名前変換のみです(苗字はそのままデフォルトです。申し訳。)
本編(完結)
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「・・・矢野先生。なんで鍵、閉めたんですか。」
「邪魔が入らないようにだよ。君と二人で話がしたくてね。」
しまった。まさかここに閉じ込められるとは。真一郎にあれほど油断するなと言われていたのに、自分は本当にバカだ。もう、今更考えたところでどうにかなる状況ではなさそうなのだが。
「こっち、来ないで。」
「あまり先生を困らせないでくれ。忠告したはずだ。教師の言うことには素直に従った方がいいと。」
じりじりと近寄ってくる矢野から逃げるように、〇〇もその距離を取りながら後方へと下がる。
「僕はね、優秀な生徒にはそれなりの振る舞いをしてもらいたいと考えているんだ。そうでなければ僕の評価にも影響するしね。」
「そんなの、わたしには関係ありません。」
「それに君は非常に優秀な女性だ。付き合う人間はそれに相応しい者でなければ、その輝きが半減してしまう。」
この男はさっきから何を言っているんだ。言っている意味が全く分からない。暗に真一郎との事を言いたいのだろうが、どれだけ人の表面しか見ていない男なのだ。そんなものどうだっていい。矢野の言葉に、段々〇〇のイライラが募っていく。
「わたしはそんな理由で友人は選びません。」
「そういうところが気に入らない。」
その瞬間、矢野の目の色が変わる。不気味な笑顔も消え、半ば睨みつけるようなその視線に〇〇は慄いた。震えて足がもつれそうになるのをなんとか堪える。
「なぜ僕を選ばない。あんな不良に心奪われている君は、本当に愚かだと思うよ。」
「!?」
「今まで僕が目にかけてきた優秀な生徒は、皆僕にその身を委ねたというのに。」
「な、に言って・・・」
「そうすれば、難関大学に受かりやすいよう贔屓にもしてやれるんだ。君にとってもメリットしかないと思うけどね。特に君は医学部志望。面接、論文が試験に含まれるところが多いだろう?僕なら合格しやすいよう裏から手を回すことだって容易い。」
「それ・・・不正じゃないですか!」
「君、暴力団組長の娘なんだってね。」
その一言で息が止まる。さすがに〇〇も動揺が顔に出てしまった。なんで矢野がそのことを知っている。書類上バレることはまず無いはずなのに。
「そんな驚いた顔しなくても。調べればすぐ分かることだよ。僕に見破られるようじゃあ、アイツらも大したことない連中だな。」
何とかして逃げなければ。焦りから〇〇の息が荒くなる。この教室の出入り口は一つ。先ほどから矢野が近づいてくる度に、追いかけっこのようにぐるぐると教室を回っていた。もう少しで、走りだせばドアに手が届く。
「大丈夫。他言するつもりはないよ。せっかくの優秀な人材をこの学校から追い出したくはないからね。」
先日、立場がどうのと言っていたのはこのことだったのか。絶対、脅しの種にするつもりだ。そう思った〇〇は、手遅れになる前にとドアに向かって走り出す。だが、それも当然のように読まれていたのか、矢野が追いかけ腕を掴みにかかる方が早かった。
「いやっ!!」
逃げようと暴れる身体を乱暴に倒された〇〇は、背中を強く打ち付け、衝撃で上手く息ができずに顔を歪める。その隙に、覆いかぶさってきた矢野に遠慮のない力で両腕を拘束された。
「っ!?」
「僕は君が欲しい。大人しく言うことを聞いていれば、君の秘密をバラさないと約束しよう。」
「っ、やっ、離して!!」
「いいのかな。君が組長の娘で、あの不良もヤクザと繋がりがあると言ってしまって。」
「!」
「元から素行の悪い男だ。場合によっては退学処分が下るかもしれないね。」
なんてことだ。自分ばかりじゃなく真一郎も巻き込むつもりだ。こんな最低な男の言いなりになるしかないのか。痛い。恐い。〇〇は、この場で何も出来ない悔しさと情けなさでボロボロと涙を流していた。
「〇〇!!」
勢いよく進路相談室のドアを開け、真一郎が〇〇の名を叫んだ。だが、そこはもぬけの殻。その叫びは無人の教室に虚しく響いただけだった。
「どこ行った!?」
「佐野!」
沖田が真一郎に追いついた。学校でこれ程取り乱す様子を見せたことのない真一郎の姿に、沖田も無性に焦りが募る。
「〇〇ちゃんどうしたんだよ!?」
「矢野ってセンコーに嫌がらせされてたんだ。アブねー感じだったから警戒しとけって言ってた・・・クソッどこ連れていきやがった!」
「進路相談室で別れたって言ってたよな・・・ここしか・・・あっ」
沖田が何かを思い出したように声を上げた。
「上の階、空き教室を次の3年用に臨時で相談室にして開けるらしいって先輩が言ってた。」
そこだ。二人は階段に向かって勢いよく飛び出した。
「これまでの教師生活、君以上に美しく聡明な女性は見たことが無かった。僕のような優秀な人間が傍にいてこそ、君の魅力も今以上に増す。素晴らしいだろう?」
この教室はフロアの一番端。ほとんど使われていなかったこの場所に出入りする人間なんて他にいない。しかも今は放課後。大声をあげて助けを求めてもきっと誰にも聞こえない。なにより、〇〇はもう絶望と恐怖で思うように声が出せなかった。
セーラー服のスカーフを解かれ、胸元のファスナーを下ろされる。露になったそこに矢野が顔を埋めた。
「安心するといい。あんな不良のこと忘れるほどに、すぐ僕の良さが分かる。」
こんなところに来るはずない。そうは思えど縋るように一縷の望みをかけて、〇〇は絞り出すようにその名を呼んだ。
「ゃ・・・、真一郎ぉ・・・っ」
ガンッ!!
ドアが激しく音を立てた。ハっとしてその方向へ視線を向けると、ガラスの向こうに人影が見える。
「蹴破るぞ、沖田。」
ダァンッ!!
二人が息を合わせる掛け声が聞こえると、横開きのドアが室内に向かって倒れた。
来た。本当に。いつも、助けてほしい時に現れてくれる。いつか読んだマンガのヒーローみたいな人―――
「〇〇!!」
真一郎は、室内の様子に驚愕した。床に倒れた〇〇に馬乗りになっている矢野。彼女の胸元がはだけた姿に、彼の顔が見たこともない怒りと憎悪に満ちていく。
「っ今すぐ〇〇から離れろ!!!」
真一郎の鬼気迫る叫び声に矢野が怯んだ。その隙に〇〇が拘束されていた腕を解くと、目の前の男の鼻っ柱目掛けて頭突きを入れた。
「っぐぁ゙!?」
急所を突かれ、横に倒れ込んだ矢野から距離を取るように、〇〇は尻を引きずりながら壁際まで逃げた。
真一郎が、痛みに悶える矢野目掛けて迫る。その胸ぐらを掴むと、顔面に止めの一発を食らわせ殴り倒した。
「テメェ・・ッ、死ぬ覚悟出来てんだろうな、ァア!!?」
〇〇は、その光景を呆然と見ていた。いや、見ているようで上手く状況を飲み込めていなかった。それよりも、なんだか息苦しさを感じて、とにかく息をしようと一生懸命になっていた。思うように吸えない。
「〇〇ちゃん!!」
しばし放心していた沖田が、やっとのことで状況を飲み込むと、〇〇を介抱するため傍に寄ってきた。上着を脱いで〇〇の肩にかけてやる。
「〇〇ちゃん、怪我は!?」
はっはっと短く息をする〇〇の肩を抱きながら、沖田が怪我の様子を伺った。しかし、一点を見つめたまま返事を返さない。その様子に嫌な予感がした。
〇〇は、段々ヒューヒューと息を鳴らしだしたかと思うと、その身体が力なく倒れる。慌てて沖田が支えると、益々異様な息遣いは大きくなっていった。
「〇〇ちゃん!!?」
その声に、真一郎が反応した。掴んでいた矢野の胸倉を投げ捨てるように離すと、〇〇と沖田の方へ向かう。
「どうした!?」
「〇〇ちゃんの息がおかしい。多分過呼吸だ。」
「代われ!」
脱力する〇〇の身体を、真一郎がその胸に抱き寄せた。落ち着かせるように背中をさすってやる。
「〇〇、落ち着いて。ゆっくりでいい、息を吐いて。ながーくゆっくり。吐かないと息吸えねぇだろ?」
〇〇の耳に優しい声が聞こえた。あったかい温もりも知っていた。お日様みたいな匂いも。
「そうそう、上手いぞ。大丈夫、〇〇なら出来るよ。」
彼は、いつも不安になったら言ってくれる。〇〇は、その言葉が好きだった。
徐々に息遣いが安定し、意識がはっきりしてきた。〇〇が顔を上に向けると、大好きな人懐っこい笑顔の真一郎がいた。
「よくできました。」
視界が霞んだ。〇〇は、その大きな瞳からボロボロと涙を流し、ワァと真一郎にすがって泣いた。真一郎が、彼女の頭をゆっくり優しく撫でながら、その震える身体を抱き締める。
「ごめん。遅くなって・・・無事でよかった。」
