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本編(完結)
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11.Taste of your kiss
「ぅおっエッロ・・・」
「やっぱりキムタクの色気半端無ぇ・・・」
「おはよー。」
朝の始業前、教室ではこずえとその前の席に座っている詩織が、女性向け雑誌を広げて盛り上がっていた。
〇〇は、こずえの隣にある自席につくと、妙に興奮気味の二人を不思議に思いながら朝の挨拶を交した。
「おはよう!〇〇ちゃんも見る?unun.の最新号♪」
「unun.?」
こずえが、ずいっと雑誌の表紙を〇〇の顔の前へ持ってきた。
「えーと、『彼との愛を深めるテクニック』・・・んな!?」
そこには、今話題のイケメンアイドルと超絶美女が絡み合う際どい姿が写っていた。
「こ、こここんな雑誌学校に持ってきていいのですか!?//」
「え、やだ~なにそのウブな反応。」
〇〇ちゃんかわいい♡こずえのからかいもまともに耳に入らない程、〇〇は目の前の刺激強めな雑誌から目が離せなかった。
「あれ?〇〇ちゃんってさ、よく一緒にいる不良の先輩と付き合ってんじゃなかったっけ?」
ほら、あの2年の。と言う詩織の言葉に、〇〇は衝撃を受けた。いつの間に知らぬところでそんな話になっていたのかと。一緒にいる2年の不良と言えば一人しか該当しない。
「ちっ違う!付き合ってないっっ!///」
「ん~?なんか怪しいなぁ。」
「しっ真一郎先輩は、そのー、おっぱいおっきい子が好きって言ってたしっ!」
「「はぁ!?」」
聞き捨てならない発言に、目の前の二人の形相が一瞬にして豹変した。これは思わぬ爆弾を投下してしまったか。必死に否定しようとした余り、つい口が滑った〇〇はやってしまったと思ったが、後の祭り。
「なにそれ、最っ低!」
「あんの野郎なに考えてんの!?」
いかん。真一郎に新たな敵をつくってしまった。〇〇は心の中で謝罪をし、2年の教室に向かって手を合わせた。
「――っぶぇっくし!」
誰かが自分の噂をしているのか。イケメンは辛ぇな―――
真一郎の頭の中は、今日も平和だった。
「はは、なにこれ。『ファーストキスはどんな味だった?』だって~。」
何とか二人を宥めた〇〇は、流されるまま一緒に雑誌を見せられていた。
「中学生かよ。」
「ええ!?みんな中学生でもう!?」
「おーっと。〇〇ちゃんはまだなんだ♡」
「はっ」
〇〇は、大人な二人のノリに翻弄されていた。
「真面目な話、私はレモン味だったよ。」
「ぇえ!?」
「何故なら、当時付き合ってた彼が「C.Cレモン」を飲んだ直後だったから。」
それを聞いた詩織がゲラゲラ笑っていた。なんだ、そういうことか。と仰天していた〇〇も、こずえが言う非生物学的事象の謎が解けて納得したようだ。
「でも結構いるよね。ファーストキスはレモン味だったってマジで言う子。」
「あぁ、中学の友達はいちご味って言ってたよ。」
「ええ・・・」
初めて耳にする情報を処理しきれず、〇〇は困惑していた。恋愛とはなんと奥深く、これほどまでに未知の世界だったのかと。自分もいつか、異性とそのような関係になる日が来るのだろうか。〇〇は、予鈴のチャイムを聞くと少し複雑な心境のまま、鞄を開き1限目の教科書を取り出した。
「ちょっと、佐野先輩!」
放課後、こずえは部活へ行く前に真一郎のところへ殴り込みに来ていた。
「は、え、ちょ、こずえちゃん!?」
それ以上来られると窓割れる!窓際まで迫られた真一郎が冷や汗をかいていた。
「なんで〇〇ちゃんにおっぱいデカい子がタイプだなんて言っちゃったの!?」
「はぁ!?んなこと言って」
いや待てよ。先日ラブレターの返事の仕方を相談されたときに、おっぱい大きい子が好きなのか?と聞かれてちゃんと否定出来てなかったような・・・。身に覚えのあるやり取りが真一郎の頭を過った。
「やっぱ、ちょっと心当たりがある。」
「サイテー。」
「いやあれは不可抗力!」
「なになに~?面白そうだから俺も混ぜろ。」
1年の女子生徒の迫力にたじたじな真一郎をみて、沖田が寄って来た。
「あ。天然タラシの軽音学部、沖田先輩。」
「ちょっと待て。何その不名誉な通り名。」
「有名ですよ。泣かされた女子は数知れず。」
「それ全く身に覚えないんだけど!?」
「だから天然なんじゃないですか。」
「オレ、もう帰っていーい?」
「ダメです。」「ダメだろ。」
面倒くさい人間二人に挟まれて、真一郎は勘弁してくれと大きなため息を吐いた。
「誕生日会?」
こずえが、〇〇の誕生日前日に、彼女の自宅で誕生日会を開くから真一郎も来ないか、と誘いを入れていた。
「つーかオレ、あいつの誕生日にスタバのなんだっけ。クリスマス限定?のなんか飲みに行こうって誘われてっから。」
別に女子二人で過ごしていいよ。と言う真一郎の言葉に、こずえは憤慨した。
「せっかく人が気を使ってセッティングをしたというのに!」
バァン!とこずえが両手を机に打ち付け、いいですか?と続きを話し出した。
「誕生日会は夜やろうと思ってるんですけど、その日、〇〇ちゃんと同居している叔父さんたちは不在で、翌日まで帰らないんです。佐野先輩も参加して、私が先に帰れば二人っきりの時間をつくれるわけですよ。」
ハッ!!真一郎は、こずえの粋な計らいに気が付き、そういう事かと衝撃を受けた。
「粘って日付を跨ぐまで居れば、誰よりも早く〇〇ちゃんにおめでとうを言えるんですよ!?」
「なっなるほど!」
「そこでサプライズプレゼントでも持っていって、『好きだよ〇〇』って言えば完璧でしょーが!」
「こずえちゃん、君は天才なのか!!」
ガターン!と真一郎が興奮のあまり立ち上がった勢いで椅子を吹っ飛ばした。
「ねぇねぇ、〇〇ちゃんの誕生日会、俺も行っていい?」
え?と振り向くと、沖田がにこにこ顔で二人の様子を見ていた。
「いやお前カンケーねーだろ。」
「もう俺、〇〇ちゃんとはセッション果たしてマブダチだし。」
「誰がマブダチだオレは認めねぇ。」
「いいですよ。多いほうが〇〇ちゃんも喜ぶだろうし。」
「ちょっと、こずえさん!?」
「やった☆」
こずえは、沖田もどうやら彼が片思い中であることを承知のようだし、参加すれば何か面白いことが起きるかもしれない。と考えていた。当人、外野に関わらず、恋愛において発生する"イベント"は、多い方が盛り上がるものである。
「そうと決まれば、佐野先輩は〇〇ちゃんへのプレゼント、しっかり考えといてくださいよ!」
「ほ、ほんとにいる・・・!」
〇〇が玄関ドアを開けると、目の前にはこずえと沖田、そして真一郎が立っていた。
「だから言ったでしょ。先輩たちも誘ったって。」
「すご。〇〇ちゃんちのマンション最新設備?金持ち~。」
おじゃましまーす!と元気よく中へ入っていく二人を見送って、はぁ。と真一郎がため息をついた。
「先輩、あの、わざわざ来てくれてありがとうございます。」
「沖田はなに仕出かすか分かんねーから。見張り役がいるだろ。」
いつから沖田はそんな問題児扱いをされるようになってしまったんだ。〇〇がその言い様に苦笑していると、それに。と真一郎が続けた。
「オレの誕生日、サプライズしてもらったお返ししないとな。」
誕生日を覚えていてくれただけでも嬉しいのに。家族以外で初めて出来た大切な人を前に、〇〇はひんやりした廊下にいながら、陽だまりにいるような心地のいい気分だった。
「おーい。なに早速イチャイチャしてんのそこぉ!」
「へーへー。」
「いっイチャイチャ!?///」
早く手伝って佐野先輩!とこずえが急かすと、苦笑いの真一郎がリビングへ向かって入っていく。ピシッと固まり、赤く染まった顔の〇〇がその姿を見送っていた。
〇〇は、テーブルに取り皿と箸やフォークなどを並べ終え、リビングのローテーブルとソファの間に座った。こずえから、今日の主役は大人しくしておけ、とキッチンから追い出され暇を持て余していた。
「〇〇ちゃん♪」
そこに、やることが終わった様子の沖田が声をかけてきた。
「沖田先輩。今日は来てくれてありがとうございます。」
「全然。むしろマブダチの〇〇ちゃんの誕生日会に来れてすげー嬉しいし。」
"マブ"という言葉。若者が「本物の、本当の」という意味でよく使うが、元々は江戸時代、賊が使っていた言葉が後にヤクザへと伝わった隠語である。そんな曰くのある表現を聞いて、〇〇は少し可笑しくて笑ってしまった。もちろん、沖田が何かを含んで言ったはずもない。〇〇は、友達だと言ってくれたその好意が純粋に嬉しかった。
「そうだ。〇〇ちゃんってさ、医者になるんだろ?」
「え。あ、はい。その予定です。」
「最近さ~、肩こりひでぇんだけど、なんかいい方法知らない?」
沖田はバンドマンで、ギターを弾いている。立って演奏する時は、常に片方に楽器の重みが掛かる状態。体全体が歪み、慢性的に症状が出る音楽家も珍しくはない。
「こまめに、体全体のストレッチをすると多少楽にはなると思うんですけど。」
うーん。何かないか。医学についてはまだかじった程度の素人レベル。〇〇は、今持つ知識で解決できる方法がないか考えた。
「あ。東洋医学。」
「なになに?よく分かんないけどすげぇ効きそう。」
「いや、別に特別なことじゃなくて。ただのツボ押しです。」
「ツボ押し?」
〇〇は、両手で沖田の左手を取って手の甲を上に向かせた。
「ここの、人差し指と親指の骨が交わるくぼみに「合谷 」ってツボがあるんです。目の疲れとか、緊張を和らげる効果もある万能ツボです。」
「お、なんか痛気持ちい。」
〇〇が、親指の腹を当て、小指の方向に向かって骨に当たるようにぐりぐりと押していく。
そんな二人を様子を、睨みつけるように見ている男が一人。
「・・・・・・」
「佐野先輩。ポテト焦げるから早く上げてください。」
イライラをまとった真一郎に、こずえが揚げ物の作業を促す。
「おい、アイツにも仕事投げろよ。サボってんぞ。」
「だって沖田先輩、全然ダメなんですもん。器用なのはギターだけ!」
あれを見ろ。とこずえが指さした方向に、ピザ丸ごと1枚とチキンが同じ皿に無理やり乗せられていた。ピザが皿からはみ出ている。
「見栄えというものを知らないのか、あの男は!」
流石の真一郎も、呆気にとられるしかなかった。
「〇〇ちゃんって、結構指長いよね。」
不意に沖田が、ツボ押しをしていた〇〇の手を取り、まじまじとその指を観察していた。
「え?そう、ですか?」
「うん。ギター教えてる時から思ってた。弦が押さえやすくていいよなーって。」
「へぇ。気にしたことなかったです。」
「あれ?ちょっと俺と手の長さあんま変わんねーぞ。」
サラッと自然に掌を合わせてきた沖田が、驚いた表情を見せた。〇〇も、男性の手の長さと大差のないその大きさにびっくりした。
「わ。ホントだ!知らなかっ」
ぐっと後方から手首をつかまれ、合わせていた掌を無理やり剝がされた。〇〇が突然のことに驚いて後ろを振り返ると、冷たい目で見下ろしてくる真一郎が立っていた。
「し、真一郎先輩・・・?」
こ、怖い。〇〇はその顔にヒヤッとした。わたし何かしましたか。
「おい佐野ぉ。せっかく〇〇ちゃんと手と手のしわを合わせて幸せ♡ってやってたのに。」
「テメェは黙ってろ。」
「あらやだ怖い。」
キッチンに背を向けていた〇〇と違い、こちらに睨みを利かせる男の視線をバチバチに浴びていた沖田は、当然の如く確信犯である。
「しゃーねーな。代わってやるよ。」
そう言って沖田がキッチンへと向かっていくのを見送った真一郎が、スッとしゃがんで〇〇に目線を合わせた。
「なにアイツに好き勝手させてんの。」
「え。別に何かされたというわけでは」
ぎゅ。手首をつかんだままの真一郎が、その力を強めた。さすがの〇〇も危機感を感じて体が強張った。
「せ、せ、先輩っあの、」
「沖田に近づくと、妊娠するらしーぞ。」
「・・・えええ!?」
こずえが真一郎に面白半分で教えた、女子の間でささやかれている噂である。いくら〇〇でも、その人に近づいただけで妊娠なんてしないことは分かっているが、以前こずえが言っていた「沖田はたらし」の比喩が「近づくと妊娠する」であるならば、なんと面白い表現をする人がいたもんだと妙に感心していた。
「ふふ、先輩それはあり得ません。異性に近づくだけで妊娠するなら、わたしとっくに先輩の赤ちゃん妊娠してるじゃないですか。」
「・・・なっ!???///」
満面の笑みだった。これは彼女なりの冗談のつもりだったが、とんでもない爆弾を投下された真一郎は、勘弁してくれ。と片手で顔を覆い項垂れた。
「ぅおっエッロ・・・」
「やっぱりキムタクの色気半端無ぇ・・・」
「おはよー。」
朝の始業前、教室ではこずえとその前の席に座っている詩織が、女性向け雑誌を広げて盛り上がっていた。
〇〇は、こずえの隣にある自席につくと、妙に興奮気味の二人を不思議に思いながら朝の挨拶を交した。
「おはよう!〇〇ちゃんも見る?unun.の最新号♪」
「unun.?」
こずえが、ずいっと雑誌の表紙を〇〇の顔の前へ持ってきた。
「えーと、『彼との愛を深めるテクニック』・・・んな!?」
そこには、今話題のイケメンアイドルと超絶美女が絡み合う際どい姿が写っていた。
「こ、こここんな雑誌学校に持ってきていいのですか!?//」
「え、やだ~なにそのウブな反応。」
〇〇ちゃんかわいい♡こずえのからかいもまともに耳に入らない程、〇〇は目の前の刺激強めな雑誌から目が離せなかった。
「あれ?〇〇ちゃんってさ、よく一緒にいる不良の先輩と付き合ってんじゃなかったっけ?」
ほら、あの2年の。と言う詩織の言葉に、〇〇は衝撃を受けた。いつの間に知らぬところでそんな話になっていたのかと。一緒にいる2年の不良と言えば一人しか該当しない。
「ちっ違う!付き合ってないっっ!///」
「ん~?なんか怪しいなぁ。」
「しっ真一郎先輩は、そのー、おっぱいおっきい子が好きって言ってたしっ!」
「「はぁ!?」」
聞き捨てならない発言に、目の前の二人の形相が一瞬にして豹変した。これは思わぬ爆弾を投下してしまったか。必死に否定しようとした余り、つい口が滑った〇〇はやってしまったと思ったが、後の祭り。
「なにそれ、最っ低!」
「あんの野郎なに考えてんの!?」
いかん。真一郎に新たな敵をつくってしまった。〇〇は心の中で謝罪をし、2年の教室に向かって手を合わせた。
「――っぶぇっくし!」
誰かが自分の噂をしているのか。イケメンは辛ぇな―――
真一郎の頭の中は、今日も平和だった。
「はは、なにこれ。『ファーストキスはどんな味だった?』だって~。」
何とか二人を宥めた〇〇は、流されるまま一緒に雑誌を見せられていた。
「中学生かよ。」
「ええ!?みんな中学生でもう!?」
「おーっと。〇〇ちゃんはまだなんだ♡」
「はっ」
〇〇は、大人な二人のノリに翻弄されていた。
「真面目な話、私はレモン味だったよ。」
「ぇえ!?」
「何故なら、当時付き合ってた彼が「C.Cレモン」を飲んだ直後だったから。」
それを聞いた詩織がゲラゲラ笑っていた。なんだ、そういうことか。と仰天していた〇〇も、こずえが言う非生物学的事象の謎が解けて納得したようだ。
「でも結構いるよね。ファーストキスはレモン味だったってマジで言う子。」
「あぁ、中学の友達はいちご味って言ってたよ。」
「ええ・・・」
初めて耳にする情報を処理しきれず、〇〇は困惑していた。恋愛とはなんと奥深く、これほどまでに未知の世界だったのかと。自分もいつか、異性とそのような関係になる日が来るのだろうか。〇〇は、予鈴のチャイムを聞くと少し複雑な心境のまま、鞄を開き1限目の教科書を取り出した。
「ちょっと、佐野先輩!」
放課後、こずえは部活へ行く前に真一郎のところへ殴り込みに来ていた。
「は、え、ちょ、こずえちゃん!?」
それ以上来られると窓割れる!窓際まで迫られた真一郎が冷や汗をかいていた。
「なんで〇〇ちゃんにおっぱいデカい子がタイプだなんて言っちゃったの!?」
「はぁ!?んなこと言って」
いや待てよ。先日ラブレターの返事の仕方を相談されたときに、おっぱい大きい子が好きなのか?と聞かれてちゃんと否定出来てなかったような・・・。身に覚えのあるやり取りが真一郎の頭を過った。
「やっぱ、ちょっと心当たりがある。」
「サイテー。」
「いやあれは不可抗力!」
「なになに~?面白そうだから俺も混ぜろ。」
1年の女子生徒の迫力にたじたじな真一郎をみて、沖田が寄って来た。
「あ。天然タラシの軽音学部、沖田先輩。」
「ちょっと待て。何その不名誉な通り名。」
「有名ですよ。泣かされた女子は数知れず。」
「それ全く身に覚えないんだけど!?」
「だから天然なんじゃないですか。」
「オレ、もう帰っていーい?」
「ダメです。」「ダメだろ。」
面倒くさい人間二人に挟まれて、真一郎は勘弁してくれと大きなため息を吐いた。
「誕生日会?」
こずえが、〇〇の誕生日前日に、彼女の自宅で誕生日会を開くから真一郎も来ないか、と誘いを入れていた。
「つーかオレ、あいつの誕生日にスタバのなんだっけ。クリスマス限定?のなんか飲みに行こうって誘われてっから。」
別に女子二人で過ごしていいよ。と言う真一郎の言葉に、こずえは憤慨した。
「せっかく人が気を使ってセッティングをしたというのに!」
バァン!とこずえが両手を机に打ち付け、いいですか?と続きを話し出した。
「誕生日会は夜やろうと思ってるんですけど、その日、〇〇ちゃんと同居している叔父さんたちは不在で、翌日まで帰らないんです。佐野先輩も参加して、私が先に帰れば二人っきりの時間をつくれるわけですよ。」
ハッ!!真一郎は、こずえの粋な計らいに気が付き、そういう事かと衝撃を受けた。
「粘って日付を跨ぐまで居れば、誰よりも早く〇〇ちゃんにおめでとうを言えるんですよ!?」
「なっなるほど!」
「そこでサプライズプレゼントでも持っていって、『好きだよ〇〇』って言えば完璧でしょーが!」
「こずえちゃん、君は天才なのか!!」
ガターン!と真一郎が興奮のあまり立ち上がった勢いで椅子を吹っ飛ばした。
「ねぇねぇ、〇〇ちゃんの誕生日会、俺も行っていい?」
え?と振り向くと、沖田がにこにこ顔で二人の様子を見ていた。
「いやお前カンケーねーだろ。」
「もう俺、〇〇ちゃんとはセッション果たしてマブダチだし。」
「誰がマブダチだオレは認めねぇ。」
「いいですよ。多いほうが〇〇ちゃんも喜ぶだろうし。」
「ちょっと、こずえさん!?」
「やった☆」
こずえは、沖田もどうやら彼が片思い中であることを承知のようだし、参加すれば何か面白いことが起きるかもしれない。と考えていた。当人、外野に関わらず、恋愛において発生する"イベント"は、多い方が盛り上がるものである。
「そうと決まれば、佐野先輩は〇〇ちゃんへのプレゼント、しっかり考えといてくださいよ!」
「ほ、ほんとにいる・・・!」
〇〇が玄関ドアを開けると、目の前にはこずえと沖田、そして真一郎が立っていた。
「だから言ったでしょ。先輩たちも誘ったって。」
「すご。〇〇ちゃんちのマンション最新設備?金持ち~。」
おじゃましまーす!と元気よく中へ入っていく二人を見送って、はぁ。と真一郎がため息をついた。
「先輩、あの、わざわざ来てくれてありがとうございます。」
「沖田はなに仕出かすか分かんねーから。見張り役がいるだろ。」
いつから沖田はそんな問題児扱いをされるようになってしまったんだ。〇〇がその言い様に苦笑していると、それに。と真一郎が続けた。
「オレの誕生日、サプライズしてもらったお返ししないとな。」
誕生日を覚えていてくれただけでも嬉しいのに。家族以外で初めて出来た大切な人を前に、〇〇はひんやりした廊下にいながら、陽だまりにいるような心地のいい気分だった。
「おーい。なに早速イチャイチャしてんのそこぉ!」
「へーへー。」
「いっイチャイチャ!?///」
早く手伝って佐野先輩!とこずえが急かすと、苦笑いの真一郎がリビングへ向かって入っていく。ピシッと固まり、赤く染まった顔の〇〇がその姿を見送っていた。
〇〇は、テーブルに取り皿と箸やフォークなどを並べ終え、リビングのローテーブルとソファの間に座った。こずえから、今日の主役は大人しくしておけ、とキッチンから追い出され暇を持て余していた。
「〇〇ちゃん♪」
そこに、やることが終わった様子の沖田が声をかけてきた。
「沖田先輩。今日は来てくれてありがとうございます。」
「全然。むしろマブダチの〇〇ちゃんの誕生日会に来れてすげー嬉しいし。」
"マブ"という言葉。若者が「本物の、本当の」という意味でよく使うが、元々は江戸時代、賊が使っていた言葉が後にヤクザへと伝わった隠語である。そんな曰くのある表現を聞いて、〇〇は少し可笑しくて笑ってしまった。もちろん、沖田が何かを含んで言ったはずもない。〇〇は、友達だと言ってくれたその好意が純粋に嬉しかった。
「そうだ。〇〇ちゃんってさ、医者になるんだろ?」
「え。あ、はい。その予定です。」
「最近さ~、肩こりひでぇんだけど、なんかいい方法知らない?」
沖田はバンドマンで、ギターを弾いている。立って演奏する時は、常に片方に楽器の重みが掛かる状態。体全体が歪み、慢性的に症状が出る音楽家も珍しくはない。
「こまめに、体全体のストレッチをすると多少楽にはなると思うんですけど。」
うーん。何かないか。医学についてはまだかじった程度の素人レベル。〇〇は、今持つ知識で解決できる方法がないか考えた。
「あ。東洋医学。」
「なになに?よく分かんないけどすげぇ効きそう。」
「いや、別に特別なことじゃなくて。ただのツボ押しです。」
「ツボ押し?」
〇〇は、両手で沖田の左手を取って手の甲を上に向かせた。
「ここの、人差し指と親指の骨が交わるくぼみに「
「お、なんか痛気持ちい。」
〇〇が、親指の腹を当て、小指の方向に向かって骨に当たるようにぐりぐりと押していく。
そんな二人を様子を、睨みつけるように見ている男が一人。
「・・・・・・」
「佐野先輩。ポテト焦げるから早く上げてください。」
イライラをまとった真一郎に、こずえが揚げ物の作業を促す。
「おい、アイツにも仕事投げろよ。サボってんぞ。」
「だって沖田先輩、全然ダメなんですもん。器用なのはギターだけ!」
あれを見ろ。とこずえが指さした方向に、ピザ丸ごと1枚とチキンが同じ皿に無理やり乗せられていた。ピザが皿からはみ出ている。
「見栄えというものを知らないのか、あの男は!」
流石の真一郎も、呆気にとられるしかなかった。
「〇〇ちゃんって、結構指長いよね。」
不意に沖田が、ツボ押しをしていた〇〇の手を取り、まじまじとその指を観察していた。
「え?そう、ですか?」
「うん。ギター教えてる時から思ってた。弦が押さえやすくていいよなーって。」
「へぇ。気にしたことなかったです。」
「あれ?ちょっと俺と手の長さあんま変わんねーぞ。」
サラッと自然に掌を合わせてきた沖田が、驚いた表情を見せた。〇〇も、男性の手の長さと大差のないその大きさにびっくりした。
「わ。ホントだ!知らなかっ」
ぐっと後方から手首をつかまれ、合わせていた掌を無理やり剝がされた。〇〇が突然のことに驚いて後ろを振り返ると、冷たい目で見下ろしてくる真一郎が立っていた。
「し、真一郎先輩・・・?」
こ、怖い。〇〇はその顔にヒヤッとした。わたし何かしましたか。
「おい佐野ぉ。せっかく〇〇ちゃんと手と手のしわを合わせて幸せ♡ってやってたのに。」
「テメェは黙ってろ。」
「あらやだ怖い。」
キッチンに背を向けていた〇〇と違い、こちらに睨みを利かせる男の視線をバチバチに浴びていた沖田は、当然の如く確信犯である。
「しゃーねーな。代わってやるよ。」
そう言って沖田がキッチンへと向かっていくのを見送った真一郎が、スッとしゃがんで〇〇に目線を合わせた。
「なにアイツに好き勝手させてんの。」
「え。別に何かされたというわけでは」
ぎゅ。手首をつかんだままの真一郎が、その力を強めた。さすがの〇〇も危機感を感じて体が強張った。
「せ、せ、先輩っあの、」
「沖田に近づくと、妊娠するらしーぞ。」
「・・・えええ!?」
こずえが真一郎に面白半分で教えた、女子の間でささやかれている噂である。いくら〇〇でも、その人に近づいただけで妊娠なんてしないことは分かっているが、以前こずえが言っていた「沖田はたらし」の比喩が「近づくと妊娠する」であるならば、なんと面白い表現をする人がいたもんだと妙に感心していた。
「ふふ、先輩それはあり得ません。異性に近づくだけで妊娠するなら、わたしとっくに先輩の赤ちゃん妊娠してるじゃないですか。」
「・・・なっ!???///」
満面の笑みだった。これは彼女なりの冗談のつもりだったが、とんでもない爆弾を投下された真一郎は、勘弁してくれ。と片手で顔を覆い項垂れた。
