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本編(完結)
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文化祭当日。
〇〇たちは、仮装用の衣装に身を包み開店準備をしていた。
「「「きゃ~~~!かわいい~~~♡」」」
女子たちのテンションが爆上がりしていた。
メインデザイナーこずえが仕上げた衣装のテーマは「Animal」
「あの・・・これかわいいけど・・・すごくかわいいけど恥ずかしい。///」
〇〇は、ねこ耳、鈴がついたチョーカー、襟ぐり広めのパフスリーブトップス、ひざ上丈のミニスカート、ルーズソックス、おしりからはしっぽまで生えているという、ねこまっしぐらスタイルの衣装を身につけていた。
ちなみにあと、いぬ、うさぎ、りす、ねずみ、ひつじがいる。
「ちょっとあとみんなで写真撮ろ!!」
「マジちょーかわいいんだけど♡」
女子のテンションに圧倒され、男子たちは遠巻きにその様子を見ていたが、「お前どの子が好み?」「オレ、うさぎ。」などの会話が繰り広げられていた。
「こずえちゃん、すごく好評だね。」
なんかわたしまで嬉しい。〇〇が笑顔で告げると、こずえがウインクをして、
「佐野先輩に早く見せたいね☆」
と言った途端、〇〇の頬がほんのりと染まったのだった。
「はーい焼きそば一丁あがり~」
中庭では、タオルはちまきをして汗をかきながら鉄板と格闘している真一郎が、焼きあがった焼きそばをパックに詰めていた。
彼のクラスがやっている模擬店は、大繁盛しているようだ。
「佐野、交代。」
真一郎に声をかけたのは、クラスメイトの沖田だった。
彼は、不良である真一郎とも普通に会話ができる数少ない生徒だ。
「あれ、もうそんな時間?」
「お前約束あるんじゃなかったっけ。」
早く上がれよ。
そう言うと、真一郎から鉄板用のヘラを奪い取った。
「おお、サンキュ。」
「そうだ。夕方軽音の野外ライブ俺も出るから観に来いよな。」
「あぁ、ダチと回る予定だから誘ってみるよ。」
「よ!」
待ち合わせ場所につくと、壁に寄りかかっている明司が振り向いた。
「終わったのか。」
「おぉ、俺は午前中だけで上がりだ。」
ほい焼きそば。
そう言って、真一郎が明司にとパクってきた焼きそばを手渡した。
「とりあえず、これ食ってから〇〇のとこ行こーぜ。」
屋内でも、多数の生徒や学校外からやってきた客でにぎわいを見せていた。
創作品の展示や、こういうイベントには欠かせないお化け屋敷など、各クラス思考を凝らした出し物が披露されていた。
そんな中、〇〇たちクラスの仮装喫茶も大盛況だった。噂が噂を呼び、老若男女ちびっ子問わず引っ切り無しに客が入るという人気っぷりだ。
「ひつじちゃん、モコモコ触らして~!」
「ねこちゃん、こっちにもポーズお願いしまーす♪」
若干コスプレショーと化していた。
「神保。」
〇〇が振り向くと、声をかけた主はクラス代表の山縣だった。
「はい、2番テーブルのオーダー分。」
「あ、はい。」
「仮装、すごくかわいいよ。」
「え。あっ、ありがと。///」
〇〇は、キッチン担当の山縣からドリンクの乗ったトレーを受け取ろうとしたところで急に褒められたものだから、スムーズにお礼の言葉が出てこなかった。
ホールに立ってから2時間ほど経つが、〇〇はまだ自分の格好に慣れずにいた。
「あのさ、夕方、終わったら時間くれないかな。」
「え?」
話があるんだ。
そう言われた〇〇は、山縣とはこの文化祭の準備で関わるまでほとんど話したことが無く、いったい何の話があるのかと疑問に思った。これから真一郎たちと文化祭を回る約束をしている。たぶんギリギリまで一緒にいるだろうことが予想された。
「これ終わったら、友達と約束があって。片付けの後でよかったら時間あると思うけど、それでもいい?」
もちろん。という彼に了承を貰って、今度こそトレーを受け取ると指定のテーブルに運んだ。
「え、ナニコレ。」
真一郎と明司が〇〇のクラスの前に着くと、客でごった返している光景が目に飛び込んできた。さらに廊下には、入場待ちの客数人が列を作っている。
さすがの明司も驚きを隠せない様子で、思わず真一郎に訊ねた。
「真、本当に〇〇ここにいんの?」
「・・・俺、今いないでくれって思ってる。」
「佐野先輩!」
すると入り口で客の誘導をしていたこずえが、二人に気づいて声をかけてきた。
「お友達ですか?」
はじめまして!と明司へ愛想よく挨拶をするこずえの耳元で、真一郎はこの状況説明を要求した。
「おい、これどーなってんだよ。」
「どう、とは?」
「めちゃくちゃ繁盛してんじゃねーか!」
当り前じゃないですか☆と軽い調子で答えるこずえに、こいつ食えねえ女だな。と真一郎はここにきてこずえの恐ろしさを再認識した。
「あ。〇〇ちゃんですよね!めっちゃくちゃかわいく仕上がってるんで、呼んできますね♪」
そう言うと、こずえは〇〇を教室の中から引っ張り出し、ずいっと真一郎の前に連れてきた。
「ちょ、ちょちょこずえちゃん!?」
「はい!ふわっふわキュートなこねこちゃんです♡」
〇〇は、突然こずえに引っ張られ何事だ?と混乱する頭で連れてこられたところに、真一郎と明司がいることに気づきギョっとした。
まだ心の準備が・・・!そう思った時には、既に真一郎とバッチリ目が合っていた。
〇〇と同じくギョっとした顔の真一郎が、やっとのことで口を開く。
「・・・ね・・・ねこ?///」
「あ・・・はい・・・///」
ねこです。///
その様子を見るなり、ニヤリと笑ったこずえが〇〇に指示を飛ばした。
「〇〇ちゃん、あれやってあげなよ!」
「ええええええっ!?」
真一郎は、ねこ耳をつけてもじもじしている〇〇から目が離せなかった。言い知れない感情をどこへ持っていったらいいか分からず、とりあえずなんだかイケナイことをしている気分になり、ゴクリと喉を鳴らした。
「い、いらっしゃいませ、にゃん♡」
〇〇は、客のリクエストに応えていくうちに編み出した必殺技を、真一郎の前で披露した。
はにかみながら、両手をグーにして招き猫ポーズをするその姿を確認すると、とうとうそれ以上見ていられなくなった真一郎が、片手で顔を覆いガクッと俯いた。
「・・・せ、先輩・・・?」
あの、もしもし?〇〇が、応答がない彼を心配して声をかけると、真一郎は〇〇の後ろにいるこずえに向かって、力強くGoodのハンドサインを出した。
真一郎は、めでたく新しい扉を開いたのだった。
・・・タバコ吸いてぇ。
ちなみに明司は、もうお前ら勝手にやってろ、な心境だった。
「おいしいです!」
ここは空き教室につくったイートインスペース。
〇〇は、真一郎が作った焼きそばを食べていた。
自分の当番が終わり、あの恥ずかしい衣装から解放されてやっと一息ついているところである。
真一郎から着替える前に、「さっきのもう一回やって」と目をキラキラさせて言われたが、丁重にお断りした。もしや、そんな趣味が?と覗いてはいけないものを見てしまった気がして、〇〇はそっと記憶の片隅に追いやった。
「わたしも先輩が焼いてるところ見たかったな。」
「そんなん、また家で作ってやるよ。」
それは、また佐野家へ遊びに行ってもいいってことだろうか。と、〇〇は思ってもみなかった誘いが嬉しくてたまらなかった。
「あとどこ回るんだ?」
もうそろそろ閉めるんだろ?と明司が訊ねてきた。15時までとなっているクラス毎の出し物の終わりが迫っていた。
「次は屋外会場でライブやる軽音観に行こうかと思ってよ。」
「へぇ!楽しそうですね。」
〇〇たちがそんな話をしていると、教室の外からただならぬ様子の生徒たちの話し声が聞こえてきた。
「・・・これじゃあライブできそうにないな。」
「せっかく今日まで準備してきたのになぁ・・・」
真一郎は、聞き覚えのあるその声に反応した。
「あ?もしかして沖田かー?」
少し大きめの声で廊下へ向かって声をかけると、クラスメイトの沖田が真一郎に気づき振り向いた。
「佐野・・・!」
「何かあったのか?」
今から一時間後、屋外ステージで軽音楽部がライブを始めるという時に、ボーカルを務める生徒が急に声が出なくなったというトラブルが発生していた。
「大事をとって病院に行かせたんだけど、代役がいなくてな。」
「それは困りましたね・・・。」
人間の声帯とは思いのほかデリケートだ。ちょっとしたことで痛めたり、心因性失声症という精神的ストレスで発声ができなくなることもある。
なんとかならないものか、とみんなで打開策を絞り出そうとしていた時、明司が口を開いた。
「〇〇、お前歌うの得意って言ってなかったか?」
「へ?」
〇〇は思わぬ発言者に意表を突かれ、その場にいた全員からの視線を浴びることになった。
なんだか嫌な予感しかしない〇〇が、全力でみんなの視線から逃げるよう否定にかかる。
「や、ち、違います!得意じゃなくて好きだって言っただけですからっ。」
「マジか!ねぇちょっと歌ってみてよ。」
「はい!?」
沖田が、楽譜読める?と言いながらギターケースから楽譜を取り出し〇〇に差し出した。
「え、や、よ、読めると思います、けど・・・」
「お願い!ちょっとでいいから!」
必死に頼む沖田の姿に、これ以上ノーと言えなくなった〇〇は、ちょっとだけ歌って却下にしてもらえばいい。そう思い、渡された楽譜に目を通した。
「・・・叶わない
どんなに望んでも
振り返る道にはもう
戻れないこと知っている
傷ついて 傷つけて 見つけて 失くして
それでも前へ進むこと選んだ僕は
ただひたすら走り続ける・・・」
透き通る、切ないのに力強いその歌声に、全員が度肝を抜かれた。
声量は抑えているが、彼女が本気で歌えばきっと会場中を魅了する。それは、東京中のライブハウスを駆け巡ってきた沖田の直感であり確信だった。
1コーラス歌い終わった瞬間、沖田は〇〇の肩を勢いよくつかんだ。
「頼む!一緒にライブに出て!!」
「・・・・・・えええ!?」
「真、悪い。」
余計なこと言ったか?
明司は、言い出しっぺの自分にも責任の一端があると感じて謝罪した。
「・・・いや、あれは仕方ねーわ。」
案の定、沖田に連行されていった〇〇は、軽音楽部の部室へ行ってリハーサルをやらされている。
「先輩~~~っ」
助けてくれー、と半泣きの〇〇が戻ってきた。
「佐野、悪い。〇〇ちゃん借りてくな。」
沖田に向かって了解のため息をひとつつくと、真一郎はまだひとりで頭を抱えてうなり続けている〇〇に向かって声をかけた。
「〇〇、すげぇ歌上手いんだな。ビビったわ。」
「無理無理無理大勢の前で歌うなんてやったことないから心臓持ちませんんんんっ」
「がんばれ。度胸のあるおまえなら絶対できるよ。」
その一言で、〇〇の目つきが変わった気がした。
自分の言葉が彼女の心を動かした。こんなことに愉悦を覚える自分自身に呆れて、真一郎は再び息をひとつ吐いた。
毎年、この屋外ステージが文化祭の締めを飾る一大イベントだ。
その大トリである軽音楽部のボーカルが1年生らしい、という話が学校中に瞬く間に広まり、例年以上の観客が集まる事態となっていた。
怒涛の如くその中心人物に祭り上げられた〇〇は、もうどうにでもなれな心境だった。きっと入学したての頃の自分であれば、こんな事恐ろしすぎて逃げ出していただろうが、真一郎が成功を信じてくれている。そのことだけで、どんなことも怖くなかった。
〇〇は、いつも鞄の中に入れて持ち歩いている山茶花のハンカチーフを腕に巻き付けた。真一郎からもらった勇気の花は、彼女のお守りだ。
(まさかこんなところで出番が来ようとは。)
もっと、ここぞというところで使うものだと思っていた〇〇は、記念すべき初めてのお披露目が文化祭という予想だにしていなかった事態に、苦笑するしかなかった。
「叶えたい
君から受け取った
確かな道標の先に
描いてきた未来が見える
泣いて 泣いて 泣いて 今は笑って
もう立ち止まることをやめた僕は
ただひたすら走り続ける」
〇〇のインパクトは一瞬で観客を巻き込んだ。
真一郎と明司も、会場から少し離れたところで普段の姿からは想像できないほど堂々とステージに立つ〇〇の姿を見守っていた。
「上出来じゃねぇか。」
「・・・あぁ。」
真一郎は、沖田が〇〇を誘ったのは運命だったんじゃないかと思った。
実の両親を亡くし、兄を亡くし、周りに避けられてきて、いろんなものを失くしても自分が目指す未来を諦めないでここまで来た。〇〇の奏でる歌は、どこか彼女のこれまでの半生のように真一郎には聞こえていた。
このまま何ものにも邪魔されることなく、彼女の描く未来へと真っすぐ進んで行って欲しい――
そんなことを、黄昏時の迫る空に向かって真一郎は願った。
