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本編(完結)
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「あの、先輩。この間のことなんですけど・・・」
いつもの堤防の上に二人並んで座った。〇〇が、実は沖田に練習に付き合ってもらっていた、と黙っていたことを謝ろうとした時、先に真一郎が口を開いた。
「隠さず言ってくれりゃあいいじゃねーか。」
「先輩・・・?」
「好きなんだろ。沖田のこと。」
「・・・・・・へ?」
〇〇は面食らった。今なんと仰いました?
「アイツは、誰とでも気さくに話せるから人気だし。バンドマンでカッケーし。いい奴だから俺反対しねぇし。」
「あ、あのぉ。何のお話しでしょうか?」
「だから、沖田とデート行くこと黙ってたのは、アイツに気があるから恥ずかしくて言えなかったんだろ?」
あ。そうだった。沖田とデートに行くということになっていたんだった。今の今まですっかり記憶からすっ飛んでいた〇〇は、なんだか面白い勘違いをしている真一郎に、思わず笑ってしまった。
「っふ、あはははは!」
「え?ちょ、なに笑ってんだよ!俺は真剣に」
「だって、わたし沖田先輩のこと好きだなんて思ってないですし。」
「・・・へ?」
「あ、いや親切だし優しいから好きですけど。」
「ほら!好きなんじゃねーか!」
「いやその恋愛的な意味ではなくて。」
「・・・そうなの?」
やっといつもの顔つきに戻った真一郎を見て、笑いが治まってきた〇〇が今度こそは、と口を開いた。
「ギターの練習、付き合ってくれてたんです。弾きたい曲があったから。」
「ギター、の練習?」
そういえば、今日彼女はギターケースを背負っていた。趣味でやっていると言っていたからきっと家から持ってきたんだろう。と、真一郎はバイクに立てかけてあるそれをチラッと見た。
「それで、わたしが真一郎先輩には内緒にしてほしいって沖田先輩にお願いしてて。あの場でバレそうになったから、沖田先輩が嘘ついてくれたんです。」
なんだか逆効果な嘘だったけれども。〇〇はあの時のことを思い出し、苦笑いが出た。
「って、ギターの練習するだけのことなのに、なんで内緒にすんだよ。」
納得いかねぇ。という顔をした真一郎に、〇〇は柔らかい笑みを浮かべながら、今回の企みを告げた。
「先輩に、一番最初のお客さんになってもらいたかったから。」
「・・・客?」
何の?よく話が見えないという顔をした真一郎に、〇〇が続きを話し出した。
「亡くなったお兄ちゃんと約束してたんです。わたしがギターの弾き語りができるようになったら、一番最初に聴かせてほしいって。」
「!」
「もう叶わなくなってしまって。でも、父が東京出てくる前にギターを譲ってくれたんです。だから弾けるようにはなりたいなって思ってずっと練習してて。」
〇〇は、ふとんの中で交した透との会話を思い出した。いつか、実現できる日が来るって信じていた。
「上手になったら、一番に聴いてもらうの、真一郎先輩がいいなって思ったんです。」
「え。」
「今は、たとえお兄ちゃんが生きてたとしても、たぶん先輩に聴いて欲しいなって思ってたんじゃないかなって。」
「〇〇・・・」
「わたしのこと、信じて応援してくれる、一番最初の友達だから。」
そもそも透が健在なら、医者を目指して東京になんて出てきていなかったかもしれない。だけどつい考えてしまう。約束を破れば透は怒っただろう。それでも、心に寄り添ってくれる一番最初の友達に、やっぱ聴かせてしまう気がする。そう思えて、〇〇はタラレバの想像に苦笑した。
「ねぇ、今聴かせてよ。」
え?と〇〇が真一郎へ顔を向けると、微笑んでいる彼がいた。
「今日は早い時間に校門出ようとしてたし、もう練習大分やったんだろ?」
「え、まぁ。そうですけど・・・」
本当は、日を改めてと思っていた。でも丁度、今日はギターを持参している。そして、ここはあまり人通りのない場所。出来なくはない。
「ダメ?」
「えっと、じゃあ、ギター出します。」
ギターストラップを肩に掛け、沖田に張り直してもらった弦の調弦をした。張ったばかりの弦は狂いやすい。
「おぉー、プロっぽい。」
「茶化さないでください、恥ずかしい・・・」
シシッ、と真一郎が笑っている。機嫌が直って本当に良かったと〇〇は安堵した。
「じゃあ、〇〇ここ立って。」
真一郎は、堤防の上を指した。
「ええ!?おっ落っこちそうだからヤダ!」
「大丈夫だよ。落ちそうになったら俺が引っ張るし。」
ステージみたいでイイだろ?そう言って真一郎が先に上に登り〇〇を引っ張りあげた。
「うわぁっ」
「よしよし、イイ感じ。」
下に降りた真一郎は、正面に置いていたバブの座席に軽く腰かけた。
「特等席だ。」
不思議な感覚だった。普段、自分より背の高い真一郎を見上げているからか、見下ろした彼の姿は妙に新鮮だった。〇〇は、テレビで観たあの歌手を思い出した。あの人も、こんな感じで大勢の客を見下ろしていたのか、と。自分だけを見てくれる、応援してくれる人たちを。
「なんの曲練習してたの?」
「『情熱の薔薇』です。」
「おお!ブルーハーツ?意外すぎる!」
「お兄ちゃんが好きだったんです、ブルーハーツ。」
「なるほどな。」
「運命感じたってよく聴いてました。CDの発売日が彼の誕生日で。」
「へぇー。」
〇〇は、前奏を弾き始めた。透は、この曲をラジオで初めて聞いた時、思わず泣いたと言っていた。自分の生い立ちに少し、歌詞を重ねたのかもしれない。〇〇は、今ならその気持ちが分かった。時代を超えて愛されるこの曲は、3分とない短い中で語りかけてくる。答えは必ずしも見えるところにあるものでは無いと。
「・・・永遠なのか本当か
時の流れは続くのか
いつまでたっても変わらない
そんな物あるだろうか
見てきた物や聞いた事
いままで覚えた全部
でたらめだったら面白い
そんな気持ち分るでしょう」
先日の文化祭で披露した繊細な印象の歌とは、何もかもが違った。〇〇は、ロック調の原曲イメージを崩すことなく地声を使い力強く歌った。
真一郎は、つくづく沖田の審美眼には脱帽していた。多少惚れた贔屓目はあるにしろ、これ程まで心に響く歌い方ができる同世代の人物など、彼女以外に知らない。いじめっ子から逃げ回って肺活量を鍛えてきただけある、と言っていいのかどうなのか、その声量にも驚かされた。
「なるべく小さな幸せと
なるべく小さな不幸せ
なるべくいっぱい集めよう
そんな気持ち分かるでしょう
答えはきっと奥の方
心のずっと奥の方
涙はそこからやってくる
心のずっと奥の方
情熱の真っ赤な薔薇を
胸に咲かせよう
花瓶に水をあげましょう
心のずっと奥の方・・・」
沖田がアレンジしたストロークを絡めたアルペジオで締めたところで、掌が痛くなるのではというほど力強い拍手が鳴り響いた。
「〇〇はさぁ、心で歌うんだな。」
「!」
「凄すぎて、なんも出てこねぇ。」
「―――ありがとう、先輩。」
幸せは永遠じゃない。そして、不幸も永遠じゃない。この世に不変なんてあるのかと問いかけるこの歌は、無常のこの世で何が幸せなのか、世間の言うことが全てではない。答えはお前の心の奥にあるんだと言う。いや、この歌に解釈の正解なんてないのだろう。〇〇は、この哲学的な歌詞が少し苦手だった。
〇〇は考えた。目の前の彼とは無常の上で出会った。そして、いつか無常の上で別れが来るのかと。
出来ればそれは、まだまだ先であって欲しい―――
〇〇が堤防から降りようと身を屈めると、真一郎が手を差し出してきた。微笑んだ彼女が遠慮なくその手を取ると、軽く足を蹴って地面へと降りた。
「お。」
「え?」
「いや、もぉちょい風が強かったらパンツ見えたなっt」
ボゴッ。〇〇のグーパンが真一郎の顔面にヒットした。
ーーー卍おまけ卍ーーー
真一郎「〇〇ちゃん、不意打ちのストレートはちょっと・・・っ」
〇〇「護身術の基本は不意打ちです。」
