずえちゃんから矢野の話聞いてきた。」
「どんな?」
「アイツ、前科持ちだったって。前いた学校でも成績のいい女子狙って、便宜を図る代わりに関係迫ったり誑かしてたらしい。余罪も相当あったんじゃねぇかって。」
「・・・そうか。」
「本当、取り返しのつかないことにならなくて良かったよな。」
あの事件から数日後。〇〇が暴力団と親族関係であることが公になることを避ける為、被害届を出さなかった代わりに神保組が動いたようだった。矢野は、停職処分が下ると自ら辞表を提出。学校を去り、その後の行方は誰も知らない。真一郎が柴田に聞いた話によると、「二度とオモテ出られねぇようにした」だそうである。
校内では、一件の噂話が一部に広まったが、未遂ではあったものの二次的被害を懸念して、こずえが沈静化を図った。「行き過ぎた指導があった」以上の噂が立つことはなく、この件は静かに収束へと向かっていた。
あの日以来、〇〇は学校に来ていない。真一郎も、休んでいる間の彼女の様子を気していたが、あまり構っても落ち着いて休めないだろうと柴田に任せて連絡を控えていた。
「あれから〇〇ちゃんと話したか?」
「いや。学校来れるようになったら、しばらくの間迎えに行ってやるから連絡くれって言ったきりまだ。」
「え?でもさっきこずえちゃん、今日から〇〇ちゃん来てるって言ってたぞ?」
「は?」
聞いてねぇぞ。と言いたげに眉を寄せる真一郎の表情に、あ。しまった余計なことを言っちまったかな。と沖田が冷や汗をかいていた。
声をかける間もなくガタ!と勢いよく立ち上がった真一郎が、足早に教室を後にする。
「あ~~~・・・俺も行こ。」
真一郎に続いて、沖田も1年の教室を目指した。
「〇〇ちゃん、気分悪くなってない?」
昼食を済ませ、自席で他愛のない話をしている途中、こずえが〇〇の体調を気遣っていた。
「うん。もう平気だよ。ありがとう。」
「保健室の先生が、〇〇ちゃんが急に具合悪くなったらいけないからってしばらくベッドひとつ空けてるって言ってたから、すぐ言ってよ?」
〇〇は、もう少し休んだ方がいい、という柴田を宥め予定より早く学校へ来ていた。自分の仕事を放っぽって一日中甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼に申し訳がなかったし、こずえたちにも心配をかけてしまった。気分も落ち着いてきたし、早く顔を見せて安心させたかった。
「佐野先輩には会った?」
「あ・・・それが、まだ・・・」
「え?なんで!?」
〇〇は、真一郎から朝迎えに行く、と言われていたにも拘らず連絡出来ていなかった。彼とは、何となく顔を合わせづらいと感じていた。
「こずえちゃん・・・あの、ちょっと相談があ」
ガラ!と教室の扉が勢いよく開けられた音に驚いて振り向くと、真一郎がいた。怒っているのか呆れているのか、はたまた人によっては感情が見えないと言う者もいるかもしれない。とにかく形容し難い表情で立っていた。その姿に、〇〇の心臓がバクバクと大音量で暴れ出す。
「し、真・・・っ//」
ずんずんと近づいてくる彼に、〇〇の顔が強張り、徐々にその頬が赤く染まっていく。そうこうしているうちに、真一郎が〇〇の席の横でピタッと止まった。
「なんで連絡寄越さねーの?」
これは怒っている。当たり前だ。来るときは連絡すると約束していたのにしなかったのだから。〇〇が、何とも気まずそうに俯きながら返事を返す。
「ご・・ごめんなさい・・・」
「心配するだろ。暫くは傍についてるって言ったよな?」
「うぅ・・・はい。」
「・・・〇〇。こっち向け。」
「!い、ぇあ、のぉ・・・っ」
責めたい訳じゃない。なのに、ここまで頑なに顔を逸らされると焦りや不安からついイラッとしてしまう。中々顔を向けない〇〇に我慢ならず、真一郎はその場にスッとしゃがむと、俯くその顔と無理やり視線を合わせた。所謂ヤンキー座りで軽く睨まれた〇〇が、突然のことに小さな悲鳴を上げる。
「ひぇっ///」
「ん?〇〇、顔赤いぞ。熱あんじゃねーの?」
そう言うや否や、真一郎は掌を〇〇のおでこに当てる。突然のことにびくーっ!と跳ねた〇〇の顔が、益々その色を増していく。
「ん?オレとそんな変わんねーか?いやちょっと熱い気も・・・」
その時、ガタッ!と勢いよく〇〇が立ち上がった。突然のことに、今度は真一郎が驚き目を丸くする。
「・・・っお、お手洗い、行ってきます!!!」
ぴゅー!と脱兎のごとく教室を去っていく〇〇に続き、慌てたようにこずえも後を追っていった。
その様子を観察していた沖田が、固まる真一郎に近づき一言。
「・・・お前、避けられてねぇ?」
「!!?」
そんな気はしていた。だがあり得ない。気のせいだ。そう心で念じていた真一郎に、沖田の一言がとどめを刺した。
バターン!と勢いよくトイレへ駆け込んだ〇〇は息を切らしていた。真一郎を見た瞬間顔に熱が集まり、慌ただしく鳴る心臓は益々その鼓動を早めていく。額に触れられた瞬間、涙が溢れそうになってその場に居られなくなった。
「〇〇ちゃん!?どうした?気持ち悪くなっちゃった?」
「・・・っこ、こずえちゃ・・・」
〇〇が涙を流していた。何事だ。真一郎が少し機嫌悪く〇〇に当たっていたが、別に怒鳴ったりしていた訳でもなく、ただ心配していたと。熱はないかと手を当てて計っていただけだ。あれくらいのボディタッチ、幾度もあったと〇〇も言っていたのに。
「佐野先輩が怖かった?」
「違・・・っわたし、先輩の顔見ると、涙、出るようになっちゃって・・・っ」
「え?」
「なんか、家でごはんあんまり食べられなくもなって・・・っずっと、先輩のこと頭から離れなくて・・・どうしよう・・・好きなのに、真一郎先輩のこと、嫌いになっちゃのかな・・・っ」
違う。そうじゃない。今までの人生これ程歓喜に沸いたことがあっただろうか。こずえは、今夜は〇〇を家に呼んで赤飯を炊かねば。冗談交じりにそんなことを考えながら、〇〇の肩を抱き背中を擦る。
「違うよ、〇〇ちゃん。嫌いになんてなってないよ。絶対大丈夫だからね。」
少女が大人へと成長しようとしていた。
真一郎は、まだその場から動けず固まっていた。
「佐野。〇〇ちゃんに何したの。」
ハッ。沖田の一言で放心していた真一郎が我に返った。眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて何か嫌われるようなことがあっただろうかと記憶を辿る。
「全く身に覚えが・・・・・・あ。」
「なに。」
「あの日、保健室で寝てた〇〇にこっそりデコちゅーしたの、バレてたのかな・・・!?」
「おま、あんなことあった後になんつーことしてんだよ!?」
「違う!あれはオレなりのけじめだったの!誓いのキッスだったの!!」
「キッスとか言うなキメェわ!」
「ハッ!」
「まだあんのかよ!」
「あいつが過呼吸になって介抱してた時、胸元チラチラ見てたの気づかれてた・・・っ!?」
「どんだけサイテーなんだよお前!!」
「だって、好きな女の子の素肌が目の前にあったら見ちまうだろ男なら!!」
「そんなんだから〇〇ちゃんに振り向いてもらえねーんだよオメェは!!」
ぎゃあぎゃあと1年の教室で騒ぐ不良と天然たらしの2年生二人を、クラス中の生徒全員が呆れ顔で見ていたのだった。
「えええ!?キスされたぁあむがっ!?」
「こずえちゃん声が大きいぃぃぃ!!///」
〇〇が慌ててこずえの口を押さえる。二人は中庭のベンチに腰掛けていた。
「夢!夢の話だから!」
「やだ、夢の中の佐野先輩めっちゃ大胆~。」
現実でもそれくらいぐいぐいいけよ。こずえが心の中でボヤいた。
「あの夢見てからおかしいんだ・・・どうしよ、きっと先輩に変に思われた。」
頬に手を当てうんうんと思い悩んでいる〇〇の姿に、こずえは今まで以上にじれったくなった。いい加減にもうくっ付いておしまい。ここまで来ればもう言ってしまった方が手っ取り早いと、こずえが核心に迫る一言を告げた。
「〇〇ちゃん。それはね、"恋煩い"って言うんだよ。」
「・・・こ・・・鯉・・・?」
「お魚じゃないからね。」
何をコントみたいなことを言っているんだ。恋愛経験ゼロの〇〇では、やはりすんなりとはいかないかもしれない。こずえは、ここまで来たら最後まで見届けさせろ。とこの恋のサポートに尽力することを決意した。
「恋・・・」
真一郎のことは、初めて友達になってくれた人で、ずっと兄のような存在だと思い接してきた。そこに、恋心を抱いているのではと言われても、あ、そーなんですかとはならない。〇〇は困惑するしかなかった。
「む、むぅ。」
「泣くほど好きってことなんでしょ?」
「っす、好きで泣いちゃうことってあるの!?」
「あるよ。ほら、X JAPANのファンがライブで大号泣してるのとかよく見るじゃん。こないだい解散しちゃったけど。」
「お、おぉなるほど。」
「て、それとこれはやっぱちょっと違うか。とにかく、〇〇ちゃんは毎日頭から離れないくらい佐野先輩のことが好きってことだよ。」
真一郎が、好き。その気持ちはずっと前から変わらない。でも確かに、今までの好きとちょっと違う気もする。そういえば、あの夢で彼が口にしていた「好き」が、この泣くほど好きの正体なのだろうか。あれは、深層心理が夢になって現れたのか。自分の中に秘めていた恋心が具現化したものだったとしたら・・・?〇〇はあれこれと思い巡らせてみたが、なんだかそれはあまりにも受け入れ難くて。
「う、嘘だ・・・!」
「じゃあさ、私と佐野先輩が付き合うことになったって言ったらどう思う?」
「え。」
真一郎とこずえが?〇〇は、二人が連れ立って歩いている姿を想像してみた。想像してみて・・・
「・・・真一郎先輩の顔、めちゃくちゃ困惑している。」
「どういう意味それ!?」
「あはは。なんか二人が付き合ってる姿想像できないかも。」
なにより、こずえの好みは真一郎とはかけ離れていて余計に想像しづらい。
「ごめん。相手を間違えた。じゃあ、校内一の巨乳マイ先輩が相手だったら?」
「!」
"マイ先輩"とは、こずえが所属するテニス部の先輩であり、〇〇が真一郎と初めて会った日、彼が告白を挑んでフラれた相手であった。こずえが、彼の告白連敗19回目の相手が同じテニス部にいると知り、〇〇をコートに誘ったことがあった。美人で、確かにおっぱいがでかかった。
真一郎が巨乳美女と。きっと、彼女に夢中になって自分と過ごす時間も減る。彼のバイクの後ろに乗るのも自分ではなくなる。放課後、あの堤防で並んでおしゃべりするのも巨乳で綺麗な先輩とだ。
想像できた。もう自分を見ることはない、あの大好きな笑顔が。
「・・・や、やだ・・・」
「うん。」
「っ先輩が、傍に、いてくれなかったら・・・わたしきっとダメになる・・・!」
それは仕方のない事。分かっているのに、それはとても悲しくて、寂しい事だと思った。真一郎との時間が無くなってしまうのは怖かった。
そこで〇〇はハっとした。
「っだ、ダメ!やっぱダメだよこずえちゃん!」
「な、なにが?」
「真一郎先輩は、おっぱいおっきい女の子が好きなのに!わたし、先輩好きになったらダメじゃん!」
カ~~~~~!こずえが額に手を当て天を仰いだ。真一郎よ、なぜ訂正しておかなんだ。お前はどこまで詰めが甘いんだ馬鹿者。
「〇〇ちゃん、大丈夫だよ。結局男は好きな女の子のおっぱい好きになるんだから。」
「し、しかしコレはあんまりにも貧相でして・・・先輩の御眼鏡に適うにはほど遠い代物・・・」
〇〇が自分の小ぶりな胸に手を当てていた。心配いらない。〇〇のおっぱいなら大きかろうが小さかろうが、真一郎に差し出せば喜んで飛び込むぞ。と言いたいところをこずえがぐっと堪えた。
「大丈夫、〇〇ちゃんが勝負かけるところは、おっぱいじゃなくていいの!」
「・・・やっぱりちっちゃいんじゃん!」
特にフォローの入らなかった自分の胸に、〇〇は絶望したのであった。
後日、〇〇はこずえに付き添われ2年の教室を目指していた。もうすぐ大事な期末試験が始まる。真一郎のことで試験もままならない感じの〇〇は、気持ちをスッキリさせるには思いを告げるしかない。とこずえに言われ、意を決して真一郎に約束を取り付けようとやってきた。
「う、上手く言えるかな・・・もう嫌われてて話聞いてくれないかも・・・」
「それは無い。大丈夫だよ。もし上手く誘えなかったら私が代弁するから。」
こずえに励まされながらの道中、真一郎の教室まであと少しのところ。隣の教室の入り口前で目的の人物が立ち話をしていた。思わぬ場所でその姿を捉えると、思わず〇〇がビクッと肩を震わす。
「あれ、佐野先輩じゃん。ちょうどいいとこ」
その時、真一郎と話している相手がドアの影からちらりと姿を現した。その予想外の人物に、こずえが驚きのあまり声を上げる。
「っえ、マイ先輩!?」
穏やかな表情で楽しそうに話をしていた二人が、こずえの声に気づいて振り向いた。真一郎が〇〇の姿を捉えた瞬間、目を見開き息を飲む。彼女の目から、大粒の涙がボロボロと流れていた。
「――っ!」
〇〇が踵を返して走り出した。突然のことで数秒遅れたが、次こそは逃がしてなるものかと真一郎が全速力でその後を追いかけた。
「あー最悪・・・」
こずえがしまった。と片手を額に当て項垂れた。そこに、マイが何かあったのか?と心配そうな表情でこずえに訊ねていた。知らぬところで巻き込んでしまった申し訳なさから、掻い摘んで彼女にも事情を説明しておこうと、こずえが事の次第を話し始めた。
「佐野。」
昼休み、自席に座り窓の外をぼーっと眺めていた真一郎に沖田が声をかけていた。
「さっき、こずえちゃんから矢野の話聞いてきた。」
「どんな?」
「アイツ、前科持ちだったって。前いた学校でも成績のいい女子狙って、便宜を図る代わりに関係迫ったり誑かしてたらしい。余罪も相当あったんじゃねぇかって。」
「・・・そうか。」
「本当、取り返しのつかないことにならなくて良かったよな。」
あの事件から数日後。〇〇が暴力団と親族関係であることが公になることを避ける為、被害届を出さなかった代わりに神保組が動いたようだった。矢野は、停職処分が下ると自ら辞表を提出。学校を去り、その後の行方は誰も知らない。真一郎が柴田に聞いた話によると、「二度とオモテ出られねぇようにした」だそうである。
校内では、一件の噂話が一部に広まったが、未遂ではあったものの二次的被害を懸念して、こずえが沈静化を図った。「行き過ぎた指導があった」以上の噂が立つことはなく、この件は静かに収束へと向かっていた。
あの日以来、〇〇は学校に来ていない。真一郎も、休んでいる間の彼女の様子を気していたが、あまり構っても落ち着いて休めないだろうと柴田に任せて連絡を控えていた。
「あれから〇〇ちゃんと話したか?」
「いや。学校来れるようになったら、しばらくの間迎えに行ってやるから連絡くれって言ったきりまだ。」
「え?でもさっきこずえちゃん、今日から〇〇ちゃん来てるって言ってたぞ?」
「は?」
聞いてねぇぞ。と言いたげに眉を寄せる真一郎の表情に、あ。しまった余計なことを言っちまったかな。と沖田が冷や汗をかいていた。
声をかける間もなくガタ!と勢いよく立ち上がった真一郎が、足早に教室を後にする。
「あ~~~・・・俺も行こ。」
真一郎に続いて、沖田も1年の教室を目指した。
「〇〇ちゃん、気分悪くなってない?」
昼食を済ませ、自席で他愛のない話をしている途中、こずえが〇〇の体調を気遣っていた。
「うん。もう平気だよ。ありがとう。」
「保健室の先生が、〇〇ちゃんが急に具合悪くなったらいけないからってしばらくベッドひとつ空けてるって言ってたから、すぐ言ってよ?」
〇〇は、もう少し休んだ方がいい、という柴田を宥め予定より早く学校へ来ていた。自分の仕事を放っぽって一日中甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼に申し訳がなかったし、こずえたちにも心配をかけてしまった。気分も落ち着いてきたし、早く顔を見せて安心させたかった。
「佐野先輩には会った?」
「あ・・・それが、まだ・・・」
「え?なんで!?」
〇〇は、真一郎から朝迎えに行く、と言われていたにも拘らず連絡出来ていなかった。彼とは、何となく顔を合わせづらいと感じていた。
「こずえちゃん・・・あの、ちょっと相談があ」
ガラ!と教室の扉が勢いよく開けられた音に驚いて振り向くと、真一郎がいた。怒っているのか呆れているのか、はたまた人によっては感情が見えないと言う者もいるかもしれない。とにかく形容し難い表情で立っていた。その姿に、〇〇の心臓がバクバクと大音量で暴れ出す。
「し、真・・・っ//」
ずんずんと近づいてくる彼に、〇〇の顔が強張り、徐々にその頬が赤く染まっていく。そうこうしているうちに、真一郎が〇〇の席の横でピタッと止まった。
「なんで連絡寄越さねーの?」
これは怒っている。当たり前だ。来るときは連絡すると約束していたのにしなかったのだから。〇〇が、何とも気まずそうに俯きながら返事を返す。
「ご・・ごめんなさい・・・」
「心配するだろ。暫くは傍についてるって言ったよな?」
「うぅ・・・はい。」
「・・・〇〇。こっち向け。」
「!い、ぇあ、のぉ・・・っ」
責めたい訳じゃない。なのに、ここまで頑なに顔を逸らされると焦りや不安からついイラッとしてしまう。中々顔を向けない〇〇に我慢ならず、真一郎はその場にスッとしゃがむと、俯くその顔と無理やり視線を合わせた。所謂ヤンキー座りで軽く睨まれた〇〇が、突然のことに小さな悲鳴を上げる。
「ひぇっ///」
「ん?〇〇、顔赤いぞ。熱あんじゃねーの?」
そう言うや否や、真一郎は掌を〇〇のおでこに当てる。突然のことにびくーっ!と跳ねた〇〇の顔が、益々その色を増していく。
「ん?オレとそんな変わんねーか?いやちょっと熱い気も・・・」
その時、ガタッ!と勢いよく〇〇が立ち上がった。突然のことに、今度は真一郎が驚き目を丸くする。
「・・・っお、お手洗い、行ってきます!!!」
ぴゅー!と脱兎のごとく教室を去っていく〇〇に続き、慌てたようにこずえも後を追っていった。
その様子を観察していた沖田が、固まる真一郎に近づき一言。
「・・・お前、避けられてねぇ?」
「!!?」
そんな気はしていた。だがあり得ない。気のせいだ。そう心で念じていた真一郎に、沖田の一言がとどめを刺した。
バターン!と勢いよくトイレへ駆け込んだ〇〇は息を切らしていた。真一郎を見た瞬間顔に熱が集まり、慌ただしく鳴る心臓は益々その鼓動を早めていく。額に触れられた瞬間、涙が溢れそうになってその場に居られなくなった。
「〇〇ちゃん!?どうした?気持ち悪くなっちゃった?」
「・・・っこ、こずえちゃ・・・」
〇〇が涙を流していた。何事だ。真一郎が少し機嫌悪く〇〇に当たっていたが、別に怒鳴ったりしていた訳でもなく、ただ心配していたと。熱はないかと手を当てて計っていただけだ。あれくらいのボディタッチ、幾度もあったと〇〇も言っていたのに。
「佐野先輩が怖かった?」
「違・・・っわたし、先輩の顔見ると、涙、出るようになっちゃって・・・っ」
「え?」
「なんか、家でごはんあんまり食べられなくもなって・・・っずっと、先輩のこと頭から離れなくて・・・どうしよう・・・好きなのに、真一郎先輩のこと、嫌いになっちゃのかな・・・っ」
違う。そうじゃない。今までの人生これ程歓喜に沸いたことがあっただろうか。こずえは、今夜は〇〇を家に呼んで赤飯を炊かねば。冗談交じりにそんなことを考えながら、〇〇の肩を抱き背中を擦る。
「違うよ、〇〇ちゃん。嫌いになんてなってないよ。絶対大丈夫だからね。」
少女が大人へと成長しようとしていた。
真一郎は、まだその場から動けず固まっていた。
「佐野。〇〇ちゃんに何したの。」
ハッ。沖田の一言で放心していた真一郎が我に返った。眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて何か嫌われるようなことがあっただろうかと記憶を辿る。
「全く身に覚えが・・・・・・あ。」
「なに。」
「あの日、保健室で寝てた〇〇にこっそりデコちゅーしたの、バレてたのかな・・・!?」
「おま、あんなことあった後になんつーことしてんだよ!?」
「違う!あれはオレなりのけじめだったの!誓いのキッスだったの!!」
「キッスとか言うなキメェわ!」
「ハッ!」
「まだあんのかよ!」
「あいつが過呼吸になって介抱してた時、胸元チラチラ見てたの気づかれてた・・・っ!?」
「どんだけサイテーなんだよお前!!」
「だって、好きな女の子の素肌が目の前にあったら見ちまうだろ男なら!!」
「そんなんだから〇〇ちゃんに振り向いてもらえねーんだよオメェは!!」
ぎゃあぎゃあと1年の教室で騒ぐ不良と天然たらしの2年生二人を、クラス中の生徒全員が呆れ顔で見ていたのだった。
「えええ!?キスされたぁあむがっ!?」
「こずえちゃん声が大きいぃぃぃ!!///」
〇〇が慌ててこずえの口を押さえる。二人は中庭のベンチに腰掛けていた。
「夢!夢の話だから!」
「やだ、夢の中の佐野先輩めっちゃ大胆~。」
現実でもそれくらいぐいぐいいけよ。こずえが心の中でボヤいた。
「あの夢見てからおかしいんだ・・・どうしよ、きっと先輩に変に思われた。」
頬に手を当てうんうんと思い悩んでいる〇〇の姿に、こずえは今まで以上にじれったくなった。いい加減にもうくっ付いておしまい。ここまで来ればもう言ってしまった方が手っ取り早いと、こずえが核心に迫る一言を告げた。
「〇〇ちゃん。それはね、"恋煩い"って言うんだよ。」
「・・・こ・・・鯉・・・?」
「お魚じゃないからね。」
何をコントみたいなことを言っているんだ。恋愛経験ゼロの〇〇では、やはりすんなりとはいかないかもしれない。こずえは、ここまで来たら最後まで見届けさせろ。とこの恋のサポートに尽力することを決意した。
「恋・・・」
真一郎のことは、初めて友達になってくれた人で、ずっと兄のような存在だと思い接してきた。そこに、恋心を抱いているのではと言われても、あ、そーなんですかとはならない。〇〇は困惑するしかなかった。
「む、むぅ。」
「泣くほど好きってことなんでしょ?」
「っす、好きで泣いちゃうことってあるの!?」
「あるよ。ほら、X JAPANのファンがライブで大号泣してるのとかよく見るじゃん。こないだい解散しちゃったけど。」
「お、おぉなるほど。」
「て、それとこれはやっぱちょっと違うか。とにかく、〇〇ちゃんは毎日頭から離れないくらい佐野先輩のことが好きってことだよ。」
真一郎が、好き。その気持ちはずっと前から変わらない。でも確かに、今までの好きとちょっと違う気もする。そういえば、あの夢で彼が口にしていた「好き」が、この泣くほど好きの正体なのだろうか。あれは、深層心理が夢になって現れたのか。自分の中に秘めていた恋心が具現化したものだったとしたら・・・?〇〇はあれこれと思い巡らせてみたが、なんだかそれはあまりにも受け入れ難くて。
「う、嘘だ・・・!」
「じゃあさ、私と佐野先輩が付き合うことになったって言ったらどう思う?」
「え。」
真一郎とこずえが?〇〇は、二人が連れ立って歩いている姿を想像してみた。想像してみて・・・
「・・・真一郎先輩の顔、めちゃくちゃ困惑している。」
「どういう意味それ!?」
「あはは。なんか二人が付き合ってる姿想像できないかも。」
なにより、こずえの好みは真一郎とはかけ離れていて余計に想像しづらい。
「ごめん。相手を間違えた。じゃあ、校内一の巨乳マイ先輩が相手だったら?」
「!」
"マイ先輩"とは、こずえが所属するテニス部の先輩であり、〇〇が真一郎と初めて会った日、彼が告白を挑んでフラれた相手であった。こずえが、彼の告白連敗19回目の相手が同じテニス部にいると知り、〇〇をコートに誘ったことがあった。美人で、確かにおっぱいがでかかった。
真一郎が巨乳美女と。きっと、彼女に夢中になって自分と過ごす時間も減る。彼のバイクの後ろに乗るのも自分ではなくなる。放課後、あの堤防で並んでおしゃべりするのも巨乳で綺麗な先輩とだ。
想像できた。もう自分を見ることはない、あの大好きな笑顔が。
「・・・や、やだ・・・」
「うん。」
「っ先輩が、傍に、いてくれなかったら・・・わたしきっとダメになる・・・!」
それは仕方のない事。分かっているのに、それはとても悲しくて、寂しい事だと思った。真一郎との時間が無くなってしまうのは怖かった。
そこで〇〇はハっとした。
「っだ、ダメ!やっぱダメだよこずえちゃん!」
「な、なにが?」
「真一郎先輩は、おっぱいおっきい女の子が好きなのに!わたし、先輩好きになったらダメじゃん!」
カ~~~~~!こずえが額に手を当て天を仰いだ。真一郎よ、なぜ訂正しておかなんだ。お前はどこまで詰めが甘いんだ馬鹿者。
「〇〇ちゃん、大丈夫だよ。結局男は好きな女の子のおっぱい好きになるんだから。」
「し、しかしコレはあんまりにも貧相でして・・・先輩の御眼鏡に適うにはほど遠い代物・・・」
〇〇が自分の小ぶりな胸に手を当てていた。心配いらない。〇〇のおっぱいなら大きかろうが小さかろうが、真一郎に差し出せば喜んで飛び込むぞ。と言いたいところをこずえがぐっと堪えた。
「大丈夫、〇〇ちゃんが勝負かけるところは、おっぱいじゃなくていいの!」
「・・・やっぱりちっちゃいんじゃん!」
特にフォローの入らなかった自分の胸に、〇〇は絶望したのであった。
後日、〇〇はこずえに付き添われ2年の教室を目指していた。もうすぐ大事な期末試験が始まる。真一郎のことで試験もままならない感じの〇〇は、気持ちをスッキリさせるには思いを告げるしかない。とこずえに言われ、意を決して真一郎に約束を取り付けようとやってきた。
「う、上手く言えるかな・・・もう嫌われてて話聞いてくれないかも・・・」
「それは無い。大丈夫だよ。もし上手く誘えなかったら私が代弁するから。」
こずえに励まされながらの道中、真一郎の教室まであと少しのところ。隣の教室の入り口前で目的の人物が立ち話をしていた。思わぬ場所でその姿を捉えると、思わず〇〇がビクッと肩を震わす。
「あれ、佐野先輩じゃん。ちょうどいいとこ」
その時、真一郎と話している相手がドアの影からちらりと姿を現した。その予想外の人物に、こずえが驚きのあまり声を上げる。
「っえ、マイ先輩!?」
穏やかな表情で楽しそうに話をしていた二人が、こずえの声に気づいて振り向いた。真一郎が〇〇の姿を捉えた瞬間、目を見開き息を飲む。彼女の目から、大粒の涙がボロボロと流れていた。
「――っ!」
〇〇が踵を返して走り出した。突然のことで数秒遅れたが、次こそは逃がしてなるものかと真一郎が全速力でその後を追いかけた。
「あー最悪・・・」
こずえがしまった。と片手を額に当て項垂れた。そこに、マイが何かあったのか?と心配そうな表情でこずえに訊ねていた。知らぬところで巻き込んでしまった申し訳なさから、掻い摘んで彼女にも事情を説明しておこうと、こずえが事の次第を話し始めた。
