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本編(完結)
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12.What the luck suggests
暮れも押し詰まったとある日。神保組東京支部事務所では、常駐する組員たちが必死の形相で組長令嬢を前に首を垂れていた。
「お嬢!頼みます!!」
「ワシらの顔を立ててやってつかーさい!!」
「ぜっっっっっったいイヤ!!」
舎弟たちの必死な姿を、一歩後ろに下がって見ていた柴田が、だから言っただろうと半ば呆れた表情で立っていた。
「無理だ。諦めぇ。」
「柴田さん!組長不在の事務所なんじゃけえ、お嬢に出てもらわにゃあ締まらんじゃないですか!」
「ほぅよ!元旦付けで柴田さんが若頭に任命される。そがぁな目出度い日に、せっかく近くに住んどるお嬢がおらんのじゃシラけちまう。」
「あのね、みんなと一緒に出歩いてたら、わたしの身元バレバレでしょうが!!」
事の発端は、柴田の若頭襲名の話が公になったところから始まった。毎年恒例の初詣でその記念すべき日を迎えるとあって、威厳を示すためにも派手にいった方がいい。組長不在のこの場所で、組長令嬢の〇〇が自分たちの先頭をきってくれれば、今まで以上に周りへの牽制もできるというもの。
「だから、それはお嬢の意向に反するし、まだ未成年やぞ。何考えとんじゃ。」
「「「柴田さぁ~ん!」」」
泣きつく男どもを、キモいんじゃ!と柴田が蹴散らしている。確かに、目出度い新年初日に目出度い襲名が重なるとあって興奮もひとしおなのは分かるが、組長の娘というだけで組員ではない自分が表に出るのは筋違いである。巻き込まないでいただきたい。〇〇は冷や汗をかきつつ、未だにうだうだと言っている男たちの様子を覗っていた。
「お嬢、正月本家へ帰る予定じゃないんでしょ?ワシらと一緒に神様に手ぇ合わせて家内安全を祈ってくれるだけでええんですよぉ・・・」
確かに、高校を卒業するまで帰らなくていい。と父親に言われている為帰るつもりは今のところない。自宅でのんびり年越しをしようと思っていた。だけど、今それを認めるといつまでたっても目の前の男共は諦めてくれそうもない。そう思った〇〇は、最終手段に打って出ることにした。
「あるもん。予定・・・」
「「「・・・え!?」」」
「し、真一郎先輩と初詣行くもん!」
「え?は、初詣!?」
まさか彼女からお誘いがあるとは思ってもみなかった真一郎が、歓喜のあまり思わず飛び跳ねてしまいそうになり踏み止まっていた。
『あ、やっぱりご家族で行く予定でしたよね・・・あの、無理にとは言』
「行く行く行く行く行くに決まってんだろ!!」
と真一郎が電話口で必死に叫んだ。家族となんていつでも行けるんだよばっきゃーろー。
『よかった~。助かります。』
「え?助かる?」
何が?と疑問に思った真一郎がその先を促すより先に、〇〇が事の次第を話し出した。
『今日、神保の初詣に同行しろって迫られてちゃって。そんなところ知り合いに見られたらマズいって言ってるのに、みんなが諦めてくれそうもなくって。だから思わず真一郎先輩と初詣行く約束してるって言っちゃったんです。』
「・・・あーそーゆーコトネ。」
勝手に舞い上がって恥ずかし。真一郎は、相も変わらず〇〇に翻弄されていた。しかし、彼女と新年早々二人きりで出かけられるのは事実。どんな理由であろうともこのチャンス逃すはずもない。
『あ、あの、先輩。いつも初詣行くとき服装は普段着ですか?』
「え?」
『なんか、みんなが勝手に盛り上がった勢いでわたし用の着物を手配したらしくて・・・勿体ないし着て行こうかなって思ったんですけど、一人着物も浮くかなって・・・』
絶対似合うに決まっている。少し恥じらいを含む声色で訪ねてくる〇〇に、真一郎は思わずときめいてしまう。今、目の前に居なくてよかった。絶対に抱きしめている。あらぬ妄想を振り払い、真一郎は〇〇へひとつ提案してみた。
「いいよ。じゃあオレも着物着て行く。それならいいだろ?」
頭の中に浮かぶ彼女が、ぱあっと顔を明るくさせこちらを見つめてくる。そんな単純すぎる妄想も、彼にとってはささやかな幸せのひと時なのだ。
一方電話の向こうでは、その通り満面の笑みを携えた〇〇が、嬉しそうに真一郎へ返事を返していた。
「ありがとうございます!あの、それじゃあ柴田の車でちょっと早めに先輩のお家に行きますね。」
集合時間を告げると電話を切った。〇〇はベッドに寝転がると、手元のPHS を眺める。そのまま暫し、頬を染めながら初詣当日のことを思い巡らせていたのだった。
大晦日。昼間のうちに事務所の面々と年越しそばを食べ、早めに夕食を済ませた〇〇は、自宅で初詣へ行く準備に取り掛かっていた。
「はい。じゃあ肌着と長襦袢まで着てきてください。」
ぽん。と柴田から一式を渡される。〇〇の和装の着付けは、いつも柴田の担当だ。
「柴田。このタオルは?」
「お嬢は上半身が華奢ですから、このように肌着の上から胸の上に折り重ねて当ててください。こうすると綺麗に仕上がります。」
柴田の淡々とした説明に、〇〇の表情が無になった。気を遣われると余計に虚しくなるのはなぜだろうか。
「・・・はっきり言えばいいじゃん!」
柴田のバカー!胸を押さえ叫びながら自室へ駆け込む〇〇へ向かって、そんなつもりじゃあ!と慌てるように弁解する柴田が、珍しく全力で焦っていた。
〇〇は、着付けが終わると車で佐野家を訪れた。一旦自宅へ戻る柴田を見送ると、玄関の呼び鈴を鳴らす。玄関前には、しめ飾りと立派な門松が飾られていて、いよいよ新年を迎えるのだというちょっとした高揚感を覚えた。
「こんばんは~。」
「いらっしゃ・・・」
「!」
玄関が開くと袴姿の真一郎が出迎えた。見慣れた学校の制服やTシャツ姿などでは無い、見たことのない彼の出で立ちに〇〇が思わず見入ってしまう。
真一郎も真一郎で、初めて見る〇〇の着物姿から目が離せなかった。初詣なんか行かずに、このまま部屋に閉じ込めていろんな角度から嘗め回すように観ていたい。最早犯罪ギリギリの所業を妄想しだしていた。
「おい、まだ時間あるから上がれば?」
その時、奥から万次郎が〇〇に声をかけた。反応がない。彼は、赤面しながら見つめ合う二人を怪訝そうに見ていると、
「イチャつくならヨソでやってくんね?」
「「な!?///」」
その一言で我に返った二人が、軽くギクシャクしながら慌てて家の奥へと進む。
「あ。頭の・・・」
アップにまとめた髪に挿してある簪に気づいた真一郎が、思わず〇〇に声をかける。贈り物を使ってくれている姿を間近で見るのは初めてのことだった。
「はい・・・あの、ど、どう、ですか・・・?」
少し恥ずかしそうに、そして不安そうに見上げる瞳に、真一郎はクラクラと眩暈を起こしそうだった。これはやはり部屋に閉じ込めt(以下略)
「すげぇ似合ってる。かわいい。」
「かっ///」
思わぬ称賛の言葉に、〇〇の顔が茹で上がった蛸になる。その様子に真一郎がふっと微笑むと、彼女の背に手を添えて椅子が備えてあるダイニングへとエスコートした。
「・・・なんでお前らもついて来てんだよ!」
邪魔すんなって言ったよな!?と後ろを歩く弟妹へ向かって兄が吠えていた。
「先輩、そんな意地悪言わないで。」
「そうだそうだ。初詣はいっつもオレらと行くじゃん。」
「真兄だけ〇〇ちゃんと初詣ズルいっ。」
ガクッ。初詣デートの目論見が外れた真一郎が、意気消沈していた。
「寧ろごめんね。家族水入らずのところ邪魔して。屋台で美味しいもの奢るね。」
そう言うと、やったー!とバンザイしながら喜ぶ幼い弟妹の姿に、〇〇がきゅーんと瞳を潤ませる。その様子を横で見ていた真一郎が、着物の袖を噛みながらキーっと悔しがっていたのだった。
「うーん。やっぱ居るよね、ココにも。」
鳥居をくぐり境内へと続く通りの端には、提灯の明かりやライトに照らされた屋台が並ぶ。所謂"的屋"は、ヤクザの主な収入源のひとつとされている。
「え、もしかして神保の人も居んの!?」
「あ、いやここには居ません。居たら来てません。」
事務所の町内で行われるお祭りには出ているようだが、あくまでも広島を拠点とする暴力団。流石にここで的屋をやっているとは聞いていなかった。
「先に屋台見てみようか。どれ食べたい?」
「オレはモチロンたい焼き♡」
「ウチはチョコバナナ~♡」
目的の屋台へ寄ると、コワモテのおっちゃんが待ち構えていた。しかし、こういう商売をしているヤクザは、外見によらず意外と気さくな人物が多い。
「らっしゃい!お。今日は美人さんに覗いてもらえて俺ぁラッキーだな~。おねえさんいっぱい買ってって!たい焼き6個でもう1個おまけつけるよ~♡」
「いやいや、そんなんで商売になるんですか・・・?」
「やり~!〇〇、オレ10個くらいいけるぞ!」
「ウチはクリーム味が食べたい!」
「オイ、テメェ勝手に口説いてんじゃねぇぞオラ゙。」
突然賑やかになった様子に、屋台の大将が大笑いしていた。
「ありゃ、仲のいい姉弟かと思ったら、デキ婚ってやつか?若いってイイネ~♪」
その一言に、思わず二人がフリーズする。
「ちょっ!?ち、ちちちち違います!!///」
「えへへ。やっぱそう見えます?//」
「先輩っ!!///」
照れてないで否定しろ。そこまで老けてはいないだろ。調子のいい大将の口車に乗せられた真一郎が、じいちゃんにも土産だ、とたい焼き10個お買い上げしていた。
「はい、これは坊ちゃんと嬢ちゃんにおまけだ。」
万次郎とエマへ、大将が好意であんことクリームのたい焼きを1個ずつおまけで差し出していた。
「「わーい!」」
「ありがとうございます。」
〇〇がお礼を述べると、急に大将の視線が鋭いものに変わった。真一郎と〇〇が何事かと警戒していると、二人へ顔を寄せた大将が小声で話し出す。
「あんたら、尾けられてんじゃないか?」
「え・・・?」
「さっきからこっち睨みつけてるよ。おそらく筋者 じゃねぇかな。気ぃつけろ。」
筋者 ・・・?他のヤクザと接点を持った覚えはない。おそらく真一郎も。まさか、組長の娘だということを知って・・・?
「わっ」
〇〇が、あらゆる可能性を頭の中で巡らせていると、隣に立っていた真一郎がグイッと肩を抱きその身に寄せてきた。
「大丈夫だ。オレから離れるな。」
「先輩・・・でも万次郎とエマちゃんもいるのに。」
「この人込みなら、下手に騒ぎ起こそうなんて思わねぇだろ。神社出るまでは動かねぇはず。」
「で、出た後は・・・?」
「その前に撒く。」
嘘でしょ。いくら何でも子どもたちを連れて、ましてや自分たちは着物に草履を履いている。追いかけっこになれば逃げきれる可能性はかなり低い。
「あ~美味かった。」
「つぎ、チョコバナナ~!」
二人の会話にハっとすると、既にたい焼きを平らげたようだった。
「よーし、チョコバナナの屋台はどこだ~?」
「あっち!」
勢いよく駆けだす二人を追いかけるように、転ぶなよと言いながら真一郎が歩き出した。〇〇も離れないようそれについて行く。潜んでいるであろう謎の人物の気配を探るように、歩みを進めつつ後方へと意識を向けていた。
暮れも押し詰まったとある日。神保組東京支部事務所では、常駐する組員たちが必死の形相で組長令嬢を前に首を垂れていた。
「お嬢!頼みます!!」
「ワシらの顔を立ててやってつかーさい!!」
「ぜっっっっっったいイヤ!!」
舎弟たちの必死な姿を、一歩後ろに下がって見ていた柴田が、だから言っただろうと半ば呆れた表情で立っていた。
「無理だ。諦めぇ。」
「柴田さん!組長不在の事務所なんじゃけえ、お嬢に出てもらわにゃあ締まらんじゃないですか!」
「ほぅよ!元旦付けで柴田さんが若頭に任命される。そがぁな目出度い日に、せっかく近くに住んどるお嬢がおらんのじゃシラけちまう。」
「あのね、みんなと一緒に出歩いてたら、わたしの身元バレバレでしょうが!!」
事の発端は、柴田の若頭襲名の話が公になったところから始まった。毎年恒例の初詣でその記念すべき日を迎えるとあって、威厳を示すためにも派手にいった方がいい。組長不在のこの場所で、組長令嬢の〇〇が自分たちの先頭をきってくれれば、今まで以上に周りへの牽制もできるというもの。
「だから、それはお嬢の意向に反するし、まだ未成年やぞ。何考えとんじゃ。」
「「「柴田さぁ~ん!」」」
泣きつく男どもを、キモいんじゃ!と柴田が蹴散らしている。確かに、目出度い新年初日に目出度い襲名が重なるとあって興奮もひとしおなのは分かるが、組長の娘というだけで組員ではない自分が表に出るのは筋違いである。巻き込まないでいただきたい。〇〇は冷や汗をかきつつ、未だにうだうだと言っている男たちの様子を覗っていた。
「お嬢、正月本家へ帰る予定じゃないんでしょ?ワシらと一緒に神様に手ぇ合わせて家内安全を祈ってくれるだけでええんですよぉ・・・」
確かに、高校を卒業するまで帰らなくていい。と父親に言われている為帰るつもりは今のところない。自宅でのんびり年越しをしようと思っていた。だけど、今それを認めるといつまでたっても目の前の男共は諦めてくれそうもない。そう思った〇〇は、最終手段に打って出ることにした。
「あるもん。予定・・・」
「「「・・・え!?」」」
「し、真一郎先輩と初詣行くもん!」
「え?は、初詣!?」
まさか彼女からお誘いがあるとは思ってもみなかった真一郎が、歓喜のあまり思わず飛び跳ねてしまいそうになり踏み止まっていた。
『あ、やっぱりご家族で行く予定でしたよね・・・あの、無理にとは言』
「行く行く行く行く行くに決まってんだろ!!」
と真一郎が電話口で必死に叫んだ。家族となんていつでも行けるんだよばっきゃーろー。
『よかった~。助かります。』
「え?助かる?」
何が?と疑問に思った真一郎がその先を促すより先に、〇〇が事の次第を話し出した。
『今日、神保の初詣に同行しろって迫られてちゃって。そんなところ知り合いに見られたらマズいって言ってるのに、みんなが諦めてくれそうもなくって。だから思わず真一郎先輩と初詣行く約束してるって言っちゃったんです。』
「・・・あーそーゆーコトネ。」
勝手に舞い上がって恥ずかし。真一郎は、相も変わらず〇〇に翻弄されていた。しかし、彼女と新年早々二人きりで出かけられるのは事実。どんな理由であろうともこのチャンス逃すはずもない。
『あ、あの、先輩。いつも初詣行くとき服装は普段着ですか?』
「え?」
『なんか、みんなが勝手に盛り上がった勢いでわたし用の着物を手配したらしくて・・・勿体ないし着て行こうかなって思ったんですけど、一人着物も浮くかなって・・・』
絶対似合うに決まっている。少し恥じらいを含む声色で訪ねてくる〇〇に、真一郎は思わずときめいてしまう。今、目の前に居なくてよかった。絶対に抱きしめている。あらぬ妄想を振り払い、真一郎は〇〇へひとつ提案してみた。
「いいよ。じゃあオレも着物着て行く。それならいいだろ?」
頭の中に浮かぶ彼女が、ぱあっと顔を明るくさせこちらを見つめてくる。そんな単純すぎる妄想も、彼にとってはささやかな幸せのひと時なのだ。
一方電話の向こうでは、その通り満面の笑みを携えた〇〇が、嬉しそうに真一郎へ返事を返していた。
「ありがとうございます!あの、それじゃあ柴田の車でちょっと早めに先輩のお家に行きますね。」
集合時間を告げると電話を切った。〇〇はベッドに寝転がると、手元の
大晦日。昼間のうちに事務所の面々と年越しそばを食べ、早めに夕食を済ませた〇〇は、自宅で初詣へ行く準備に取り掛かっていた。
「はい。じゃあ肌着と長襦袢まで着てきてください。」
ぽん。と柴田から一式を渡される。〇〇の和装の着付けは、いつも柴田の担当だ。
「柴田。このタオルは?」
「お嬢は上半身が華奢ですから、このように肌着の上から胸の上に折り重ねて当ててください。こうすると綺麗に仕上がります。」
柴田の淡々とした説明に、〇〇の表情が無になった。気を遣われると余計に虚しくなるのはなぜだろうか。
「・・・はっきり言えばいいじゃん!」
柴田のバカー!胸を押さえ叫びながら自室へ駆け込む〇〇へ向かって、そんなつもりじゃあ!と慌てるように弁解する柴田が、珍しく全力で焦っていた。
〇〇は、着付けが終わると車で佐野家を訪れた。一旦自宅へ戻る柴田を見送ると、玄関の呼び鈴を鳴らす。玄関前には、しめ飾りと立派な門松が飾られていて、いよいよ新年を迎えるのだというちょっとした高揚感を覚えた。
「こんばんは~。」
「いらっしゃ・・・」
「!」
玄関が開くと袴姿の真一郎が出迎えた。見慣れた学校の制服やTシャツ姿などでは無い、見たことのない彼の出で立ちに〇〇が思わず見入ってしまう。
真一郎も真一郎で、初めて見る〇〇の着物姿から目が離せなかった。初詣なんか行かずに、このまま部屋に閉じ込めていろんな角度から嘗め回すように観ていたい。最早犯罪ギリギリの所業を妄想しだしていた。
「おい、まだ時間あるから上がれば?」
その時、奥から万次郎が〇〇に声をかけた。反応がない。彼は、赤面しながら見つめ合う二人を怪訝そうに見ていると、
「イチャつくならヨソでやってくんね?」
「「な!?///」」
その一言で我に返った二人が、軽くギクシャクしながら慌てて家の奥へと進む。
「あ。頭の・・・」
アップにまとめた髪に挿してある簪に気づいた真一郎が、思わず〇〇に声をかける。贈り物を使ってくれている姿を間近で見るのは初めてのことだった。
「はい・・・あの、ど、どう、ですか・・・?」
少し恥ずかしそうに、そして不安そうに見上げる瞳に、真一郎はクラクラと眩暈を起こしそうだった。これはやはり部屋に閉じ込めt(以下略)
「すげぇ似合ってる。かわいい。」
「かっ///」
思わぬ称賛の言葉に、〇〇の顔が茹で上がった蛸になる。その様子に真一郎がふっと微笑むと、彼女の背に手を添えて椅子が備えてあるダイニングへとエスコートした。
「・・・なんでお前らもついて来てんだよ!」
邪魔すんなって言ったよな!?と後ろを歩く弟妹へ向かって兄が吠えていた。
「先輩、そんな意地悪言わないで。」
「そうだそうだ。初詣はいっつもオレらと行くじゃん。」
「真兄だけ〇〇ちゃんと初詣ズルいっ。」
ガクッ。初詣デートの目論見が外れた真一郎が、意気消沈していた。
「寧ろごめんね。家族水入らずのところ邪魔して。屋台で美味しいもの奢るね。」
そう言うと、やったー!とバンザイしながら喜ぶ幼い弟妹の姿に、〇〇がきゅーんと瞳を潤ませる。その様子を横で見ていた真一郎が、着物の袖を噛みながらキーっと悔しがっていたのだった。
「うーん。やっぱ居るよね、ココにも。」
鳥居をくぐり境内へと続く通りの端には、提灯の明かりやライトに照らされた屋台が並ぶ。所謂"的屋"は、ヤクザの主な収入源のひとつとされている。
「え、もしかして神保の人も居んの!?」
「あ、いやここには居ません。居たら来てません。」
事務所の町内で行われるお祭りには出ているようだが、あくまでも広島を拠点とする暴力団。流石にここで的屋をやっているとは聞いていなかった。
「先に屋台見てみようか。どれ食べたい?」
「オレはモチロンたい焼き♡」
「ウチはチョコバナナ~♡」
目的の屋台へ寄ると、コワモテのおっちゃんが待ち構えていた。しかし、こういう商売をしているヤクザは、外見によらず意外と気さくな人物が多い。
「らっしゃい!お。今日は美人さんに覗いてもらえて俺ぁラッキーだな~。おねえさんいっぱい買ってって!たい焼き6個でもう1個おまけつけるよ~♡」
「いやいや、そんなんで商売になるんですか・・・?」
「やり~!〇〇、オレ10個くらいいけるぞ!」
「ウチはクリーム味が食べたい!」
「オイ、テメェ勝手に口説いてんじゃねぇぞオラ゙。」
突然賑やかになった様子に、屋台の大将が大笑いしていた。
「ありゃ、仲のいい姉弟かと思ったら、デキ婚ってやつか?若いってイイネ~♪」
その一言に、思わず二人がフリーズする。
「ちょっ!?ち、ちちちち違います!!///」
「えへへ。やっぱそう見えます?//」
「先輩っ!!///」
照れてないで否定しろ。そこまで老けてはいないだろ。調子のいい大将の口車に乗せられた真一郎が、じいちゃんにも土産だ、とたい焼き10個お買い上げしていた。
「はい、これは坊ちゃんと嬢ちゃんにおまけだ。」
万次郎とエマへ、大将が好意であんことクリームのたい焼きを1個ずつおまけで差し出していた。
「「わーい!」」
「ありがとうございます。」
〇〇がお礼を述べると、急に大将の視線が鋭いものに変わった。真一郎と〇〇が何事かと警戒していると、二人へ顔を寄せた大将が小声で話し出す。
「あんたら、尾けられてんじゃないか?」
「え・・・?」
「さっきからこっち睨みつけてるよ。おそらく
「わっ」
〇〇が、あらゆる可能性を頭の中で巡らせていると、隣に立っていた真一郎がグイッと肩を抱きその身に寄せてきた。
「大丈夫だ。オレから離れるな。」
「先輩・・・でも万次郎とエマちゃんもいるのに。」
「この人込みなら、下手に騒ぎ起こそうなんて思わねぇだろ。神社出るまでは動かねぇはず。」
「で、出た後は・・・?」
「その前に撒く。」
嘘でしょ。いくら何でも子どもたちを連れて、ましてや自分たちは着物に草履を履いている。追いかけっこになれば逃げきれる可能性はかなり低い。
「あ~美味かった。」
「つぎ、チョコバナナ~!」
二人の会話にハっとすると、既にたい焼きを平らげたようだった。
「よーし、チョコバナナの屋台はどこだ~?」
「あっち!」
勢いよく駆けだす二人を追いかけるように、転ぶなよと言いながら真一郎が歩き出した。〇〇も離れないようそれについて行く。潜んでいるであろう謎の人物の気配を探るように、歩みを進めつつ後方へと意識を向けていた。
