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番外編
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Extra edition1.
Welcome to ☆
ある休日の午後。渋谷駅ハチ公銅像前。
一人の不良少年が、後頭部を掻きながら落ち着かない様子で立っていた。
(あ~40分前に着いちまうとか、遠足楽しみなガキか俺は。)
彼は今日、ひょんなことから友人になった医者を目指すヤクザの娘、神保〇〇と交わした約束を果たすべく、彼女と待ち合わせをしていた。
彼の名は、佐野真一郎。黒龍 という暴走族の総長を務めている男だ。
数日前、彼は自身が率いるチームの集会に彼女を連れて行き少々失態をおかした。仲間に彼女のことを紹介したがために、彼女の怒りを買ってしまったのだ。
彼は、黒龍のメンバーには彼女に酷いことをするような奴なんていないという確信を持っていたし、なにより仲間に彼女のことを紹介したくてたまらなかった。度胸があって、自分の境遇に悲観せず夢に向かってひたむきに努力する。そんなカッコイイ女の子が自分のダチになったんだと。
すっかり自分を受け入れてくれていた彼女に、正直浮かれていたことは否定できないし、自分勝手な願望で彼女の不安を煽ってしまったことを反省していた。
そんな彼は、巷で話題沸騰中のコーヒーチェーン店、スターバックスコーヒーで埋め合わせとしてドリンクを奢れと命じられた。
1996年8月2日、銀座に初上陸したアメリカシアトル生まれのスターバックスコーヒーは、当時から人気を博していた。日本のカフェスタイルの概念を覆すおしゃれな外観やメニュー、欧風のオープンテラスが併設された店舗は大きな話題となった。
また、店内全面禁煙を採用するという当時では珍しい店舗設計で、女性客が居心地良いと感じる空間を提供した事も人気に拍車をかけた。
〇〇は、高校のクラスメイトからこのカフェチェーン店の話題を聞きつけ、前々から行きたくてたまらなかった。彼女はコーヒー愛飲家だった。
時間まで暇だなー。と絶えない人波をぼーっと眺めていた真一郎の耳に、突如聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「あの、わたし急いでるんでそこ通してください。」
この間会ったばかりだ。聞き間違うことなどあり得ない。
真一郎は、待ち合わせ相手である彼女が近くにいる、と声のしたであろう方向に視線を向けた。
「えーいーじゃんちょっとだけ。その辺でお茶しながらお話ししようよ♡」
「俺らお金いっぱい持ってるから、なんでも奢るよ?♪」
見つけた。
真一郎は〇〇の姿を捉えた。彼女の正面には、ニヤニヤと如何にも下心丸出しの男二人が彼女を囲んでいた。所謂ナンパだ。
〇〇は、勘弁してくれと言わんばかりにはぁ~と深いため息をついている。
「だーかーら、今から友達と電車に乗るんで、お兄さんたちにはついて行けませんて。」
「待ち合わせ?じゃあさ、そのお友達も誘って一緒に楽しい事しよ♪」
「人の話聞いてます?」
「ほんっと君かわいいよね。高校生でしょ?歳いくつ~?」
俺はね~、とナンパ男が一方的にしゃべる様子を無の表情で見ていた〇〇の身体がふっと後方に傾いた。首下あたりに片腕を回してきたその人物の身体にぽすっと背中が当たる。
〇〇が突然のことに驚いて振り向くと、真一郎が鬼の形相でナンパ男たちに眼を飛ばしていた。
「俺がその「お友達」だコル゙ァ。」
「先輩!?」
「どんな楽しいところに連れてってくれんのか楽しみだなァ。ァア゙?」
「「ヒィッ。スンマセンしたー!」」
そう言ってナンパ男たちは慌てふためきあっさりと去っていった。
「先輩、時間まだ30分あるのに早かったですね。」
「あぁ。早く来てよかったと思ってるよ。」
「はは、ありがとうございました。」
もういいですよ。と〇〇が身体に回されている真一郎の腕をぺしぺしと叩いた。不服そうな表情をした真一郎が腕を解くと、〇〇に問いかけた。
「おまえ、よくあーゆーヤツに声かけられんの?」
「え。いや、言うほど。東京来て3回目です。」
「はぁ!?お、ま、それでよくあの時間に一人でコンビニ行ったな!」
「ちょっとの距離ならいいかなぁーって。」
「もう俺が居ないとき夜出歩くの禁止。」
「お父さんみたいなこと言わんでください。」
おと!?
真一郎は固まった。
〇〇が、しばらくバイクは乗りたくないと言った為、二人は地下鉄に乗り銀座を目指した。
通勤ラッシュほどではないが、そこそこ乗客が乗っていて車両の中は少し窮屈。〇〇は人の多さに居心地悪さを感じていた。
「まだ東京の電車は慣れないなー。」
「広島はこんなに乗らないの?」
「んー、休日の様子しか知りませんけど、路面電車は時間帯によってこれくらい乗ってたかなぁ。」
「あ。俺知ってる。「チンチン」電車って言うんだろ?」
「・・・先輩、なんか顔ニヤついてるし。絶対言いたいだけでしょそれ。広島県人は言いませんからね。」
「え!?そーなの?」
「広島電鉄って会社が運行してるんですけど、ヒロデンって愛称の方が馴染みがあります。」
「へー。地元人のみぞ知るってやつだなぁ。」
「はは、そうか」
も。と〇〇が言いかけたところで車両が大きく揺れた。真一郎は、とっさに手すりを握り〇〇の背中に腕を回して彼女を抱き寄せた。
〇〇には、ハンカチを渡した日や先ほどナンパ男を追い払うときにも至近距離で触れたことはあったが、今ほど勢いよく力を入れて自分の身に寄せたのは初めてだった。その結果ダイレクトに伝わる彼女独特の香りが鼻腔をくすぐり、ばくん、と心臓が跳ねた。
〇〇は、突然のことに驚いている様子で、されるがまま大人しく真一郎に身を寄せている。
彼は、この時ほど彼女に対して庇護欲を搔き立てられた瞬間はなかった。いや、はっきりと自覚したのがこの瞬間だったと言った方が正しい。
彼女は友達。自分だってそう言ったのだから。だけど本当は、彼女がその背に隠す重荷を見た時から、とっくにその存在に囚われていたのかもしれない。
彼女に触れている手が、燃えるように熱かった。
「先輩、もう大丈夫そうです。」
ありがとうございます。〇〇の声に真一郎ははっとした。しばらくすると、車両も安定して走行しだしていた。
「あ、あぁ。」
そう返事を返すと、彼はその腕を名残惜しそうに離した。
「ついに来た!」
銀座だぁ!子どものようにはしゃぐ〇〇を、真一郎はまるで弟妹を見ているようだ、とほほ笑みながらその様子を眺めていた。
「で、そのカフェはどこにあんの?」
「えーとですね。」
松屋通りってところらしいです。
〇〇が手書きの地図を手に告げると、んじゃこっちだな。と真一郎が迷うことなく歩き出した。
「先輩、地図見なくても道分かるんですか?」
「あぁ。バイクで走る道よく調べるから、大体分かる。」
「へ~。趣味バイクも役立つことあるんですね!」
「うるへー。」
冗談交じりに悪態をつきながら歩みを進める。
〇〇は、いたずらを込めた冗談をサラッと笑って返してくれる彼との会話がとても楽しかった。
「あ、三越がある!あれ、あの丸い建物テレビで見たことある!」
あれもこれもと指さしながら楽しそうな〇〇を横目に、ふと真一郎は思った。
(あれ、これってもしかしなくてもデートじゃね?)
今更である。
今日は埋め合わせ。真一郎はそれ以上深く考えていなかったのだが、先程電車であった出来事を思い返し、余計に意識してしまってか気恥しくなってきた。
前に女の子と二人きりで出かけたのはいつのことだったか・・・小学生の時、偶然帰り道が一緒になったクラスメイトの子と並んで帰ったあの時以来だった。しかもそれは出かけたとは言わない。
真一郎は泣いた。
「先輩ー!ありました!」
前方で元気よく歩いていた〇〇が指さした方向に、目的地が姿を現した。
淡いオレンジの外観と、それに映えるグリーンのひさしが特徴的な建物だった。
「あ~挽きたてお豆の香り、幸せ・・・」
店内に入ると、大勢の客と焙煎機の音、そしてコーヒーの香りで満たされていた。
「へー。なんていうか、近代的って感じだな。」
「注文の仕方が独特らしいんですよ。」
いらっしゃいませ。
カウンター越しに店員が挨拶をしてきた。
「こちらのメニューからお好きなドリンクを。サイズは「ショート」「トール」「グランデ」「ヴェンティ」からお選びいただけますよ。」
「は?え?グラ?何語?」
聞き慣れない単語にパニくった真一郎を見て、〇〇と店員が笑った。
「カップのサイズの名前なんですって。S、M、L、LLみたいな感じ?」
「SMLでよくね?」
「まぁまぁ。先輩、わたし頼んでみたいドリンクがあって、一緒のでもいいですか?」
そう言う〇〇に了承すると、彼女はアメリカのCEOがオープン初日に頼んだ同じものを注文したいと店員に告げた。
「かしこまりました!よくご存じでしたね。」
心なしかテンションの上がった店員が、オーダーを他の店員に告げた。
「今度からは是非「ダブルトールラテ」とご注文ください。」
その店員は、この日本1号店でのみでオーダーいただけますよ。と補足を加えた。
それは、いわゆる裏メニューというやつのようだった。
「おいしー♪」
会計を済ませドリンクを受け取ると、ちょうど空いた窓際の2階席に座ることができた。そこは、通りを見渡せる眺めのいい位置だった。
「これ、普通は注文できないやつなの?」
「メニューとしては載せてないみたいです。ラテにエスプレッソショットを追加したドリンクで、アメリカの経営責任者が一番最初の客として注文したらしくて。こずえちゃんが教えてくれたんです。」
「は~。よくそんなこと知ってんなぁ。」
「先輩、ごちそうさまです♪」
それは、ミルクとコーヒー、両方の濃さが特徴的な飲みごたえのあるドリンクだった。
真一郎は、始終上機嫌で特別なラテを口にする〇〇を、穏やかな表情で見つめていた。
カフェを後にした二人は、銀座の主要エリアを散策したのち、渋谷にある〇〇の住むマンション前まで来ていた。
「先輩、今日はありがとうございました。」
「いや、俺も噂の店に行けて楽しかったよ。ありがとな。」
そこで真一郎は、ふと今回の約束事について思い返した。
「そいやぁ、奢りは2杯って言ってなかったっけ?」
今日飲んだのは1杯だった。彼女が満足したのならそれでいいが。真一郎がそんなことを思っていると、
「また行きましょうよ一緒に。」
その時また奢ってくださいね。という思いがけなかった誘いに、真一郎は目を丸くした。
「一緒に?また?いいの?」
「いいのってなんですか。約束なんだからもう1杯奢ってもらわないと。」
当然とでも言わんばかりの彼女に、次もあるなんて想像もしてなかった真一郎の胸は高鳴った。
「じゃ、そん時はバイクで行こうぜ。」
「え゙。」
「はは!今度は超安全運転で走るよ。」
次は怖がらせないように――その時のことを想像して、真一郎は期待に胸膨らませたのだった。
Welcome to ☆
ある休日の午後。渋谷駅ハチ公銅像前。
一人の不良少年が、後頭部を掻きながら落ち着かない様子で立っていた。
(あ~40分前に着いちまうとか、遠足楽しみなガキか俺は。)
彼は今日、ひょんなことから友人になった医者を目指すヤクザの娘、神保〇〇と交わした約束を果たすべく、彼女と待ち合わせをしていた。
彼の名は、佐野真一郎。
数日前、彼は自身が率いるチームの集会に彼女を連れて行き少々失態をおかした。仲間に彼女のことを紹介したがために、彼女の怒りを買ってしまったのだ。
彼は、黒龍のメンバーには彼女に酷いことをするような奴なんていないという確信を持っていたし、なにより仲間に彼女のことを紹介したくてたまらなかった。度胸があって、自分の境遇に悲観せず夢に向かってひたむきに努力する。そんなカッコイイ女の子が自分のダチになったんだと。
すっかり自分を受け入れてくれていた彼女に、正直浮かれていたことは否定できないし、自分勝手な願望で彼女の不安を煽ってしまったことを反省していた。
そんな彼は、巷で話題沸騰中のコーヒーチェーン店、スターバックスコーヒーで埋め合わせとしてドリンクを奢れと命じられた。
1996年8月2日、銀座に初上陸したアメリカシアトル生まれのスターバックスコーヒーは、当時から人気を博していた。日本のカフェスタイルの概念を覆すおしゃれな外観やメニュー、欧風のオープンテラスが併設された店舗は大きな話題となった。
また、店内全面禁煙を採用するという当時では珍しい店舗設計で、女性客が居心地良いと感じる空間を提供した事も人気に拍車をかけた。
〇〇は、高校のクラスメイトからこのカフェチェーン店の話題を聞きつけ、前々から行きたくてたまらなかった。彼女はコーヒー愛飲家だった。
時間まで暇だなー。と絶えない人波をぼーっと眺めていた真一郎の耳に、突如聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「あの、わたし急いでるんでそこ通してください。」
この間会ったばかりだ。聞き間違うことなどあり得ない。
真一郎は、待ち合わせ相手である彼女が近くにいる、と声のしたであろう方向に視線を向けた。
「えーいーじゃんちょっとだけ。その辺でお茶しながらお話ししようよ♡」
「俺らお金いっぱい持ってるから、なんでも奢るよ?♪」
見つけた。
真一郎は〇〇の姿を捉えた。彼女の正面には、ニヤニヤと如何にも下心丸出しの男二人が彼女を囲んでいた。所謂ナンパだ。
〇〇は、勘弁してくれと言わんばかりにはぁ~と深いため息をついている。
「だーかーら、今から友達と電車に乗るんで、お兄さんたちにはついて行けませんて。」
「待ち合わせ?じゃあさ、そのお友達も誘って一緒に楽しい事しよ♪」
「人の話聞いてます?」
「ほんっと君かわいいよね。高校生でしょ?歳いくつ~?」
俺はね~、とナンパ男が一方的にしゃべる様子を無の表情で見ていた〇〇の身体がふっと後方に傾いた。首下あたりに片腕を回してきたその人物の身体にぽすっと背中が当たる。
〇〇が突然のことに驚いて振り向くと、真一郎が鬼の形相でナンパ男たちに眼を飛ばしていた。
「俺がその「お友達」だコル゙ァ。」
「先輩!?」
「どんな楽しいところに連れてってくれんのか楽しみだなァ。ァア゙?」
「「ヒィッ。スンマセンしたー!」」
そう言ってナンパ男たちは慌てふためきあっさりと去っていった。
「先輩、時間まだ30分あるのに早かったですね。」
「あぁ。早く来てよかったと思ってるよ。」
「はは、ありがとうございました。」
もういいですよ。と〇〇が身体に回されている真一郎の腕をぺしぺしと叩いた。不服そうな表情をした真一郎が腕を解くと、〇〇に問いかけた。
「おまえ、よくあーゆーヤツに声かけられんの?」
「え。いや、言うほど。東京来て3回目です。」
「はぁ!?お、ま、それでよくあの時間に一人でコンビニ行ったな!」
「ちょっとの距離ならいいかなぁーって。」
「もう俺が居ないとき夜出歩くの禁止。」
「お父さんみたいなこと言わんでください。」
おと!?
真一郎は固まった。
〇〇が、しばらくバイクは乗りたくないと言った為、二人は地下鉄に乗り銀座を目指した。
通勤ラッシュほどではないが、そこそこ乗客が乗っていて車両の中は少し窮屈。〇〇は人の多さに居心地悪さを感じていた。
「まだ東京の電車は慣れないなー。」
「広島はこんなに乗らないの?」
「んー、休日の様子しか知りませんけど、路面電車は時間帯によってこれくらい乗ってたかなぁ。」
「あ。俺知ってる。「チンチン」電車って言うんだろ?」
「・・・先輩、なんか顔ニヤついてるし。絶対言いたいだけでしょそれ。広島県人は言いませんからね。」
「え!?そーなの?」
「広島電鉄って会社が運行してるんですけど、ヒロデンって愛称の方が馴染みがあります。」
「へー。地元人のみぞ知るってやつだなぁ。」
「はは、そうか」
も。と〇〇が言いかけたところで車両が大きく揺れた。真一郎は、とっさに手すりを握り〇〇の背中に腕を回して彼女を抱き寄せた。
〇〇には、ハンカチを渡した日や先ほどナンパ男を追い払うときにも至近距離で触れたことはあったが、今ほど勢いよく力を入れて自分の身に寄せたのは初めてだった。その結果ダイレクトに伝わる彼女独特の香りが鼻腔をくすぐり、ばくん、と心臓が跳ねた。
〇〇は、突然のことに驚いている様子で、されるがまま大人しく真一郎に身を寄せている。
彼は、この時ほど彼女に対して庇護欲を搔き立てられた瞬間はなかった。いや、はっきりと自覚したのがこの瞬間だったと言った方が正しい。
彼女は友達。自分だってそう言ったのだから。だけど本当は、彼女がその背に隠す重荷を見た時から、とっくにその存在に囚われていたのかもしれない。
彼女に触れている手が、燃えるように熱かった。
「先輩、もう大丈夫そうです。」
ありがとうございます。〇〇の声に真一郎ははっとした。しばらくすると、車両も安定して走行しだしていた。
「あ、あぁ。」
そう返事を返すと、彼はその腕を名残惜しそうに離した。
「ついに来た!」
銀座だぁ!子どものようにはしゃぐ〇〇を、真一郎はまるで弟妹を見ているようだ、とほほ笑みながらその様子を眺めていた。
「で、そのカフェはどこにあんの?」
「えーとですね。」
松屋通りってところらしいです。
〇〇が手書きの地図を手に告げると、んじゃこっちだな。と真一郎が迷うことなく歩き出した。
「先輩、地図見なくても道分かるんですか?」
「あぁ。バイクで走る道よく調べるから、大体分かる。」
「へ~。趣味バイクも役立つことあるんですね!」
「うるへー。」
冗談交じりに悪態をつきながら歩みを進める。
〇〇は、いたずらを込めた冗談をサラッと笑って返してくれる彼との会話がとても楽しかった。
「あ、三越がある!あれ、あの丸い建物テレビで見たことある!」
あれもこれもと指さしながら楽しそうな〇〇を横目に、ふと真一郎は思った。
(あれ、これってもしかしなくてもデートじゃね?)
今更である。
今日は埋め合わせ。真一郎はそれ以上深く考えていなかったのだが、先程電車であった出来事を思い返し、余計に意識してしまってか気恥しくなってきた。
前に女の子と二人きりで出かけたのはいつのことだったか・・・小学生の時、偶然帰り道が一緒になったクラスメイトの子と並んで帰ったあの時以来だった。しかもそれは出かけたとは言わない。
真一郎は泣いた。
「先輩ー!ありました!」
前方で元気よく歩いていた〇〇が指さした方向に、目的地が姿を現した。
淡いオレンジの外観と、それに映えるグリーンのひさしが特徴的な建物だった。
「あ~挽きたてお豆の香り、幸せ・・・」
店内に入ると、大勢の客と焙煎機の音、そしてコーヒーの香りで満たされていた。
「へー。なんていうか、近代的って感じだな。」
「注文の仕方が独特らしいんですよ。」
いらっしゃいませ。
カウンター越しに店員が挨拶をしてきた。
「こちらのメニューからお好きなドリンクを。サイズは「ショート」「トール」「グランデ」「ヴェンティ」からお選びいただけますよ。」
「は?え?グラ?何語?」
聞き慣れない単語にパニくった真一郎を見て、〇〇と店員が笑った。
「カップのサイズの名前なんですって。S、M、L、LLみたいな感じ?」
「SMLでよくね?」
「まぁまぁ。先輩、わたし頼んでみたいドリンクがあって、一緒のでもいいですか?」
そう言う〇〇に了承すると、彼女はアメリカのCEOがオープン初日に頼んだ同じものを注文したいと店員に告げた。
「かしこまりました!よくご存じでしたね。」
心なしかテンションの上がった店員が、オーダーを他の店員に告げた。
「今度からは是非「ダブルトールラテ」とご注文ください。」
その店員は、この日本1号店でのみでオーダーいただけますよ。と補足を加えた。
それは、いわゆる裏メニューというやつのようだった。
「おいしー♪」
会計を済ませドリンクを受け取ると、ちょうど空いた窓際の2階席に座ることができた。そこは、通りを見渡せる眺めのいい位置だった。
「これ、普通は注文できないやつなの?」
「メニューとしては載せてないみたいです。ラテにエスプレッソショットを追加したドリンクで、アメリカの経営責任者が一番最初の客として注文したらしくて。こずえちゃんが教えてくれたんです。」
「は~。よくそんなこと知ってんなぁ。」
「先輩、ごちそうさまです♪」
それは、ミルクとコーヒー、両方の濃さが特徴的な飲みごたえのあるドリンクだった。
真一郎は、始終上機嫌で特別なラテを口にする〇〇を、穏やかな表情で見つめていた。
カフェを後にした二人は、銀座の主要エリアを散策したのち、渋谷にある〇〇の住むマンション前まで来ていた。
「先輩、今日はありがとうございました。」
「いや、俺も噂の店に行けて楽しかったよ。ありがとな。」
そこで真一郎は、ふと今回の約束事について思い返した。
「そいやぁ、奢りは2杯って言ってなかったっけ?」
今日飲んだのは1杯だった。彼女が満足したのならそれでいいが。真一郎がそんなことを思っていると、
「また行きましょうよ一緒に。」
その時また奢ってくださいね。という思いがけなかった誘いに、真一郎は目を丸くした。
「一緒に?また?いいの?」
「いいのってなんですか。約束なんだからもう1杯奢ってもらわないと。」
当然とでも言わんばかりの彼女に、次もあるなんて想像もしてなかった真一郎の胸は高鳴った。
「じゃ、そん時はバイクで行こうぜ。」
「え゙。」
「はは!今度は超安全運転で走るよ。」
次は怖がらせないように――その時のことを想像して、真一郎は期待に胸膨らませたのだった。
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