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ロマは、自分が不老不死だとでも言いたいんだろうか。頭を悩ませながら、仕事帰りにふらりと歩いていてると、写真の個展をやっている店があった。なんとなく足を引かれて、中に入ってしまった。
過去のローマの写真が沢山飾られている。題名が書かれたタグの下には、撮られた年数も書かれていた。友人が料理を作っている写真や、お祭りの賑わっている写真。人々を写した、日常を切り取ったような楽しげな写真ばかりだ。
「来てくれてありがとう、ベッラ!」
「わっ!?」
後ろから話しかけられて飛び上がる。
「この写真たちは、この前亡くなった俺のノンノが撮ったものなんだ。どう?」
「素敵だと思う……あなたがノンノのために開いたの?」
「そう! なんだ、君は紛れ込んじゃったローマの観光客じゃないんだね。ゆっくり楽しんで!」
「ああ、はい……」
彼はウインクを飛ばすと、他のお客さんに話しかけに離れていった。実際、何十年も前の写真なんかも沢山飾られている。
「いやいや、生まれてないんだから居るわけないでしょ……何探してるんだ、私……」
ふと、『ローマと一緒に』という題名を見つける。1960年。丁度オリンピックが開催された年だ。見上げて、私は唖然とした。
陽気な顔で肩を組んでいるのは、さっきの人の祖父なのだろう。コロッセオの前で、無理に肩を組まれて若干嫌そうな顔をしている青年。くるんと特徴的なアホ毛、丸っこい髪、眉の角度、目の雰囲気……。
紛れもなく、ロマーノだった。
「ヴェッ……あれ? 〇〇ちゃんじゃない? チャオチャオ!」
外のテラス席でパスタを食べていると、ヴェネチアーノくんが通りかかった。
「すっごく偶然だね! 俺、今日はついてる〜!」
ふわふわとした表情からは、お花が飛んでいる。
「あ、そうだ。聞きたいことあるんだけど……良かったら一緒にご飯食べない?」
「えっ、いいの!? わぁい! 俺、パスタ食べる!」
駆け寄ってきて、隣の席に座ると、ヴェネチアーノくんはお店の人にパスタを注文した。
「聞きたいことってなぁに? 兄ちゃんのこと?」
「ヴェネチアーノくんも、かもしれないんだけど……」
私は、ロマに不老不死について聞かれたことと、この前の個展で見た写真のことを話した。
「ヴェッ、その写真、俺も見たいなぁ〜。その子に頼んだら貰えないかな?」
「そうじゃなくて……ほんとにほんとに、不老不死なの……?」
「そうだよ! 不老不死っていうか、何ていうか〜……突然パッて死んじゃうこともあるけどね」
思わず手が止まる。当たり前のように言うと、ヴェネチアーノくんはパスタをくるくるとフォークで回し、また一口食べる。
「ヴェネチアーノくんも?」
「そう!」
「え、なんで…??」
困惑した状態で私が口にすると、ヴェネチアーノくんは笑い出した。
「ふふ、ヴェへ、なんでだと思う? ふふ、」
「……実は宇宙人?」
「ぷふ、ふふ…きみってほんとに面白いね!ふふ、」
私は至って真剣である。楽しげに笑うヴェネチアーノくんに顔を近づけ、怒った顔をすると、ヴェネチアーノくんはごめんごめん、と言った。
「フランスにいちゃんは昔、船みたいなものって言ってたけど……おれもよくわかんないなぁ……」
「船……?」
船ってなんだろう。船の精霊? 首を傾げる私に、ヴェネチアーノくんは優しく言った。
「……俺、北イタリアなんだ」
「へ……?」
北イタリア……? 頭がパニックになる。
「兄ちゃんは南イタリア。ふふ、ほんとに知らなかったんだね〜」
「え、国……?」
宇宙人や未来人、異世界人、超能力者……不老不死の理由が、国だから、なんてのは聞いたことがない。
「びっくりさせちゃってごめんね……?」
「えっと……うん、」
思い返してみると、ロマとの会話の中で、たまに噛み合っているのかよくわからない会話があった。彼が南イタリアを愛しているからだと思って、何となく流していたけれど……
「兄ちゃん……ほんとに君のこと好きなんだと思うよ」
「え?」
「おれたちはね、基本的に一人ぼっちなんだ。まぁ兄ちゃんがいるし、おれは美味しいご飯食べられれば、気になんないけど……」
ヴェネチアーノくんは遠くを見て、また寂しげに笑った。
「大好きな人ができても、大好きな人と離れなきゃいけない。だから、俺たちの中には、最初から誰も好きにならないぞー!って決めてる人もいる」
「そういうもの……? ヴェネチアーノくんは?」
「うーん、考えたことないな〜……ほんのちょっとだけ付き合ったことはあったかな。戦時中に可愛い女の子に会っちゃって……でもすぐお別れしたよ」
戦時中。さらりととんでもないことを言う。
「兄ちゃん、あんまりそういうことしないし……兄ちゃんはああ見えて、根が真面目だから」
「ああ……」
それは少しわかる。根が真面目で優しくて、でも不器用で、若干空回りしてる感じというか……
「ずっと生きてること、隠したまんまにしなかったんだし……ほんとに兄ちゃん、君のこと一生大切にするつもりなんだと思うよ? 1ヶ月で決めなきゃいけないのは、急だと思うけど……」
「ああ、1ヶ月っていうのは……」
私が日本に帰らなきゃいけなくなっていることを話すと、ヴェネチアーノくんがヴェエ!?と声を上げた。
「そ、そんなことするの……? 君のマンマ……」
「まぁ、うん……実際は、もうあと3週間ぐらいしかないけど」
「そっか……なら、ほんとに時間がないってことなんだね……うわぁ、兄ちゃんかっこいいなぁ〜……!」
カフェオレを飲みながら、すっかり先にパスタを食べ終えてしまったヴェネチアーノくんは目を輝かせた。
「でも確かに、そんなこと聞いたら放っておけないかも〜……」
「……うん」
「でも、大丈夫! きっと何とかなるよ!」
話に夢中になるあまり、冷え切ってしまったパスタをくるくると回す。
「もし日本に行くことになって、君が向こうで大変そうだったとしても、その時は俺がなんとかするよ! 俺、日本に知り合いがいるんだ!」
「知り合いがいて、なんとかなるの……?」
「大丈夫! とりあえず、一緒に甘いものでも食べようよ!」
ヴェネチアーノくんがお店の人にドルチェを頼む。私は、話の区切りがついたことに、ほっと息をついた。
ドルチェを食べ、ヴェネチアーノくんと別れた私は、仕事に戻る。
「国がいるって、聞いたことある?」
「んー? 国?」
パソコンを打ち込みながら、なんとなく同僚に、世間話のように聞いてみる。
「ああ、なんか聞いたところによると、たまにしか現れない……みたいな……?」
「いることは否定しないんだ……!?」
「うーん、うちのノンナが会ったことあるって言ってたんだよ。なんかフニャフニャしてるって」
それは多分、ヴェネチアーノくんの方だ……
「まぁ、おとぎ話みたいなもんでしょ。それがどうかしたの?」
「いや……なんでもないんだけど」
まさか、そのおとぎ話みたいな存在と、一生そばにいることになるかも知れないとは、言えない……
仕事を終えて、家の前まで帰ると、見慣れた人物がいた。
「ロマ……?」
「……」
ロマはでっかくため息をつくと、大きく舌打ちをした。
「な、何……?」
「お前、昼何してた」
「仕事だけど……? と、とりあえず家あがる……?」
ロマの様子がおかしい。家を指さすと、ロマは真顔でコクリと頷いた。
「……ど、どうしたの?」
ロマが無言のまま、ソファに座って腕を組んでいる。
「お前さぁ。俺か普通の結婚かを選べって、俺は言ったよな?」
「うん……」
「昼、なんで弟と飯食ってんだよ」
ロマは怒った口調で言うと、立ち上がって私に向かってくる。
「いや、聞きたいことがあったから聞いてただけだって……」
「はぁ? 俺に聞きゃいいだろーが」
「それはそう……かもだけど、一旦落ち着いて」
「落ち着けるかよ。二人でニコニコしながらケーキ食ってたじゃねえか」
壁の方に追いやられる。
「ちょ、勘違いだってば!」
「……楽しそうだったな? 距離も近かった」
完全に壁に追い詰められたまま、ロマに睨まれる。でも、どこか泣きそうな顔で、泣くのを堪えて睨んでいるみたいだった。
「……あ、」
「……なんだよ」
『北イタリアの方が、立派だろ。落ちこぼれの南イタリアなんかより』
その時、前にロマが言っていたことを思い出す。あれは、本当は自虐だったんだ。もしかしたら、弟に思うところがある、とか……?
「……弟の方が、いいのか」
「へ?」
「俺でも、日本に帰るでもなく、弟の方がいいのかって聞いてんだよ」
「そんなわけ……」
「そうだよな、どーせみんな弟の方がいいんだ。俺なんかより、よっぽど器用だし、愛想もいいし。俺なんか、より……!」
ロマの目から、涙がポロポロ出始める。
「勝手に、お前は俺のこと、認めてくれる奴だと思ってたのに……」
震える声でそう言い捨てたロマの体を、思わず抱きしめた。
「……あれは本当に……話を聞いてただけ」
「……ほんとかよ」
恐る恐る、抱きしめ返される。
「だって、お前、どっちかなぁ〜とか言ってたじゃねえか」
「あ、あれはふざけて……ロマが好きだって、ちゃんと言った!」
「……もっかい言え」
そうやって涙目で睨んでくるのはずるい。
「……ロマが好き」
「俺の弟よりも?」
「ロマの方が好き!大好き!これでいい!?」
「……そーかよ」
ロマが私を抱きしめる力に、ようやく力が入る。
「もうバカ弟に会わせたくもねえ……てか、会わせなきゃよかったかもな、くそっ」
「えぇ……」
「お前がバカ弟と、笑って二人で飯食うとか……ほんと最悪だぞ、バカ……だめだ、泣く……あいつ……出張終わって帰ってきたら覚悟しろよ……」
「いや、ほんと、私がロマのこと聞こうとしただけだから……!」
「俺のこと……? 何聞こうとしたんだよ。ま、まさか、弱みでも握ろうとしてんのか……!?」
私をなんだと思っているの!?とつっこみたくなったが、個展で写真を見て、ヴェネチアーノくんに国ということを教えてもらった事を話した。
「ああ……聞いたんだな」
「ロマが教えてくれたらよかったのに」
「……怖かったんだよ、お前が、そんなの無理だから帰るとか言い出したらって……だから……その、ぼかしたっつーか」
「……」
「な、なんだよ、文句あんのか」
「別に……」
ぎゅーっとロマを抱きしめる。
「……私がしわしわになって、おばあちゃんになっても、好きでいてくれるってこと?」
「当たり前だろ」
「寂しくないの?」
「……寂しいだろうな。というか、寂しい。お前がいつかいなくなって、俺一人になるとか、考えたくもねえ」
「……」
「でも、お前が他の男に取られるくらいなら……俺が知らねえとこで、こうして他の奴が、お前を抱きしめるくらいなら、俺は……お前の一生ぐらい、見ててやるって言ってんだよ、ばーか」
そう言うと、優しく口づける。
「なのにお前は、俺の覚悟も知らねえで、よりにもよってバカ弟と呑気に飯食って、笑顔見せて、ほんっと……ばっかじゃねぇの!?」
「そ、そんな言い方……」
「いいか、俺は嫉妬深いんだからな! ちゃんとわかっとけこのやろー……」
息が苦しいぐらい、強く抱きしめられる。突然、ちゅ、とキスをされる。離れたと思った唇は、すぐにまた重ねられて、体はしっかりと抱き寄せられた。
「……ん、ばか、逃げんじゃねえ」
ちゅ、ちゅと繰り返されるキスの音。部屋に響くのがいやらしくて、私の体は熱くなっていく。
「ろ、ま……」
「こっち見ろ」
目を見つめ合いながら、何度も何度もキスをする。恥ずかしくて、逸らしたくても、許されない。
「前は邪魔が入ったからな」
体を上から下に、なぞるように触られる。
「お前のベッド、借りるぞ」
「いや、ちょ、急に!?」
「うるせえ、あいつと話したお前が悪い」
そのまま、ベッドに体を倒される。
「今夜はずーっと、俺と一緒にいような、〇〇」
ロマが私の上に被さって、キスを落とした。
「あと2週間……」
時間は無情だ。好きになった相手はなぜか不老不死だし、母国に帰ったら好きでもない男と結婚しなくちゃいけない。なんでこうなのか、私の人生。暗い夜道を歩きながら、泣きたくなる。
「ロマのこと選んでも、そのうち私に飽きるんじゃ……」
「誰が飽きるって?」
「うわぁあぁあ!?」
後ろからロマに話しかけられ、飛び退く。
「び、びっくりした……脅かさないでよ」
「あのなぁ、余計なこと考えてんじゃねーよ」
「だって……私がおばあちゃんになっても、ロマはそのままなんだよ? 普通に考えたら捨てられるっていうか……」
「お前‥…!? 俺がそんな酷えやつに見えんのか!? ちぎぃぃ!」
「……将来、『お孫さんですか?』とか聞かれたりして……まぁそれはそれで、こんなイケメンな孫なら欲しいですけど……」
そう言うと、むっと口をへの字に曲げて、ロマは私に突然キスをした。
「ノンナが孫にキスすんのかよ」
「しない……けど……!」
しゅんと凹むように俯くと、ロマは私の手に指を絡めた。
「俺のこと、少しは信用しろよなこのやろー…」
「わかってる……」
「好きだって言ってんだろ。なんでわかんねえんだよ……」
「わ、わかってるけど……」
こうして気が重くなっているのには、理由がある。仕事終わり、スマホの画面をつけると、何十件もの母親からの不在着信があったのだ。
「……はぁ」
「なんかあったのか」
「いや……別に……」
「ふんっ……そうかよ」
どーせ俺には相談できねえよな、と、拗ねてブツブツ言っている。ちょっとめんどくさい。
「……ただ、母から電話が来てて……後で折り返さないと、怖いから」
「ふーん……」
「いや、ふーんって……」
「全部無視しちまえねえの?」
「無責任な……」
「ま、飲もうぜ、お前んちで」
「なんで私の家……?」
「俺の家だと、バカ弟が……」
「あぁ……」
よく見ると、もう片方のロマの手に下げられた袋には、ワインボトルがあった。
「……飲む」
「ふっ、決まりだな! ワインかっくらって寝て、やな事忘れちまえ」
ロマは、いつも能天気だと思う。まぁ、そこがいいところだけど……
「おら、ちゃんと飲めよ〜。俺からの命令だかんなっ」
「これ、結構濃くない……?」
「ん? でも明日休みだろ?」
「そういうのアルハラって言うんだよ……」
気分も悪いので、グラスを傾け、ゴクッと行く。な、なにこれ、信じられないくらい美味しい。
「どうしたのこのワイン……」
「俺のお気に入り‥…ふふ、お前も好きか?」
「すっごく美味しい……」
「だろ〜? ま、当然だな」
こんなに美味しいと、飲みすぎてしまいそうだ。
「ロマはさ、国なんでしょ?」
「そーだぞ」
「じゃ、じゃあ、カエサルとも会ったことあるの?」
「ねえよ、その頃まだ生まれてねえ……じいちゃんも会ったことあるかどうか……」
「じいちゃんいるの……?」
「ローマ帝国。俺のじいちゃん」
「はえぇ……」
会話のスケールがでかすぎる。
「何歳くらいなのロマって……」
「わかんねえ、せんいくつ?」
「は、せ、せん……?」
ポカーンとしていると、ロマが頭を掻いた。
「なんかこう、覚えてねぇんだよな、昔のことって。まぁ、さすがに覚えてることもあるけど」
「ガリバルディには会ったの?」
「あ? あいつ? たしか、俺が呑気にチュロス食ってたら急に……」
「その言い方は、ほんとに会ってるの!? はぇえ……赤シャツ隊って、ほんとに赤シャツ着てた?」
「あー、たしか赤かった気がするぞ……って、お前なぁ……」
「なに」
「んなことはどーでもいいんだよ」
ロマが不意に真顔になる。
「2週間後、どーすんだ」
グラスを揺らして、ワインの水面が揺れるのを見る。
「考え中っていうか」
「……あっそ」
チーズをつまむと、ロマはふてくされたように言う。
「……帰んなきゃいいじゃねーか」
「そうは言うけど……」
あんなでも、母親だし。私は自分で嫌になって、ワインを一気に飲み込んだ。
「ろまぁ…好きだよ……」
「お、おい……! おかしいだろこの状況!」
床で私に乗りかかられて、ロマがジタバタしている。
「なんで俺がお前に押し倒されなきゃなんねーんだよ! ふざけんなカッツォ!」
「ろまー……」
「うっ、重……!」
「ほんっとにかっこいい……顔がいい……」
「な、なに言って……!!//」
頭がふわふわする。私はまた、美味しいワインをグッと飲んだ。ロマに被さる。
「だいたい、なんで私は……こんな人生なんだ、カッツォ!」
「お、女の子がカッツォとか言うな!!」
「らってぇ……好き……好きな相手が国ってなんだ……なんらそれ、国って……ケバッレ……」
「お、おい!? 目が据わってんぞ……」
「ふんっ……ふふ、でも、ろま……好き……国でも好き……可愛い……ろまはさぁ、私がおばあちゃんになっても好きでいてくれるの……?」
「……当たり前だバカ」
「すぐ死んじゃうのに、? というか、数カ月であんまり会ってくんなくなりそう、どーせ私は、ご主人様の帰りを待つハムスターちゃんと一緒ですよ……カッツォ……人間なのにさぁ!」
ロマの肩を掴んでブンブンする。
「初めての恋人が国って、意味分かんない! どういうことよ!」
「あー、悪かったなちくしょー」
ロマはされるがままに頭を揺らして、死んだ目をしている。
「私のこと4年とか放置してさぁ、『あっ、すっかり忘れてたぞこのやろー』とか言うんじゃないの!? どーせ私のこと捨てるんだぁあ……」
「捨てねえって言ってんだろ! ちゃんと気をつけてずっと面倒見るって」
「偉そう! 私はどうせ短命な生き物なんだぁ〜……」
「なんだそれ……俺はそのハムちゃんにこんなに固執してるっつーのに……」
ギューッと抱きしめられる。納得がいかない。
「あたしが死んだら、違う女と寝るのね……」
「はぁ!?」
「ちょーっと喪に服して、すぐ次の子にかえるんでしょ。あーあ……ロマは私のなのに……」
「そ、それは……」
ロマが俯く。やっぱりそーなんだ。
「……いいよ、次の子探して。ロマに悪いし。あーあ、私、すぐ死んじゃうのにな〜……」
「死ぬとか、そう簡単に言うな!!!!」
突然、部屋中に響く声でロマが叫ぶ。ギョッとして、一瞬時が止まったみたいだった。顔を見ると、ロマはポロポロと泣いていた。
「俺……俺だって、お前が死ぬの見送るなんて、考えたくねえ……死ぬとか、ほんと……やだ……死ぬなよ、お前……」
大量に涙を流して泣きながら、ロマは私をぎゅぅっと抱きしめる。
「耐えられねえかもしれねえ……お前のこと、好きすぎて、考えただけで、頭が真っ暗になる……でも、お前が他の男にとられんのもやだ……」
「ろ、ろま……ちょ、」
「死ぬなよバカ……俺とずっと、一緒にいるって言えよ……」
「死ぬなって、難しいことを……」
「ばかやろぉお……」
ロマは泣きながら抱きしめてくる。すっかり頭が冴えてしまった私は、ロマの頭を撫でた。
「……ずっと一緒にいるって、言ってくんねえの」
「うーん、死んじゃうのは事実だし……無責任じゃない?」
「お前は俺を泣き止ませるために、ちょっとやそっと嘘つくぐらいできねえのか!?」
「だって……」
ロマは涙目で恨むように私を見た。
「そーかよ、じゃあ帰れ」
「急にひっど!」
「そんなに死にてえなら、死ねばいいだろ。日本の男と……」
「さいてー!!」
「やだ……やっぱやだ……ちぎぃぃ……」
自分で言って、自分で想像してダメージを受けている。と、思ったら、急に思いついたように言い出した。
「待てよ? お前とずーっと一緒にいれば……」
「ん?」
「でも、加減しねぇと、お前が壊れちまうかもしれねえし……」
「な、なにそれ、急にシリアス!?」
「……どっちがマシなんだろうな。お前がいなくなんのと、おかしくなるのと……」
「はぁ!?!?」
思わず大声で叫ぶと、ロマがニヤリと笑う。目元はまだ濡れている。
「……冗談だよ、ばーか。びっくりしたか?」
「よ、良かった……長命種系にありがちな、相手の時間軸を引っ張っちゃって、私まで不老不死になっちゃうやつかと……」
「……はは」
「目が笑ってなくない……?」
ロマが真顔で目をそらす。な、なんか怖い。
「ま、考えるだけ無駄か。俺が何とかするしなっ」
「んん…?」
泣きやんだロマは、私にキスをすると、ギューッとまた抱きしめた。
「お前は……俺の、だもんな」
「……ろま、」
「もう、あんまり死ぬとか言うなよ」
「うん……」
「次、言ったら……」
「言ったら?」
「また俺が泣く。泣き喚いてやるからなっ、」
ギューッ。ロマは涙目のまま、鼻を啜った。
「……ろまぁ……好き……うーん」
「……はぁ」
くっついていると、ロマがため息をついた。頭がふわふわと浮いていて、何も考えられない。目の前でくるんっとカールしているアホ毛が揺れている。ゆら…ゆら……
「……はむ」
「ん!? 何、口に、入れ……//」
「……」
「な、舐めるな……!// ちぎぃぃ……!」
不思議なことに、アホ毛に妙に反応して、ロマは突然、顔が真っ赤になり、体を震わせ始めた。びくん、と震えて、額に汗が滲んできている。漏れ出る声がやけに色っぽい。
「……?」
ペロ、とアホ毛を口の中で舐めてみる。
「ひゃうぅっ……は、はなせ、ばかやろー……//」
私のほっぺに手を添えて、くるんとした毛をなんとか抜こうとしているが、手に力が入っていない。なんとなく舐め続けていると、涙目のロマが体をビクビクと反応させる。吸ったり舐めたりしてしつこく続けていると、ロマが泣き始めた。
「も、やめ……ひぅ、ひっぐ……やだぁ……//」
慌ててくるんから口を離すと、ロマが息を荒くしたまま、私を睨みつけた。
「二度とすんじゃねえぞ、ばか……」
「……ゴメン」
深夜、ベッドの上から腕を伸ばし、棚の上のスマホを取る。体はロマに抱きしめられていて動けない。画面をつけると、母からのメールが来ていた。開いて長文で送られてきた文章を読みながら、二日酔いの気持ち悪さと共に、気が滅入るのを感じていた。
「はぁ……どうしたらいいんだろ」
人生の選択には、時間が欲しい。のに、もうあと1週間ぐらいしかない。
「ん……〇〇……」
昨夜、私のベッドに潜んできたロマの寝顔を見る。いつも寄せられている眉間から力が抜けて、表情が幼く見えた。もう、ロマに会えないと思うと……胸が苦しくなる。
きっとロマがいなかったら、すぐにでも私は、日本に帰っているんだろう。寝返りを打とうとすると、途端、ロマの抱きしめる力がグッと強くなった。眉に力が入って、唸るような声を出す。
「起こしちゃった……?」
「……お前」
ロマが私を抱きしめたまま、寝起きの低い声で囁く。
「帰んな」
「……」
「俺を……置いてくなよ……」
ひどく言い方が切実で、胸が痛い。
「好きだ、〇〇……」
私の胸に頭を押し付けて、また静かにロマが眠りにつく。私は、どうしようもない気持ちで、ロマを優しく抱きしめ返す。片手に握られたスマホから、小さくピコン、と通知音が聞こえた。
「……うん、わかってる。はい、ごめんなさい」
電話を切り、大きくため息をつく。ロマが帰ってから、一人でかけ直した電話。母はとても怒っていた。
「……心配、させてるよね」
帰るための手続きを、パソコンで調べて確認する。息が詰まったように感じるのに、体が勝手に動く。
「……あれ」
なぜか涙が出てくる。それでもキーボードを打つ手を止められないまま、時間は過ぎていった。
いつかに、ロマと一緒にランチを食べたレストランで、一人パスタを食べている。
「……俺も誘えよな」
「わ、ロマ……」
隣の席にドカッと座ると、ロマはパスタを注文した。
「……相変わらず、突然現れるよね」
「お前が会いたいって思ったら、会いに行くって言っただろ」
「……そんなこと、言ってたね」
「な?」
ロマは得意げにドヤ顔をすると、肘をついて、目を合わせない私を見つめた。
「最初はストーカーされてるのかと」
「はぁ!?!」
「冗談だって」
……気分が重い。今日は会いたくなかった。
「……ロマ、私さ」
「……」
「やっぱり、帰ろうかなって」
ロマは動じなかった。何も言わず、届いたパスタにフォークを通して、一口食べる。
「……さっき、飛行機も予約しちゃって」
「そうかよ」
「ごめんね、ほんとに」
「……」
「ごめん」
私が泣いちゃだめだ。目に力を入れて、溢れそうなものを堪えて、また一口、パスタを口に入れて噛んだ。
「……向こう行くの、いつだよ」
「あと5日」
「5日かぁ……」
短えな、と呟いた。
「じゃあな、」
「うん」
ロマが帰っていく後ろ姿を眺める。せめて、あと何回か、また会えたらいい。次に会えたら、今度は、もっと明るく話したい。こんなに暗い会話は、もうしたくない。
───そう、思っていた。
仕事を辞めたので、挨拶回りをして、荷造りをして、重い荷物を持って、また外に出る。溜息をついて、辺りを見回す。
「……」
当たり前のようにいたはずのロマは、明日が最後の日だというのに、あれからずっと、会いに来ない。会いたい、と念を送ってみたり、街の人混み中を探してみたりしたけれど、いつも気がついたらいてくれたはずのロマは、どこにもいなかった。
「……短いって、言ってたくせに」
連絡先も交換してなかった。それぐらい、会いたい時、寂しい時は、すぐに来てくれた。
ロマが南イタリアという国だということ、そして、私は南イタリアを愛していて、それ以上に、ロマが好きだということ。でも、私はこの国を出ようとしている。ロマを置いて。
風の匂いを吸い込む。歩きながら、私は地面を見つめていた。
私が朝、辛くて泣いて、外に出た時。心がどこかに囚われて、苦しかった時。ロマが私を、ここに、南イタリアに、引き留めてくれた。ロマが会いに来てくれた。でも、
「突き放したのは、私なんだ」
……涙が出て、手で拭ってもきりがない。
「おかしいよね、ほんと」
期待していた。私は、ロマに甘えていた。
会いたい。
当日の朝。早くに目が覚めて、外に出る。大好きな南イタリアの風景。遠くに海が見えるこの街。向こうから、朝陽が登ろうとしていた。
昨日の夜から、ずっと涙は止まらない。寝る前も泣いてばかりで、朝起きてからも、終わりなく涙が溢れる。心が壊れてしまったみたいで、空っぽで、ずっと息が苦しい。
ふと、後ろに気配がする。まさかと思って慌てて振り返ると、ロマが立っていた。
「は……お、お前、目真っ赤じゃねえか!?」
焦ったように言いながら、走ってきたロマに雑に目をゴシゴシとこすられる。私はロマの胸を思いっきり叩いた。
「いてっ」
「なんで会いに来てくれなかったの……会いたいって思ったら、会いに来て、くれるって……」
「……」
「言ったのに……」
またボロボロと涙が溢れる。ロマは私の頭を撫でた。
「……泣くなよ。俺まで泣いちまうだろ……」
ロマが声を震わせる。
「お前が泣いてても、日本に行かれちまったら、俺は会いに行けねえんだぞ……」
「……そんなこと、言わないでよ」
自分で、おかしいと思う。私が、離れるって言ったのに。ロマは私の肩を掴んで向き合うと、私をしっかりと見つめた。
「……いいか、やなことあったら、美味い飯食って、いっぱい寝るんだぞ。そうすりゃ、まぁ、だいたいはなんとかなる」
「……」
「日本でも、楽しく生きて、やなことばかり考えてちゃだめだ。楽しいことして、やなことは……まぁ、忘れろ。どーしてもだめだったら、まぁ、トマトがあれば……」
「トマト……?」
「ともかく、逃げてもいいから、ちゃんと生きろ。死ぬとか絶対もう言うなよ、ばかやろー。約束だからな。できるだけながーく生きるんだぞ」
「……うん」
「……あと……なんだろな、俺のこと、ちょっとは覚えておけよな……」
「うん、絶対忘れない……」
「あと……ああもう、俺まで泣けてきた、くそっ……」
ロマは自分の涙を拭うと、私のことを抱きしめた。
「…………好きだ、〇〇」
「……ロマ…」
「最後なんだから、言うくらい、許せ、ばーか…」
「……うん」
ロマが私に擦り寄る。私はロマの体を、優しく抱きしめ返した。
「言ってなかったけどな……ほんとに、お前以上に好きなやつ……いなかったんだよ。今まで、ずっと」
「……」
「俺は、お前の前じゃ、かっこつけてるけど……情けねえし、すぐ泣くし、不器用で……どーしようもねえ」
「……うん」
「掃除も下手だし、仕事も全然終わんねえし、すぐやらかすし……でも、お前になら、俺は……許して、もらえる気がした」
私に縋るように、ロマの手が、私の服を掴んだのを感じた。
「……今だって、このままお前を離したくない……ほんとは、ずっと……」
胸の奥が、強く締め付けられる。
「……好きだ、愛してる、なんで行っちまうんだよ、なんで……ちくしょ……!」
泣きじゃくるロマが、私を強く抱きしめる。好きと返したくて、でも、言っちゃいけないと唇を噛み締めた。
「……最後に、最後だから……最後、だからな……」
自分に言い聞かせるように言ったあと、そのまま、ロマはゆっくりと、私に唇を重ねた。柔らかい唇の感触が、離れていく。寂しくて、目から熱いものが流れ続ける。離れていくキスと同時に、ロマは私から体を離した。暫く見つめあっていたけれど、ロマはグッと目を閉じて、目を逸らした。
「……ローマから日本じゃ、飛行機で10何時間か……大変だな」
ぐす、と鼻を啜りながら、ロマは強がるように言った。
「ほら、行けよ……ああ、くそ、ほんと……止まんねえ……」
目を擦っても、ボロボロと流れるロマの涙は、朝陽に照らされて、輝いて見えた。
「東京行き、搭乗開始しますので、ご搭乗されるお客様はお集まりください」
ローマの空港に着き、ぼんやりと移動していく飛行機を窓から眺める。
「やぁベッラ! 今ついたとこ? 良かったら俺が案内……」
「いらない。私日本に帰るとこだし」
流暢なイタリア語で返せば、少年は残念そうに去っていく。そう言えば、初めてロマと会った時もナンパだったな……懐かしくて笑ってしまう。同時に、また目が潤みだして焦る。今日は涙腺が緩みきってしまっている。
飛行機に乗り込み、離陸アナウンスにあわせ、私はシートベルトをつけた。イタリアで経験した、沢山の出来事が頭をよぎる。
「離陸します」
体を揺らし、少し車体が浮き上がる。窓の外を見ると、ブーツの形をしたイタリアの地が、離れていくのが見えた。
「……」
涙が出てきた。なんでロマを置いてきちゃったんだろう。なんで、大好きなイタリアを離れなきゃいけないの。
窓に乗り出して、下を見ると、イタリアがどんどん遠ざかっていく。
フライトの15時間のうち、2時間は泣き続けてていた。そのうち泣きつかれて、ぐったりと座ってぼんやりしていると、横に座っていたイタリア人の紳士が、私に持っていた毛布をかけてくれた。
「Grazie……」
「イタリアが泣くほど恋しいの……?」
「……はい」
「そう。東京まで、寝てたらいい。酷い隈だよ、眠れてないんだろ? 俺が周りを見張っててあげるから」
「ありがとう、本当に……」
ローマの訛り方は、ロマに似ていて、心が落ち着くのを感じた。優しくて、温かい気持ち。そう、そういう国だった……南イタリアは。
「……お母さん、ごめん」
私は眠りにつきながら、小さく呟く。
そして、私は夢を見た。ロマに会う夢を。
着いた。私は飛行機から降りて、空港を飛び出し、慣れ親しんだ街を、走り続ける。会いたい。会いたい。頭で念じながら、私は走る。
「どこ……!」
会いたい。初めて会った観光地の近く。一緒に歩いた通りの店を覗いて、送り届けた家まで行って、レストランにもいなくて、私の家……私の家の方?
私は坂道を駆ける。歴史を愛し、でこぼこに整備された石の階段。あの高台に行けば、私が愛したこの街を見渡せるはず。私が愛した、南イタリアに会えるはず。
階段を登り切り、高台に駆け込む。海からの風が吹いて、街が、眩しい太陽に照らされている。丸っこい茶髪の彼の後ろ姿に息を呑んでいると、彼は高台の手すりに手をかけて、くしゃみをした。
「……っくしゅ、んぐ」
泣いてる。街の方からパタパタと鳥が飛んできて、私の後ろの塔まで飛んでいく。ロマはふと、振り返った。
「……」
沈黙したまま、固まっている。ロマは時が止まったみたいに、赤く泣き腫らした目を見開いて、私を見つめていた。
「……ロマ、ただいま」
「……」
「ここが好きだから……ロマが好きだから、帰ってきちゃった……」
駆け寄って、ロマを後ろから抱きしめる。ロマの体は、小さく震えていた。
「怖かったけど、いっぱい頑張ったんだよ、私」
「……ああ」
「ロマに会いたくて……振り返ったら、また居てくれるんじゃないかって思った、探しちゃった、いるはずないのに」
「……」
「でも、日本には、やっぱりいなくて……」
「……会いに行けなくて、ごめん」
「ロマは悪くないんだよ、私が……」
「ほんとは、すぐにでも会いに行ってやりたかった……」
遮るように言うと、ロマは私を、ぎゅぅっと抱きしめた。
「ごめん……」
私を抱きしめたまま、ロマは囁いた。
「俺、会いに行くって言ったのに、行けなくて、ごめん……」
「でも、私が……」
ちがう、と言って、ロマは首を振った。
「……好きで好きで仕方なくて、怖くて……お前が日本に行く前、お前がいなくなるって思ったら、泣いちまいそうで、でも、それでももっと、最後まで会えばよかったって、ずっと後悔して……お前に会いに行けなくなってから、俺……」
止まらないものが溢れるみたいに、ロマは首元に顔を埋めて言った。
「お前に会いたくて、なんで俺、こんなに情けないんだろって、お前が他のやつに……って、……考えて……なんで、引き止められなかったんだって、ずっと、考えて……」
「ロマ……」
「…………うっ、おれっ……」
涙で、喉が詰まって、声も出ないみたいだった。ロマはまた黙って泣き続ける。私はロマの背中に手を回して、背中を撫でた。
「でも、もういいんだよ。ロマ」
「ん、ぅ……」
「私、日本もいいけど、やっぱりここが好き。ロマが会いに来てくれるこの国が、大好き」
「ぅ……」
「だからね、ロマ……また、私が会いたい時は」
ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。背伸びして、ロマに近づく。
「また、会いに来て」
ロマに囁くと、ロマは大粒の涙を流した。
「好きだよ、ロマ……私も、会いたかった……」
堪えていた涙が、ポロポロと出始める。ロマの胸元に顔を押しつけて、私も泣いた。
泣きながら、私たちはローマの景色を前に、抱きしめ合い続けた。
日本にいたのは、たったの10時間。お母さんに直接、自分の気持ちを伝えて、婚約話は丁寧にお断りし、その日中にローマ行きの飛行機を予約して、私は飛び乗った。怖かった、怖かったよ。でも、ロマに会うためだったから、頑張れた。
「ろまぁぁ……あいたかったぁあぁ……」
「おい、もう泣きすぎだっつーの!」
とか言ってロマも泣いている。ロマの家にそのまま行って、二人で抱きしめ合って泣きじゃくった。突然、ドアがガチャ、と音を立てる。
「ただいまー……あれっ、兄ちゃん? と、あれっ、帰ったって聞いてたんだけど……」
「あぁああ、ヴェネチアーノくんんん……」
「ヴェ!? ってことは……!」
「そうなの、こっちに残るの私ぃい!」
「ヴェー!! わぁい、やったぁ〜!! ほんとに、よかった〜……!」
ヴェネチアーノくんが、泣いてべしょべしょな顔の私をハグしてくれて、私もヴェネチアーノにぎゅーって返した。
「おいっ!バカ弟てめぇっ!」
さっきまで同じく泣いてたはずのロマが、爆速で私を引き寄せて、ヴェネチアーノくんから引き剥がす。
「……お前、あと数歩下がれ」
「ヴェー……」
ヴェネチアーノくんが、大人しく三歩下がった。何となく気まずい。と思っていたら、私のお腹の音が鳴った。二人がこちらを見る。
「……あっ、そうだ、ね、美味しいもの食べに行かない?」
「チギッ?」
「ヴェッ?」
ムスッ。ロマが口を尖らせて、私とヴェネチアーノくんの間で腕を組んでいる。
「なんで……こいつも、一緒なんだよ!!!」
「だって……ヴェネチアーノくんもいた方が楽しいよね? あ、ヴェネチアーノくん、こっちのピッツァいる?」
「ヴェッ、俺は兄ちゃんとご飯食べれて嬉しいよ! 〇〇ちゃんありがと〜!」
ロマと来たレストランで、三人で夜ご飯を食べている。私がロマの左腕にくっつくと、ヴェネチアーノくんがロマの右腕にくっつく。ロマは無情にも、ヴェネチアーノくんだけ引っ剥がそうとした。
「こんのっ……!」
「ヴェ〜ッ、〇〇ちゃんいいなぁ〜……」
「弟がくっつくぐらい、別にいいじゃん! ねー」
「ねー!」
「よかねぇよ!!そもそも、両腕にくっつかれたら飯が食いづれぇだろうが!」
あっ、私まで引っ剥がされた。ロマはフォークで大きいトマトのカプレーゼを刺すと、口の中に入れてむしゃむしゃと食べた。
「はぁぁあ……これからどーしよ……」
ビールが入ったジョッキをドカリと置きながらため息をつくと、ロマがこっちを見た。
「お前、復職はできたんだろ?」
「そう、職場の方も大喜びで、すぐ決まった……でもお家がぁ……契約し直すのに手間取ってて……1週間はホテル暮らし……ぁあ……長年貯めてた貯金がどんどん……」
帰って来た時の飛行機代も、結構高かったし……でも、向こうで暮らすってなったら、初期費用で全部持ってかれてたか……
「んなもん、すぐ解決すんだろ」
「まぁ、安いとこ探すけどさ……それでも……」
「そうじゃねえよ、ばーか」
ロマの方を見ると、片手にチーズをつまみながら、ロマはあっけらかんと言った。
「俺のとこ住めばいいだろ」
「………………え?」
「わぁい、おれも賛成! 〇〇ちゃんの日本食とか、おれ食べてみたいなー、ヴェ〜……」
ヴェネチアーノくんもニコニコ笑いかけてくる。
「や、えっ? 流石にそれは……」
「なんだよ、嫌なのか?」
「嫌とかそういう話ではなく……」
「気とか、使わなくていいんだよ? きっと楽しいよ! ね、兄ちゃん!」
「ちぎっ……こいつが邪魔だけどな。おいお前。一週間ぐらいヴェネチアの家帰れよ」
「兄ちゃん酷いよ!! 酷すぎるっ……!」
ヴェネチアーノくんは北イタリアだから、ヴェネチアにも家があるのか……って、そうじゃない。確かに、それは非常に助かるかもしれない。でも……!
「だって、二人で生活してるところに、私が入るのは……」
「おめぇも頑固だなぁ……その二人がいいって言ってんじゃねーか」
「に、日本人として、そんな人様にご迷惑をかけるわけには……!」
「あは、日本みたいなこと言ってる〜」
「ふっ、確かにな」
日本……? あれ、そっか、イタリアにも国がいるんだから、そりゃあ、日本にも国が……えっ、どんな人なんだろ……考えていると、ロマが私のおでこを弾く。
「あいたぁ!」
「ごちゃごちゃ考えてねぇで、いいから甘えとけ、このやろー」
「うん……」
私は心臓の音が早くなるのを聞きながら、渋々頷いた。
「ただいまー」
ロマの家のドアを開けると、良い匂いが鼻をくすぐる。ふらりと台所に行くと、ロマがエプロン姿で立っていた。
「お、帰ってきたな。ペスカトーレできてんぞ」
「うわ、美味しそー……!」
横からフライパンを覗き込むと、口の中でよだれが出てくる。
「おい、今日もバカ弟は遅えみてぇだし、先食ってようぜ」
「あ、そうなんだ。ヴェネチアーノくん、ごめん!」
私はフォークとお皿を机の上に用意して、ソファの上に仕事の荷物を置く。湯気を立てて、机にペスカトーレが2枚並んだ。
「あー、おなかすいた~……」
「ほら、食っていいぞ」
「食べます!」
フォークでくるくると麺を巻いて、パクリと一口。
「ん……! 美味しい……!!!」
「ふっ、当然だな」
正面を見ると、ロマはドヤ顔で食べていた。
「天才だね、ロマ……」
「まぁな〜……俺のパスタが一番美味えだろ?」
「うん、ほんとに一番美味しい。お店とかやらないの?」
「あー、一回だけやったことあるぞ、ほんのちょっとだけ、アメリカんちで」
「アメリカ……!?」
一口食べるたび、幸せの味が舞い込んでくる。
「ふふ、ずっとこうしてロマのご飯食べてたいなー……」
「俺もお前になら、ずーっと作ってやってもいいぞ?」
「ほんと!? やったー!」
また一口。ペスカトーレから目を離してロマを見ると、ロマはフォークをパスタの上に刺したまんま、私を優しい目で見ていた。
「ん? ロマ? なんかついてるかな?私」
「ちげぇよ、美味そうに食うなぁと思って」
「だって美味しいよ!これ、すっごく美味しい!」
「そーかよ」
嬉しそうに笑って、ロマが机を乗り出す。そのまま、頭を撫でられた。
「わ、私、子供だと思われてる……?」
「半世紀も生きてねえんだから、赤ん坊だろ」
「それはロマ基準の話でしょ!?」
「はいはい、悪かったって……」
また頭を上から撫でられた。もう!と見上げると、突然、唇を奪われる。
「……へ、」
「……ペスカトーレの味すんな」
「も、もう! 赤ん坊にキスしてんじゃん!」
照れてペスカトーレをまた一口食べる。顔が熱い。
「ヴェ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ………………」
声がした方にびっくりして目を向けると、そこにはまさかのヴェネチアーノくんがいて、彼はリビングの入り口で、立ち尽くしていた。顔を赤くして、目線を逸らし、口を手で覆っている。
「……あ、た、ただいま〜……ヴェ……」
「お、おかえり……なさい……」
気まずそうに言って、鞄を持ってリビングに入ってくる。私は顔が熱くなった。ロマは平然とまた座ると、ペスカトーレあんぞ、とだけ言った。