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本編(完結)
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6.Very important to me
新学期が始まり9月も半ば。
〇〇の通う高校では、来月行われる文化祭の準備が始まろうとしていた。
「では、多数決の結果、うちのクラスは『仮装喫茶』やりまーす!」
大多数の拍手によって無事承認された出し物のテーマは、「仮装」となったようだ。
クラス代表として指揮を執るのは、学年一のイケメンと噂される山縣と、〇〇の友人こずえだ。
「次の打ち合わせで担当割りするので、やりたいもの決めといてください!」
(わたしはどれにしようかな。)
二人が黒板に書き出したのは、「ホール」や「キッチン」「衣装」など、割り振りする担当名だった。
中学の文化祭ではクラスごとの出し物はなく、その頃の〇〇は積極的に参加することもままならなかったこともあって、今回のイベントをとても楽しみにしていた。
教室の中のソワソワ、ワクワクといった今までに感じたことのなかった空気が、〇〇の期待をより高めていた。
「〇〇ちゃんはどれやるか決めた?」
「ううん、どれも面白そうで悩んでる。」
こずえが一仕事終えて席へ戻ってきたところで〇〇に問いかけた。
衣装を作るのは大変だろうが、一番やりがいがありそうだ。と、手先の器用さには自信があった〇〇は、衣装担当がいいかなぁ。
そんなことを考えていると、
「〇〇ちゃんはぜっっったいホール!」
「へ?」
「その美貌を裏方になんて回させません!」
「え、いや、ちょっとこずえちゃん、落ちついて。」
こずえが若干興奮気味にホール担当を推してくると、〇〇は突然の勢いに思わず身を引いた。
何を言っているのか。こんなド田舎から出てきた芋娘、そのような評価を受けるに値しませんけど。そんなことを思っていた〇〇は、こずえの視力低下を心配した。
「先輩のクラスはなにやるんですか?」
〇〇はその夜、真一郎に電話をかけた。
彼の誕生日以降、時々こうしてその日あったことや柴田とのやり取りなどを、電話で真一郎に話すようになっていた。
「おまえのことが知りたい」と言った真一郎の希望に、少しでも応えたいという思いでのことだった。
『うちは中庭で焼きそばの模擬店だって。』
「いいな~聞いただけで美味しそう!」
お祭り感があってとても魅力的だ。真一郎が鉄板で焼きそばを焼いている姿が想像できて、〇〇はますます楽しくなった。
「早く当日にならないかなぁ。」
今日の〇〇は、いつにも増してテンションが高い。生い立ちを聞くに、こういう学校行事を楽しめることもあまりなかったのかもしれない。真一郎は、電話の向こうで楽しそうに話す彼女の声を、穏やかな表情で聴いていた。
『〇〇は仮装喫茶でなにすんの?』
「最初は、衣装作るのやりがいがありそうだなって思ってたんですけど、こずえちゃんが絶対ホールだ、って言ってたんで」
多分ホールです。
と聞いた瞬間、真一郎は嫌な予感がした。
どんな仮装をするのかは知らないが、万が一かわいい格好をした〇〇が喫茶のホールに立って「いらっしゃいませ♡」なんて出迎えるもんなら、変な輩に絡まれかねない。
一般の客を入れてやるイベントだから、尚のことその危険度は高まる。出来ればそれは阻止したい。
と思った真一郎は、早々に危険な芽の排除にかかることにした。
『〇〇、衣装担当やれ。』
「え?」
『ぜってー衣装のがいいって。』
「えあー、でもこずえちゃん結構頑固でしt」
『衣・装・担・当な。』
「・・・が、がんばります。」
こずえちゃんの説得。
〇〇は、先程までの楽しみで仕方がなかった気分から一転、先行きに不安が過った。
文化祭打ち合わせの日。
〇〇は、こずえの説得にかかろうとしていた。
「こずえちゃん。仮装喫茶の、やっぱわたし衣装担当じゃだめかなぁ?」
そう言うと、こずえは顔をしかめ口を開いた。
「えーなんで?〇〇ちゃん、どれも面白そうって言ってたじゃん。」
「いやそーなんですけども・・・そのー、事情がありまして。」
こずえは普段から、〇〇より一枚も二枚も上手だった。どんな事情だ言ってみろ。と迫られ誤魔化しきれそうになかった〇〇は、観念して全て話すことにしたのだった。
「で、佐野先輩が「衣装担当やれ」って?」
「う、うん。」
(なんか、こずえちゃんめっちゃ顔怖っ)
やっぱり説得無理かも先輩ゴメン。と〇〇は心の中で謝罪した。
そもそも、なんで真一郎は衣装がいいって言ったんだ?そんな今更な疑問が湧いてきたところで、目の前のこずえが突然ニヤリと笑いだした。
「はーん。そういうこと。」
「え?どゆこと?」
「分かった。佐野先輩のことは心配いらない。」
だから〇〇ちゃんは心置きなくホールやってちょーだい!
と半ば押し切られた〇〇は、まぁ、面白そうなら別になんでもいーわな。と開き直ることにした。
「ふぁ~~~眠。」
昼休憩中、真一郎が自席でまどろんでいると、「失礼します!」というハキハキとした元気のいい声が教室に響いた。
声のした方を振り向くと、一人の女子生徒が教室に入ってくるところだった。
あれ確か、〇〇といつも一緒にいる子?
〇〇が、真一郎先輩と同じ中学出身だよと言っていたことを思い出し、彼女が向かってくる様子をぼーっと眺めていると、ずんっと真一郎の目の前まで来て止まった。
「佐野先輩、1年の住田こずえって言います。」
ちょっとお時間よろしいですか?
不良で有名な真一郎に、臆することなく声をかける1年の女子生徒を目の前にして、教室にいた全員が怖いもの知らずもいたもんだ、とハラハラしながらその様子を見ていた。
「お、おぉ・・・なに?」
彼女のただならぬ圧に、真一郎は少したじろいだ。
「えーと、こずえちゃんだっけ?聞きたいことって?」
二人は中庭のベンチまで出て、一人分のスペースを開け腰を掛けた。
真一郎は、同じ中学だったことも知らなかったし、〇〇と一緒にいる仲のいい子という認識しか持っておらず、そんな自分に何用だ?と全くもって見当がつかなかった。
「佐野先輩、〇〇ちゃんのこと好きなんですか?」
「っっゲッホ!!」
思いもよらない発言に、真一郎はむせた。
突然何を言い出すんだこの子は。と、真一郎は冷や汗だらだらだった。
「な、な、なんのことかよく分かんねーんだけど・・・」
「うちのクラスがやる仮装喫茶で、〇〇ちゃんがホールやるの反対してたって聞きました。」
何故そのことを知っている。そんなの〇〇が言ったに決まっているが、それにしてもわざわざ突っかかってくる理由が分からない。真一郎の頭の中は混乱していた。
「私、前からずっと思ってたんですけど、どういうつもりで〇〇ちゃんに絡んできてるんですか?」
その言葉で、真一郎はこずえが言いたいことに何となく察しがついてきた。もしや、彼女は自分と〇〇の関係を詳しく聞かされていないのでは。そう思った真一郎は、ひとまず彼女の言い分を聞くことにしようと黙って耳を傾けた。
「〇〇ちゃん、お医者さんになるって勉強頑張ってて、気遣いもできて優しくて、いい子だからクラスの人だけじゃなくて先生からも人目置かれてるんです。
・・・この間、特進の進路希望出したあと、担当の先生から佐野先輩とはあまり関わるな、って言われてたの聞いて。」
「えっ」
それは初耳だ。まさか、自分のせいで教師からそんな言葉をかけられていたとは。そんなこと思いもよらなかった真一郎は、わざわざそれを彼女に言い放った教師は勿論、何もできない自分にも腹が立って思わず眉間に皺を寄せた。
「だから、ちょっとかわいいからとか、遊びのつもりなら〇〇ちゃんに絡むのやめてもらえませんか。」
「・・・」
「〇〇ちゃんは、佐野先輩のこといい人だって言ってますけど、近くにいたらケンカに巻き込まれる可能性だって・・・だから私、あまりよく思ってないです。」
〇〇、めちゃくちゃいい友達見つけたな。
真一郎は〇〇から散々、こちらに来るまで友達はいなかった、と聞いていた。今の話を聞くに、クラスや教師たちからの信頼も厚いようだし、元々彼女はそういった魅力を持ち合わせているに違いない。それなのに、家のことが壁になっていたなんで皮肉な話だ。そんなもの、自分からしてみれば大した問題ではないというのに。
そんなことを考えながら、真一郎は〇〇が人に恵まれていることに心の底から安堵していた。
「遊びじゃねぇよ。」
真一郎の言葉に、はっとしたこずえが俯いていた顔を上げた。
「最初は、あいつが不良にちょっかい出されてて、勉強に集中できなくなるのが嫌だって言うから、俺が傍にいればそういう輩が寄ってこないだろうって提案したのが始まりだった。」
こればかりは、こずえがいくら〇〇に聞いても何となくはぐらかされて詳しい話を聞けずじまいだった。まさか、二人の関係が〇〇の身を案じてのこととは思いもよらなかったこずえは、真一郎の言葉を真剣な様子で聞いていた。
「でも、そんな単純なことだけじゃなくて、もっと重たいもん背負ってるみたいでさ。放っておけなくなったんだよね。
だから、あいつに何かあったら絶対俺が守ってやるって決めてんだ。」
「・・・」
「だから俺は、あいつから言われない限り離れるつもりない。」
こずえは、ここへ来て初めて〇〇が言っていた意味を理解した。
彼は、人に対して真剣に向き合える男なのだ。この自分に対しても。いきなり偉そうに突っかかってきて、そこらの不良ならキレてきてもおかしくないのに。
「・・・・・・っ。
よかったよ~~~~っっ」
これですんなり会わないでくれたら。最初はそう思っていたこずえだったが、それではきっと〇〇が悲しむ。だから、本当に聞きたかった言葉を真一郎の口から聞けたことで、張り詰めていたその糸が切れた。こずえは、真一郎を前にかなり緊張していた。
うえーん、と泣き出した彼女を前に、真一郎は一瞬何が起こったのか分からず放心していたが、いつまでも泣き止みそうにない彼女の様子に大層慌てた。
「ちょ、ちょい待って!こずえちゃん!?これ俺が泣かせたみたいじゃない!?」
いや俺が泣かせたのかなぁ!?わたわたと慌てる真一郎を見ていたら、〇〇が懐くのも頷けた。彼女のことを思うとずっと不安でたまらなかったが、きっとこの人なら大丈夫なのだろう。
そう思い、涙を流しながらこずえは笑いが止まらなかった。
「佐野先輩。〇〇ちゃん他のクラスの男子からも人気だから、もたもたしてると取られますよ。」
ひとしきり泣いたこずえが、落ち着きを取り戻すと真一郎に助言した。
「あーのさ、一つ聞いてもいい?」
「なんですか?」
「俺って、そんなに分かりやすい?」
「はい。」
ものすごく。こずえの間髪入れない回答に、真一郎は項垂れた。
誕生日の日、明司にも同じようなことを言われて、もしやとは思ったが。本人が思っていたよりもずっと駄々洩れだったようだ。
「でも、〇〇ちゃんは気づかない気がします。」
「え゙。」
何となくですけど。その言葉に真一郎は、それはそれでどうなんだ。と、想いを打ち明ける予定はないにしろ、先行きに不安を感じた。
「で、他のクラスの男からも人気って、マジ?」
「はい。ちなみに、うちに学年一のイケメンがいるんですけど、彼、文化祭の日に〇〇ちゃんに告白するって言ってました。」
「はぁ!?」
どこのどいつだそのふてえ野郎は。まさかここまで野郎に好かれているとは思いもしなかった真一郎は、心中穏やかではなかった。
しかし、別に彼女は彼のものというわけではない。誰に告白され、誰と付き合おうが真一郎がとやかく言う筋合いはない。
それが余計にイライラを募らせた。
「ちょっと、俺余計にホールやらせたくねぇんだけど。」
「なんでですか?佐野先輩見たくないんですか?」
〇〇ちゃんの″カワイイコスプレ″。
悪魔が真一郎にささやいた。
「見たいです。」
「ですよね♡」
これで〇〇が真一郎に攻められることもないだろう。
二人の攻防は、こずえの勝利であっさりと幕を下ろしたのだった。
無事、各自担当が振られ、ホール担当者の衣装を作るための採寸が始まった。
「こずえちゃん、裁縫が趣味だなんて知らなかった。」
「だから、〇〇ちゃんは衣装じゃなくてよかったんだよー。」
こずえがメジャーを手に意気揚々と採寸していく。
そういうことか。上には上がいるものだ。〇〇は適材適所の割り振りに納得した。
「今日、昼休みに佐野先輩と話したよ。」
「な、なんですって!?」
「佐野先輩、〇〇ちゃんの仮装姿、楽しみにしてるって♡」
「・・・え?」
真一郎が?あれほど衣装担当を推していたのになぜ?
〇〇は、あまりの急な展開に頭が追い付かなかった。
(ていうか楽しみって・・・。)
そう言われると、逆に照れ臭くなった〇〇は、頬を赤らめうつむいた。
(じゃあ、見に来てくれるってことだよね。)
まだどんな衣装になるか分からないが、当日真一郎がどんな感想を言ってくれるだろうか、と〇〇は楽しみで仕方がなかった。
新学期が始まり9月も半ば。
〇〇の通う高校では、来月行われる文化祭の準備が始まろうとしていた。
「では、多数決の結果、うちのクラスは『仮装喫茶』やりまーす!」
大多数の拍手によって無事承認された出し物のテーマは、「仮装」となったようだ。
クラス代表として指揮を執るのは、学年一のイケメンと噂される山縣と、〇〇の友人こずえだ。
「次の打ち合わせで担当割りするので、やりたいもの決めといてください!」
(わたしはどれにしようかな。)
二人が黒板に書き出したのは、「ホール」や「キッチン」「衣装」など、割り振りする担当名だった。
中学の文化祭ではクラスごとの出し物はなく、その頃の〇〇は積極的に参加することもままならなかったこともあって、今回のイベントをとても楽しみにしていた。
教室の中のソワソワ、ワクワクといった今までに感じたことのなかった空気が、〇〇の期待をより高めていた。
「〇〇ちゃんはどれやるか決めた?」
「ううん、どれも面白そうで悩んでる。」
こずえが一仕事終えて席へ戻ってきたところで〇〇に問いかけた。
衣装を作るのは大変だろうが、一番やりがいがありそうだ。と、手先の器用さには自信があった〇〇は、衣装担当がいいかなぁ。
そんなことを考えていると、
「〇〇ちゃんはぜっっったいホール!」
「へ?」
「その美貌を裏方になんて回させません!」
「え、いや、ちょっとこずえちゃん、落ちついて。」
こずえが若干興奮気味にホール担当を推してくると、〇〇は突然の勢いに思わず身を引いた。
何を言っているのか。こんなド田舎から出てきた芋娘、そのような評価を受けるに値しませんけど。そんなことを思っていた〇〇は、こずえの視力低下を心配した。
「先輩のクラスはなにやるんですか?」
〇〇はその夜、真一郎に電話をかけた。
彼の誕生日以降、時々こうしてその日あったことや柴田とのやり取りなどを、電話で真一郎に話すようになっていた。
「おまえのことが知りたい」と言った真一郎の希望に、少しでも応えたいという思いでのことだった。
『うちは中庭で焼きそばの模擬店だって。』
「いいな~聞いただけで美味しそう!」
お祭り感があってとても魅力的だ。真一郎が鉄板で焼きそばを焼いている姿が想像できて、〇〇はますます楽しくなった。
「早く当日にならないかなぁ。」
今日の〇〇は、いつにも増してテンションが高い。生い立ちを聞くに、こういう学校行事を楽しめることもあまりなかったのかもしれない。真一郎は、電話の向こうで楽しそうに話す彼女の声を、穏やかな表情で聴いていた。
『〇〇は仮装喫茶でなにすんの?』
「最初は、衣装作るのやりがいがありそうだなって思ってたんですけど、こずえちゃんが絶対ホールだ、って言ってたんで」
多分ホールです。
と聞いた瞬間、真一郎は嫌な予感がした。
どんな仮装をするのかは知らないが、万が一かわいい格好をした〇〇が喫茶のホールに立って「いらっしゃいませ♡」なんて出迎えるもんなら、変な輩に絡まれかねない。
一般の客を入れてやるイベントだから、尚のことその危険度は高まる。出来ればそれは阻止したい。
と思った真一郎は、早々に危険な芽の排除にかかることにした。
『〇〇、衣装担当やれ。』
「え?」
『ぜってー衣装のがいいって。』
「えあー、でもこずえちゃん結構頑固でしt」
『衣・装・担・当な。』
「・・・が、がんばります。」
こずえちゃんの説得。
〇〇は、先程までの楽しみで仕方がなかった気分から一転、先行きに不安が過った。
文化祭打ち合わせの日。
〇〇は、こずえの説得にかかろうとしていた。
「こずえちゃん。仮装喫茶の、やっぱわたし衣装担当じゃだめかなぁ?」
そう言うと、こずえは顔をしかめ口を開いた。
「えーなんで?〇〇ちゃん、どれも面白そうって言ってたじゃん。」
「いやそーなんですけども・・・そのー、事情がありまして。」
こずえは普段から、〇〇より一枚も二枚も上手だった。どんな事情だ言ってみろ。と迫られ誤魔化しきれそうになかった〇〇は、観念して全て話すことにしたのだった。
「で、佐野先輩が「衣装担当やれ」って?」
「う、うん。」
(なんか、こずえちゃんめっちゃ顔怖っ)
やっぱり説得無理かも先輩ゴメン。と〇〇は心の中で謝罪した。
そもそも、なんで真一郎は衣装がいいって言ったんだ?そんな今更な疑問が湧いてきたところで、目の前のこずえが突然ニヤリと笑いだした。
「はーん。そういうこと。」
「え?どゆこと?」
「分かった。佐野先輩のことは心配いらない。」
だから〇〇ちゃんは心置きなくホールやってちょーだい!
と半ば押し切られた〇〇は、まぁ、面白そうなら別になんでもいーわな。と開き直ることにした。
「ふぁ~~~眠。」
昼休憩中、真一郎が自席でまどろんでいると、「失礼します!」というハキハキとした元気のいい声が教室に響いた。
声のした方を振り向くと、一人の女子生徒が教室に入ってくるところだった。
あれ確か、〇〇といつも一緒にいる子?
〇〇が、真一郎先輩と同じ中学出身だよと言っていたことを思い出し、彼女が向かってくる様子をぼーっと眺めていると、ずんっと真一郎の目の前まで来て止まった。
「佐野先輩、1年の住田こずえって言います。」
ちょっとお時間よろしいですか?
不良で有名な真一郎に、臆することなく声をかける1年の女子生徒を目の前にして、教室にいた全員が怖いもの知らずもいたもんだ、とハラハラしながらその様子を見ていた。
「お、おぉ・・・なに?」
彼女のただならぬ圧に、真一郎は少したじろいだ。
「えーと、こずえちゃんだっけ?聞きたいことって?」
二人は中庭のベンチまで出て、一人分のスペースを開け腰を掛けた。
真一郎は、同じ中学だったことも知らなかったし、〇〇と一緒にいる仲のいい子という認識しか持っておらず、そんな自分に何用だ?と全くもって見当がつかなかった。
「佐野先輩、〇〇ちゃんのこと好きなんですか?」
「っっゲッホ!!」
思いもよらない発言に、真一郎はむせた。
突然何を言い出すんだこの子は。と、真一郎は冷や汗だらだらだった。
「な、な、なんのことかよく分かんねーんだけど・・・」
「うちのクラスがやる仮装喫茶で、〇〇ちゃんがホールやるの反対してたって聞きました。」
何故そのことを知っている。そんなの〇〇が言ったに決まっているが、それにしてもわざわざ突っかかってくる理由が分からない。真一郎の頭の中は混乱していた。
「私、前からずっと思ってたんですけど、どういうつもりで〇〇ちゃんに絡んできてるんですか?」
その言葉で、真一郎はこずえが言いたいことに何となく察しがついてきた。もしや、彼女は自分と〇〇の関係を詳しく聞かされていないのでは。そう思った真一郎は、ひとまず彼女の言い分を聞くことにしようと黙って耳を傾けた。
「〇〇ちゃん、お医者さんになるって勉強頑張ってて、気遣いもできて優しくて、いい子だからクラスの人だけじゃなくて先生からも人目置かれてるんです。
・・・この間、特進の進路希望出したあと、担当の先生から佐野先輩とはあまり関わるな、って言われてたの聞いて。」
「えっ」
それは初耳だ。まさか、自分のせいで教師からそんな言葉をかけられていたとは。そんなこと思いもよらなかった真一郎は、わざわざそれを彼女に言い放った教師は勿論、何もできない自分にも腹が立って思わず眉間に皺を寄せた。
「だから、ちょっとかわいいからとか、遊びのつもりなら〇〇ちゃんに絡むのやめてもらえませんか。」
「・・・」
「〇〇ちゃんは、佐野先輩のこといい人だって言ってますけど、近くにいたらケンカに巻き込まれる可能性だって・・・だから私、あまりよく思ってないです。」
〇〇、めちゃくちゃいい友達見つけたな。
真一郎は〇〇から散々、こちらに来るまで友達はいなかった、と聞いていた。今の話を聞くに、クラスや教師たちからの信頼も厚いようだし、元々彼女はそういった魅力を持ち合わせているに違いない。それなのに、家のことが壁になっていたなんで皮肉な話だ。そんなもの、自分からしてみれば大した問題ではないというのに。
そんなことを考えながら、真一郎は〇〇が人に恵まれていることに心の底から安堵していた。
「遊びじゃねぇよ。」
真一郎の言葉に、はっとしたこずえが俯いていた顔を上げた。
「最初は、あいつが不良にちょっかい出されてて、勉強に集中できなくなるのが嫌だって言うから、俺が傍にいればそういう輩が寄ってこないだろうって提案したのが始まりだった。」
こればかりは、こずえがいくら〇〇に聞いても何となくはぐらかされて詳しい話を聞けずじまいだった。まさか、二人の関係が〇〇の身を案じてのこととは思いもよらなかったこずえは、真一郎の言葉を真剣な様子で聞いていた。
「でも、そんな単純なことだけじゃなくて、もっと重たいもん背負ってるみたいでさ。放っておけなくなったんだよね。
だから、あいつに何かあったら絶対俺が守ってやるって決めてんだ。」
「・・・」
「だから俺は、あいつから言われない限り離れるつもりない。」
こずえは、ここへ来て初めて〇〇が言っていた意味を理解した。
彼は、人に対して真剣に向き合える男なのだ。この自分に対しても。いきなり偉そうに突っかかってきて、そこらの不良ならキレてきてもおかしくないのに。
「・・・・・・っ。
よかったよ~~~~っっ」
これですんなり会わないでくれたら。最初はそう思っていたこずえだったが、それではきっと〇〇が悲しむ。だから、本当に聞きたかった言葉を真一郎の口から聞けたことで、張り詰めていたその糸が切れた。こずえは、真一郎を前にかなり緊張していた。
うえーん、と泣き出した彼女を前に、真一郎は一瞬何が起こったのか分からず放心していたが、いつまでも泣き止みそうにない彼女の様子に大層慌てた。
「ちょ、ちょい待って!こずえちゃん!?これ俺が泣かせたみたいじゃない!?」
いや俺が泣かせたのかなぁ!?わたわたと慌てる真一郎を見ていたら、〇〇が懐くのも頷けた。彼女のことを思うとずっと不安でたまらなかったが、きっとこの人なら大丈夫なのだろう。
そう思い、涙を流しながらこずえは笑いが止まらなかった。
「佐野先輩。〇〇ちゃん他のクラスの男子からも人気だから、もたもたしてると取られますよ。」
ひとしきり泣いたこずえが、落ち着きを取り戻すと真一郎に助言した。
「あーのさ、一つ聞いてもいい?」
「なんですか?」
「俺って、そんなに分かりやすい?」
「はい。」
ものすごく。こずえの間髪入れない回答に、真一郎は項垂れた。
誕生日の日、明司にも同じようなことを言われて、もしやとは思ったが。本人が思っていたよりもずっと駄々洩れだったようだ。
「でも、〇〇ちゃんは気づかない気がします。」
「え゙。」
何となくですけど。その言葉に真一郎は、それはそれでどうなんだ。と、想いを打ち明ける予定はないにしろ、先行きに不安を感じた。
「で、他のクラスの男からも人気って、マジ?」
「はい。ちなみに、うちに学年一のイケメンがいるんですけど、彼、文化祭の日に〇〇ちゃんに告白するって言ってました。」
「はぁ!?」
どこのどいつだそのふてえ野郎は。まさかここまで野郎に好かれているとは思いもしなかった真一郎は、心中穏やかではなかった。
しかし、別に彼女は彼のものというわけではない。誰に告白され、誰と付き合おうが真一郎がとやかく言う筋合いはない。
それが余計にイライラを募らせた。
「ちょっと、俺余計にホールやらせたくねぇんだけど。」
「なんでですか?佐野先輩見たくないんですか?」
〇〇ちゃんの″カワイイコスプレ″。
悪魔が真一郎にささやいた。
「見たいです。」
「ですよね♡」
これで〇〇が真一郎に攻められることもないだろう。
二人の攻防は、こずえの勝利であっさりと幕を下ろしたのだった。
無事、各自担当が振られ、ホール担当者の衣装を作るための採寸が始まった。
「こずえちゃん、裁縫が趣味だなんて知らなかった。」
「だから、〇〇ちゃんは衣装じゃなくてよかったんだよー。」
こずえがメジャーを手に意気揚々と採寸していく。
そういうことか。上には上がいるものだ。〇〇は適材適所の割り振りに納得した。
「今日、昼休みに佐野先輩と話したよ。」
「な、なんですって!?」
「佐野先輩、〇〇ちゃんの仮装姿、楽しみにしてるって♡」
「・・・え?」
真一郎が?あれほど衣装担当を推していたのになぜ?
〇〇は、あまりの急な展開に頭が追い付かなかった。
(ていうか楽しみって・・・。)
そう言われると、逆に照れ臭くなった〇〇は、頬を赤らめうつむいた。
(じゃあ、見に来てくれるってことだよね。)
まだどんな衣装になるか分からないが、当日真一郎がどんな感想を言ってくれるだろうか、と〇〇は楽しみで仕方がなかった。
