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本編(完結)
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事が収まった数分後、他の教師を連れたこずえが現場に駆け付けた。その場の様子ですべてを察し、取り乱して泣き出したこずえを沖田に任せ、真一郎は〇〇を保健室へ連れて行った。矢野は、〇〇の頭突きと真一郎の渾身の一発を受けてすっかり逃げる気力を失い、その場でお縄となったのだった。
「佐野君、1時間ほど任せて大丈夫?」
養護教諭が職員会議の為席を外すのを了承すると、彼女のことお願いね。と一言告げて保健室を出ていった。
〇〇は、ベッドで寝ている。背中に打撲と掴まれた手首が鬱血していた以外、目立った外傷はなかった。あの時の様子に、真一郎はもう一歩遅かったらと思うと改めてゾッとしていた。分かっていたのに、もっと自分があの教師のことを用心深く警戒していればと、後悔の念に駆られる。
穏やかな寝息を立てる〇〇の目は、泣き腫らし痛々しい。そこを指で軽くなぞると、不快だったのかぴくっと少しだけむずがった。その様子に軽く笑った真一郎が、憂いを帯びた表情で寝ている〇〇に向かって話しかけた。
「もう、あんな怖い思いさせねーから。」
〇〇の前髪をそっと払う。普段隠れている場所が顔を出した。そんな些細な変化さえ愛おしい。真一郎は、その額にひとつ口づけを落とした。
「〇〇・・・好きだよ。」
これは、二度と君を傷つけない。その決意だから、どうか許してほしい。
「大好きだ。」
―――
――
―
『透くん、ちゅーしよ?』
『ちょちょちょストーップ!』
〇〇が突然、小さな唇を尖らせキスをせがんできたのを、慌てて透が待ったをかけていた。透の人差し指がむにっと〇〇の唇に当たる。それ以上前へ行けなくなった〇〇が、不服だと言わんばかりに頬を膨らました。
『なんで?この前ほっぺにちゅーはいいって言ったじゃん。』
『ここはダメだろ。惚れた男のために取っときなさい。』
『そんな人いないもん。』
『〇〇が大人になったら絶対モテんだから、男なんて選び放題だぞ。』
『いい。透くんと結婚するから。』
え゙!?まさかの結婚宣言に透はたじたじだった。将来はお父さんと結婚する的なノリを口走る年齢はとうに過ぎているはずなのに、ちょっとこれは冗談にならない。
『だ、ダメだよ。兄妹は結婚できないんだぞ。』
『でも、血のつながりはないし籍も違うからしようと思えばできるでしょ?』
どこでそんな知識を付けてくるんだか・・・組長令嬢とヒラ組員の結婚なんて前代未聞である。
『〇〇と結婚したいなんて言ったら、俺マジで親父に殺されるぞ。』
『えっじゃあダメ!』
『だろ?』
あ。これは夢だ。透がいるからすぐ分かる。時々、会いに来てくれる。いつも楽しそうに笑っているその顔を、あの日の幼い姿になった自分が見上げているのだ。
ふと、〇〇が瞬きをした瞬間、目の前にいた透が消えた。え?と思った時には実家の事務所にいたはずなのに、急に屋外の風景に変わっていた。ここは、彼のバイクに乗ってよく来る海沿いの堤防。
『〇〇。』
後ろから名を呼ばれ振り返った。そこにあったのは、大好きな笑顔。
『真一郎先輩?』
彼がゆっくりと近づいてきた。片手で肩を優しく掴むと、反対の手で〇〇の前髪を梳く。突然何事だ。と〇〇が疑問に思っていると、その露になった額に真一郎がキスを落とす。
『・・・っ!?な、なん、せ、せせせせ先輩!?///』
不意打ちのキスに〇〇がどもると、真一郎がおかしそうに声を出して笑っていた。笑い事ではない。何をしてくれとんだこの人は。
〇〇が顔を真っ赤にしていると、ケラケラと笑っていた真一郎が急に真面目な顔になった。
『〇〇・・・好きだよ。』
『え。』
〇〇は佐野家へ行ったとき、一度だけ言われたことがあった。あれは、友人として自分の人となりを気に入っているという意味だったと思うが、なんだかあの時の言い方とは違う。何故か、ドキドキと心臓の音がうるさい。
『大好きだ。』
その時に〇〇も言った。本当の兄のように慕っていると。でもこれも違う。自分が知っている"大好き"じゃない。
見つめてくる真一郎の瞳から目が離せなくて、〇〇も彼を見つめ返していた。ふと彼が動いたかと思うと、その顔を徐々に近づけてくる。今度はどこにキスをしてくるつもりだ。また額か。はたまた自分の誕生日に未遂に終わったほっぺにちゅーか。そんなことを考えていた〇〇が、真一郎の目指す場所がそのどこでもないことが分かって、その瞬間ばくばくと心臓が暴れだす。
唇に、柔らかいものが触れた。ほんの一瞬。そのはずだったが、とても長く触れていたんじゃないかと感じる程、時の流れが止まったようだった。
『真・・・―――』
彼の名を声に乗せる前に、目の前が暗転した。
―
――
―――
白い天井。アルコールの匂い。ここが自分の部屋ではないと分かる。
〇〇は、軽く辺りを見回した。仕切りのカーテンを視界に捉えると、ここが学校の保健室だとやっと理解する。そうだ。矢野に乱暴されそうになって真一郎たちが助けてくれたんだ。保健室で手当てをしてもらい、落ち着くまでベッドで寝かせてもらうことになって・・・
〇〇は、少し重たく感じる身体を無理やり起こした。今何時だろう。辺りは日暮れ時だった。早く帰り支度をしなければ、柴田がまた心配するかもしれない。そういえば、警察の事情聴取などを受けなければならないのだろうか。そのことも相談せねば。
色々と考えを巡らせ、〇〇がふと横に視線を向ける。そこには、ベッドに乗せた腕を枕にして眠っている真一郎がいた。ドキッと〇〇の心臓が跳ねる。本物の彼の姿に、先ほどの夢の出来事が脳裏を過ると、〇〇の顔が茹蛸のように真っ赤になった。なぜあんな夢を見てしまったのか。忙しなく鳴る心臓早く静まれと、両手を胸に当てて落ち着かせる。
真一郎は、ふがっと時々鼻を鳴らして熟睡していた。きっと、自分を探しに走り回っていたに違いない。彼が探しに来てくれなかったら、今頃どうなっていたか―――
〇〇は、眠る彼の表情が良く見える位置に移動した。起きている時よりもあどけない顔。その特徴的な髪型で、常に露になっている額がより一層幼く見せていた。
「ありがとう・・・」
無防備なその額に唇を寄せた。やさしく。夢の中で彼にしてもらったように。
「・・・大好き。」
甘く切ない声が保健室に響いた。
〇〇の瞳から流れた一筋の涙が、静かに頬を滑り落ちていった。
