名前変換のみです(苗字はそのままデフォルトです。申し訳。)
本編(完結)
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
5.Your birthday
夏休みに入った7月下旬。
神保組東京支部の事務所へ顔を出した帰り道、〇〇は真夏の日差しを容赦なく浴びながら渋谷の街を歩いていた。
日本の都市風景を象徴するこのスクランブル交差点では、相も変わらず人々が歩みを進める姿が途切れることなく続いている。
(あち~よ~人がいっぱいいるよ~。東京ってどんだけ人住んどん?)
こんな炎天下の中、よくもまぁこんだけウロウロできるものだ。
〇〇は東京の不思議に困惑していた。
「〇〇。」
茹だりながら歩いていると、突然後方から声をかけられた。
これほど人が入り乱れるところで呼び留められるとは想像もしていなかった〇〇が驚きながら振り向くと、そこには数日前に出会ったばかりの黒龍副総長 明司武臣がいた。
「あ、明司さん。」
こんにちは。
挨拶をすると、おう。と短い返答が返ってきた。
よく見ると、彼の後ろにはあと二人連れがいるようだった。
「あ。この子こないだ集会に来てた子。」
「そういやぁ、コール鳴らして盛り上がってたな。」
ふわっとした髪の少年が、〇〇を見て思い出したように口を開いたかと思うと、隣のガタイのいい強面な少年も、あの場にいたらしいことを口にした。
「その節は、どうも大変お世話になりました・・・」
二人も黒龍のメンバーだと分かると、途端に気まずくなった〇〇は、あの時のことはできれば忘れていただきたい何卒。と全力で願った。
彼らは、特攻隊長の今牛若狭と親衛隊長の荒師慶三。真一郎を合わせたこの4人は、黒龍結成前からの付き合いだと言った。
冷静に考えて、大集団の幹部クラスがこの場に3人も揃っていると思ったら、こんな人たちと普通に会話しているのが妙に現実離れしていて、〇〇は恐ろしい気分になった。
しかも傍から見たら、絶対ヤンキーに絡まれているかわいそうな女子高生である。
「皆さん揃ってお買い物ですか?」
「あぁ。来月、真の誕生日だから。」
欲しがってたバイクのカスタムパーツ調達にな。
明司から告げられた思わぬ情報に、〇〇は目を見開いた。
「え?真一郎先輩、誕生日8月なんですか?」
あぁ。8月1日。明司が日付も付け加えた。
(ということは・・・3日後ではないか!)
そこそこ迫っている友人の誕生日に〇〇は驚愕した。
よく考えれば、二人は友人だと公言しておきながらお互いの誕生日すら教え合っていなかった。
なんだかんだと、真一郎とはたまに学校ですれ違うくらい。先日一緒に銀座へ行ったものの、それ以外ゆっくり話す時間をあえてつくることもあまりなかった。と今更ながら〇〇は振り返った。
「ふっ。知らなかったみたいだな。」
なんだかよく分からないが、〇〇は言いようのない悔しさを感じていた。明司の、軽く笑い余裕を見せるその顔が更にその感情を煽ってくる。
「明司さん、顔が意地悪です。」
ははっと笑った明司を、〇〇はジトッと横目で見た。
「お前からも祝ってやれ。あいつ喜ぶぞ。」
「いっぱいお世話になってるからな、なんかしたいけど・・・」
〇〇はあれから明司たちと別れ、自宅へ帰って真一郎の誕生日について考えていた。
3日後とは、言うて余裕はない準備期間。明司たちのように好きなバイクの部品を差し上げるなんてハイレベルな贈り物を準備できるはずもない。むしろバイクのことはよく知らないから無理である。
なんかいい方法はないものか―――
なかなかいいアイデアが出てこない〇〇は、東京に来るとき契約したPHS(ピッチ)を手に取った。
先日、黒龍の集会へ行った際、真一郎の電話番号を登録していた。4月に出会ったにもかかわらず、そんなこともこの間行ったばかりだった。
彼は、もし夜出歩くことがあったら自分を呼べ。と言っていた。
ちなみに当時、このPHSとポケットベル、通称ポケベルの二台持ちが女子高生の間では主流となっていた。今まではポケベルにメッセージを送るために、彼女たちは公衆電話などを使っていたが、PHSが普及したことにより手元でポケベルへメッセージを飛ばすことが出来たからだ。なお、〇〇が高校に入学した年あたりから、今でいうショートメッセージ機能サービスが開始されるようになり、後にメール機能の搭載、携帯電話の需要が加速していくことにより、ポケベル、さらにPHSは衰退の一途を辿ることになる。
以上余談。
(先輩に直接欲しいもの聞く・・・?)
夏休み期間中の為、学校で聞くことはできない。
一度テストで通話したものの、それ以来この端末で連絡を取ったことはなかった。
(・・・いやでも聞いて、バイクのパーツって言われたらもう詰みじゃん。というか明司さんたちがもう準備してるじゃん。)
PHSとにらめっこしていた〇〇が、やっぱりやめようと思ったその時、
PiPiPiPiPi!
「ぅおっっ!?」
柴田くらいしかかけてこないPHSが元気よく鳴った。
いつもかけてくる時間じゃないのにな。
〇〇がそう思ってディスプレイを見ると、「シンイチロー」と名前が表示されていた。
(先輩!?)
先ほどまで連絡しようかと思っていた人物に、どきりと心臓が跳ねた。
「は、はい。」
『悪い遅い時間に。起きてた?』
応答すると、数日ぶりに聞く真一郎の元気な声が聞こえてきた。
いつもと変わらない様子に、〇〇は少しほっとした。
「はい、起きてます。」
何かご用でしたか?そう訊ねると、真一郎がちょっと渋るように告げた。
『あぁいや、今日武臣からおまえに会ったって聞いて・・・でまぁ、元気してっかなー?と思って。』
特に緊急な事でもなく、何か伝えたいわけでもなく、何でもないことだけどこうやって連絡を取り合うのって、
(あ、友達っぽい・・・。)
そう思ったら、〇〇はなんだかむず痒くなった。
「ふふっ。そうなんです、神保の事務所に寄った帰りに偶然会って。」
わたしは元気です。そう答えると、そっか。と安心したような口調で真一郎が返事を返した。
「先輩、3日後誕生日なんですよね。わたしもお祝いしたいです。」
何かリクエストありますか?バイク関連以外で。
〇〇は、この際聞いてしまえと思って問いかけた。そういえば、家族以外の誕生日を祝うのは初めてのことかもしれない。彼はなんと答えるだろうか。〇〇は、少しドキドキしながら返事を待った。
『え!?なんで誕生日知ってんの?』
あ、あいつらか。
と心当たりの人物が浮かんだようである。
『ってもなぁ~。バイク以外でだろ?』
あ~~~。とかなり悩んでいる真一郎の唸り声が続いている。
突然、欲しいものはあるか?と聞かれると、まぁおおよそこういう反応になるものだ。
〇〇は、意を決して真一郎に告げた。
「じゃあ、サプライズにします。」
そうして、8月1日に再び佐野家へ伺う約束を取り付けた。
翌日、〇〇は佐野家へ突撃訪問していた。
真一郎が不在の日時を狙って、万作、万次郎、エマにあるお願い事をするために。
佐野家の広い庭に植わっている木の上では、あと僅かな命を謳歌するがごとくセミたちが元気に泣いている。
「すみません。突然お邪魔して。」
構わんよ。
と祖父の万作がお茶を出してくれた。
「〇〇、シンイチローはバイク走らせに行ってるぞ。」
万次郎が兄の不在を告げる。
それを承知で来ておりますはい。と、〇〇は彼の気遣いに微笑んだ。
「実は、8月1日、昼間に台所をお借りしたくて。」
「台所を?」
「8月1日って、真兄の誕生日だよ?」
突然の話で何のことかさっぱりな万作が、何のために使うのかという意を込めて訊ねたところに、〇〇の隣に座っているエマが、はっと気づいたように兄の誕生日であると告げた。彼女のおかげで、〇〇の訪問理由がほぼほぼ明らかになったようだ。
「真一郎さんの誕生日に、わたしからもお祝いをしたくて。誕生日祝いの料理を作らせていただけないかと。」
ほぅ。と疑問が解決したところで、万作が納得したような表情を見せた。
「えー!〇〇ちゃんのごはん食べれるの?」
「〇〇、ちゃんと食えるもん作れんの?」
ひとり歓喜、ひとり疑いの眼差しを向けられる。
(このクソガキ。)
〇〇は時々、家族の影響で口が悪くなる癖がある。
「ワシは構わんよ。好きに使うといい。」
「ありがとうございます!」
(これで第一関門クリアだ。)
〇〇はほっと胸をなでおろした。
ここからが本番である。〇〇は、きっと二人も大好きなお兄ちゃんに何かしたいと思っているに違いないと考え、一緒に作ろうと誘ってみることにした。
「あと、万次郎とエマちゃんにもお手伝いをお願いしたいな。」
「手伝うー!」
「えーめんどくせー。」
(そう言うと思いましたとも。)
万次郎があまりノリ気でない返事を返したその様子を、〇〇は微笑ましく見ていた。彼は、ああ言いながらもきっと手伝ってくれるはずだ。と確信をもっていた。
先日エマから、「マイキー」というあだ名の由来を聞いていたから。
(とてもやさしい子・・・)
万次郎の将来が楽しみな〇〇だった。
「じゃあ、お兄ちゃんの好物教えて?」
本人の好きなものを作るのがベストだ。
弟妹からの情報収集で献立てはさくっと決まるだろう。
と〇〇は思っていたのだが―――
「ハンバーグ?」
「オムライス?」
「エビフライ?」
「たこさんウインナー?」
「・・・・・・お子様ランチかな?」
二人は顔を見合わせて、すべて疑問形で答えていく。
というか、それは君たちの好物なのでは?
たこさんウインナーが真一郎の周りを踊っている画を想像して、〇〇は思わず吹き出しそうになった。
「シンイチローの好物ってなんだ?」
「真兄はなんでもおいしいって食べてるからよくわかんない。」
これは想定外の第二関門で躓くパターンか。〇〇の計画がここに来て難航していた。
「あ。あいつコーラは好きだぞ。」
(コーーーラかよ。)
確かに二人でファミレスに行った時、コーラ頼んでたな。
と〇〇は初めて会ったあの日のことを思い出した。
「じゃあ、コーラに合う料理、とか?」
ピザか。神保の実家でも宅配ピザを頼むときには必ずコーラを付けていた。
だが、佐野家にはピザを作れるようなオーブンはなさそうだし、トースターでも焼けなくはないんだろうが、小さな家電では効率が悪い。
他にコーラに合う料理って何だ?
〇〇は、ここまで全力でコーラのことを考えたことがなく、もうこの時点でしばらくコーラを見たくなくなってきていた。一応弁解しておくが、決してコーラに罪はない。
「うーん。」
「じゃあさ、ハンバーグにコーラぶっかけるってのはどうだ?」
面白そうじゃね?
してやったり顔の万次郎が、生み出してはいけないものを生み出そうとしていた。
(絶対ふざけて言ってるだろ。)
「なにそれー!ぜったいおいしくなーい!」
エマの味覚は正常のようで、ひとまず〇〇は安堵した。
「さすがにハンバーグにコーラ入れたら地獄絵図で・・・」
〇〇はふと、コーラで豚の角煮ができるという話を思い出した。
炭酸と甘味を含むコーラに醤油を足すだけでおいしく作れるらしい。
熱を加えることでコーラの風味が飛ぶのだとしたら、意外といけるのかも。と考えた。
「万次郎、エマちゃん。やってみよう、ハンバーグにコーラ。」
「「ええ!?」」
〇〇は自宅に戻り、電話をかけた。
『どうした?』
電話の相手は明司だった。〇〇は昨日、真一郎のことでなにか聞きたいことが出てくるかも、と思い渋谷で会った時に番号を聞いていた。
「明司さん、真一郎先輩の誕生日のことでお願いがあって。」
『あ?』
〇〇は、誕生日当日、夕方まで真一郎を連れ出しておいてほしいとお願いした。
どうやら、バイクのパーツは自宅へ直送するよう手配したらしく、真一郎は一日家で過ごす予定らしい。
「お願いします!サプライズって言ってしまったので何とか直前まで秘密にできないかと思いまして。」
『はは、お前も随分あいつに対して熱心だな。』
明司にそう言われて、〇〇はなんだか照れ臭くなった。
だけどそれは、
「わたしも、黒龍の皆さんと同じですよ。」
〇〇がそう言うと、明司は嬉しそうに『そうかよ。』と返事を返した。
夏休みに入った7月下旬。
神保組東京支部の事務所へ顔を出した帰り道、〇〇は真夏の日差しを容赦なく浴びながら渋谷の街を歩いていた。
日本の都市風景を象徴するこのスクランブル交差点では、相も変わらず人々が歩みを進める姿が途切れることなく続いている。
(あち~よ~人がいっぱいいるよ~。東京ってどんだけ人住んどん?)
こんな炎天下の中、よくもまぁこんだけウロウロできるものだ。
〇〇は東京の不思議に困惑していた。
「〇〇。」
茹だりながら歩いていると、突然後方から声をかけられた。
これほど人が入り乱れるところで呼び留められるとは想像もしていなかった〇〇が驚きながら振り向くと、そこには数日前に出会ったばかりの黒龍副総長 明司武臣がいた。
「あ、明司さん。」
こんにちは。
挨拶をすると、おう。と短い返答が返ってきた。
よく見ると、彼の後ろにはあと二人連れがいるようだった。
「あ。この子こないだ集会に来てた子。」
「そういやぁ、コール鳴らして盛り上がってたな。」
ふわっとした髪の少年が、〇〇を見て思い出したように口を開いたかと思うと、隣のガタイのいい強面な少年も、あの場にいたらしいことを口にした。
「その節は、どうも大変お世話になりました・・・」
二人も黒龍のメンバーだと分かると、途端に気まずくなった〇〇は、あの時のことはできれば忘れていただきたい何卒。と全力で願った。
彼らは、特攻隊長の今牛若狭と親衛隊長の荒師慶三。真一郎を合わせたこの4人は、黒龍結成前からの付き合いだと言った。
冷静に考えて、大集団の幹部クラスがこの場に3人も揃っていると思ったら、こんな人たちと普通に会話しているのが妙に現実離れしていて、〇〇は恐ろしい気分になった。
しかも傍から見たら、絶対ヤンキーに絡まれているかわいそうな女子高生である。
「皆さん揃ってお買い物ですか?」
「あぁ。来月、真の誕生日だから。」
欲しがってたバイクのカスタムパーツ調達にな。
明司から告げられた思わぬ情報に、〇〇は目を見開いた。
「え?真一郎先輩、誕生日8月なんですか?」
あぁ。8月1日。明司が日付も付け加えた。
(ということは・・・3日後ではないか!)
そこそこ迫っている友人の誕生日に〇〇は驚愕した。
よく考えれば、二人は友人だと公言しておきながらお互いの誕生日すら教え合っていなかった。
なんだかんだと、真一郎とはたまに学校ですれ違うくらい。先日一緒に銀座へ行ったものの、それ以外ゆっくり話す時間をあえてつくることもあまりなかった。と今更ながら〇〇は振り返った。
「ふっ。知らなかったみたいだな。」
なんだかよく分からないが、〇〇は言いようのない悔しさを感じていた。明司の、軽く笑い余裕を見せるその顔が更にその感情を煽ってくる。
「明司さん、顔が意地悪です。」
ははっと笑った明司を、〇〇はジトッと横目で見た。
「お前からも祝ってやれ。あいつ喜ぶぞ。」
「いっぱいお世話になってるからな、なんかしたいけど・・・」
〇〇はあれから明司たちと別れ、自宅へ帰って真一郎の誕生日について考えていた。
3日後とは、言うて余裕はない準備期間。明司たちのように好きなバイクの部品を差し上げるなんてハイレベルな贈り物を準備できるはずもない。むしろバイクのことはよく知らないから無理である。
なんかいい方法はないものか―――
なかなかいいアイデアが出てこない〇〇は、東京に来るとき契約したPHS(ピッチ)を手に取った。
先日、黒龍の集会へ行った際、真一郎の電話番号を登録していた。4月に出会ったにもかかわらず、そんなこともこの間行ったばかりだった。
彼は、もし夜出歩くことがあったら自分を呼べ。と言っていた。
ちなみに当時、このPHSとポケットベル、通称ポケベルの二台持ちが女子高生の間では主流となっていた。今まではポケベルにメッセージを送るために、彼女たちは公衆電話などを使っていたが、PHSが普及したことにより手元でポケベルへメッセージを飛ばすことが出来たからだ。なお、〇〇が高校に入学した年あたりから、今でいうショートメッセージ機能サービスが開始されるようになり、後にメール機能の搭載、携帯電話の需要が加速していくことにより、ポケベル、さらにPHSは衰退の一途を辿ることになる。
以上余談。
(先輩に直接欲しいもの聞く・・・?)
夏休み期間中の為、学校で聞くことはできない。
一度テストで通話したものの、それ以来この端末で連絡を取ったことはなかった。
(・・・いやでも聞いて、バイクのパーツって言われたらもう詰みじゃん。というか明司さんたちがもう準備してるじゃん。)
PHSとにらめっこしていた〇〇が、やっぱりやめようと思ったその時、
PiPiPiPiPi!
「ぅおっっ!?」
柴田くらいしかかけてこないPHSが元気よく鳴った。
いつもかけてくる時間じゃないのにな。
〇〇がそう思ってディスプレイを見ると、「シンイチロー」と名前が表示されていた。
(先輩!?)
先ほどまで連絡しようかと思っていた人物に、どきりと心臓が跳ねた。
「は、はい。」
『悪い遅い時間に。起きてた?』
応答すると、数日ぶりに聞く真一郎の元気な声が聞こえてきた。
いつもと変わらない様子に、〇〇は少しほっとした。
「はい、起きてます。」
何かご用でしたか?そう訊ねると、真一郎がちょっと渋るように告げた。
『あぁいや、今日武臣からおまえに会ったって聞いて・・・でまぁ、元気してっかなー?と思って。』
特に緊急な事でもなく、何か伝えたいわけでもなく、何でもないことだけどこうやって連絡を取り合うのって、
(あ、友達っぽい・・・。)
そう思ったら、〇〇はなんだかむず痒くなった。
「ふふっ。そうなんです、神保の事務所に寄った帰りに偶然会って。」
わたしは元気です。そう答えると、そっか。と安心したような口調で真一郎が返事を返した。
「先輩、3日後誕生日なんですよね。わたしもお祝いしたいです。」
何かリクエストありますか?バイク関連以外で。
〇〇は、この際聞いてしまえと思って問いかけた。そういえば、家族以外の誕生日を祝うのは初めてのことかもしれない。彼はなんと答えるだろうか。〇〇は、少しドキドキしながら返事を待った。
『え!?なんで誕生日知ってんの?』
あ、あいつらか。
と心当たりの人物が浮かんだようである。
『ってもなぁ~。バイク以外でだろ?』
あ~~~。とかなり悩んでいる真一郎の唸り声が続いている。
突然、欲しいものはあるか?と聞かれると、まぁおおよそこういう反応になるものだ。
〇〇は、意を決して真一郎に告げた。
「じゃあ、サプライズにします。」
そうして、8月1日に再び佐野家へ伺う約束を取り付けた。
翌日、〇〇は佐野家へ突撃訪問していた。
真一郎が不在の日時を狙って、万作、万次郎、エマにあるお願い事をするために。
佐野家の広い庭に植わっている木の上では、あと僅かな命を謳歌するがごとくセミたちが元気に泣いている。
「すみません。突然お邪魔して。」
構わんよ。
と祖父の万作がお茶を出してくれた。
「〇〇、シンイチローはバイク走らせに行ってるぞ。」
万次郎が兄の不在を告げる。
それを承知で来ておりますはい。と、〇〇は彼の気遣いに微笑んだ。
「実は、8月1日、昼間に台所をお借りしたくて。」
「台所を?」
「8月1日って、真兄の誕生日だよ?」
突然の話で何のことかさっぱりな万作が、何のために使うのかという意を込めて訊ねたところに、〇〇の隣に座っているエマが、はっと気づいたように兄の誕生日であると告げた。彼女のおかげで、〇〇の訪問理由がほぼほぼ明らかになったようだ。
「真一郎さんの誕生日に、わたしからもお祝いをしたくて。誕生日祝いの料理を作らせていただけないかと。」
ほぅ。と疑問が解決したところで、万作が納得したような表情を見せた。
「えー!〇〇ちゃんのごはん食べれるの?」
「〇〇、ちゃんと食えるもん作れんの?」
ひとり歓喜、ひとり疑いの眼差しを向けられる。
(このクソガキ。)
〇〇は時々、家族の影響で口が悪くなる癖がある。
「ワシは構わんよ。好きに使うといい。」
「ありがとうございます!」
(これで第一関門クリアだ。)
〇〇はほっと胸をなでおろした。
ここからが本番である。〇〇は、きっと二人も大好きなお兄ちゃんに何かしたいと思っているに違いないと考え、一緒に作ろうと誘ってみることにした。
「あと、万次郎とエマちゃんにもお手伝いをお願いしたいな。」
「手伝うー!」
「えーめんどくせー。」
(そう言うと思いましたとも。)
万次郎があまりノリ気でない返事を返したその様子を、〇〇は微笑ましく見ていた。彼は、ああ言いながらもきっと手伝ってくれるはずだ。と確信をもっていた。
先日エマから、「マイキー」というあだ名の由来を聞いていたから。
(とてもやさしい子・・・)
万次郎の将来が楽しみな〇〇だった。
「じゃあ、お兄ちゃんの好物教えて?」
本人の好きなものを作るのがベストだ。
弟妹からの情報収集で献立てはさくっと決まるだろう。
と〇〇は思っていたのだが―――
「ハンバーグ?」
「オムライス?」
「エビフライ?」
「たこさんウインナー?」
「・・・・・・お子様ランチかな?」
二人は顔を見合わせて、すべて疑問形で答えていく。
というか、それは君たちの好物なのでは?
たこさんウインナーが真一郎の周りを踊っている画を想像して、〇〇は思わず吹き出しそうになった。
「シンイチローの好物ってなんだ?」
「真兄はなんでもおいしいって食べてるからよくわかんない。」
これは想定外の第二関門で躓くパターンか。〇〇の計画がここに来て難航していた。
「あ。あいつコーラは好きだぞ。」
(コーーーラかよ。)
確かに二人でファミレスに行った時、コーラ頼んでたな。
と〇〇は初めて会ったあの日のことを思い出した。
「じゃあ、コーラに合う料理、とか?」
ピザか。神保の実家でも宅配ピザを頼むときには必ずコーラを付けていた。
だが、佐野家にはピザを作れるようなオーブンはなさそうだし、トースターでも焼けなくはないんだろうが、小さな家電では効率が悪い。
他にコーラに合う料理って何だ?
〇〇は、ここまで全力でコーラのことを考えたことがなく、もうこの時点でしばらくコーラを見たくなくなってきていた。一応弁解しておくが、決してコーラに罪はない。
「うーん。」
「じゃあさ、ハンバーグにコーラぶっかけるってのはどうだ?」
面白そうじゃね?
してやったり顔の万次郎が、生み出してはいけないものを生み出そうとしていた。
(絶対ふざけて言ってるだろ。)
「なにそれー!ぜったいおいしくなーい!」
エマの味覚は正常のようで、ひとまず〇〇は安堵した。
「さすがにハンバーグにコーラ入れたら地獄絵図で・・・」
〇〇はふと、コーラで豚の角煮ができるという話を思い出した。
炭酸と甘味を含むコーラに醤油を足すだけでおいしく作れるらしい。
熱を加えることでコーラの風味が飛ぶのだとしたら、意外といけるのかも。と考えた。
「万次郎、エマちゃん。やってみよう、ハンバーグにコーラ。」
「「ええ!?」」
〇〇は自宅に戻り、電話をかけた。
『どうした?』
電話の相手は明司だった。〇〇は昨日、真一郎のことでなにか聞きたいことが出てくるかも、と思い渋谷で会った時に番号を聞いていた。
「明司さん、真一郎先輩の誕生日のことでお願いがあって。」
『あ?』
〇〇は、誕生日当日、夕方まで真一郎を連れ出しておいてほしいとお願いした。
どうやら、バイクのパーツは自宅へ直送するよう手配したらしく、真一郎は一日家で過ごす予定らしい。
「お願いします!サプライズって言ってしまったので何とか直前まで秘密にできないかと思いまして。」
『はは、お前も随分あいつに対して熱心だな。』
明司にそう言われて、〇〇はなんだか照れ臭くなった。
だけどそれは、
「わたしも、黒龍の皆さんと同じですよ。」
〇〇がそう言うと、明司は嬉しそうに『そうかよ。』と返事を返した。
