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本編(完結)
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「失礼します。」
「おぉ。ご苦労さま。助かったよ。」
〇〇は、クラス全員の課題ノートを現代文の教科担任の元へ提出に来ていた。この教師は、ゆったりとしたしゃべり方にずっしりとした貫禄のある、THEベテラン。と全身で表しているような人物だった。彼の子守歌の犠牲になる生徒は数知れず。
あれから、矢野とは顔を合わすことなく数日が過ぎた。真一郎から、絶対二人きりにならないよう警戒しておけと言われていたが、話しかけられることもなくいつもの穏やかな日常に戻りつつあった。
「神保さんは特進希望だったっけ。このまま成績キープしておけば東大も夢じゃないだろうね。楽しみだ。」
「いや、流石に東大は。」
「大丈夫さ。何人も東大に送り出してきた矢野先生のお墨付きだからね。」
ドクン。心臓が嫌な音を立てる。また全身にまとわりつくアレ。その名前を聞いただけで、〇〇の心はざわつき思わず眉間にしわが寄った。
「あ、そうだ。矢野先生に特進卒業生の科目別成績ファイルを貸してくれと頼まれていたの忘れてた。」
いかんいかん。そう言うと、現代文教師が慌てた様子で戸棚から数冊のファイルを取り出し始めた。
「すまない。量が多くてね。神保さんちょっと運ぶの手伝ってもらっていいかい?」
「え?」
「僕もいっしょに運びましょう。」
後ろから突然かけられた声に、〇〇は肩を震わした。会いたくない、聞きたくなかった声が傍で聞こえて首元が冷たくなる。
「矢野先生。ちょうどよかった。2人でもちょっと心許ない量でね。」
「2学年が5年分ですからね。3人ならなんとか一気に持てるでしょう。」
何か断る理由はないか。〇〇は焦る頭で必死に考えたが、冷静になることもままならなかった。元来、頼まれると断るのが少々苦手な性格。結局目の前の教師に流されるまま手伝う羽目になってしまった。
大丈夫。現代文の教師も一緒なら、二人きりになることはない。ファイルを運び終えたら今度こそ何を言われようと帰してもらおう。今日は真一郎と一緒に帰る約束をしている。彼に会えば、このざわざわした気分もすぐに晴れるはず。〇〇は、そう自分に言い聞かせながらファイルを手に取った。
「神保。先日はすまなかった。」
ハっとして横へ振り向くと、矢野が眉じりを下げ謝罪の言葉を口していた。
「君のことを思い、少々言い過ぎたと反省したんだ。」
「・・・」
〇〇は一瞬、どういう風の吹き回しだと疑った。だが、何人もの生徒を難関大学へ送り出せる程の実力を持つ人物。普通の教師とは、きっとやり方も気合いの入れようも違うのかもしれない。ここで突っぱねて謝罪を受け入れず、更にヒートアップして変なことを仕出かされても困る。〇〇は、一度様子を見ようと思った。
「・・・いえ、矢野先生の言いたいことも分かっています。期待を裏切らないように、これからも励みますので。」
「ありがとう。人間関係にまで口を出すべきではなかったね。君の内申に響くようなことは絶対にないから安心してほしい。」
とりあえず、穏便に。角を立てないようして一定の距離を保てばいい。もし何かあれば、すぐ真一郎に相談すれば大丈夫。思わぬところで不安が少し軽くなった。
「よし。何とか運べたね。神保さんありがとう。助かったよ。」
「いえ。」
「矢野先生。ここに置けばいいですかな。」
「えぇ。・・・あ、この年度分は上の臨時相談室分だな。」
♪ピンポンパンポン…
矢野がファイルの背表紙を確認していたそのとき、校内放送で現代文教師に電話が入ったというアナウンスが流れ出した。
「おっと、すまない。私は一足先に職員室へ戻らせてもらうよ。」
あとはよろしく。とあっという間に去っていってしまった。
〇〇は、その場を離れるタイミングを逃し焦った。これは、思わぬところで二人きりに。まずい。心臓がばくばくと鳴り止まない。
「あっ、あの、わたしも急ぐんで失礼しま」
「神保、すまない。これだけ上の臨時相談室へ置いてきてくれないか。」
「え・・・」
「置いたら、そのまま帰ってくれて構わない。」
「・・・わ、分かりました。」
確か、空き教室を来年度の3年生専用に相談室として開けることになっていたはず。そこに置くだけでいい。置いたらさっさと真一郎の元へ行こう。〇〇はファイルを受け取ると、足早に上の階を目指した。
ガラッ。ドアを開けると、使われなくなってから大分経っているからか、少し埃っぽい。机や椅子は最低限の数置いてあり、なんだか少し寂し気だった。これは、せめて窓を開け換気をしないと落ち着いて相談できる環境ではないな。と〇〇は教室を見渡し思った。
いけない。早くファイルを置いて退散せねば。見慣れたと思っていた校舎内の珍しい光景に、ついのんびりと考え事をしてしまった〇〇が慌てて目の前の教壇にファイルを乗せた。
「君は頭がいい割に、油断しすぎるところが玉にキズだね。」
ガチャ。と物が少ない所為か、やけに教室中に響いた音。〇〇が振り向くと、ドアの前には矢野が笑顔を携えて立っていた。
「あれ、こずえちゃん〇〇は?」
真一郎が、〇〇を迎えに教室へ来ると、本人の姿が見当たらなかった。迎えに行くと連絡をした日は必ず教室で待っているのに。真一郎が彼女の居所を問いかけると、こずえがどこか不安気な表情で振り返った。
「それが、現代文の課題ノート出しに行っててまだ戻らないんです。」
「どったのー?」
沖田が同じ部活の1年生に用を済ませた帰り道、偶然真一郎の姿を見かけて声をかけてきた。
「沖田、〇〇見てねぇ?」
「いや、俺は見かけてないけど。」
「どこ行ったんだろ、〇〇ちゃん。」
「おや、神保さんはもう帰ってしまったかな?」
その時、現代文の教師が1冊のノートを手に〇〇たちのクラスにやってきた。〇〇が訪ねに行った人物の来訪に、益々彼女の居所の謎が深まっていく。
「提出ノートに別の教科のものが紛れていてね、返しに来たんだが。」
「先生。〇〇ちゃんまだ帰って来てないんです。どこ行ったか知りませんか?」
「え?もうファイルは運び終わったはずなのになぁ。」
「ファイル?」
「特進の矢野先生に頼まれて、過去の卒業生の成績まとめたファイルを相談室へ運ぶの手伝ってもらったんだよ。3人で運び終えたところで、僕が職員室へ呼び出されたから先に失礼したんだが、そのあとすぐ彼女も帰ったと思ったんだけど・・・」
ドクン。真一郎の鼓動が激しく音を立てる。急に周りの雑音が遮断され耳鳴りがした。彼は、これまでに経験したことが無い程の酷い胸騒ぎを覚えていた。
「先生。3人って、あと1人誰?」
「え?矢野先生だけど。」
その返答を聞くや否や、鞄を投げ捨てた真一郎が慌てたように走り去っていった。何事だ、とその場にいた全員が驚きの表情を見せる中、これはただ事ではないなと感じた沖田も、真一郎に続いてその後を追いかけた。
「え、どうしたんだあの二人?」
呆然とする現代文教師の横で、こずえも強い不安に駆られていた。真一郎と関わるなと忠告していた教師はあの矢野だった。先日の面談でも、そのことについて言及されたと〇〇が言っていた。それに加え、特定の生徒に対してだけ執拗に進級とは関係のない質問をし続けていた様子。もし、また何か彼女に対してしつこく言い迫ったりしていたら・・・
「先生、特進主任の先生って職員室に居ましたか!?」
