王女だから、イケメンを拾いました。
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その方が楽かな〜と思って!!
デフォ名は〇〇です!
読後は感想貰えると嬉しいです!マシュマロ↓
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ヘタリアーノ王国の王と、その正室の愛娘として産まれてしまった私は、男が産まれてこなかったにも関わらず、「まぁ女の王様でも行けるよね♪」と能天気で過保護な両親の元、次期王として親の期待を一身に受けて、模倣的に生きることを教えられ育った。
そして私は、端的に言うと、若干病んでいた。日中は事務作業が忙しすぎて、人生に悩むにしても夜の時間しかない。目の下の隈は、日に日に濃くなっていった。
そんな日々が続いたある日のこと。私は他国の記念式典に出席しなければならず、馬車の中で外を眺めながら揺られていた。
(あ゛ー、行きたくない……)
窓から見える街の人々は、皆、私より貧しいだろうことには違いないが、それでも、私より遥かに幸せそうな笑顔を見せている。……どんなにそれが羨ましくても、立場上、嫌なことからは逃げられないし、私はあの城から出ることはできないのだ。遠ざかっていく自分の城をぼんやりと見つめて、私は「ふぅ」と息をついた。
(何か気分転換になるもの無いかな
……ああ、イケメンが見たい)
私はイケメン好きだった。
すると港の近くで、靴底を擦り減らし、片手にトマトを持った茶髪のイケメンが、俯いたまま立っていたのである。
「セバス、停めて」
「? どうなさいましたか?」
私は馬車から降りて、そのイケメンに後ろから近づいた。
「何をしてるの?」
「なっっ……なんだよお前このやろー…!」
後ろから覗き込むと、イケメンは動揺してビクリと体を震わせた。『お前』も『この野郎』も初めて言われた。小さな興奮を覚えながら、語気を強めて、もう一度尋ねる。
「何を、してるの?」
「……やなことあったからトマト食うんだよ、なんだよ、藪から棒……に……」
振り返りながら、彼の言葉尻が萎んでいく。
「ヒィィィッ、な、なんですかコノヤロー!?!?」
私の服装を見て、彼が勢いよく飛び上がった。
「何それ、ここには、嫌なことがあった時はトマトを食べる風習でもあるの?」
「いや、その……め、飯が美味けりゃ、元気になるんですちくしょー……」
「……ふーん…?」
極度に怯えながら彼が答える。あまりピンと来ない。悩んでる時って、美味しいものも美味しくなくなるけどな。少なくとも私はそう。
「美味い飯ね〜……」
最近は、忙しすぎて軽食のようなものしか食べていない。何もつけていないパン。あと昼食がコーヒー1杯だけとか。ご飯で元気になれるかもってのは、盲点だったな。
「ねえ、料理って得意?」
「とっ、得意ですこのやろー…? ちぎ…?」
「じゃあ、来て」
「ハ、ハアァッ!?!?!?!?」
彼の腕を引っ張って、馬車に乗せようとする。入り口の縁を掴んで、彼は必死に抵抗した。
「クッ……おいっっ……離せよっ! 離してくださいチクショーッ……!!」
「いいから乗ってよっ……!」
「ちぎぃぃぃっ……!!」
ふぅ、と一息。
「思ったより強情だな……」
「お前がおかしいんだよコノヤロー!!」
無理に乗せようともう一度後ろから押し込むと、彼がぐぬぬと腕に力を入れる。
「はぁ……私のご飯、作ってもらいたいのに……」
「は、ハァ!?!?」
少し拗ねたように言うと、イケメンがまた叫びながら振り返る。
「どーせ、たらふくうめーもん食って生活してんだろ! なんで俺を巻き込むんだよ……!!」
「美味しいものついでにイケメンと住みたいの!!お願い入って!!」
「な、何言ってんだお前!!?」
チギーーッと叫んで、なかなか入ってくれない。ため息をつきながら、融通の利かないイケメンに話しかける。
「はぁ…じゃあ何? 何があれば来てくれるの」
「なんでお前の方が『しかたねえな〜』って感じの顔してんだよ!!」
暫く悩むような顔をしてから、イケメンが私の顔をチラッと見る。目が合った瞬間、彼の顔が赤くなって、バッと顔を背けられた。
「さ、3食パスタと昼寝付き……//」
「この部屋使ってね」
「ハァ……」
イケメンが部屋中央のシャンデリア見上げて、間抜けな声をだした。良い反応。
「あ、テレビとかもいる? 手配しよっか」
「お、おい……なんでずっと住む流れなんだよ」
「え? だって、3食パスタと昼寝できる環境があれば、来てくれるんでしょ?」
「もう意味わかんねーよちぎぃい…泣」
「一番いいベッドにしたからふかふかだよ〜?」
ふかふかベッドに手を当てて沈めたのを見て、イケメンが目を逸らした。
「さっさと終わらせて、俺は帰る」と言い放ち、彼は擦れた靴のまま扉を開けて、部屋の外に出て行ってしまう。
……と思ったら帰ってきた。
「……帰り方わかんねえ」
ジト目で私を睨みつける。
「じゃあ、困ったことあったら遠慮なく言って」
午後の予定もあるので、彼を置いて部屋から出る。あー……それにしても……
(顔がいい…………)
睡眠不足で働かない頭のまま、また私はフラフラと歩きながら、午後に向かうパーティーの日程を確認したのだった。
「俺、ここに住む」
へとへとで私が帰ってくると、彼はクッションを抱きしめチュロスを食べながら、テレビを見ていた。
「……私が言うのもなんだけど、適応早いね」
「あ? なんだよ、文句あんのか」
「いや……ないけどね」
テレビを見たまま、彼は振り返らない。
「はい、これお土産」
「ん? なんだこれ」
パーティーの帰りに買っておいた花束を手渡すと、ようやく少しこちらに体を向け、花束に目を向けた。バラとか、デイジーを混ぜ込んだ、明るい色合いの花束。
「……ふーん、口説いてんのかよ」
「うん、ずっとここにいてほしくて」
そわそわしながら伝えると、適当にテレビを見ながら、彼は空返事をした。
「ま、ここなんでもあるしいいぞー」
「ロマ〜……ただいま……」
「おー」
ロマが来て暫く経った。私が激務に疲れ果てて帰ってくるのに、彼…ロマーノは冷たい。ロマはソファに寝転がりながら、テレビを見てポテチを食べている。私はその横に座って、ソファにもたれた。
「ねえつかれた……」
「ん、そーかそーか」
手のポテチの付いてない所で、適当に頭をぽんぽんされる。
「ふふ、わー……」
適当でも、他にそんなことしてくれる人いないし。普段、堅苦しい身分を背負ってる身からすれば、むしろこの雑さが好きなまである。
「ねー、お前は世界一偉いって言って」
「オマエはセカイイチエライ」
「わーい」
「って、お前単純だな……」
呆れたようにロマが振り返った。
「あー好き〜……」
「そーかよ」
疲れ切ったまま、声を絞りだすようにして言うと、また適当な返事をされる。
「今日飯食ったのか?」
「……食欲なくて」
「また朝にコーヒーしか飲んでねえの?」
「うー……」
唸り声をあげたままぐったりとソファにもたれる。すると、ため息をついて、ロマが立ち上がる。
「待ってろ」
ロマが面倒くさそうに部屋の外に出た。
「ん、これ」
「なにこれ……?」
帰ってきたロマの手には、容器に詰められた美味しそうな何かがあった。
「ラザニア。俺が作った。食い残しだけど、食っていいぞ」
「いいの!?」
温め直して来てくれたのか、皿の上には湯気が立ち上っている。
「いただきます……」
ソファに座って、テレビを見るロマの横で食べ始める。食べていると、自然と涙が出てきた。
「美味しい……」
「うおっ…!? あのなぁ……そんなんで泣くなっつーの。前にも言っただろ」
「えーん、美味しいよロマ〜」
「ま、それは当然だけどな……」
ロマが眉を顰めて、少し乱暴に私の涙を拭った。自信家な所も好きだ……と思いながら、疲れに染みるミートソースの味を噛み締める。
「……ハァ」
ロマが大きく溜息をつく。そして、ラザニアを食べる私の頭を、ぽんぽんと優しく撫でた。
「ただいま!!」
勢いよく扉を開けると、ベッドで寝ていたロマがビクッと震える。
「ん……ノックぐらいしろバカヤロー」
「あ、ごめん……」
「……どーした」
ロマがベッドで肘をついて寝転がった。私は見渡し、また部屋が汚くなりだしてることに気がついた。
「……ふぁ」
私の顔を見たと思ったら、大きなあくびをする。
「……なんでもない」
一瞬めんどくせえな、と顔に書いてあった。
「なんだよ、なんかあったんだろ?」
「……」
私は、少しずつ喋りだした。
「今日、お父様が……」
「おー、」
「……だから、私のことなんかさ、どうでもいいっていうか」
「……」
泣きそうなのを堪えながら、小さく呟く。ロマはベッドに寝転がり肘をついたまま、適当に相槌を打ってくれていた。暫く経って、何でもないような顔をしたロマが、ベッドから降りる。
「んなもん、美味いもん食って忘れんだよ」
「えっ、急に!?」
「ばぁか、お前は考えすぎなんだよ。美味いもん食って、早めに寝て忘れろ」
「忘れられないっていうか……話聞いてた?」
「あーもう」
頭を掻きながら、面倒くさそうに返事をする。
「お前、何食いたいんだよ?」
「作ってくれるの?」
「お前に泣かれたら面倒だから、仕方なく作ってやるつってんだよ、感謝しろ」
「じゃあ……パスタ……」
「ん」
世界一私に横暴な態度をとる彼は、きっと私の周りの誰よりも、私に優しい。彼はパスタが茹で上がるぐらいの時間であっという間にパスタを作
り、皿に持ってきた。私が好きなクリームパスタ。
「……食べていい?」
「とっとと食え」
「じゃあ、いただきます」
クリームパスタは、とても優しい味がした。
「ロマ〜、ただいま〜……」
部屋の扉を開けても返事がない。今日も顔が見たくて急いで帰ってきたのに、少し拍子抜けする。
「どっか行っちゃった……?」
不安になって見渡す。食べ散らかしたお菓子、脱ぎ捨てられた服、乱雑に落ちている雑誌。いつも通りの光景なのに、肝心のロマがいない。
「……ん?」
奥のベッドの上から、微かな寝息が聞こえる。そっと歩いて近づくと、ロマがすやすやと子供のように寝ていた。
「……」
力が抜けた表情は、ひどく幼く見える。ベッドの端に腰掛けて、サイドテーブルに、今日買ってきた花束を置く。ほんとは、今日もロマと会って話したかったけど……起こしてしまったら可哀想だ。もどかしい思いのまま、私は部屋を後にした。
「ただいま〜」
「……」
ロマが珍しく、振り返った。と思ったら、私の顔を見るなり、そっと目を逸らす。ベッドの横には、以前私が置いていった花束が落ちていた。
「……まぁ、そうだよね」
小さく呟き、ロマの座るソファの近くに行く。
「何見てるの?」
「ん、映画」
今日はどこか、距離を感じる。ソファで座る位置を近づけると、その分また離れられた。
「……くそっ、近いんだよ」
「え、ごめん」
「……」
何を考えているのかわからなくて、顔を覗き込むと、必死に顔を背けられる。
「今日はこっち見てくんないの?」
「……嫌だ」
「えー……」
何かしちゃったかな……と思い返しても、何も思い出せない。心が冷える感覚がして、そっとそこに落ちていたブランケットを被った。
「……なぁ」
「ん…?」
「何でもねえ」
「なにー?」
何も言ってくれない彼は、顔も見せてくれない。そのままベッドの中に入り、寝始めてしまった。
「……寝ちゃうの?」
「ん」
「そっか……おやすみ」
しゅん、と項垂れたたま部屋を出る。花束は、床の上に落ちたままだった。
寂しくて執務室でクッキー(夕飯)を食べながら、仕事を進める。なぜか泣けてくる。涙脆い私は、書類の上に涙が落ちないよう気をつけながら、作業を進めていった。
「ただいまロマ〜」
「おい、お前!!」
扉を開けると、ロマが突然、こちらに向かってくる。
「えっ何!?」
「……なんで昨日来なかったんだよ」
「忙しかったし、最近、嫌われてるかなぁって……」
「ハァッ!?!?」
ロマが大声で叫んでからプルプルと震える。
「ち、ちが、なんでそう……ああもう!!」
「な、何……?」
「くそっ……」
ロマの顔が赤い。耳の先まで熱を持ってることが一目で分かるくらい、真っ赤になっていた。
「なんでそうやってお前はすぐ悲観的になんだよ!」
「それは自覚あるけど……」
困惑したまま返事をする。部屋を覗き込むと、ベッド横に落ちていた花束がない。
「あれ?」
サイドテーブルの上に、見慣れない花瓶に挿してある。
「……大体、お前ってやつは!」
「……」
顔を赤くしたまま、私の目の前で文句を言う。
「二度とそういうことすんな」
「あ、え……? そういうことって?」
「だから……!!」
キレたままロマが地団駄を踏む。
「毎日顔出せって言ってんだよ」
「ああ、うん……」
「いいかこのバカ!!絶対だかんな!!」
ふんっ、と怒って、いつもの定位置にロマが座る。
「顔赤いよ? 熱とか…大丈夫?」
「うーるっせぇ、黙れこの鈍感バカッ!」
「今日はいつにもまして口悪くない……?」
怒らせてしまったらしいので、また引き返そうとすると、突然、袖を引っ張られた。
「は、もう行くのかよ‥…??」
「え…??」
「そ、そーだ飯……お前どーせ飯食ってねえだろ。仕方ねぇなぁ!ちょっと待ってろそこで!」
慌てたように言うと、私を座らせて部屋の外に出ていく。私はポカンとした顔でソファにもたれた。
「……今日は豪勢だね」
「あ? 文句あんのかよ!?」
「ない! 全部食べる!」
ピッツァもパスタもあれば、前菜とサラダまでしっかり作ってある。こんなことは初めてだったので、一瞬だけ呆気にとられた。
「ん、この……サラダの上のやつ美味しい」
「チーズな、それ」
「へー」
パクパクと食べながらロマを見ると、満足そうに私を見つめたまま笑みを浮かべていた。前まで冷たかったのに。もう、どういうこと……。
「……なんか私の顔についてる?」
「ばっ、ついてねえ……」
ロマがまた顔を赤くして目を逸らす。
「……」
なぜか、心臓の音がいつもよりうるさくて落ちつかない。
「ロマ〜……ただいま……」
「ん」
ソファでゴロゴロしながら、ロマが本を読んでいる。
「ねえ……」
「なっ、何急に抱きついてんだよ!!」
後ろから抱きつくと、ロマがバッと振り返る。
「もーちょっとだけ、ちょっとだけ……」
「ちぎぃっ……お前っ、離せよっ……」
「ごめんごめん……」
何を言われても離さないまま、抱きしめ続ける。2分ほど経って、名残惜しく離れようとしたタイミングで、ロマがパタンと本を閉じた。
「……はぁ」
そのまま、大きな溜息をつく。
「……離れねえのな、お前」
後ろを向いて、本を置いたロマが、私の頭を撫でた。
「ごめん……今離れるから」
「うるせ、ばーか」
私の腕を掴んで、離れないようにして、ロマは私の頭を優しく撫で続ける。
「……どーせなんかあったんだろ」
「……うん」
「なら、大人しくしとけ」
今日、本当は凄く嫌なことがあった。涙を溜めながら、ロマの肩に後ろから額を擦り寄せる。
「……ごめん、辛くて」
「謝んじゃねー……ほんっと、手間がかかるやつだなお前」
「うう……」
どうしてもその優しさに、甘えてしまう。自分が情けなくて、また涙が溢れる。
「……すき…」
呟くと、溜息と共に、優しい声が帰ってきた。
「知ってる」
ある日。隣国に挨拶に行った日、一旦挨拶を終え、落ちつかないまま個室で休んでいると、執事が慌てて言った。
「……ロマーノ様が、脱走いたしました」
「……そ、そう」
いつか来るとは思っていた別れ。呆気なくくるものだなぁ、と、実感がないまま考える。
「女好きの片鱗はあったしな……」
頭を抱えながら、ベッド下にあった写真集のことを思い出す。どこかにナンパをしに行ったとか?そんな呑気なことを考える。まだ現実を受け止めきれていないみたいだ。
「はぁ……」
ふと、誰もいない部屋で、窓の外の空を眺める。寂しい。もう帰っても、あの部屋にロマはいないのか。
「……」
まだ、挨拶が残っている。溢れそうになった涙をぐっと堪え、気を引き締めて立ち上がった。
「ん、おかえりだぞ〜」
「……」
部屋に入ると、何事もなかったように、ロマはテレビを見ながらソファで寝転んで、チュロスを食べていた。
「え? あれ? 出て行ったんじゃ……」
「ハァ? ちょっと出かけただけだっつーの」
「え、あ、そう……」
安心して力が抜ける。その場に膝から崩れ落ちると、ロマがびっくりして私の方を見た。
「うぉっ、大丈夫かお前」
「あ、うん……」
能天気な声に心が落ち着いていく。良かった、もう二度とこの声を聞けないのかと思った。そう思った瞬間、昼間は堪えられていた涙がぶわりと溢れる。
「……どっ、どーした!?」
「う゛ー……泣」
ロマが私の顔を伺いながら、ゆっくり近づく。
「ロマ……泣」
「ちょっ、鼻水つくからやめろ!!」
足にしがみつくと、ロマが無情にも私を引っ剥がそうとする。
「ロマ゛〜泣」
「おっ、おい……!」
ロマがどうしたらいいのかわからずあたふたとしている。私はロマの足にしがみついたまま、えんえんと子供のように泣き続けた。
「お前、いっつも泣いてばっかりだよな……」
「ぐす、ごめん……」
ロマからタオルを受け取り、顔についた涙の跡やら鼻水やらを拭き取る。
「俺もよく泣くし、別に怒ってねーよばーか」
「よく泣くの……?」
「まぁ、そりゃ……」
「…あんまり泣いてるイメージないけど、しっかりしてるし」
「……そんなことないぞ、弟のこともあるし」
「弟?」
「なっ、なんでもねえ!!」
ロマに弟がいたことなんて初耳だ。私はロマのことを何も知らないんだな……と少し落ち込む。
「でもまぁ、ここの暮らしが快適だからな、最近はそんなにねえ、かもしれねえ……」
「なら良かった……」
鼻水をまた小さく啜る。鼻をかんで、ふぅと息を吐いた。するとロマが、後ろから何かを取り出す。
「ん、これ買った」
「え、なにこれ」
「見てわかんだろ。花だよ花」
薔薇が3本ほど、慎ましく紙に巻かれている。
「帰りに買った。お前、花好きだろ」
「うん、ありがとう……」
これは執務室にでも飾ろう。勿体ないから、1本は押し花にしてもいいし……栞にしようかな。
「まぁその……好きにしろ」
照れくさそうに言って、ロマは顔を逸らした。
お父様が突然、養子を取ると言い出した。形式上で表面だけのそれは、私にはあまり関係のないものだったけれど……その人と私が結婚するのではないか、という噂が街中で広がっていった。
「ま、しないけどねー……」
噂がどうだろうと、そこはあまり気にしない。子供の時から根も葉もないことを言われることには慣れてしまって、私はごく普通の日々を過ごしていた。
……が。
「おい!!!」
現在、私はロマに首根っこを掴まれている。
「な、なに!?」
私がいつも通り部屋に入ったと思った瞬間、襟元を掴まれて壁に追い詰められた。
「どーいうことだよ!!」
「だから何が!?」
「……お、お前、俺がいるくせに……」
「え?」
「いつの間にそんな、違う男のことなんか……」
ポロ、とロマの目から涙が落ちる。初めて見た。
ロマが泣いているところ。
「俺のこと好きって……言ってたじゃねえかぁ……」
声を震わせて泣くロマに、何と言ったらいいのかわからない。
「あ、あの、ロマ……」
「なんだよ、いつから浮気してたんだよクソヤロー!!」
「ちょっ!?」
襟を掴まれたままブンブン揺らされる。流石に苦しい。
「ちょ、たんま、話聞いて……」
「うるせえ!ふざけんなこのっ」
「ぐるしい、苦しいってば……」
腕をトントン叩くと、ロマがようやく加減した。
「……くそっ…」
ボロボロ泣きながら、私のことを抱きしめる。
「あの、ロマ」
「……んだよ」
「誤解」
「……は?」
「結婚なんてしないよ……?」
「…………は?」
ロマがまだ涙目で、ほんのりと目を赤くしたまま、ぽかんと口を開けた。
「あれただの噂だから……結婚とかしないし。というか、こんなに今忙しくて、そもそもする時間すらないのに、皆勘違いしちゃって……」
「…………しないのか、けっこん」
「そう言ってるじゃん……」
溜息をつくと、ロマが固まった。
「な、」
「な?」
「なんだよお前そーいうことは早く言えよな、びっくりしたじゃねーかこのやろーちくしょー」
「ん、ん?」
さっきまで涙目で私にくっついていたロマは幻覚だったのかと思わせるほど、ロマは早口で言いながらベッドに移動して布団を被った。
「……ロマ?」
「おやすみ。俺は寝る」
「え、さっきのはなん…」
「あーうるせえぞ、黙れ、寝るんだからな」
「……うん、おやすみ」
部屋の電気を消して、扉を閉じる寸前、ベッドから「良かった…」という掠れた声が少し聞こえた。
「……ただいま〜…」
「ん」
「疲れた……ロマ……」
ソファの横に座ると、ロマが私の膝に頭を乗せて、私を見上げた。
「ん? お前、なんかあっただろ、吐け」
「気づくのはや……」
「もうお前のそれには慣れた。ほら、とっとと言え」
「……まぁ、うーん」
別に大したことじゃない。お父様とお母様に、ここから遠く離れた西の国に留学することを勧められているのだ。確かに、今後の事を考えれば、学びを増やすことはいいことだけれど……すぐに断った。何せ……
「? なんだよ」
丸い頭を撫でると、目を瞬きして、ロマが首を傾げた。
「別に。会えなくなっちゃうのは、嫌だなって」
「は……??」
「まぁ、ロマはそれでもいいかもしれないけどさ……」
「ま、待てよ、なんの話だよ……」
ロマが慌てて身を起こす。
「いや、その……今度、留学に行かないかって言われてて……でも、流石にロマまで渡航する訳にも行かないでしょ?」
ロマが黙ったまま、私を見つめた。
「だからまぁ、行かな…」
「べ、別に。行きたきゃ行けばいいじゃねえか」
「えっ」
被せるようにロマがそう言って、膝の上で顔を背ける。私からは顔が見えない。
「……俺は別に、寂しくねえし」
「……そう」
胸がズキ、と痛んだ。誰に置いて行けと言われても簡単に断ったのに。本人に言われると来るものがある。私は、ロマとずっと一緒にいたいのに。一方通行な思いのまま、それでもロマを離したくない。情けないと自分で思う。
でも、ロマはそうじゃない。
「……そっか、わかった」
絶対、それでも、離すつもりなんかない。そう思いながら、静かにロマの頭を撫でた。
あの日はどこかギクシャクしてしまったけれど、さらに運悪く、出張が重なった。ロマには手紙ですぐに戻ると伝えておきながら、もう3日は帰ることができていない。ロマから返事の手紙は来なかった。
(行きたきゃ行けばいいじゃねえか)
(俺は別に、寂しくねえし)
窓の外を見れば、激しく雪が吹雪いている。
予定を終えて帰るはずが、豪雪が降ってしまい、帰るに帰れなくなってしまった。その間は休まざるを得ないため、私には珍しく、休みができた。でも、私の頭の中は、ロマのことでいっぱいだった。
「ただいま!!」
久しぶりに来られたロマの部屋の扉を開けると、ロマがどこにもいない。いつもとは違い、電気もついていない。真っ暗な部屋を見渡す。
「……ロマ? どこ?」
私を見限って、今度こそ、私がいない間に出て行ってしまったのだろうか。最悪の想像に頭が真っ黒になりながら、無言で部屋に入り、辺りを見渡す。
よく見ると、ベッドの上が膨らんでいることに気がついた。
「……ロマ?」
「うっ、ぁ゛ぁ゛っ……」
「えっ?」
微かに嗚咽が聞こえて、布団を慌ててめくると、涙をボロボロと流しながら、ロマが枕を抱きしめて蹲っていた。
「ど、どどど、どーしたのロマ!?」
「ひぐっ、う゛ぅ゛〜泣」
枕に顔を押し付けて、ロマが泣きじゃくる。上から抱きしめてよしよしと背中を撫でると、私の胸に抱きついた。
「うぅ゛……やだぁ゛あ゛…泣」
「な、何が!?」
「俺をひとりにすんなばかぁ゛ぁ゛泣」
ロマがぽかぽかと私の胸を叩く。号泣しているロマに困惑していると、ロマが軽く息を整えて、私を抱きしめたまま肩に顔を埋めた。
「……いつ行っちまうんだよ」
「は?」
「あとどんぐらい一緒にいれるのかって聞いてんだよバカ゛や゛ろ゛ー!!」
あ゛ぁ゛ーーーっ゛と声を上げてまた泣き出す。
「え……い、一生?」
照れながら少しふざけて言うと、ロマがぴた、と泣き止んだ。
「……は?」
「ん?」
「お、お前、留学に行っちまうんじゃ…」
「え? 行かないよ?」
「はっ? え!? なんでだよ!?」
ロマが真っ赤に泣き濡れた目を丸くする。
「な、お前、おれのこと捨てたんじゃ……」
「なんの話?」
「俺がお前に無礼な態度ばっかとって、部屋汚くて掃除もできなくて、情けねえ奴だから、愛想尽かしたんじゃ……ない、のか?」
「え……?」
そんな事をロマが思っていたなんて想像もしていなかった。むしろ、私がいなくても良いんだとばかり思っていたのに。まだ頭が追いつかない。
「ロマがいるのに行く訳ないって。
……あれ? 言ってなかったっけ」
数日前で記憶が曖昧だ。必死に思い返していると、ロマが私の顔を覗き込んだ。
「あの、ロマ、近い……」
「……」
「というか、行きたきゃ行けとか、私がいなくても寂しくないとか言ってたような……?」
「あれは……」
思い出して言うと、ロマが私に顔を近づける。視線が落ち、呼吸が重なる。
……そのまま、唇が優しく重なった。
「……察しろ、この鈍感バカ…//」
「…………………え?」
口に触れた確かな柔い感触に、体が硬直する。頭が真っ白になって、熱が首元から頭全部に、沸騰するみたいに広がった。
泣きじゃくった顔を私の胸に押しつけて、ロマは私のことをぎゅっと抱きしめた。
「ただいまー!!!」
愛しのロマに会うために、今日は仕事を1.5倍速で終わらせた。勢いよく扉を開き、ロマの横に座って肩にもたれかかる。
「疲れた〜!」
「その割には元気だなお前」
「だって、今日はもうロマといられるし」
「そーかよ」
ロマがテレビを消して、私の頭を優しく撫でた。
「……今日、お前が好きな煮込みハンバーグ」
「やったーー!」
「トマト沢山使った」
「トマト! じゃあ元気になるね」
「まぁな〜」
ロマがドヤ顔でテーブルに煮込みハンバーグを並べて、二人で囲む。
「あ、お父様がさ、今度、あの人が主宰する式典出ろって言うんだよ?」
「げっ、この前やなこと言ってきたやつかよ」
「そう! まぁ民衆にはかなり受けいいし、公の場ではいい顔しなきゃいけないし……はぁ……」
「……ハァ、俺だったらぶん殴るけどな」
「嘘でしょ!?」
思わず笑ってしまう。想像したら、あの人の顔見た時にも笑っちゃうかも。
「ん、口の端、ソースついてるぞ」
「あ、ごめん……」
ロマは私の口についたソースを指で取って、ぺろ、と舐めた。
「ん? なぁに見てんだよ〜」
「な、なんでもない」
「このへんたい」
「変態じゃない!」
ニヤけた顔で、ロマが私を見る。私は目を逸らして、また一口ハンバーグを口に入れた。
「今日もこっちで寝るだろ」
「うん、そーする」
「ま、そう簡単に寝かせねえけどな」
急に顔が熱くなる。ハンバーグに向けていた視線を上げ、チラ、とロマを見上げると。
「……やっぱ変態じゃねえか」
と言ってドヤ顔で笑った。